憑依転生 -女最弱騎士になったオレが最強に成り上がるまで-

水無

快適な空の旅 ※タカシとサキの絡みあり



「あばばばばばばばばばばばばばばばば……!!」




 サキはジェット機の起こす負荷に耐え切れず、白目をむき、口から泡を吹きだしている。
 乗組員はタカシとサキの二人のみ。
 行先は「天地分隔門てんちをわけへだつもん」のある「空穿大山くうせんたいさん
 無論、ジェット機など操縦できるものはいないので、自動操縦。
 タカシとサキはそこで快適――とまではいかないまでも、空の旅を楽しんで……はいなかった。


『ジェット機』とは謳っているものの、機内はまるでプライベートジェットのような造りになっており、ゆったりとくつろげる空間になっていた。
 それこそ名前から連想されるような、戦闘機のようなものではなかった。
 ただ、如何せんその負荷が強すぎるため、それを楽しむ余裕は、二人には無かった。




「ぐぎぎぎぎ……、なんつー負荷だよ……! 気を抜いたら首が戻らねえぞ、これ……!」


『ちょ、タカシさんタカシさん。サキさんが……! サキさんが昇天しちゃいそうなんですけど! 首とかヤバそうですし……』


「ほっとけ! 折れたら折れたでまたくっつけてやる! それよりもいまはオレの首が折れないようにしないと……!」


『負荷、そんなにすごいんですか?』


「ああ、すさまじいよ! マーノン――あの、変態騎士に抱きかかえられてたときよりも、数段やべえ。というか、あのときはあの人の防護魔法で衝撃を逃がしてたんだけど、今回はダイレクトに体の関節部に来る! 全身に関節技をキメられてるみたいだ! 油断してたら逆方向に曲げられる! あの皇、なにが音速飛行機だよ! 音速超えてんじゃねえかァ!」


『そ、そんなにですか……、まあ、サキさんを見てたら「ヤバイ」ということは嫌でもわかりますけど。……って、あれ? じゃあ、タカシさんも防護魔法張ったらいいんじゃないですか?』


「…………」


『え? なに黙ってんですか?』


「……衝撃推進力相殺……防壁展開………」




 タカシはそう小声でつぶやくと、黄色い魔法陣が発生した。
 魔法陣はスキャンするように、タカシの頭からつま先までを通り抜ける。
 やがて魔法陣が消えると、タカシはシートベルトを外し、おもむろに立ち上がった。




「さて、サキにもかけてやるか」


『え? ……ほんとに気がつかなかったんですか?』


「ば、ばーか。んなわけねえだろ? あえておまえに指摘させてあげたんだよ。謎解きってやつだ。ヒントもやったしな。どうだ、なんか気持ちよかったろ?」


『う、うそくさい……』


「とにかくだ。これで少なくとも、帰りは快適な空の旅を楽しめるってことだ。もっとポジティブにプリミティブに物事を考えようぜ!」


『プリミティブは置いておいて……、なんというか……はたしてそれは、ポジティブなのでしょうか……』









『間もなく目的地に到着します。着陸に備えて、シートベルトを緩めず締めてください』




 ジェット機の機内にアナウンスが流れる。
 席を離れ、床の上でトランプに興じていたタカシとサキが天井を見上げた。




「ねえ、ルーちゃん。飛行機しゃべってんだけど」


「そういうもんだ。気にすんな」


「ねえ、ルーちゃん。飛行機さん、席に戻れって言ってるけど?」


「うるせぇ! なんでおまえだけそんなに手役がいいんだよ! 勝ち逃げなんてさせねえぞ!」


「『切るべきを切る。残すべきを残す。勝てない勝負には逃げろ。そして常に冷静に』これ、ポーカーの鉄則だかんね」


「基本じゃねえか! 誰でも知ってるわ! ……つか、それだけじゃねえだろ! もしかしておまえ、イカサマ使ってんな?」


「さ、さあ? なんのことかなー? ふぴゅーぴゅーぴゅー、とりあえず勝負には勝ったんだから、賭け金は全部もらってくよー」


「だまれ、吹けもしねえ口笛を吹くな! こうなったら、服をひん剥いて調べてやるァ!」


「え? あ、ちょ――」




 タカシはサキのビキニアーマーの中へ、強引に手を滑りこませる。
 胸、尻、ニーソックスの中。
 タカシの細指が、サキの白い柔肌を蹂躙していく。
 タカシは豊満な胸を、ぷりんとした尻を、むちっとした太ももを揉みしだいていく。




「ぷ、あはははは……く、くす……くすぐったいってば……ルーちゃん! あははは……あ、ちょっ、そこは……んぅっ……あっ……やぁ……」


「変な声を出すな! いまなんか、紙ぽいのが指に当たったぞ!」


「もー、やだぁ、ルーちゃん。だ・い・た・ん」


「うるせえ! 大胆なのはおまえだろうが! 堂々とイカサマしやがって! ……ほら見ろ! このカードはなんだ! 賭けは無効だからな! あと、服を直せ」


「まあまあ、今度はサキちゃんがぁ……ルーちゃんをいじくりまわしてあげるから」


「は!?」




 サキはタカシを押し倒すと、その唇を強引に奪った。




「んちゅ、ちゅ、れる……ぇろ……、ぷはっ、いまは二人きりだから、前みたいに邪魔されないね」


「いますぐ……どけ……」


「あれあれ? ルーちゃん、そんなにイヤそうじゃないね? ほっぺもなんだか紅いし。かーわーいーいー。開発されちゃった? ねえ? どうよ?」




 嬉しそうにお道化て言うサキの瞳は、すでにハートの形に変わっていた。
 心なしか、サキの息が荒い。




「そ、そんなんじゃ……ねえよ……」




 タカシはサキの言う通り、頬を赤らめると、プイッとそっぽを向いた。




「んふふ、だいじょぶだいじょぶ。ちゃーんと、キモチよくしてあげっからね……おねーさんに任せといて……」


「…………」




 サキが再びタカシに覆いかぶさろうとする。
 しかし――


 ズドォォォン!!
 ジェット機が着陸したのか、その衝撃でサキが飛行機の前方へすっ飛んでいく。
 サキはそのまま頭をぶつけると、「キュゥ」と洩らし、目を回して気絶した。




『ふぁっ!? タカシさん? 着いたんですか?』


「……ああ、そうみたいだな」


『あ、タカシさんも寝てたんですか? 口の周り、涎ついてますよ』


「これは……、そうだな。よ、よく寝た」




 タカシはそう言うと、ごしごしと口周りを拭った。




『あ、あれ? サキさんどうしたんですか?』


「さあ? いつもみたいに乗り物酔いだろ」


『うーん、不便ですね。乗り物酔いしやすいっていうのも』


「とにかく、外に出るか。どんなところか見てみたいしな」


『ですね。天穿大山なんていうくらいですから、ものすごく標高の高い山なんでしょうね』


「うーん、高いとこあんまり好きなんじゃねえんだよな……」


『あれ? そうなんですか? いいじゃないですか、高いところ。いろいろと見降ろせて、景色もいいですし』


「まあ、おまえはバカだからな」


『ちょっと! それ、どういう意味ですか!? バカと猿は高いところが好きって意味ですか? ひどくないですか?』


「そこまでは言ってねえって……」


『ふん、どうだか!』


「なんでおまえ、そんなに卑屈なんだよ」


『どうだか!』


「なにが?」




 タカシはものぐさそうにそう言うと、乗降扉まで歩いていき、取手を回して扉を開けた。
 その瞬間、凍り付くような外気と、吹雪が機内になだれ込んだ。




「なな、なんだ!?」


『タカシさん、雪! 雪ですよ!』


「見りゃわかる! さっむ!」




 タカシは両手で自分の腕を抱くようにしながら、ジェット機から降りた。
 舷梯タラップの類は無かったので、そのまま三メートルの高さを垂直に飛び降りる。
 幸い、下には雪が降り積もっており、ボフッと積雪を巻き上げながら無事着地した。




「ここのあたりにいる・・はずなんだけど……」


『タカシさん、扉、閉めなくてよかったんですか? あのままじゃサキさん凍死しちゃいますよ』


「大丈夫だろ。そのまえに目を覚ます」


『また根拠のないことを……』


「それよりも、この雪、風、雲、天候。想定外だったな。一体、どれくらいの高さなんだよ、この山は……先が全く見えないんだけど。極限状態じゃねえか」


『その割にはさくさく進んでいくんですね……。ちゃんと飛行機の場所は覚えてますか? 見失うと帰れなくなっちゃいますからね』


「ああ? バカにすんなよ。さっきからまっすぐにしか進んでねえっての。後ろ振り返ったら飛行機が――」




 そう言ってタカシは背後を振り返るも、乗ってきたジェット機はどこにも見当たらなかった。




「……あれ?」

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