憑依転生 -女最弱騎士になったオレが最強に成り上がるまで-
神龍三姉妹
「それで、その……、そなたたちはなぜ、人間界へ? それに、その体は一体……? 見たところ、人間の要素と龍の要素を併せ持っているように見受けられるが……?」
「く……クハハハ! これはこれは……、無知蒙昧にして厚顔無恥な質問だな。無知、あまりにも知らなさすぎるぞ! これはもはや呆れを通り越して、おまえたちが教徒かどうかすらも疑いたくなるな!」
「ッ!? そ、それは……」
「ほう、狼狽えるか猿よ。ますます怪しいぞ。これは――」
「はやく答えろ。長いんだ、いつも貴様は」
神龍のひとりが喋っていた神龍を催促する。
「いや、しかし姉様? こいつら、怪しくないですか? なんか、全然知らない様子ですし……」
「いいから早くしろ。俺の気が変わらんうちにな」
「いや、おまえは我の妹だろう。もうすこし姉を敬えんのか、おまえ」
「くどい。女ではなく、男の依り代を用意されただけで怒髪天だというのに、わたしをこれ以上イラつかせるな……!」
「し、しかしですね……この者たちが教徒ではない場合――」
「あ゛?」
「はい、ごめんなさい」
「不憫だ……」
「おい、こら猿、なにか言ったか」
「あ、いえ、なにも」
「我は不憫な子ではない。重ねて言うぞ、不憫では決してない! ……さて、閑話休題だ。なんの質問だったか……、ふむ、『なぜ人間界へ』だったか? ……はぁ、やれやれだ。なぜこのような質問にも答えなければならないのか……。いいか、我ら神龍の目的はひとつ。人間を殲滅することだ。それ以上はない」
「なぜそのようなことを?」
「面白いことを聞くな雌猿。それはな――」
「わたしが人間嫌いだからだ」
「……あの、姉様はすこし静かにしていただいてよろしいですか?」
「……なんだと?」
「ひぅっ、ごめんなさい……」
「ぷっ、冗談だ」
「し、しどい……」
「あ、あの……?」
「ええい! 見るな! 聞くな! 嗅ぐな! ……我らが人間を滅ぼす理由はひとつ。貴様らがあまりにも愚かな種族だからだ。ことあるごとに互いを殺し合い、奪い合い、蔑み合う。なんと愚かで愚かで愚かな行為か。とても見るに堪えん。神界のやつらもなぜこのような猿を生み出したのか、まったくもって理解できぬ。よって、我らが神界のアホ神にとってかわり、貴様ら猿に裁きを下すのだ。甘んじて滅びを受け入れるがよい!」
「そ、そんな横暴な……それに、そんなことをしては、我らが神が黙っておらんじゃろ」
「いや? 貴様らの崇めるバカ神は承諾したぞ? 『この程度で滅びるなら創り直すまで』とかなんとか、鼻をほじりながらそう言っておったな」
「は、鼻をほじりながら!?」
「ああ、そのときの姉さん面白かったんだ。鼻くそつけられて、涙目になって――」
「ええい、うるさいうるさいうるさーい! 『この程度』というのは気に入らんが、不可侵条約はここに無に帰した。我らが猿を滅ぼそうが、すり潰そうが、おちょくろうが、貴様らの神はノータッチというわけだ。ふむ、これが放任主義というやつだな。まったくもって、よくわからんバカ神よ。ちなみに知っておるだろうが、我らが顕現したのはな、下見ついでだ」
「下見……ですか?」
「そうだ。これは……まあ、あとで話してやろう。次に、この体についてだったな。この体はもちろん我々の体ではない。おまえたち教徒の体を依り代として、そこに入り込むことで操っておる。……もっとわかりやすい言葉で言うとだな……、猿共、『霊媒』というのを知っておるか」
「……死んだ人間の魂を黄泉の国より呼び戻し、その身に降霊させる術のことじゃな」
「そうだ。これはその龍ヴァージョン。いわゆる『龍媒』というやつだ。だが、決定的に霊媒と違うのは、霊というのは所詮は元人間。人間から霊が出ていけば、そのまま元通りだが、我らは違う。我らは神龍。貴様ら猿共とは次元も格もちがう。ゆえに、龍媒する者はその不可に耐え切れず、死んでしまうということだ。仮に我らがこの体から出ていっても、こいつらの体は灰燼に帰すだろう。というか、こっちは神龍。女神の龍だというに、なぜ教徒どもは女の体を用意せんかったのだ! むさ苦しい雄猿の中に閉じ込めおってからに! 姉様が不機嫌なのも、貴様らのせいだぞ! もう、謝れ! 謝罪を要求する!」
「え? あ、す、すまないのじゃ……」
「ほ、ほう……、聞き分けがいいな。嫌いではないぞ、チビ猿」
「姉さんはな、基本的に軽んじらてるからな。素直に話を聞いてくれる……ましてや、教徒なんてのは、どちらかというと、好きな部類なんだ」
「こ、こら! 余計なことを言うでない! ち、ちがうぞ? そんなことはないのだ! 話を聞いてくれるからって、それだけで好意的なわけがないからな!? 今日は嫌なことがあったけど、それでも変わらず話を聞いてくれる猿共を、好意の目でなど、見ておらぬのだからな!? 決して勘違いするなよ? おまえら猿共に肩入れなど、すす、するわけがないだろう! ――あのバカのように!」
「ばか?」
「ああ、そうだったな。当初はおまえらの世界に送り込んだ神龍が、そのまま人間界に大打撃を与える段取りだったのだ。しかし、何を血迷ったのか、記憶を失くしたうえ、帰ってくるなり謀反を起こしおってな。おかげで龍空は大打撃。なんと愚かで、嘆かわしいことだろう。おそらく猿どもに篭絡されたのだろうな」
「ッ!? そいつは!? そいつはどうなったんだ!?」
「な、なんなのだ。いきなり……」
「答えろ! そいつはどうなったんだ!!」
「し、知らぬ……。死んだのではないか?」
「し、死んだ……?」
「もちろんであろう? 滅ぼすべき対象を見誤ったのだからな」
「おねえちゃん!?」
タカシの顔から血の気が、みるみるうちに引いていく。
「そこで、我らが仕方なく、ここへ下見しとるというわけだ。なにせ、猿どもは時として、計り知れん力を発揮するからな。数年前の魔王……といったか、我らでも手に余るような存在をなんと、猿が討ち滅ぼしたのだからな。むやみやたらと攻撃でも仕掛ければ、手痛い反撃を食うやもしれぬ。だから我らがこいつらに龍媒して、人間界へと来た」
「なぜ、そのような回りくどいことをしたのじゃ……?」
「ふむ、さきほどの説明では不十分という事か? よかろう、答えてやる。我らが直接手を下すことなく勝利するためだ」
「……それは、もしかして……!」
「そうだ。おおよそ貴様の考えている通りだろう、チビ猿。龍空と人間界の間は扉のようなもので仕切られている。我らが人間界を攻撃するには、その扉を越え、人間界へ顕現しなければならない。しかし、そうなってしまうと、おまえら猿どもからも反撃されてしまう。ならばどうやって、こちらの犠牲をなくして人間界を滅ぼすか?」
「教徒たちに、自らを龍媒させる……!」
「そうだ! そうすることによって我らは仮初の肉体を得、間接的に貴様らを滅ぼすことができる、ということだ!」
「ということは、教徒たちに白天の宝石を盗ませたのは……?」
「そういうことだ。あれさえ消してしまえば、猿どもがこちら側へやってくることはできない。それにより、こちらからの一方的な攻撃が可能となるのだ」
「な、なんということじゃ……」
「――さて、質疑応答はこんなものか。これより、最終段階へと移行する。教徒ども、白天の宝石とやらを渡せ」
「……え?」
「え? ではなかろう。さっさと渡すのだ。あれが存在していれば、色々と厄介なのだ」
「そ、それは――」
「それはすでに破壊した」
「おねえちゃん!?」
タカシはテシに対して、さりげなく目配せをしてみせる。
テシはそれを理解したのか、こくんと頷くと、そのまま押し黙った。
「破壊した……? それは誠か?」
「ああ、間違いない。この目で確認した。あんたらがわざわざ手を下す必要はないさ」
「ふむ、そうか。さすがは敬虔な神龍教徒だな。ですよね? 姉様」
「……そうだな。さすがは神龍教団の教徒だ」
「ああ、だからあんたらはこのまま――」
「嘘をつくのが下手すぎる」
「ッ!?」
「あ、姉様……?」
「おまえもだ、エウリー」
「わ、我もですか?」
「あれは人の力では破壊できない。忘れたのか?」
「あ」
「はぁ……、この愚妹め。ゴーン、いますぐ宝石を探せ」
「了解」
「エウリー、おまえはあとでおしおきだ。覚悟しておけ」
「そ、そんなスノ姉様……! それだけはどうか……!」
「却下だ。……人間、どういうことだ? なぜくだらん嘘をついた」
「そ、それはじゃの……」
テシがタカシのほうを振り返る。
しかし、さきほどタカシがいた場所にタカシはいなかった。
そして――
ガキィィィン!!
という音が響く。
タカシはすでに剣を抜き、スノに斬りかかっていた。
スノはその爪で、タカシの攻撃を防いだ。
「おまえ、教徒ではないな」
「今更気づいたかよ、アホな神龍様! ドーラの仇、ここでとってやる! おまえらはぜってえ許さねえ!!」
「おい、エウリー」
「は、はいい!? なんでしょうか、姉様!?」
「おしおきは、二倍だ」
「そ、そんなぁー!? 我、言いましたよね? 最初に! こいつらはなんか怪しいって!」
「言い訳をするな。それに得意げに秘密まで洩らしおって。三倍だな。これは」
「うう……、しくしくしく……痛いの、いやなのに……」
「ちっ、よそ見してんじゃ――」
ドボォッ!!
人間の速度ではない蹴りがタカシの脇腹を抉った。
アバラがミシミシと音を立てる。
タカシは蹴られた方向に飛んでいくと、そのまま、そこに積んであった箱にぶつかった。
箱は粉々に砕け、中にあった臓物などが辺りにぶちまけられる。
「おねえちゃん!?」
「おそいおそいおそいおそい。威勢はいいが、所詮は人間。……つぎはおまえだな、小さい人間よ」
「くっ、ワシもやるしか――」
「ぺっぺっ……、へへ、かるいかるい。所詮はビックリトカゲ人間か」
タカシが血まみれで、崩れた箱の中から出てきた。
その手は脇腹に当てられており、折れた骨、損傷した臓物を再生させている。
「ぶ、無事じゃったのか!」
「ほう、回復魔法か。それも、かなり上級の……。さては、やるな? 人間?」
「初歩だよ、初歩。こんなもん――」
「見つけた、スノ姉さん!」
ゴーンが大きく手を掲げる。
その手には白い輝きを放つ、宝石が握られていた。
「あ、あれこそは……白天の宝石……!」
「でかしたゴーン。破壊しろ!」
「なっ!? や、やめ――」
バキィッ!!
白天の宝石はゴーンの手の中で無残に、粉々に散っていった。
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