憑依転生 -女最弱騎士になったオレが最強に成り上がるまで-

水無

行動開始



「ああ! しまった、国宝が盗まれたことは国家機密なのじゃった! おねえちゃん、すまんが忘れて――」


「あほか! 世界が潰される状況なんだぞ!? んな悠長な事――」


「ふっ、オレたち人間も黙って滅ぼされるつもりはないさ」


「え? でも、相手は天界にいて、こっちからなにかしらの攻撃をすることはできないんですよね?」


「そう、こっちから攻撃することはできない。しかし、それはあちら側も同じだ」


「え?」


「あいつら神龍が地上世界を滅ぼそうとするのなら、必ずこの世界に顕現しなければならない。あいつらが直接天界から手を下すことは不可能。不可侵はここにも適応される。だから、オレたちは神龍が顕現したところをすばやく叩く。……正直、かなり厳しい戦いになるが、それがトバ皇の作戦だ」


「あんなに呑気に構えてたのに、対策は練っていたんですね」


「くっ、ああ、元勇者一行だ。そういうことはしっかりされている。それにいまはシノもいる」


「え? ああ、シノさんは強いですからね」


「いや――」


「えと……、そうだね、そこはあたしから話すよ」


「シノさん……、もう大丈夫なんですか?」


「……え? なんでほじくり返すの?」




 シノはタカシに言われると、どんよりと暗い顔で俯いた。




「あっ、ごめんなさい」


「あのさ……前に、あたしとルーシーちゃんで夜にしっとりと語り合ったこと覚えてる?」


「いえ、全然」


「ドラゴンについての話だよ?」


「ああ……、て、べつにしっとりと話してなかったんですけど……」


「とりあえず細かいことは置いといて……、そのときドラゴンスレイヤーのことについて話したと思うんだけど、覚えてる?」


「え? あ、はい……もちろん覚えています。ドラゴン殺し専門家のことですよね? ドラゴン減少に伴って、最近ではその数も減少しつつあるって、……え? もしかして……?」


「うん、そう。あたしがそのドラゴンスレイヤー。ドラゴン殺し特化の剣士で、その専門家。嫌いな爬虫類はドラゴン」


「ドラゴン特化……? でも――」


「ふっ、そういうことだ。シノは人間相手にも強い。しかし、ドラゴンは人間よりも強い。つまるところ、そういうことだ」


「ごめんなさい。よくわからないんですけど……」


「ドラゴンを殺すほどの者だ。したがって、ドラゴンよりも劣る人間などには、遅れは取らない。そのうえ、シノはドラゴンの天敵。その手に持っている銘刀賀茂は別名ドラゴンバスター。対龍兵器だ」


「そう。それで、あたしの眼も対ドラゴンの最終兵器ってわけ」


「じゃあなんかその……、いろいろ言ってた、コンプレックスというのは……?」


「まあ、嘘ではないんだけどね」


「…………」


「あれ? どうしたの?」


「いや、ふつうそういう時って、目とか見せてくれるんじゃないかなって……」


「あー、そういうことね。まあまあ、コンプレックスって言ったじゃん。あたしの目はそうそう見せないよ」


「……ちぇ」


「え? なに? 見たいの?」


「あ、はい、やっぱり隠されてると気になるっていうか……、どんな目なのかなって」


「へえ、そんなに気になってるんだ?」


「…………」




 タカシはそう問われると無言で頷いた。




「んふふー、やっぱだめー」


「ええー?」


「なんかこう……秘密にしておくとさ、神秘的っていうか、ミステリアスな感じでいいじゃん。ルーシーちゃん、そういうのに惹かれない?」


「そういうの自分で言っちゃうと、途端にミステリアス感が薄れますよね……」


「まあ、とにかく、あたしもさっきロンガ君が言ったこと、聞いてたんだよ。ルーシーちゃんが拘置所で寝てる間にさ」


「もしかして、拘置所にいなかったのは……」


「そうそう。お父さんに報告ついでに作戦聞いてたってことね。……だからさ、あまりこういうこと言いたくないんだけど、今の状況はかなり差し迫った問題だと思うよ。人間が勝つか、神龍が勝つか……、共存はたぶんない。どちらか両方しかない。神龍が地上世界に現れたら、あたしたちはそれを殺さなきゃいけない。あたしたちだって、滅ぼされたくないしね。でも、ルーシーちゃんはドーラちゃんを殺したくないんだよね? お友達だもん。それはエストリアで見てきてずっと思ってたよ。だから、あたしは何も言わなかった。……まあ、ここまでついてくるとは思わなかったけどね」


「……はい。未だにあいつが世界を滅ぼそうとしてるなんて信じられなくて……。それに、あいつのあのときの顔――」


『はい。わたしも見ました。あの悲しそうな顔――あれは、絶対何かあります』


「うんうん。だったらやっぱり早めに行動に移したほうがいい。神龍側が地上世界に攻め込んできたら間違いなく、いままでにない、ものすごい戦いになると思う。たぶん、それでこそ何百、何千……、ううん、何万人もの犠牲が。もちろん、あたしも生きてるかわからない。だからルーシーちゃんはその前に――」


「はい。その前にドーラをぶん殴って、引きずってでも連れ帰ってきます」


「うんうん。それがいいよ。だから差し当たっての問題なんだけど――いっちゃん、白天の宝石が盗まれたって本当?」


「あ、それはきちんと聞いてたのじゃな。そうなのじゃ……って、いや、これは機密なのじゃが……いやいや、相手は姫じゃから問題は……いやいやいや、機密ということは、むやみやたらに口外しては――」


「言って、いっちゃん。姫であるあたしがその責任を負います」


「うむむ……、責任についてはこちらは構わないのじゃが……姫にそこまで言われたら、ワシもそれに応えなければの」




 テシはコホンとひとつ咳払いすると、皆に向き合った。




「白天の宝石を盗んだ賊はおそらく神龍教団と名乗る、宗教団体じゃ」


「神龍教団?」


「そうじゃ。文字通り、神龍を偶像として崇拝しておる……いわゆるカルト教団じゃな。放っておけば比較的害はない……と思っておったのじゃが、その実態は凄まじく、おぞましいものでの。妖しげな術、神龍への生贄と称し、女子供老人まで無差別に攫っておるのじゃ。資料を見た限りでは、その犯行はかなり残虐的で残忍的で残酷的。口に出すのも気が滅入る。そして、その実態に気づいたトバ皇は、これを単身で壊滅させたのじゃ。ちなみにそのとき、その神龍教団が使っていた建物には骨すら残らんかったと聞いておる」


「うーん、お父さん、そういうのキライだからね……」


「好き嫌いの問題なのか?」


「それで事件は解決された――かに、思われたのじゃが……」


「もしかして、生き残りがいたのか?」


「そうじゃ。その生き残りがまだこのトバにて息をひそめて、勢力拡大を計っているのだそうじゃ」


「勢力拡大……か。それで、その残党が白天の宝石を盗んだと?」


「そうじゃ。なぜそんなことをしたのか、いままで不明じゃったが……ロンガ殿の話を聞いて繋がった。あやつらは神龍と通じて、こちら側から天界に行くのを防ごうとしておる」


「……てことは」


「そうじゃ。白天の宝石が危ない。あやつらはもう破壊しておるやもしれぬのだ」


「ちっ、まずいな。いますぐ取り返さねえと! 場所は……くそっ、わかんねえよな。じゃあ、しらみつぶしに探すしかないか」


「うん……。すまんのじゃ、おねえちゃん」


「いや、テシが気にすることじゃねえよ。……とりあえずオレだけでも――」


「よし、あたしも協力するよ!」


「うん、サキちゃんも!」


「え? でも、トバ皇の作戦には?」


「うん、それも大事だし、もちろんドーラちゃんのことも心配だけどさ、あたしはやっぱ神龍教団は許せないよ。トバの人たちがいま、この時点でも危険に晒されてるってわかってたら、黙ってられない」


「シノさん……」


「んー、サキちゃんはべつに、トバとかドーラって子がどうなってもいんだけど、ルーちゃんが困ってるからね。それだけで十分だよ。ルーちゃんの悲しそうな顔は見てられない。そのために騎士になったんだしね」


「サキ……おまえ真面目に喋れるんだな」


「えー? どゆことー?」


「……でも、ふたりとも、ありがとう」


「お? 濡れちゃった? サキちゃんが慰めてあげようか?」


「ハァ……ハァ……ハァ……、そのパーティの参加費はおいくらですか?」


「あほか!」


「あ、ロンガ君も手伝うよね?」


「ふっ、無論だ。オレも世話になったトバで、そのような余計なことをされては寝覚めが悪いからな。もちろん、作戦もあるが、いまはこちらを優先してやる。感謝しろ」


「ロンガさん……、ありがとうございます」


「わ、ワシも手伝いたいのじゃが……、ワシは一刻も早くこの情報をトバ皇に報告せんと……。新事実じゃったんじゃ。これを知れば、トバ皇も黙っておらんじゃろ。もしかしたら増援も寄越してくれるやもしれぬしな」


「ああ、そうだよな。じゃあ、そっちは任せたぞテシ」


「にゅふふふ……」




 タカシはそう言うと、テシの頭をぐしぐしと撫でまわした。
 テシは気持ちよさそうに目を瞑り、猫のように身じろぎしている。




「よし。てことは、とりあえず手分けして探さないとな。もしなんかあったら、広場に集合ってことで! いくぞ!」




 タカシが号令を発すと、全員が頷いた。

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