憑依転生 -女最弱騎士になったオレが最強に成り上がるまで-

水無

撃滅の騎士



「ほう、ルルーシーよ。神龍の国へと行きたいと申すか?」




 トバ城大宴会場。
 そこでは昼間の出来事がウソのように、どんちゃん騒ぎの宴が開かれていた。
 シノの父親――トバ国皇も、顔をすこし上気させ、気持ちよさそうにしている。
 そこへタカシとテシにサキ、そして合流したシノが皇を囲むようにして座っていた。




「はい。自分がそこへ赴き、あのバカを連れ戻してきます」


「それには皇の知恵が必要なのじゃ……、どうか教えてはくれぬか……?」


「お父さんなら何か知ってるでしょ? お願い、この通りだよ」




 シノは「この通り」と口にはしているものの、ただ普通に座っているだけだった。
 懇願している様子も、悪びれる様子もなく、ただただそこに座っている。




「ふむ。我が娘ながら、どの通り・・・・なのか全く理解できんし、したくないが――それは無理、だな」


「な――なんで……ですか……」


「余はそんな場所は知らぬからだ。知らぬものは教えようがない。つまり、貴様らに頼られる覚えもない。さあ、酒がまずくなる。各々に散らばれ。宴を楽しめ」


「お父さん、勇者様と世界を回ったじゃない! その時に何か――」


「くどいぞ、我が娘よ。神龍なぞ、そのような大層な生き物。余は見たこともない」


「ウソ! お父さん絶対何か隠してるでしょ!」


「ム。――だがこれは誓って、それについて隠しているのではない」


「じゃあ、なにについてなの?」


「ふぅ……、仕方がない……。そこで待っておれ」




 トバ皇はそう言うと、ものぐさそうに立ち上がり、フラフラと上階へと上がっていった。


 ――数分経過。
 待てど暮らせど聞こえてくるのは宴の音のみ。
 トバ皇が上階から降りてくる気配はなかった。
 そのことに不審におもったタカシが、そこにいる誰よりも先に口火を切った。




「……遅くね?」


「も、もしかして――」




 シノは急いで立ち上がると、トバ皇のあとに続くようにして、上階へと駆け上がった。
 タカシとテシは顔を見合わせると、宴会のおつまみを貪るサキを置き、シノの後を追った。


 トバ国大広間。
 そこは薄暗く、シノ以外の気配はなかった。




「シノさん……! 皇はもしかして逃げ――」


「しっ」




 シノは自らの口に人差し指を当て、タカシを制した。
 シノはそろりそろりと足音を殺し、大広間にある畳。
 そのうちの一枚を縁に立った。
 シノはそこで片膝をつき、
 バンッ!!
 と、畳の端を手のひらで思いきり叩いてみせた。
 その勢いで畳はパタンとひっくり返り、中に潜んでいたトバ皇が現れた。
 トバ皇は顔からは血の気がサーッと、引いていっている。




「さあ、お父さん、観念しなさい!」




 シノはトバ皇の手をガッと掴むと、そのままグイッと引っ張り上げた。
 トバ皇はその反動で、腕の中に持っていた何か・・を畳の上へゴロンと落とした。
 テシはそれをすばやく拾い上げると「取ったのじゃー!」と言い、その何か・・を頭上へ掲げた。




「おいテシ、それは――」


「余の、なけなしの酒だ……」




 トバ皇は観念したようにそう言った。
 しかしシノはお構いなしに、トバ皇を問いただす。




「ちょっと、これ……度数高いお酒じゃない! あれだけお医者様から言われてたじゃない、度数の高いお酒は飲まないでって!」


「だって清酒とか、あんまり美味しくないし……」


「ふつうに美味しいよ! ……じゃない。ああ、もう! こんなに減ってるし……」


「なんだ、この展開……」


『親子喧嘩……ですかね?』


「神龍について何か知ってると思ったのに……、興ざめなのじゃ」


「とりあえず、これは没収ね没収。絶対飲ませないから」


「そんな殺生な……! そ、そうだ、その酒と役に立つ情報を交換せぬか」


「役に立つ情報ですか……? もしかして、神龍に関する……?」


「そうだ神龍について、だ」


「――な!?」


「知ってるの? お父さん?」


「し、知っているとも……!」


「言って」


「え、でも、取引……」


「いますぐ」


「あのですね……お酒を……」


「…………」


「ロンガが以前、神龍のことについて何か言っておった……」


「ロンガ君が?」


「そうだ」


「情報って、それだけ?」


「う……うん……」


「……いっちゃん。そのお酒渡して」




 テシはシノにそう言われると、持っていた酒をシノに手渡した。




「お……、おお、さすが我がむす――」




 シノは酒の蓋をポンと、抜くと残っていた酒を一気に飲み干した。
 トバ皇は「ああ……余のとっておきが……」と呟きながら、がっくりと項垂れる。
 シノはそれをしり目に口元をグイッと拭うと、
「はい、お酒」
 と持っていた酒瓶をトバ皇の横へ転がした。




「えげつねえ……鬼だ……」


「ひっく、……んまあ、中身のことについては言及してなかったからねぇ……酒瓶だろうが、酒だろうが、関係ねえっしょ?」


「それって屁理屈じゃ……。ていうか、シノさん、酔ってます? 酔ってますよね? ほっぺた赤いですよ」


「うるへー! 酔ってなんかなーいわよ! あらひのカ・ワ・イ・コ・ちゃん。えへへへーんちゅっ、んちゅ」


「うわ、酒くさっ」


「お、おねえちゃん、これ……姫の飲んだ酒、五十度以上あるぞ」


「まじか……それを一気にって――んむ!? んううううう!!」




 シノはタカシの頬を持って、ぶっちゅーと、濃厚な口づけをした。
 タカシは目を白黒させながら、強引にシノを引きはがす。




「うぷ……、酒きらいなのに……それがダイレクトに……っ」


「んふふー。ひくっ。さーてさてさて、ルーシーちゃん成分も補給したし、ロンガ君のとこに――」


「その必要はない」




 大広間に男の声が響く
 男はガチャガチャと、赤色の鎧を揺らしながら歩いてきた。
 エストリア騎士最強、赤色の騎士撃滅のロンガ。
 その顔つきは弟であるヘンリーに似ていたものの、いくつもの修羅場をくぐってきていたのか、険しいものとなっていた。
 髪はタカシと同じ赤色。
 体つきはヘンリーよりもがっしりとしており、背丈も一回りほど高い。




「えっと……」


「ロンガ君じゃーん。来てくれたんだー。ひさしぶりーげんきー? あたしはぁ……げんきぃー! んふふふ、あははは!」


「こ、この人が……ロンガさん? 来ていたのですか?」


「なぜなら、オレはずっと宴会の席にいたからだ。なぜならオレはずっとおまえらを見ていたからだ。なぜならオレはひとりでずっと酒を煽っていたからだ。……楽しそうだった」


「は、はぁ……」


『タカシさん、また変わった人が出てきましたけど……』


「変わった言うな。おまえんとこの最強騎士だろうが」


『でも、あれですね。ヘンリーさんの証言とも、シノさんの証言ともちがう性格ですね。何があったんでしょう』


「酒でも飲んでるからだろ……。おまえんとこの国は、まじで変な騎士しかいねえよな」


「ルーシー、おまえはわかる。おまえはオレのことを知らない。だから、声のかけようがない。……だが、おまえとおまえ。シノとテシ。なんで無視した?」


「いやー、たははは、なんかチラチラ見てるなー……てのはわかってたけどさー」


「ちょっと、怖かったのじゃ」


「有り体に言うとさぁ、関わり合いになりたくなかったって言うのが本音だったかなぁー。んだってさ、うざいんだもん」


「姫!?」


「ふっ、そうか……うざいか……哀しい」


「なんで涙目……」


「……ときに、オレに用があるんじゃなかったのか?」


「ああ、そうそう。神龍のことについて聞きたいんだよねー。なんか知ってんでしょ? おーしーえーなーさーいーよー、このこのー! デュクシデュクシ!」


「いたっ……ふっ、神龍か。いたっ……よかろう、オレの知っていることについて話してやる。……いたっ」


 ロンガそう言うと踵を返して歩きだした。
 しかし、誰一人としてロンガの後をついていこうとはしない。


「ところでロンガくんさ、なーんでそんなうざったい話し方になってんの? 前まではもっとこう……、爽やかな好青年だったじゃん。いまはなんか……絡みづらい」


「おもいきり絡んでんじゃん……」


「? なにを言っているのだ姫。ロンガ殿はずっと『ふっ』が口癖じゃぞ」


「はあ? ほんとに?」


「ふっ、そんなことはないぞ」


「言ってんじゃない。はーあ、なーんかガッカリだよ、ロンガ君にはほとほとガッカリだよ。反省して?」


「姫!?」


「あ、そういえば、初めまして……ですよね。自分は――」


「ルーシー……だろ。ふっ、知っているとも」


「そ、そうですよね。さっきも自分の名前言ってましたしね……」


「おい、なぜ知っているのか? ……という、理由は聞かないのか?」


「え? いえ、別に知りたくはないんで」


「ふっ、そうか。……哀しい」


「あのいまはとにかく、神龍のことについて聞きたいのですが……」


「そうだったな。なら、場所を変えよう。ここはなにかと良くないからな」


「こ、ここに、なにかあるんですか?」


「ふっ、言ってみただけだ。雰囲気づくり、というやつだ。気にするな」


「ルーシー」


『なんですか?』


「ひとつ、言っていいか?」


『偶然ですね、わたしもちょっと感じたことがあります』


「すっっっっっっっっっげえ」
『殴りたい!』

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