憑依転生 -女最弱騎士になったオレが最強に成り上がるまで-

水無

破滅の序曲



「ほうほう、なるほどなるほど」




 サキは団子屋にて、湯呑のお茶をすすりながらタカシの話を聞いていた。




「つまりはあれだ。それはそれで、今日もお茶が美味しいというわけだ! 違うか!?」


「違う」


「うそうそ、冗談だってば。とりあえずアレっしょ? その像をぶっ潰せばいんだよね?」


「違う」


「サキ殿……、おおまかには合ってはいるが、細部がちょっとちがうのじゃ。ぶっ潰すのではなく、ぶっ壊すのじゃ!」


「違う」


「な、なんと!? ドヤ顔で間違えてしまったのか……恥ずかしいのじゃ……」


「だから調べるんだろうが! なんでおまえらはそんなにぶっ壊したがるんだよ! それにテシ、像はおまえの国でも大事な物なんだろ?」


「いや、だって、無駄に大きくて場所とるんじゃもん、広場で遊んでると、邪魔になるし……。こんな機会は滅多にないのじゃ、それにいまなら『仕方がなかったと』理由がつく。……どうじゃろうか、ここで皇に内緒でぶっ壊しておくというのは?」


「……娘が聞いてるんだけど」


「ダメかの?」


「いいよいいよ、おっけーおっけー! 姫が赦す!」


「ダメだろ! アホか!」


「あ、あほ……って、ここ、興奮す――」


「むぅん……、おねえちゃんは意外と真面目なんじゃな」


「そういう問題か? これ?」


「……さて、もう休憩は済んだでしょ。なんか一刀斎師匠もいないみたいだし」


「あの、勝手にお茶とか淹れてよかったんですか?」


「問題ナイナイ! 師匠のものはあたしのもの! あたしのものもあたしのもの、てね」


「どこのタケシくんですか……」


「ささ、ちゃっちゃと行って、ちゃちゃっと解決しよ。それからルーシーちゃんと一緒にトバ観光しないとね。ちなみにルーシーちゃんはどこ行きたいとかある?」


「ダーメだってば。ルーちゃんはサキちゃんのだって言ってんじゃん。だれにも渡さないかんね! もちろん、おねーさんにも!」


「ぐへへぇ……も、もちろん、サキちゃんも一緒だからね! おねーさんと一緒にくんずほぐれつ津々浦々侃侃諤諤楽しもうよ……!」


「ふふん、そんなこと言っていいのかな? おねーさん綺麗だし、サキちゃんのテクで骨抜きにしちゃうぜー?」


「おほー! た、たまらん! う、ううう受けて立とうじゃまいかっ!」


「……だれか、この変態ふたりを止め――て?」




 タカシが言いかけて止める。
 タカシの視線の先、すこし遠くのほうから大勢の人の声が聞こえてきた。




「おいテシ、あれ……あっちのほう、なんかあったのか?」


「ほむ、なんじゃろな。あれは広場のほうみたいじゃが――」




 そこまで言ってタカシとテシが見つめ合う。
 ふたりは立ち上がると、シノとサキをおいて、広場へと駆け出した。









「あれは……?」


「なんということじゃ……、神龍像があんなにも光って……これではあの凶兆そのものではないか」


「――おい、ちょっと待て、ウソだろ。なんでアイツがこんなところにいるんだ」


「えっと……、おねえちゃんが言ってるのは、あの芋ジャージの子かの? 知り合いなのか?」


「ああ。あいつはドーラ……、だけど、でも、確かにエストリアに置いてきたはずだ」


『あ! ……いえ、タカシさん。ドーラちゃんはあの時、いませんでした』


「ちっ、そうだった……。……てことは、あの時にはもう――」


『タカシさん、それよりも、ドーラちゃんを止めないと! なんかドーラちゃん、あの像にどんどん近づいていってますよ!』


「くそっ、あとで泣くまで説教だ」




 タカシは小さくそう言うと、群衆をかき分け広場の中央へと向かった。
 やがてタカシはドーラのところまでたどり着くと、ドーラの腕を掴もうと手を伸ばす。
 しかし――


「ッ!?」
 ピピッと、タカシの頬に二筋の切り傷がつく。




「な――!?」


「あたしは……あたしはしって――知っている。これはこの光は――」


「ドーラ……! おまえ、何言って……!」


「思い出した。全て。ここにいる理由。そして――」


「ドーラ!!」




 ドーラはゆっくりとタカシを振り返ると、一瞬――
 ほんの一瞬だけ悲しい顔を見せた。




「さらばだ人の子よ。これよりこの地より地上世界へ、神龍による裁きが下る。――『ケシテ・・・オイカケテクルナ・・・・・・・・』」




 声は発せられていない。
 口の動きだけでドーラはタカシに言葉を伝える。
 タカシは何も言わず、何も言えず、ただその場で固まった。


 神龍像から放たれている光がドーラを包み込む。
 ドーラはその姿をドラゴンに変化させると、眩いほどの光と共に、広場から消え失せた。




「ええい! どかぬか! どかぬと逮捕するぞ!」




 放心状態のタカシを引き戻すように、テシが声をあげる。
 テシは群衆を押し退けながら、タカシの元へと這い出てきた。




「おねえちゃん……、さきほどのドラゴンとは……?」


「くっ……知り合いだ」


「そうじゃったか……」


「なあ、さっきテシが言いかけてたのは何だったんだ?」


「さっき……? 凶兆・・のことかの?」


「ああ、それだ」


「……おねえちゃん――いや、ルーシー殿。それは、今はお答えできぬのじゃ」


「は? どういうことだよ」


「あのドラゴンと知り合いとなれば、こちらとしても、拘束しなければいけないのじゃ」


「それってどういう――」




 タカシが言い終えるよりも先に、タカシの手首に手錠がかけられる。




「……おい、テシ。これはなんだ……!」


「すまないのじゃ、おねえちゃん。だけど――」




 瞬間。
 ズ――と、左足を軸とした鋭い蹴りが、テシのこめかみを捉える。
 だが――


 バチンッ!!




「ぐぅっ……!?」


『え? タカシさん!?』




 手錠から劇毒のような電流が発生し、タカシの全身を焼く。
 タカシは力なく、その場にガクッと崩れた。




「く……っ、ドー……ラ……!」




 タカシの目が次第に閉じていき、そのまま動かなくなった。




「いっちゃん!? なにがあったの? そこで倒れてるルーシーちゃんは?」




 やがてシノとサキが遅れて到着する。
 シノがテシに駆け寄り、状況の説明を要求する。
 しかしサキは、タカシが倒れているのを目にした途端、問答無用でテシに牙をむいた。


 サキが突剣レイピアを抜く。
 突剣はビュンビュンと唸りを上げ、テシに襲い掛かった。
 シノとの一件で刀を破壊されていたテシは、懐から十手を取り出して反撃を試みる。
 しかし一瞬、反応が遅れてしまったため、サキは難なくテシの十手は弾き飛ばした。
 ピタッと、突剣の剣先がテシの喉元で止まる。




「てっちゃん、いちおう理由は訊いとくけど……、なんでこんなことをしたの?」


「それが……ワシの仕事だからじゃ」


「仕事……へぇ、仕事、ね。んじゃ、こっちも仕事しないとね。そこに転がってるの、サキちゃんの上司だし? このままなんもしないで、連行されていくのを見てるだけとか、ありえないじゃん!」




 テシは覚悟を決めたのか、キュッと目を瞑った。
 その目じりにはきらりと光る涙。
 サキはかまわず、そのまま腕に力を込め、剣先をテシの喉めがけて押し込んだ。
 しかし――


 突然、突剣の刀身が無くなる。
 柄だけとなった突剣はおもいきり空振りになり、サキは体勢を崩す。


 刹那――
 ドス……と、賀茂の柄がサキの頸椎にたたき込まれる。
 サキはそのまま、うつ伏せに地面にパタンと倒れた。




「……ごめん、サキちゃん」




 シノは賀茂を腰に戻すと、テシに向かい合った。




「いっちゃん、とにかく説明をお願いしてもいいかな? ここでなにがあったか。それと、勅使河原勅使はなにを知ってるか。――これは命令ね。その内容によっては、あたしもこのふたりと同じ行動・・・・をとるから……!」


「姫も……もう、立派なエストリア人じゃな……嬉しいような、哀しいような……」


「そういうのはいいから……やっぱり・・・・、神龍の件?」


「はい。姫の察しの通り、そうですじゃ……」


「……ということは、ドーラちゃんはやっぱり……」


「――やっぱり? 姫はあのドラゴンを神龍と知っていて……?」


「ううん。だけど、確信がなかった。予兆はあったけど、あの子・・・はとても穏やかで、あたしたちが・・・・・知っている・・・・・神龍とは別物だった」


「それはどういうことじゃ。ワシらが知ってる神龍とは――」


「とにかく、場所を変えよう。ここは人目につきすぎる。場所はどこでもいいよ」


「わ、わかったのじゃ。とりあえず、このふたりを運ばなければの……」




 テシはそう言うと、タカシとサキを抱え上げると、そのままズルズルと引きずっていった。

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