憑依転生 -女最弱騎士になったオレが最強に成り上がるまで-

水無

アンサツシャ=アンデッド



「ルーシー殿、ここにあるレンガは……?」


「ああ、それは……えっと、向こうの建物に持っていってくれ」


「了解しました!」


「ルーシー殿、こちらは?」




 エストリア王都。
 その復興作業。
 復興にてる人員が少ないため、作業員の他にもエストリア騎士が駆り出されていた。
 タカシはそれらに指揮をするという役割を担っていた。
 騎士や作業員はタカシの指示通りに、大量のレンガを積んだ猫車をテキパキと運んでいく。
 タカシは手に持っている指示書どおりに、部下たちに指示を出していた。


 タカシが身に纏っている鎧は、白銀へとその色を変えていた。
 腰に差してある剣は相変わらず自分で鍛えた黒剣で、白銀騎士に支給されている剣は所持していない。






『うーん、意外と指示を出すだけっていうのも重労働ですね。せめて鎧を脱げたらいいんですけど』


「おまえがそれを言うか? 宿主のおまえがそれをいうのか? ……ていうか、脱ぐわけにもいかないだろ。一目でオレが白銀だとわからないと、命令系統がごっちゃになって混乱する。だれもこんなガキ、上司だと思わねえだろうからな」


『ガキじゃないですよ! ガキっていったほうがガキです! ……でもいまのエストリアではたぶん、タカシさんが白銀なのはだれもが知ってるんじゃ――』


「あ、あのルーシーさん、ですよね! その、ふ……ファンです! さささ、サインお願いします!」


『ほら』




 突然、タカシの前にひとりの男が現れた。
 手にはタカシのブロマイドとペンが握られており、呼吸が荒い。




「……あの、すみません。いまは仕事中なので――」


「あ、すみ、すみま……すみません!」




 男はバッと頭を下げると、逃げるようにこの場を後にしようとした。




「あ、ちょっと……」


「え?」




 タカシが男を呼び止めると、そのまま男の元まで歩いていった。
 タカシはブロマイドとペンを取ると、ブロマイドの裏にサインを書いて渡した。




「……はい、つぎからは気をつけてください」


「あ、あり、がとうございます!」




 男はタカシに頭を下げると、そのままダバダバと立ち去った。




『ははぁ。人気ですねぇ、タカシさん。白銀騎士ともなると、こうも違ってくるんですね。わたしもなんだかくすぐったいですよ』


「……ここにサキがいたら『あいつぜってぇあとであの写真でナニするぜぇ?』とか言ってただろうな」


『ナニ? ナニって……なんですか?』


「気にすんな。……まあこれ、顔だけはいいからな」


『ちょ、それどういう意味ですか!? 聞き捨てならないんですけど……! 捨てられないんですけど! てか、顔以外もいいでしょ! プロポーションとか、気立てがいいとか! 可愛いとか! エトセトラ!』


「おまえはもうすこし謙虚になれないのか……でも、ふむ、プロポーションねぇ……」


『ちょ、鎧の中でなにモゾモゾやってんですか!」


「たしかに、成長中ではあるかもな……」


『へ、へへへ……ヘンタ―イ! ここに変態がいます! 変態が現在進行で、絶賛わたしのナイスバディをまさぐってまーす! だれか止めてくださーい!』


「……たく、このまえのプロパガンダかなにかで撮った写真が、なんであんなことになってんだよ。だれだ、あんなかんじに縮尺したやつは」


『ま……まぁ、いいじゃないですか、人気者になれて』


「他人事のように言ってるけどな、日に何回も目の前に現れる身にもなれよ! このまえなんて夜に寮前で帰り待ちされて、心臓止まりかけたんだぞ! あやうく、ボコボコにするところだったわ! てか、若干ボコったわ」


『……あれは、たしかにわたしもビックリしましたね。この今の状態から、さらに昇天しかけましたからね。この状態から。あ、これヒトダマギャグです』


「そういうのもういいから。アンの影響受けすぎなんだよ」


『……それよりも、このまえアンさんに言われたこと、やっぱり気になりますね』


「それってコードネームアン・・のことか?」


『はい、たしか――』









 エストリアで戦争と暴動が同時に起こったその翌日。
 ルーシーの実家の食卓。
 そこにはタカシとルーシー、そしてアンの三人がいた。


「ちょっと話いい?」


 アンは戦争で帰ってきたタカシにそう告げ、ここへ呼び出していた。




「それで、なんだよ。話って」


「大事な話」




 アンはそう言うと、手に持ったお茶をずず――と啜った。




「なんでもいいけど、手短にしてくれるか? なんかいろいろとエストリアの中で起こってるんで、まだ状況の整理がついてないんだ。王が国家転覆罪で捕まるし、シノさんは捕虜になってるし、エストリア王都はほぼ壊滅状態だし――」


「しぶい」


「は?」


「今日も お茶がしぶくて おいしいよ」


「あの、アンさん?」


「わかってる。けど、わたしの話も今回のことについて深く関わってくる」


「今回の事件に……て?」


「まずは先に謝っておく。ごめんなさい。反省してる」


「いやいや、全く話が見えてこねえんだけど」


「今回の事件、わたしはあらかじめ予見できてた。それで忠告すらしなかった。職務怠慢。失職もやむなし。ストライキ」


「ちょっとまて、ストライキは置いておこう。今回の事件って……全部か?」


「ほぼほぼ」


「ほぼほぼ……ってまた曖昧な」


「じゃあ、まずは自己紹介から」


「は? 自己紹介? いやいや、いいって。おまえのことは――」


「わたしはアン。だけど、本当の名前はアンじゃないの」


「どういうことだよ」


「コードネームアン・・サツシャ。それが私の本当の肩書、そしてそれがわたしの生業シゴト。依頼を受けて人を殺す。物心つく前から。わたしはたくさん殺してきた。それがわたし」


「ま、まじかよ……おまえみたいな、すっとろいやつが?」


「うん。凄腕って呼ばれてた。死ぬ前は」


「ピースをするな。自慢をするな。てか、いきなりそんなこと言われても信じられ――」


 カン。
 とタカシの頭頂部すれすれを通り、木目にナイフが突き刺さる。


「ナイフを使うのが得意」


「……ていうか、あれだな。人はみかけによらないというか、なんというか……」


「うん。でも、いまはただのアン・・デッド」


「言ってる場合か」


「偶然だけど面白い」


「面白くねえよ! それで、なんで若干喜んでるんだよ!」


「アンとアンがかかってる。アンサツシャでアンデッド」


「だから、面白くねえって……」


「シュン……」


『お、面白いですよ! アンさん!』


「やめて、ルーズヴェルト。余計に傷つく」


『ルーシーですってば!』


「……それで? 結局おまえはなんで死んだんだ?」


「暗殺に失敗したから」


「暗殺に失敗? 依頼主に殺されたのか?」


「ううん。標的ターゲット返り討ちにされた」


「返り討ちって……まじかよ」


「うん。わたしもあのときはよく覚えてない。殺せたと思ってたら、逆にやられてた」


「それで……誰の殺しを依頼されてたんだよ」


「エストリアの大臣、ラグローハ」


「は!? 待て、大物じゃねえか」


「そう。大物。今まで請け負ってきた、そこらへんのゴロツキや小金持ちなんかとは比べ物にならない。一国の大臣。成功しても、しばらく表は歩けない。失敗したら、必ず死ぬ」


「……だれだよ、依頼してきたのは」


「カライの王様」


「か、カライの……!? これまたすごいのが出てきたな」


「たぶん」


「たぶんってなんだよ」


「じっさいにわたしに依頼してきたのは使い走り」


「そういうことか」


「……わたし、殺す相手は誰でもいいってわけじゃないの」


「と、いうと?」


「殺すのは悪い人だけ。それに、依頼人不明とかならなおさら。だからその人を締め上げて、元が政府だってことを吐かせた」


「そっから王だってわかったのか……それで、暗殺の理由は?」


「国家転覆および、屍人の研究」


「なっ、それって……!」


「うん。今回のを聞いてわかった。たぶんそのためにカライは利用された」


「まじかよ……」


「それに、山賊とも裏でつながりがあったぽい」


「は?」


「ここ最近頻繁に行われているインフラ工事。これは王都の外から引かれてる」


「王都の外……ちょっとまてよ、だとしたら山賊のアジトの宝物庫にあった、あのよくわかんねえ大穴って……」


「わからないけど、たぶん王都に続いてる。山賊が門を突破せず、いきなり街中に現れたのも、そのせい。それでいまはたぶん、そこを急いで塞いでるところ。証拠の抹消」


「まじかよ。そこまでやるか……。でも、そうじゃないとカライのやつらがずっと口走ってた『正義はこちらにある』ってのは……」


「そう。敵も利用されてた」


「……でも、おまえ。なんでそんなところまで知ってんだ」


「気になったら、とことんまで調べる。それがわたしの信条」


「いやだからピースじゃなくてさ……も、もしかして、その資料なり計画書を見たのか……?」


「ぶいぶい」


「はぁ……。おまえもよくやるよ」


「……わたしの話はここまで。あとはおっさんに任せる」


「任せるって?」


「わたしはもうこの問題、どうこうする気はない。告発するにせよ、そのままにするにせよ、わたしはもういい。だから、おっさ――タカシに任せる」


「いきなりこんなこと言ってきて、今度はオレに任すって……おまえやっぱすげえな……」


「褒められた」


「褒めてねえよ!」


「でも、大臣を告発するなら急いだほうがいい」


「え」


「大臣、狡猾。証拠いつ消されるかわからない。実際、いまもそうしてる。それに、王様も」


「そう……だよな」


『タカシさん、やりましょう!』


「ルーシー……」


『わたし、許せませんとも! たとえタカシさんがいなくても、こんな話を聞かされて、黙っていられません!』


「まあ、おまえはそういうやつだよな……」


『タカシさんはすごいです。なんでもできちゃうんです。それはそばで見てきた私が、いちばんわかってるつもりです。……ですから、どうかお願いです。エストリアを救ってくれませんか?』


「……いちばんそばでオレを見てきたなら、答えはわかってんだろ?」


『はい! 出発ですね!』


「ああ、準備しねえとな、いろいろと」


「……やっぱり二人は仲良し」




 アンの言葉にやや沈黙があって、二人は答えた。




「腐れ縁なだけだ!」
『腐れ縁なだけです!』




 おかしくなったのか、二人はふきだすように笑った。




「あと、これは最後の忠告」


「なんだよ、改まって」


「大臣にはひとり聖虹騎士の側近がいる。たぶんそいつは全部知ってる。そのうえで協力してる」


「そいつって誰だよ」


「それはわからない。けど、いちばん最初にタカシに接触してくるやつが、いちばんアヤシイ」









『いちばん最初……まだ聖虹騎士のかたにはだれにも会ってないですけどね……』


「あいつ抜けてるからな。もしかしたら思い違いとかも――」


「やあ、こんにちは。ルーシーさん、ちょっといいかな?」




 そこへ突然、ひとりの男がタカシに話しかけてきた。
 端正な顔立ちに、サラサラとした金髪。
 そして黄色の鎧を身に纏っている。
 人物の名は――




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