戦えない俺が女の子たちに守られながら魔王と勇者を倒す

水無

無様



「止まれ! 止ま……え!? ぱ、パトリシア様!? なんで!? と、止まってくださ――」


「ご、ごめんなさいっ!」




 ――ズン……!
 まるで膝が鳩尾に吸い込まれるような、見事な膝蹴りが警備員の鳩尾にクリーンヒットする。
 警備兵は悶絶する様子もなく、白目をむいて、そのまま前のめりに倒れた。
 パトリシアは上手く着地すると、減速することなく、再び処刑場の廊下を疾走した。
 俺はそんなパトリシアを尻目に付かず離れずの距離で、後からついて行っていた。
 ――俺とパトリシアは現在、ヴィクトーリアの処刑を阻止すべく、ネトリール処刑場内を全力で走り回っている。
 処刑場は広くもなく狭くもなく……といったところだが、部屋が複数あり、俺たちはさきほどから何度も入っては出て、入っては出てを繰り返していた。
 そんなことをしているからか、俺たちの存在はとっくに周囲に知れ渡っており、処刑場内の看守や警備兵がこぞって俺たちを押し寄せて来ていた。
 しかし、強化魔法を使える俺の敵では……というよりも、強化魔法のかかったパトリシアの敵ではなく、特に手痛い足止めを食うことなく、サクサクと突破していた。




「……それにしても、パトリシアって戦い慣れてるんだな」




 俺は足を止めることなく、感心するように呟いた。
 今現在、パトリシアの希望で、ネトリール人を殺傷しないほどの最低限の強化魔法をパトリシアに施しているのだが、それでもパトリシアは全く苦戦することなく、的確に適切に、行く手を阻んでくる者を処理していた。




「何かやってたのか?」


「あ、いえ……これはなんというか、王族の嗜みと申しますか……。もしもの場合、最低でも自分の身は自分で守らなければなりませんので……。幼少期の頃より訓練は受けております」


「もしかして、それってアーニャも?」


「はい。勿論ですわ。ですが、お姉さまの技はワタクシとは比べ物にならないほどの練度を誇りますの。お姉さまは私より小柄ながらも、それはそれはすごい突きや蹴りをお持ちなのですよ。……まあ、いままで一緒に旅をしていたユウトさんに、改めて申し上げるほどの事ではないと存じますが……」




 アーニャの事を語っているパトリシアは、見ていて、どこか誇らしげに見えた。こんな緊急事態ではあるが、こうして話していると、本当にアーニャの事を尊敬しているんだな、と理解できる。




「ああ。パトリシアの言う通り、アーニャに出会った時は度肝を抜かれたよ。それにしても、王族のたしなみか……機械の体ってのも気づかなかったし、どうりで凄かったわけだ……」




 思えば、アーニャは出会った頃から抜群の戦闘センスを誇っていた。
 それはもちろん、機械の体を持っているから……という事もあるが、普通、いくら俺の強化魔法がかかっていたとしても、あのエンドドラゴンを一撃で沈められるはずがないのだ。




「ユウトさん? いま、なにか仰いましたか?」


「いや、何でもない。……とりあえず今は、目の前の事に集中しよう。ヴィクトーリアを探し出す事が、今は最優先事項だ」




 陽は既に地平線から顔を覗かせており、本来なら刑は執行されている予定だったのが、なにかしらのトラブルで刑が執行できないでいるらしい。……というのを、ここの刑務官たちが話していたのを耳にした。
 『刑を執行できないほどのトラブル』というのも気になるが、今はどちらかというと、刑が執行されていないというチャンスを逃す手はなかった。
 ということで、俺たちはその混乱に乗じ、大胆なヴィクトーリア救出作戦を決行していた。
 こうして派手に暴れることで、自然とヴィクトーリアへと続く道の警備が厚くさせ、人数が多い場所をあえて狙うという作戦だ。
 無論、警備が厚くなればなるほど敵が強くなっていく。
 そこで重要となってくるのが、パトリシアだ。
 はじめは出来るだけ、俺一人でこの救出作戦を決行しようとしていたのだが、ご存じの通り、仲間がいない状態の俺は、お世辞にも強いと呼べる冒険者ではない。
 つまり、最初からどん詰まっていたわけだが、そこで名乗りを上げてくれたのがパトリシアだった。
 最初は俺も、パトリシアを戦わせることに躊躇していたが、蓋を開けてみれば、平均以上に戦えているお姫様に助けられている始末。
 たしかに相手も、賊がパトリシアだという事で、手を出しづらいという状況ではあるだろうが、それを抜きにしても、パトリシアの動きは俺の想像の何倍も良かった。
 『お姫様』というものは、か弱いもの。――という、俺の中での既成概念が綺麗に崩れ去っていった。
 ……そうこう考えているうちにも、パトリシアは敵をちぎっては投げ、ちぎっては投げの獅子奮迅、八面六臂の大活躍。
 あっという間に、処刑場内最後の部屋の前までやってきた。
 俺は扉の前に立ち、ドアノブに手をかけると、ドアノブを回して……ドアノブを回して……。




「ユウトさん? いかがなさいましたか?」


「開かないんだけど……」




 ガチャ……ガチャガチャガチャガチャ……!
 いくら回してもドアノブを回しても、扉は一向に開く気配はない。最後の部屋には内側から鍵がかかっていた。
 しかし幸い扉は木製。これなら――




「ちょっと待っててくれ」




 俺は扉から少し距離をとると、助走をつけ、扉に対し、渾身の前蹴りを放った。
 グキ……!
 盛大な音をたてて、扉ではなく俺の足首が曲がってしまった。




「うおおおおおぉぉぉ……!」




 俺は足をおさえると、芋虫のように床の上をのたうち回った。
 はるか上空からは、パトリシアが何とも言えない表情で芋虫を見下ろしていた。
 なぜ俺はこんなことを……活躍する場面が少なかったから、せめていいところをなんて思ってしまったのか?
 そんなことを考えていた、ちょっと前の俺を蹴ってやりたい。
 利き足とは逆のほうで。




「ゆ、ユウトさん……足が……」


「行け! パトリシア! 大丈夫、くじいただけだ! 必ずあとで追いつく! 俺は置いていくんだ! さあ!」


「は、はあ……」




 パトリシアは頷くと、ドアノブに手をかけ、手前にスッと引っ張った。
 そう、何故か処刑場最後の部屋だけ押して開ける扉ではなく、引いて開ける扉だったのだ。

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