戦えない俺が女の子たちに守られながら魔王と勇者を倒す

水無

電撃戦



 視覚で捉えられないなら、他の感覚を研ぎ澄ませばいい。
 あたしは目を瞑ると、耳に神経を集中させた。
 聞こえてくるのは……けたたましいサイレンの音……壊れた機械から漏れ出ている電気の音。
 ちがう。ちがう。どれもちがう。
 あたしが捉えたいのはその音じゃない。
 あたしが捉えたいのは――
 ガチャン!




「……捉えた!」




 前方右方向。
 そこから、重量のある金属が床に接触する音が聞こえてきた。
 同時にあたしはフッと小さく息を吐く。
 あたしは目を開けると、右足を大きく踏み込んで、横一文字に剣を振った。
 さすがにそれなりの硬度があったのか、腕から体の芯へビリビリと振動が伝っていく。
 思っていた通り。
 これは機械を斬りつけた手応え。


 バチバチバチ!


 答え合わせをするかのように、何もない場所から火花が散る。今まで見えていなかった機械の輪郭が、ボヤっと浮かび上がってくる。
 これはたぶん、斬撃によるショックを与えたからだと思う。
 まだその全貌は浮かび上がってはいない……けれど、ここまで見えるのなら、もう目で追える。
 ――視界がクリアに感じる。
 それだけじゃない。
 周囲の様子がハッキリと、手に取るように……とまではいかないけど、感じ取ることが出来る。
 さっきまでは色々テンパっていたから聞き逃していたけど、さっきはハッキリと足音が聞こえていた。
 機械の鈍重な・・・足音がはっきりと聞こえてきた……。
 これはつまり、機械の動き自体が素早くなったワケではない、ということ。
 したがって、機械はあの一瞬であたしの背後に回り込んだわけじゃない。
 だったら機械の足音は……。
 ――ガチャン!




「二度、聞こえてくる」




 あたしはその場で、剣を構えたまま一回転した。
 ――ズバン!!
 手応えあり。
 相変わらず、手が腕がビリビリ痺れるほどの硬度。
 それでもあたしは強引に力で回転してみせた。
 剣はさきほどの機械よりも、深く鋼鉄の体を抉った。
 バチバチバチ……!
 これでようやく、二体目の機械・・・・・・が目視できるようになった。
 ……思った通りだ。
 この機械たち・・は姿を消して、どうしたかはわからないけど、二体に増えて、あたしの周囲を取り囲んでいたのだ。


 ――おにいちゃんから聞いたことがある。
 魔法には、自分の周囲の光を屈折させて、姿を眩ませるものがある。これはたぶんその魔法。
 用途としては戦場からの緊急離脱や、態勢の立て直しなど、多岐にわたるけど、大概はこのように奇襲として使われている。
 この機械がなぜこの魔法を使えるのか、その仕組みはわからない……というよりも、この流れだと本当は考えたくない……んだけど、そういった類の人柱魔法で間違いないだろう。
 しかし、タネがわかってしまえば、どうという事はない。
 まだすこしだけ疑問が残るけど、いまは後回しだ。
 いまの目標は迅速にこの二体を処理して――




「待ってください!」


「!?」




 突然声が響き、あたしは追撃を加えることなく、その態勢のまま固まってしまった。
 声の主は……間違いない。
 さきほど機械の体当たりを真正面から受け、死んだとばかり思っていたジョンさんの声だ。
 ……て、いまはあの人に構っている暇なんてない。




「すみません。話はあとで聞くので、今は――」




 あたしは改めて機械ににトドメをさそうと、追撃の態勢に入ろうとした。






「それを壊すと、お仲間さんを助けられなくなりますよ!」




 ――ピタ。
 その一言で、あたしの剣が完全に止まる。
 この機械を倒せば、アーニャとヴィクトーリアは助からない……?
 ――ブン!
 あたしの迷いを見逃さないように、半透明の機械があたしを圧し潰そうと、極太の腕で殴りかかってくる。




「――ッ!?」




 あたしはなんとか反応してその腕を躱すと、再度、機械たちとの距離を確保した。
 剣による切り傷……人間では明らかに致命傷だけど、機械にとってはそうでもないらしい。
 あの程度ではまだ、機械を完全に停止させることはできないということなのだろう。
 これで良かったのだろうか……?
 たしかに、こう可視化できるようになってしまえば、いつでも機械を仕留められるけど……如何せん、今は一刻を争う。
 千載一遇のチャンスを棒に振った……振らせた理由を問いただすべく、あたしはジョンさんの姿を探してみるけど――




「みんなを助けられないって、どういうことですか! ……というか、どこにいるんですか!?」


「ここです!」




 ジョンさんの声が再度響く。
 あたしはその声を頼りにジョンさんの姿を探す。
 今いる管制室から、ジョンさんが弾き飛ばされた先――壁に大きく空いた穴の先――ジョンさんは『メインリアクター』と呼ばれる機械がある部屋にいた。
 見たところ、命に別状はないようだが、左腕はぶらんと力なく垂れており、頭から大量の血が流れ出ていた。あの状態では戦うことはおろか、動くこともままならないだろう。




「まず、ここまで機械たちを誘導してください!」


「これを誘導……ですか……?」




 『なぜ』
 と、声に出そうとしたが、ジョンさんの声の感じや現状から鑑みて、問答をしている暇はなさそうだ。
 完全にあの人を信じたわけではないけど、今はあたしよりも詳しそうなあの人に従ったほうがいいかもしれない。
 あたしは(見えているかどうかわからないけど)小さく頷くと、機械の攻撃をかいくぐり、くり抜かれた壁を抜け、一目散にジョンさんのほうへと向かった。




「――ッ!?」




 部屋に突入した際、あたしは自分の体に違和感をおぼえた。
 肌がピリピリと断続的に、電気のような刺激を受けている。
 原因は明白。
 リアクターのせいだ。
 それほどまでの電力が、今、この部屋で、現在進行形で生成されている。
 でも、よく考えてみたらさほどおかしい事でもないのかしれない。
 このネトリールの電力を一手に担うほどの出力装置だ。無数ある機械群を動かすとなれば、このくらいの電力は必要となってくるだろう。
 しかし、あたしが一番驚いたのは、この部屋にある壁。
 壁一面には、さきほどまであたしが戦っていた機械がずらりと、無数に綺麗に収納されていた。
 壁はまるで蜂の巣のような造りになっており、それぞれのスペースの中に機械が一体ずつ収納されていた。ざっと数百体はあるだろうか。
 それでいて、機械は全く動く気配がない。




「こ、これは一体……!?」


「見てわかりませんか? これらは、ついさっきまで貴女が戦っていた機械ですよ」


「こ、こんなに……!?」




 ということはやっぱり、あの二体目の機械はここから……?




「ご理解いただけましたか? 仮にあのまま貴女が戦い続け、あの機械を倒せていたとしても、第二第三の機械が押し寄せることになっていたのです。そうなってくるとただのジリ貧……。いくら貴女でもこの数を捌ききることは不可能でしょう」


「それはたしかにそう……ですけど、なんで、わざわざあたしをここへ?」


「勿論、この泥沼のような状況を打開するためですよ」


「打開……ですか? もしかしてリアクターを破壊する方法が……?」


「はい。……さて、どこから話せば良いものか……」


「ここまで来てもったいぶらないでください。多少ごちゃごちゃになってもいいので、話してください」


「……リアクターの周囲には、リアクターを守るようにして半透明なプロテクターがグルグルと周っています。リアクターを破壊するには、まず、このプロテクターを破壊した上でリアクターに近づかなければなりません」


「なるほど。……つまり、あのプロテクターを破壊すれば――」


「しかし、物事はそう簡単に運びません。あのプロテクターは見た目以上に硬度があり、破壊するとなればそれなりの労力と根気を要します。その上、リアクター自体も常に高出力の電気を放ち続けているため、近づくことすら困難です」


「ではあのプロテクターを一瞬で破壊し、電気を浴びる前にリアクターを破壊すれば……あるいは……?」


「無理です」




 即答だった。
 反論の余地などないほどに、きっぱりとした口調でジョンさんはそう言い放った。






「そんなことは物理的に無理です。……いいですか、オレの前で二度とそんな脳筋チックな発言をしないでください」


「あ、はい……」




 何かが癪に障ったのか、割と真面目に怒られたあたしはそれ以上の反論はせず、口をぴったりと閉じた。




「……でも、それじゃどうするんですか?」


「目には目を高出力体には高出力体を……リアクターには機械を」


「ま、まさか、あの機械をリアクターにくべるってことですか?」


「はい。そのまさかです。あの機械はリアクターとまではいかなくても、かなりの出力で駆動しています。そんな高出力体をリアクターにぶつければ、必ず拒絶反応が起き、相殺され、リアクターの稼働も停止します」


「根拠はあるんですか?」


「はい」




 またもや即答だった。ちなみに、これに関しては理由を答える気配はないようだ。




「わかりました。考えている暇はないですし。それで、あたしはどうすれば?」


「貴女にはあのプロテクターを破壊してもらいます」


「……順序的にそうなりますよね。わかりました。精一杯やらせていただきます。……けど、あのプロテクターを破壊するにはどうすれば……? あれにまともに近づけないとなると、相当難し――」


「簡単です。そのまま、その手に持っている剣で破壊してください」

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