戦えない俺が女の子たちに守られながら魔王と勇者を倒す

水無

セキュリティ



 発電所、制御室内部。
 ここは名前の通り、発電所内における中枢。施設内にある、あらゆる機能の制御や管理を担当している場所。
 あたしたちは今、その部屋までやってきていた。
 道中、特に誰にも見つからず来れたのは、運がよかったのかもしれないけど……それにしても、施設内には警備兵はおろか、職員すらも見当たらなかった。
 深夜という時間帯のお陰もあるかもしれないけど、それでも見当たらないというのはやっぱりおかしい。
 それが本当に、たまたま出会わなかっただけなのか、また何かべつの理由があって、ここに職員がいないのか……。
『全てが全自動だから、最低限の職員だけいればいい』と、ジョンさんは言っていたけど、あたしはさっきから嫌な予感がしてならない。
 上手くは言い表せないけど、なんというか……肌がチリチリと焼けるような感じがする。
 ……とは言っても、それは結局、あたしの勘でしかない。
 どちらかというと、それで無駄に警戒しすぎてしまったら逆効果だ。杞憂だったのなら、それに越したことはない。気にするだけ無駄……なんだけどやっぱり――




「オレはこれから、エネルギーの供給を断つ手段を探します。……さしあたり、貴女には、誰かがここに入ってこないよう、見張りをお願いしたいのですが」


「そ、それはいいんですけど……」




 あたしは視線をジョンさんから外し、制御室内部のガラス。その向こう側を見た。




「どうかしましたか? 何か気になるものでも?」


「えっと、この部屋からガラス越しに見えるあれって?」


「ああ……。あれがリアクター……溶鉱炉ですよ。あそこでネトリール全域に供給するエネルギーを作っています」


「あれが……?」




 ドクン――ドクン――
 鉄のような素材で造られた、巨大な心臓。
 それが白く、広い空間の中で、絶え間なく脈動していた。
 この部屋に入って、アレ溶鉱炉が目についたときから、もしかして……とは思っていたけど、本当にあれが溶鉱炉だったなんて。
 改めて見ると、不気味……としか言い表せない。
 本当にあんなものが、このネトリール全域のエネルギー供給を賄っているのだろうか?
 一体、何を元にして、これほどまでのエネルギーを精製しているのだろう?
 なぜネトリールは、ここまでのエネルギーを必要としているのだろう?
 ……そして、あの溶鉱炉の付近にある、石像のような巨大なシンボルは何なのだろう?
 狼のような頭。
 プレートアーマーのような物で包まれている胴体。
 尻尾は太く、先端にはトゲトゲの球体がついており、腕には鋭い鉤爪が備わっていた。
 見た感じ、アレに動く気配は感じ取れないけど、石像にしては明らかに攻撃的というか、実戦的というか……その存在自体が不自然極まりない。なぜあんなところに、あんなものが………等々、疑問は尽きそうにないけど、そろそろ見張りに行かないと、グチグチと嫌味を言われてしまうかもしれない。
 あたしはそろそろ切り上げると、ジョンさんに向き直り――




「えっと、じゃあジョンさん。あたしは見張りに行きますね」


「いいえ、結構です。その必要はありませんよ」


「え?」


「貴女がさきほどからオレのお願いを無視して、ぼーっと突っ立っている間に、ここにあるコントロールパネルについて調べておきました」




 ……言う通りにしなかったあたしが言うのもなんだけど、一々言わなくてもいい事言ってくるよね、この人。




「というか、『こんとろーるぱねる』? って、なんですか? 調べておいたって、何についてですか?」


「……コントロールパネルはここにある機械の総称です。そしてどうやらここには、リアクター自体の稼働を止める装置はなさそうです」


「そうなんですか? でも、なんでだろ……ここが施設の中枢なんですよね? それがなかったら割と欠陥じゃないですか?」


「……まあ、こうなってしまっては、やることはひとつしかありませんね」




 なんだろう? 無視された……のかな? 意図的に?
 ……いや、たぶん聞こえなかったのだろう。ジョンさんはここでリアクターを止めるつもりだったのに、その手段が断たれてしまったのだ。取り乱して、あたしの声が聞こえなくなっても不思議ではない。たぶん、いま、ジョンさんの頭の中では代替案を考えている途中なのだろう。その証拠に、今現在、ジョンさんはあたしの目を見て話していない。




「……それで、どうするんですか?」


「直接破壊します」


「ちょ、直接って、もしかしてあの心臓みたいなものを……ですよね」


「はい。直接リアクターに壊滅的打撃を与え、稼働を停止させます」


「言っていることはわかりますが、でも、アレを破壊するって……どうやってですか? というかそもそも、近づいていっていいものなんですか?」


「フム。その出力の遠距離魔法はまだ扱えませんか……でしたら――」




 ジョンさんはそこまで言うと、手に持った警棒で部屋にあった機械を十文字に切り裂いた。機械はバチバチという不協和音をあげると、そのまま、動かなくなってしまった。
 ――が、当然というか、想像通りというか、ジョンさんが警棒を振るった直後、あたしたちが今いる部屋から、ウーウーウーと、けたたましい音が鳴り響き、部屋の中の光が赤黒と明滅し始めた。




「こうしましょう」


「こ、こうしましょうって……ちょっと! なにやってるんですか!?」


「あのリアクターを破壊できないのなら、この施設ごと破壊するんですよ」


「はあ!? ちょっと、ホント……いきなり……なに言っているんですか!? これ、ヤバいやつじゃないんですか!? こんなの、絶対だれか駆けつけて来ますよね!?」


「ええ。覚悟の上です」


「あたしの覚悟はできていません! 勝手に覚悟しないでください!」


「どのみち、遅かれ早かれこうなっていたんです。もう諦めてください」


「なんて横暴な……! あたしはジョンさんに手を貸すことを諦めたいですよ……!」


「とにかく、もうここに長く留まることはできません。的確に、念入りに、この施設で破壊の限りを尽くしましょう」


「……結局、こうなるんですね……はぁ……」




 あたしは小さくため息をつくと、一心不乱に(というより、少したのし気に?)機械を破壊していくジョンさんを視界に収めつつ、何気なしに溶鉱炉のある空間を見た。




「ん……あれ?」




 あたしは違和感をおぼえ、ガラスの向こう側――溶鉱炉のある部屋を二度見した。
 ……何かが足りない。
 溶鉱炉はさきほどとはなんら変わりなく、ドクンドクンという音をたて、脈動を続けている。というおとは、この違和感は溶鉱炉ではなく――なんだろう?
 この施設に来てから感じていた焦燥感というか、肌が焼けるような感覚がどんどん強くなっている気がする。
 とにかく、ジョンさんなら何か知っているのではないだろうか。
 あたしは再び、ジョンさんのほうを振り返った。




「あの、ジョンさ――」




 ――バゴォォォオン!!
 耳を塞ぎたくなるほどの、突然の轟音。
 あたしの身長よりも遥かに大きい何かの塊が、あたしの鼻先を掠める。
 塊はちょうど、その場にいたジョンさんにぶち当たると、そのまま、溶鉱炉部屋へのガラスを突き破り、ジョンさんごと制御室から吹き飛んでいった。
 あたしは急いで視線を戻し、塊が飛んできた方向に首を向けた。
 塊の正体は壁。
 何か、ものすごい力によってくり抜かれた、通路側の壁。
 ただ、それは問題じゃない。
 今、この時点での一番の脅威は、壁が飛んできた事ではなく、鼓膜を激しく揺さぶってくる轟音でもなく……通路側からあたしを睨みつけている石像だった。
 間違いない。
 あの石像は、さきほどガラス越しに見ていた石像だ。
 でも、目の前の石像は石像というには、あまりにも光沢を放っている。
 これでは機械犬……とまではいかないけど、その類のモノに見えてくる。
 だとすれば、これは機械で出来たもの……という事になるのだろうか?
 だったら、警棒を突きつければ――




『セーフモード解除。コレヨリ、目前ノ侵入者ヲ排除シマス』

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