戦えない俺が女の子たちに守られながら魔王と勇者を倒す

水無

機械犬



 ジョンさんはあたしの目の前にスッと、警棒を差し出してきた。
 あたしがそれを受け取ると、もう1本どこからか(多分懐から)取り出した。




「これ、何に使うんですか?」


「この警棒はただの警棒じゃない……というのは、先刻の戦いで分かったと思いますが、これにはじつは、縦や横に振る以外にも、もうひとつ使い道があるのです」


「じゃあ突く……とかですか?」


「はぁ……トンチじゃないんですから。攻撃以外にも使い道があるという事ですよ」


「あの、そもそもなんですけど、この警棒って何なんですか? なんというか、ただの鉄製の棒にしか見えないんですけど……あのネトリールの騎士は警棒から魔法のようなものを出してましたよね?」


「ええ。まあ……簡単に言うと、これは人柱機械のようなもの……ですかね」


「人柱機械……!? じゃ、じゃあこれって……もしかして地上人を……!」


「ああ、いや、勘違いしないでください。べつにこの警棒の中に人間が詰め込まれているとか、魔法使いの体の一部を触媒としているとか、そういう事じゃないんですよ」


「え、じゃあどういう……?」


「これは魔具まぐといって、魔法を使えない者でも魔法を使えるようになる……というものです」


「じゃあやっぱり、あの騎士が魔法を使えたのは、自分の魔法じゃなくて……?」


「はい。魔具のお陰です。これは……そうですね。簡単に構造を説明させていただくと……水筒と同じです」


「す、水筒……ですか」


「はい、水筒は容器の中に水を入れておいて、喉が渇いたら中の水を飲みますよね? これはそれと同じで、この警棒にはあらかじめ、魔法が仕込まれているんです。そして、任意のタイミングで、この警棒に魔法を纏わせることが出来ます。それもボタンひとつで」




 ジョンさんはそう言って、手に持った警棒の取っ手部分側面のボタンを押すと、自分の服の端をすこし切ってみせた。ジョンさんの言う通り、まるで、するどい刃物で裂かれたように、布がスッと切れていった。




「という事は、警棒の中にある魔法は消耗品である……ということですか?」


「はい。無くなればまた補充できます。他にもこういった魔具はネトリールに多数存在していて、銃や手袋……様々なものに応用されており、その用途も多種多様。この警棒のように、敵を攻撃するもの。敵から身を守るもの。普段の生活でも使えるもの……とあるのですが、これらはまだまだ試作段階で、一般人が手にするのはまだまだ先になるんです」


「でも、あの騎士のひとたちは普通に使ってましたよね……?」


「ええ。現在は試験的に導入している段階でして……まあ、あの騎士たちがなんら問題なく使用していたのを見ていると、本格的に導入されるのはそう遠くはないでしょう。ちなみに、この警棒の中に仕込まれているのは風の魔法でしょう。あの切れ味を見る限りですがね」


「……なんというか、さっきからすごく生き生きと話してますね」


「もちろんですよ。なにせ、これはネトリールと勇者の酒場ギルドとの共同開発で――」


「共同……開発……?」




 あたしがそう言うと、いままでぺらぺら喋っていたジョンさんが黙り込んでしまった
『共同開発?』
 嫌な予感が脳裏をよぎる。
 勇者の酒場とネトリールの……?
 ジョンさんのあの語り口調から察するに、ジョンさんがネトリール側に何らかの技術提供をしていたのは確実。……というか、そう仮定しないと、ここまで雄弁に魔具の説明なんかできない。
 それにしても、ネトリールは勇者の酒場と魔具を共同開発するほどの協力関係だったのに、なぜいまはこのような敵対関係にあるのだろう?
 ネトリールが勇者の酒場を利用していた……?
 勇者の酒場がネトリールの技術力を手に入れようとした……?
 それとも、またべつの思惑が……?




「ジョンさん、さっきのは一体、どういうことですか?」


「さっきの……というのは?」


「白々しいです。共同開発のくだりですよ」


「……はて?」




 ジョンさんは首を傾げ、わかりやすくトボケてみせた。
 どうやら、ジョンさんにこれ以上は話すつもりはないらしい。
 どうすべきだろう。
 あたしがここで取る行動は。
 ジョンさんの放った、さきほどの言葉を追求するのか……さっきの感じといい、ものすごく口は軽そうだけど、やっぱり、訊きだすのはそれなりに時間がかかると思う。
 それに、なにより、あたしはそういう事が得意じゃない。
 こんな時、おにいちゃんがいてくれたらいいんだけど……って、だめだめ。
 弱気になっちゃいけない。余計なことは考えちゃいけない。
 あたしが今やるべきことは、ヴィッキーを救い出す事。
 他の事は後回しだ。
 だから、ここは多少ジョンさんの言動が気になるけど、スルーしておこう。




「……つまり、その警棒であの機械犬を叩きのめすってことですか?」




 あたしが話を逸らしたことに対し、ジョンさんはすこしだけ不自然そうに眉を吊り上げた。




「……いえ。武力の行使は行いませんよ」


「じゃあどうするんですか?」


「言ったじゃないですか。犬の認識を『敵』から『飼い主』にするんです」


「……?」


「わかりませんか。……まあ、見ていてください。実際にやってみせますので――」




 ジョンさんはそう言うと、そのまま、姿も隠さずに、すたすたと早足で機械犬のほうまで歩いていった。




「って……!? ジョンさん!? 何をやって――」




 言い終える前に口をつぐむ。
 ジョンさんは何事もなかったかのように、機械犬の横を通り過ぎていった。
 機械犬も特にジョンさんを気に掛けるわけでもなく、さきほどまでと同じように、ルーティーンを続けている。
 どういうことだろう……と、あたしが狼狽えていると、ジョンさんがあたしに向かって手招きをしてきた。
 あたしはそれに対してすこしだけ躊躇したけど、意を決し、下水道を進んでいった。
 機械犬まであと10歩、9歩、8、7、6、5、4、3、2、1――機械犬は……あたしに対して……反応……しない。
 手を伸ばせば、足を伸ばせば、すぐにでも触れられる距離なのに、機械犬は何も反応しない。強いて言うなら、あたしの進路方向を妨害しないよう、道を譲ってくれたほどだ。




「ジョンさん、これって……?」


「今はオレたちを敵とは認識していないが、ここに長くとどまる理由もない。……説明するので、とりあえず先を急ぎましょう」




 ジョンさんはそう言うと、歩く速度を上げた。
 あたしはそれに頷くと、ジョンさんの速度に合わせて歩き始めた。




「さきほども言った通り、この警棒は現在、試作段階のモノで、完品には程遠いものです。ですから、その数も限られている。つまり、一定数の人間しか所持を許されていない。だから、こういった事に使うのには都合がいいんですよ」


「都合……ですか」


「ええ。この警棒には敵を攻撃する以外に、所持している人間の情報が組み込まれているんです」


「えと……つまり、どういうことですか?」


「……この警棒を誰が持っていたか覚えていますか?」


「ネトリール騎士団の人たちですよね?」


「そうです。つまり、この警棒にはあの騎士の身長体重、生年月日から家族構成に至るまでの個人情報が入力されているのです」


「……ということは、この警棒を持っていたから、あの機械犬たちはあたしたちを騎士の人たちと誤認したという事ですか?」


「そういう事ですね」


「あれ? ……でも、おかしくないですか? ジョンさんならともかく、あたし、女なんですけど……似ても似つかないですよね、さっきの人たちとは?」


「それがですね、機械犬というのは案外いい加減なもので、そこまでの演算処理能力はないんですよ。おそらく現在受けている命令『近づくものを攻撃しろ』や『付近に不審者がいないか探索しろ』を遂行するので精一杯なんです。だからこうして一次元的に……『個人情報が登録されている警棒』を持っているというだけで素通りさせてくれたんですよ」


「……それ、ただの欠陥品じゃないですか」


「ははは。……しかし、そうでもありませんよ。実際、あの場に留まっていたら間違いなく不審に思われたでしょうし、なによりこうして、個人情報を登録している武器というのは数自体が少ない。たまたまこれを入手していたからこうして突破できたものの、これがなければ、どうなっていたかわかりませんよ」


「な、なるほど……」




 それにしてもやっぱりこの人、詳し過ぎる。
 ここまでネトリールに干渉できるという事は、勇者の酒場の中でも相当な立場があるという事。それに、いままでの口調からこの人自身もかなりの魔法が使えると推測できる。
 勇者の酒場の内情についてはあまり詳しくないけど、ここまでの条件が揃っているということは、調べたらすぐにでも出てきそう……というか、よくよく考えてみたらおにいちゃんとも、かなり親しい感じの知り合いっぽい感じだった。
 おにいちゃんは知り合いは多いけど、友達は少ないから……そうなってくると、かなり数が絞れてくる。
 あたしでも知っている人なのだろうか……それとも――




「着きましたよ」




 ジョンさんの声が下水道内に木霊し、先を歩いていたジョンさんの足が止まる。
 あたしも足と考えるのを止め、前を向いた。

「戦えない俺が女の子たちに守られながら魔王と勇者を倒す」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く