戦えない俺が女の子たちに守られながら魔王と勇者を倒す

水無

マジックドレイン



 あの医療キットが『オモチャ』ということが判明したことにより、あたしの中に、ひとつの不安がよぎった。あたしは挙手すると「少しだけ、質問していいかな?」と、断りを入れた。
 パトリシアさんが小さく頷くのを確認すると、あたしは再度、口を開いた。




「あたしがさっき倒した騎士って、どのくらいの強さなの?」




 対面ではそれほど苦労しなかったけれど、おにいちゃんが重傷を負ったので、結果的に見れば辛勝。もっと運が悪ければ、全滅……とまではいかなくても、かなり壊滅的な打撃を受けていたかもしれない。だから、その上での質問。
 さきほど、あたしが戦ったあの騎士たちの戦力把握。
 そして、これから相手取るであろう、『騎士』の指標にもなる。




「どのくらい……ですか?」




 あたしの質問が難しかったのか、はたまた、すこし不明瞭だったのか、パトリシアさんは小首をかしげてみせた。




「えっと、ごめんなさい。あたしが訊きたかったのは、『騎士』って職業がネトリールにあるじゃない?」


「は、はい。団長さんをはじめ、ネトリールには何人かいらっしゃいますわ」


「その中での強さの格付けというか、あたしがさっき戦った騎士って、その騎士の中で何番目くらいに強いのかなって思って……」


「ああ、そういう事でしたのね」




 パトリシアさんはすこしだけ考える素振りをすると、
「あの方々は、見たことがありませんわ……」
 と、申し訳なさそうに答えた。




「それはつまり……?」


「はい。あの方々は騎士の中でも最下層……の騎士だったのかと……」


「……そう」




 驚きはなかった。しかし、焦りはあった。
 ある程度は予想していたことだけど、これから、あれよりも格上の騎士たちが相手になるのかな……と。それだけに、おにいちゃんが、これからの戦闘に参加できないのが痛手になる。
 たしかに、おにいちゃんはいま、魔法は使えないけど、その分、あたしとは戦闘において圧倒的に経験値の差がある。さきほどの、あたしをかばった行動だってそうだ。あれは、おにいちゃんの中で、何かしらの危機感知が働いたうえで、あの行動をとったもの。
 そして、あたしにはそれがない。
 これからはおにいちゃんがたてる作戦も、戦略もない。指示すらしてもらえない。そんな状況で、あたしはこれから、迅速にヴィッキーを救い出さなければならない。
 果たして、あたしにそんなことが――




「なんだ。そんなの、たかが知れているじゃないですか」




 あたしの苦悩を知ってか知らずか、ジョンさんが、呆れるほどの能天気な声で言い放った。




「なにか作戦でもあるんですか?」


「なんですか? 作戦が必要なんですか?」


「……あのですね、いまはふざけている場合じゃ――」


「フム、戦闘能力が高いのはわかりましたが、やはりあなたには、決定的に経験が足りていませんね」


「……どういう意味ですか?」


「そのままの意味ですが……。ああ、でも、そうでしたね。あなたはいま、何の問題もなく魔法を使えたのでしたね」


「も、もしかして、わかったんですか? なぜ、ネトリールで魔法を使えないか」


「ええ。ある程度最初から、いくつかその候補があったのですが……、さきほどの戦いで、それがようやく絞れました。たぶん、あなたのおにいさんも、その答えにたどり着いていたと思いますよ」


「それは……?」


魔力吸収マジックドレイン。それが現在、ネトリールで魔法が使えない理由です」


「まじっく……どれいん……?」


「聞いたことはありませんか? 主に、力の弱い魔物が得意とする魔法……というよりも、能力スキルですが、簡単に言うと、術者が対象の魔力を奪う事です」


「そ、そんなことが……」


「はい。もちろん、人間でも習得しようと思えば出来ないこともない能力です。魔力を奪われれば、それだけで、魔法を主体とする、あなたのおにいさんや、オレみたいな魔法使いの動きを縛れます」


「ということは、このネトリールにその能力を使う人間が?」


「……いえ、それは考えにくいですね。魔力吸収はある程度対象に近づかないと、その能力は使えません。けれど、この魔力吸収はオレたちがここに来てから、絶えず発動しています。その間、そして現在進行で、誰かがオレたちの近くに付かず離れずで怪しい動きをしている人間がいましたか?」




 あたしはすこしだけ考えると、パトリシアさんを見た。パトリシアさんはあたしの視線に気がつくと、首と手をぶんぶんと振って、違う事をアピールしてきた。たしかに、パトリシアさんがそんなことをしていたなんて、考えられないし、考えたくない。
 でも……。




「もちろん、そこにいる姫様は違います。一応、探りは入れましたが、あの方からはなにも感知できませんでした」


「じゃあ……いったい誰が……?」


「……姫様」




 ジョンさんが、あたしとの会話を打ち切って、パトリシアさんに話しかけた。




「ここ最近、ネトリールに不審な……というよりも、巨大な機械か何かができませんでしたか?」


「きょ、巨大な機械……ですか?」


「ええ。……そうですね、オレも聞いたことはあるだけですが、『アンテナ』のような物がついた機械です」


「あ! それなら、何日か前に、このネトリールの四方に建てられていました!」


「……つまり、そういう事です」




 それだけ言うと、ジョンさんはどや顔であたしを見てきた。




「えっと、全然なにが『そういう事』なのか、さっぱりなんですけど……」


「その四方に張り巡らされたその機械、それがオレたちの魔力を吸い上げているんです」


「そんなことが……!? で、でも、機械ですよね。機械に魔力を吸い上げることが可能なんですか?」


「……ここからは憶測も交えての、オレの推論なのですが……」




 ジョンさんはそれだけを言うと、パトリシアさんをちらりと横目で見た。パトリシアさんはその視線に気がつくと、すこしだけ気まずそうにして、
「わ、ワタクシ、一度ユウトさんの状態を見てきますわね」
 とだけ言い残し、隣の部屋へと移った。
 ジョンさんはパトリシアさんがいなくなるのを見計らうと、再度、あたしに向き直った。




「お察しの通り、この話はあまり、あの姫様の耳には入れたくない内容でして……」




 ジョンさんはそうやって断りを入れると、そのまま話し始めた。




「オレの推論を述べる前に、まず、予備知識として耳に入れておきたいことがあるのですが……、魔柱機械まちゅうきかいという物をご存知ですか?」


「まちゅう……?」




 聴き慣れない言葉に、あたしはおもわず首を傾げてみせた。




「ええ。……まあ、知りませんよね。これは読んで字のごとく、魔物を基礎として設計した機械の総称です。知っての通り、魔物というのは、多種多様。数千、数万とその数はいます。当然、魔物ごとに力が強いものや、魔力が高いもの。特殊な能力を備えたものまで。その中には、人間にとって有益な能力を持った魔物や、使い方次第では、有益に働く能力もあります。……ですが、相手は所詮魔物。たしかに人間と共存している魔物というのも、極少数ですが……。けれど、オレたちに有益な能力を持った魔物が、必ずしもオレたち人間に友好的なわけがない。でも、その魔物の能力は欲しい。じゃあ、どうするか。……わかりますか?」


「……出来るかわからないですけど、能力だけをもらうとか……ですか?」


「その通り。能力だけ・・・・を頂いてしまうのです」


「そ、そんなことが可能なんですか……?」


「ええ。それを可能にできたのが、このネトリールの科学力。……まあ、その研究に、オレも絡んでいましたし……」


「じゃあ、ジョンさんは、ネトリールに技術提供していた、と……?」


「まあ、それはいいでしょう。この際、関係ありません」


「ないんですか……?」


「ないんです」




 強引に押し切られたけど、どう考えても関係あるよね……。




「……それで、ここからがその本題で、魔柱機械の構造なんですが、これは実にシンプルで、機械という入れ物に、魔物のコアをそのまま移植することなんです」


「えっと……?」


「簡単にいえば……そうですね。たとえば、火を起こす能力を持った魔物がいたとしますよね。……というか、実際にいるんですけど、いっぱい。それで、オレたちはそれを、いついかなる時でも使いたい。つまり、『その火を起こす能力がほしい』と思ったとしましょう」


「それは……魔法なりなんなりで、簡単に起こせるのでは……?」


「例えですから。……話の腰を折らないでくれますか?」


「ご、ごめんなさい……」


「……そう思ったら、その魔物を四肢をもぐなりなんなりして、生きたまま捕獲するんです。そして、その魔物の核……この場合、心臓なり脳なりですね。魔物によって、その場所は異なりますけど……。それで、核を取り出し、死なないうちに機械に取り込むんです。そうすれば、あら不思議。その機械は核が消滅……機能停止するまで、火を起こす機械として、在り続けるんです。これが魔柱機械。人柱ひとばしらという言葉に倣って、魔物を柱とする機械という意味です」


「そ、そんなことが……!?」


「……といっても、オレが知っているのは、実用段階ではなく、試作段階。あくまでも、実現可能……かもしれない、という可能性の話です。実際に出来ているかは知りませんが」


「じゃあ、この状況はその機械が起こしている……ということですか?」


「まあ、結論を急がないでください。これを踏まえた上で、次の話に移ります。ちなみに、ここまでついて来れていますか?」


「まあ……、はい。一応……」


「では、ネトリールがこうなる前。ネトリールはどうだったか知っていますか?」


「どうだった……て、どういう意味ですか?」


「いまでこそ、地上全てを滅ぼそうと、ネトリールは躍起になっていますが、そうなる前、あなたがネトリールに抱いていたイメージはどのようなものでしたか?」


「えっと……、ネトリールは観光地で、地上人……つまり、あたしたちの多くが、ここを訪れていて――」


「では、その観光客である地上人は、一体、どこへ消えたのでしょうか?」


「え? どこって……」


「ネトリールの人たちは、こうなる前……、地上を侵攻するにあたって、あらかじめネトリールに観光に来ていた地上人全員を、親切にも地上に送り届けたのでしょうか?」


「え? ど、どういうことですか?」


「これから地上にいる人間、その全員を相手取ろうとしているネトリールの人たちが、わざわざ『敵』である我々をどうしたのか、と言っているんです」


「それは……牢屋に幽閉したりとか……?」


「あなた、これまでオレたち以外の地上人に一度でも会いましたか?」


「い、いいえ……」


「つまり、そういうことです」


「あの、話が見えないんですけど……?」


「……そうですね。では、言い換えましょう。現在、ネトリールが使用しているのは、魔柱機械ではなく、人柱機械なんじゃないか、というのがオレの推察です」

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