戦えない俺が女の子たちに守られながら魔王と勇者を倒す

水無

K.B



 飛びかかってきたほうが持っていたのは一見すると、ただの警棒にしか見えない。
 俺の隣にいたユウはすでにこれを迎撃すべく、敢然と立ち向かっていった。
 俺は俺で、腰に差してあった拳銃を抜こうとするが……、その瞬間その騎士の腰に、拳銃が差してあるのが見えた。


 ……なぜだ?


 なぜ警棒なんだ?
 この対面、魔法が使える分、ユウが圧倒的に有利に立っていると思われる。たしかに相手の動きは素早く、明らかに素人ではないとわかるが、それと同時に、洗練されたものでもないと感じてしまう。
 ビーストの攻撃や、筋肉ゴリラセバスチャンの一撃。
 あれと比べてしまうと、どう見ても見劣りしてしまう。敵の一連の動きが、児戯が如き、幼稚に見えてしまう。
 振りかぶって、振り下ろす。
 ビーストや筋肉ゴリラならまず、振りかぶらない。
 その理由としてはふたつある。あの一匹と一頭には、そのような予備動作などなくても、十分威力が出せるから。それと、そんなことをしてしまえば、敵に攻撃の軌道を読まれ、反撃するチャンスを与えてしまうからだ。
 故に、あの一匹と一頭は、そんな動きはしない。
 一瞬で間合いを詰め、一瞬で蹴散らす。それがあいつらの戦闘方法。
 しかし、目の前のこいつ騎士の攻撃は、俺でも避けられるものだった。
 たしかに相手からすれば、ユウが魔法を使えるなんて知らないだろう。
 ……だけれども、だ。
 だからといって、それが拳銃を使わない理由になるのだろうか?
 俺だったら、ここは絶対に警棒で殴りかかったりはしない。
 迷わず、腰にある拳銃で攻撃するだろう。
 そしてもちろん俺にでも避けられるのだから、ユウが避けられないはずがない。現にユウは、もうすでに、相手の警棒を受け流す構えを取っている。
 このままいけば、警棒で顔面を砕かれるのは、ユウではなく目の前の騎士のほう。
 あとはこいつの後ろにいる、すこしお喋りな騎士をゆっくり処理すればいい……はずなのだが……、どうもあの警棒からはなにか、嫌な感じがする。
 なんのロジックも明確な根拠も、ましてや、アイツの使っている警棒について、詳しくわけでもない。
 あえていうなら、俺の経験則からくる警鐘。
 あいつの振りかぶっている、あの警棒。
 あれはなにかヤバい・・・




「……くッ!!」




 しかし、時すでに遅し。
 俺の言葉は、アイツの警棒よりも速く、あいつの耳へと到達できない。
 仮にここで「避けろ!」や「受けるな!」などと叫べば、俺の言葉に気を取られたユウが、直撃を喰らってしまいかねない。
 なら、ここで俺のとる行動はひとつだ。
 警棒の一撃をもらう覚悟で、ユウの腰を蹴飛ばす方法。




「あぶねえ……!」




 俺はそう叫ぶと、左脚を軸に身を反転し、ユウの横っ腹より下。
 俺の貧弱な蹴りでも、痛くなりそうにない部分を押すように蹴った。




「え――」




 案の定、ユウは思わぬ方向から来た蹴りに、戸惑いの声を上げる。しかし、俺はそれでも構わず、ユウを思い切り蹴り飛ばした。
 体重が軽いのが幸いしたのか、火事場のバカ力なのか、ユウの体は、俺が蹴った方向へ大きく飛んでいった。
 これでなんとか、あいつを妙な攻撃から避難させたわけだが、敵の攻撃は未だ続いている。
 警棒の軌道上には、ユウを蹴り飛ばした俺の脚が残っていた。
 急いで脚を引っ込めようにも、この態勢でそんな芸当が出来るはずがない。
 自分の脚を強化しようにも、自身には付与魔法は使えない。
 というか、いまはそもそも魔法を使えない。
 だったらどうするか?
 ……どうしようもない。
 ユウを助けたんだ。そのうえ、俺まで助かろうってのはさすがにムシがよすぎる。
 脚の骨が折れるか砕けるか……、どのみち無事では済まないだろう。
 そうこうしている間にも、警棒は俺の脚に迫っている。
 覚悟を決めろ。
 せめて、どんな攻撃かは知らないが、覚悟を決めればなんでもでき――


 バツン!


 という音が俺の脳内に響き渡る。
 まるで太い縄を、特大のはさみで一気に裁断したような鈍い音。
 その音が俺の脳を揺らし、何度も何度も目前の事が事実であると告げてくる。
 俺の脚は、警棒によって切断されていた。
 切断された俺の脚は宙を舞うと、そのまま地面を転がった。
 警棒……棒だぞ? 刃物でなければ、切断用の武器でもない。
 だが事実、俺の脚は俺の体から離れたところに転がっている。
 どういうことだ……?
 いや、これは……魔力か……?
 微かにだが、あの警棒から魔力の残滓が感じとれる。
 ということは、いま、ネトリールで俺たちが魔法を使えないのは――なるほど、すべてに合点がいった。早くこの事を、ユウかクソ魔術師に伝えないと……。
 でも、思うように声が出ない。
 というか、さっきから悲鳴……が聞こえる。
 誰のだ……?
 ユウではない、パトリシアのものでもない……クソ魔術師が悲鳴なんか上げるわけがない。だったら、これは……俺のか……。
 ダメだ。
 意識が――せめて――




 ◇




 ~ユウ~




 突然、腰に重い衝撃があり、体が宙に浮いたかと思っていたら、おにいちゃんの脚があたしの目の前を転がっていた。
 脳が視覚から入ってくる情報を遮断しようとするが、嗅覚が、聴覚が、それを許さなかった。
 響き渡っているのはおにいちゃんの悲鳴。
 鼻孔をつくは、血の臭い。
 嗚呼、また・・だ。
 あたしはまた・・、おにいちゃんの足手まといに――
 そこまで考えたところで、あたしの視界が黒ずんでいく。狭まっていく。沈んでいく。ずんずんずんずんと、深みへとはまっていく。
 またあの時みたいに――




「ボケーっとしないで、立って、戦ってください」




 あたしを呼ぶ声。
 沈みかけていたあたしの意識を、どこかの誰かが掬い上げてくれる。
 顔を上げてその声の主を見るけど……わからない。だれだっけ。
 あたしたちにずっと付いてきていた人なのはわかる。だけど正直、おにいちゃん以外の男の人に興味なんてなかったから、名前も聞き流してた。




「……えと……、誰……ですか?」




 だからおもわず、その言葉が口をついて出た。




「ハァ……。やれやれ、ほんとうにあなたがたは、どうしようもないですね……。ともかく、二度目の自己紹介は後回しです。まずはあの二人を倒しますので、手を貸してください」


「二人……?」




 二人って……だれ……?
 その人に問いかけようとして、あたしは言葉を飲み込んだ。
 まとまっていなかった――さっきまでバラバラだった考えが、段々とまとまってくる。
 そうだ。
 あたしはあの二人を倒そうとして、それで、おにいちゃんに助けられて……それで、おにいちゃんはいま――




「へへ、まずは一人だな」




 おにいちゃんの脚を切断した騎士が、不快な笑みをこぼしながらおにいちゃんを見下ろしている。その光景に、グツグツとはらわたが煮えくり返っていっているのがわかった。




「その人に、触るな――」




 あたしはそのままその騎士に突っ込もうとするが、一緒に付いてきてた人に道を塞がれた。そしてその手には警棒を持っていて、先端はあたしに向けられていた。




「邪魔しないで! あいつがおにいちゃんを!」


「落ち着いてください。いまこの状態で、あなたまで戦闘不能になってしまえば、俺の身の保証は誰がしてくれるんですか」


「知りません! いいからそこをどいて――」


「第一、いま突っ込んでいっても、頭に血が上った状態で、あの二人に相手に勝てるワケがないでしょう。そこに転がっているバカは、貴女をかばって死んだのです。貴女がここで冷静にならなければ、あのバカは浮かばれません」




 死んだ。
 その一言で、視界から色が消え失せる。白黒になり、チカチカと点滅する。
 口が渇き、脚は震え、呼吸が乱れる。
 それでもなんとか、おにいちゃんの体を見ようとするが……見ようとするが――その肩は微かに上下していた。
 辛うじて生きている。




「し、死んでません! まだ、生きています!」


「……チ」


「い、いま、舌打ち……?」


「いえ、どのみちあの出血量です。もう助かりません」


「助けます!」


「どうやって?」


「見様見真似で、治癒魔法を使えます。なんとか応急処置なら――」


「ダメです。いまあのバカは、騎士の足元に転がっている。そんなところへ駆けつけたら二次災害を引き起こしてしまいます」


「いまはそんなの関係ない! あたしはおにいちゃんを、それであの二人を――いたっ!?」




 あたしに突きつけられている警棒をどかせようと、その警棒を勢いよく掴むが、手に鋭い痛みが走る。
 見ると、手のひらに刃物で切られたような、赤い一文字傷が入っていた。
 傷が入った手のひらからは、ぽたぽたと血が零れ落ちた。




「すこし、頭が冷えましたか? いま、ここであなたが命を落とせば、それこそあのバカは助かりません。そして、この状況を打開できるもの。そう。これが、敵の攻撃の正体。魔法です」

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