戦えない俺が女の子たちに守られながら魔王と勇者を倒す

水無

小競り合い



「おまえなあ……、勝手に何やってん――」




 俺はユウに声をかけようとして、口をつぐんだ。
 ユウの体から溢れ出んばかりの……というかもう、少し漏れ出している負のオーラが、辺りを包んでいたからだ。
 ちらりと騎士団の二人を見ると、顔が強張っているのがわかる。
 それでもなお、その二人が臨戦態勢をとっているのは、無知ゆえか、はたまた、この状態のユウに勝てると自負しているからか……とりあえず今は、戦況の把握に努めたほうがよさそうだ。
 敵の観察。
 魔法が使えない以上、実際に肉眼で観察するほかない。
 それに、こうやって姿を晒した以上、こいつらを避けて通れるとも思えないし、後々対峙するであろうネトリール騎士団とやらの実力も、ここで計っておきたい。
 だから、こいつらはここで処理する。




「ごめん、おにいちゃん。でも、すぐに片付けるから」


「いや、おまえがやらなくても、俺が何かしら行動していた。……それで、どうだ? 魔力や何かは?」


「……感じない。でも、たぶん何かあると思う」


「だろうな」




 案の定、こいつらは魔法を使えない。
 だとすれば、飛行船を攻撃した時みたいな光の兵器……まではいかなくても、ヴィクトーリアが所有していた銃火器や、その類を持っていても不思議じゃない。
 というか、曲がりなりにもこの目の前の二人はネトリールの平和を守る者。騎士団員なわけだ。自衛にせよ、敵の鎮圧にせよ、武器を持っていないわけがない。
 そこだけは、警戒は怠れない。
 一度、俺たち冒険者に蹂躙されていたとはいえ、それはあくまで昔の話。
 今は何をしてくるかすら、見当もつかない。したがって、敵の戦力は未知数。下手をすれば、魔法を使えないとはいえ、一方的にやられてしまう場合もある。決してユウが魔法を使えるからといって、楽観視できる状態ではない。
 それほどまでに、ネトリールの技術は日進月歩。
 元々、このような都市を浮かせるほどの技術はあったのだ。
 いままではその技術を、軍事力に力を注いでこなかっただけだが、今は違う。
 この前の経験があるがゆえに、そう悠長に事を構えてられない。
 やるなら一瞬。それも不意を突いて……が理想だったが、そういうわけにもいかなくなった。だからここは冷静に、物事を推し進めていく必要がある。
 ……俺の隣にいるケダモノを宥めながら。




「おまえら……、もしかして、ヴィクトーリアが連れてきた……?」




 二人のうち、一人にそう尋ねられ、俺は再び視線を二人へと戻す。
 騎士団と呼ばれているからには、ゴツイ甲冑や盾、剣なんかを装備しているのかと思ったが、その外見は俺たちが着用している憲兵服に近い。
 というか、それの色違いだった。
 憲兵服が深緑色であれば、騎士団は鮮やかな赤色。
 その他に目立った違いは見当たらない。




「……ああ、そうだ。こちらとしても事を荒げたくない。用が済めば、このままあんたたちに害を加えるつもりもない。……それに、さきほどの話を聞いた限りだと、おまえたちもヴィクトーリアに不満があるんだろ? なら、俺たちが連れて帰ってもいいんじゃないのか?」




 これはもちろん嘘だ。
 こいつらはここで処理する。
 それは揺るがないし、俺の隣のやつはそれをたぶん……いや、絶対に許さない。
 ただ、ここはあちらの出方を伺う必要があり、油断させる必要もある。それと、わざわざ敵のペースに合わせてやる必要もない。




「……もちろん、あのボンクラが欲しいってんなら、やっても構わねえぜ。俺たちだって、喜んで厄介払いができるからな。……けど、それはあいつが事件を起こしてなかったらって話だ」
「地上人だって、ガキの頃悪いことをすれば親に叱られただろ?」
「それの延長線だよ。悪いことをした。……だったら、その落とし前はきっちりつけないとダメだろってな」


「まあそうだな。悪いことをすれば、怒られたり、殴られたりはあるかもしれない。……けど、殺されたりはなかったよな」


「だから、それほどの事をしたんだろうが。おまえらみたいな野蛮人が住んでいる地上では、バンバン姫を連れ出してるのかもしれないが、ここ、ネトリールでは姫を誘拐するなんて、重罪なんだぜ?」


「アホか! 地上世界でも普通に姫を連れ出すのはダメだわ! ……てか、そんなことは知ってんだよ。俺が言ってんのは、アーニャが同意したうえでついて行った場合のことを言ってんだ。その場合、ただの小旅行だろうが。多少、大目に見てやったって――」


「アーニャ……だと?」




 片方の男の声が一層低くなる。
 しかし、それから間髪を入れずに、もう片方の男が諌めるように前へ出た。




「……その認識の甘さだな。姫様をはじめ、王族というのはネトリールという国家の象徴。つまり、いなくなればこの国は立ち行かなくなる。地上人たちに迫害され、搾取され、蹂躙され……、そして身勝手にも解放された時、それでも道を見失わなかったのは、歯を食いしばって頑張ってこれたのは、あの方たちがいてくれたお陰だ。自ら光となって、道標となっていてくれたからだ。つまり、あのボンクラは俺たちから希望を奪ったんだ。これが重罪でなければなんなんだってんだ? 姫様があのボンクラに同意の上でついていっただと? わかってんだよ。あの二人がどれだけ仲がいいかなんてな。だからこそ許せねえ。そう言ってんだ。俺は……、俺たちは、あの浅慮さが赦せない」


「だから殺すって? アホか。バカバカしい。程度を知れ。いくら道標がないからって暴走すんな。イノシシかお前らは! だいいちおまえ、騎士団とか呼ばれてる割に、落とし前とか……言葉のチョイスが穏やかじゃねえんだよ」


「心配すんな。ネトリールの人たちの前じゃこんな感じで話さねえよ。……それで?」


「あ?」


「それで、そんな憲兵服を着ている地上人が、俺たちに何か用かって聞いてんだ? 頑張って脱獄して、ここまで説教でもしに来たのか? ……悪いけど、俺たちはこう見えて忙しいんだよ。用がないならさっさと牢屋に戻ってくれねえか?」


「なんだ、いまここで殺さねえのか?」


「殺すさ。地上人は全員殺す。俺たちにした仕打ち、忘れたとは言わせねえよ。……ただ、それは俺たちがやることじゃないって話だ。……もうすぐ。もうすぐだ。天罰がここから降り注ぎ、地上全てを焼く。そのあとにおまえらも殺す。だからそのまま来た道を戻れ。牢屋に入って、殺される時まで震えてろ」


「はは、天罰ときたか。そうか、ならあんたらが神様なワケだ。……で、そうそう、用事のことだけど、あんたらが道標を失ったように、俺たちもいま道に迷っててな。なんせ、複雑すぎて帰り道がわからねえんだ。それに、このまま帰ろうにしても、まだ忘れ物とかもあるしさ。帰るわけにもいかないじゃん」


「忘れ物……だと……?」


「そう。そこで神様におねがいしたいんだけど、忘れ物……つまり、アーニャとヴィクトーリアの居場所を教えてほしいんだよね」


「ぶっ殺す!」




 相手の言葉が引き金となり、諌められていたほうの男が目の色を変え、飛びかかってきた。

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