戦えない俺が女の子たちに守られながら魔王と勇者を倒す

水無

合流



 仄暗い女性用の牢屋の中。
 やはり、ひとつの牢屋に付き、小窓がひとつ備え付けられているのだろう。
 窓から差し込む月光が、牢屋の中で、芋虫みたいにうずくまっているヤツの顔を照らし出していた。




「いま、出して差し上げますわ」




 パトリシアがそいつに声をかけると、手に持っていた鍵で、牢屋の開錠を試みた。
 しかし、そいつは俺の顔を見るなり、バッと立ち上がると、パトリシアの開錠を待たず、自力で牢屋から這い出てきた。




「おにいちゃん、助けに来てくれてありがとう」




 ユウだった。
 頼みの綱というのは、こいつのこと。
 出来ればこのまま、ネトリールにはこいつを幽閉してもらいたかったが、今はそんな事は言ってられない状況。猫の手……もとい、愚妹の手も借りなければいけないのが、現状である。事が終わったら、改めて幽閉してもらうことにしよう。そうしよう。
 それにしてもこいつ、いま腕力で牢屋から出てこなかったか?
 鉄柵が若干曲がっているように見えるが……、まあ、たぶん気のせいだろう。
 それか、これは鉄柵ではなく、キャラメルか何かで出来ているのだと思う。
 そうでなければ、魔力に頼らず、自力でここから這い出たことになる。
 そんなことが出来るのは、せいぜい、筋肉ゴリラか大天使アーニャちゃんくらいだろう。
 それと、何を血迷ったか、『助けてくれてありがとう』などと、のたまっていたが、もちろん、俺は何も助けてなどいない。
 人というものは見たいものだけを見て、聞きたいことだけを聞き、感じたいことだけを感じる。例えば俺がここで、ユウを見捨てたとしても、こいつは勝手に牢屋から出てきて、『おにいちゃん、助けに来てくれてありがとう』と言っただろう。
 なんてやつだ。
 ……なんてやつだ。




「俺はなにも助けてねえよ。……てか、自力で出られるんなら、なんで捕まってたんだ……」


「おにいちゃんが来てくれるかなって」


「……それ、理由になってなくね?」


「それよりも、そこにいる人たちは……?」


「聞けよ」


「なあに? 聞くよ?」


「はぁ……、もういいや。いまは非常事態だから、さらっと紹介していく。まずはこれ、この妙に絡んでくる痴女が、ユウ。いちおう俺の妹ってことになってるけど、そうじゃないと願いたい」


「こんにちは、痴女です。おにいちゃんの性奴隷兼、妹です。よろしくお願いします」


「よ、よろしくですわ……」




 パトリシアとクソ魔術師の視線が痛い。
 俺の心臓に抉るようにして、突き刺さってくる。




「いやいや、だから、そういうのはやめろ。誤解するだろうが」


「誤解? 誤解って、なにを?」


「もういいや。おまえには話は通じないみたいだから、次に行く。で、こちらはアーニャの妹さんで、第二王女のパトリシア」


「よろしくお願いしますわ」


「そうなんだ。よろしくね。なんとなく似てると思った」


「ということは、こちらの妹さんが……?」




 質問を投げかけてきたのはクソ魔術師。
 他人に興味を持たない男だが、珍しく、ユウに興味を示している。
 まあ、見てくれは悪くないからな。




「そう。俺のパーティの一員。まあ、(仮)だけどな」


「そうでしたか……、この人が……」


「それで、こっちの男が……男が……」




 言いかけて俺は口をつぐんだ。
 どう説明すればいいんだ。
 ここで、クソ魔術師がクソ勇者のパーティだという事がわかれば、ユウは間違いなく、容赦なくこいつを襲うだろう。
 そうなてしまえば、あとはもう、この牢屋中に鮮血が舞い散ることになる。クソ魔術師の。
 前はそうでもなかったが、こいつが筋肉ゴリラに負けてから、こいつの落ち込み様は半端じゃなかった。今まで日に十回以上してきたセクハラも、その日を境に三回しかしてこなかったり、とにかく、いまは余計な情報は与えないほうが吉だろう。
 かといって、クソ魔術師の情報を意図的に捻じ曲げてしまえば、さきほどみたいにツッコミがはいって、勝手に自己紹介されかねない。


『こいつは犬だ』
と紹介して、
『わんわんわん』
とボケをかましてくるやつなら、俺はそういう紹介をする。けど、たぶん実際は、
『こいつは犬だ』
 と紹介すれば、
『はじめまして、俺はユウキのパーティのジョンです』
 と躱され、
『ブッ殺す!!』
 となってしまうだろう。
 この状況を回避するには、俺は一体、どうすれば――




「どうしたの? おにいちゃん?」




 目の前に突然、ユウの顔が現れる。
 いきなり黙ってしまったからだろう。俺の顔を下から覗き込むようにして見てくる。




「いや、なんでもない」


「そうなの? ほんとに大丈夫?」


「あ、ああ……まあな」


「それで、あの男の人は……?」


「フ……他の男の事なんて、どうでもいいだろ」


「え」


「おまえは俺だけを見ていろ!」


「やだ……、おにいちゃん。かっこいい」


「いいな?」


「はい」


「……なんなんですか、この茶番は」




 もっともだ。
 俺がおまえでも、そういう感想を吐いただろう。
 けど、なんとかこいつの興味関心を、クソ魔術師から引き離すことに成功した。そして、クソ魔術師もなんだか若干引いている。しかし、その代償として、ユウが俺の腕にやたらと、自らの胸部を押し付けてきている。




「それで、ユウトさん。ここまで来たのは良いのですが……、これからどうするおつもりですか?」


「そうだった。おいユウ、武器は……没収されたみたいだな。さすがに」


「うん。あたしは気がついたらここにいたよ」


「ここに着いたとき、おまえとヴィクトーリアはたしか気絶してたんだよな……」


「そうみたい」


「じゃあ、別段、ここの事に詳しくはないのか……」




 でも、こうして戦力ユウは手に入れた。
 こいつは俺たちと違い、魔法なしでも戦える。
 できればこの、魔法を使えない現状をどうにしたかったが……、どうだろう。
 ユウひとりでなんとかできるか……?




「おにいちゃん、なにか問題でもあった?」


「ああ、まずはそのことだな……」




 俺はさきほどパトリシアから聞いた、ネトリールの現状と、ヴィクトーリアの事について話した。




「――ということだ」


「ここ、魔法使えないの?」


「ああ。現状、ここで魔法を使うことは――」




 ユウは俺の言葉を遮るようにして、自らの指に火を灯した。

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