戦えない俺が女の子たちに守られながら魔王と勇者を倒す

水無

救援



 俺たちの目の前に突如現れた、ネトリール第二王女と名乗る女の子。
 普段の俺ならば、まず疑ってかかっていただろうが、なぜかすんなりと、その女の子の言葉が腑に落ちていた。たぶん、外見がそれとなく、アーニャに似ていたからだろう。
 すこし不用心ではあるが、俺は、この女の子のことを王女様と信じることにした。
 しかし、俺がこうやって信じているのにもかかわらず、なぜか、その女の子は、俺たちとは全く目を合わそうとはせず、しきりに自身の視線を、牢屋の隅から隅へ何度も往復させていた。
 ……どうやら、王女様は今、緊張状態にあるご様子。
 だけどこうして、わざわざ俺たちの牢屋にまで足を運んだのだ。
 それなりの用事があって然るべき……というか、そうでないと、王女様がここに来た説明がつかない。
 この状況下だ。俺にとっても、ものすごく意味のある内容だと思うのだが……、如何せん、当の本人がこの様子では、とてもじゃないけど、普通の会話すらもままならない。
 現に、王女様の目がものすごく泳いで――いや、もはやこれは、飛んでいた。
 ネトリールの王女だからだろうか。目が飛んでいた。パタパタと羽ばたいていた。
 王女様をここまで追いつめるとは……、憎むべきはその原因。
俺は一刻も早く、王女様を追いつめている、その元凶を摘み取らなければならない。
 そのためには、まず、王女様がおびえている理由を探る必要がある。
 なぜ、王女様が現在、緊張状態にあるのか、だ。
 これはすぐに考え付くだけでも、ふたつほど仮説がある。
 まずその一、


『話はあるが、口下手なため、うまく切り出せないでいる』


 人間、誰しも初対面の人間とは話しづらいものである。
 ましてや、それが異性間であったり、あがり症だったりすれば尚更だ。
 アーニャちゃんみたいに、初対面の人間の脇に手を突っ込み、遠慮なくくすぐってくるなんて、正気の沙汰ではないのだ。
 そういったトリッキーな行為は、アーニャちゃんみたいな天使だからこそ、許される行為であり、アーニャちゃん以外がやったら、それはもうグーパンである。
 グーのパンチだ。
 慈悲はない。
 ……話が逸れてしまったが、その二、


『思いがけない変態に出くわしてしまい、面食らっている』


 これはもう……、考察する余地がないほど……、というか、これだろう。理由。
『キモイやつが出たから、引く』
 いたってシンプル。うーん、わかりやすい。
 自分で言っていて、惨めになるから言ってなかったけど、もうこれしか考えられない。
 だったらここは、俺がいかにキモくないかをアピールすればいい。
 えーっと、……どうするんだ?
 キモくないアピールって、そもそも何なのだろう。
 まあ、とにかくやってみるか……。




「あの、王女様……、よろしいでしょうか」


「は、はい。い、いいいかがなされましたか? また、続きがしたくなったとか……」


「違うわァ!」


「ひっ」




 思わず怒鳴ってしまったが……、もういいか。
 面倒くさい。ここはとりあえず、本題に入ろう。




「……ていうか、おまえ、いつになったらロープ解けるんだよ」


「いえ、これが意外と複雑でして……、解こうとすればするほど、硬くなっていく術式が組み込まれて――」


「ねえよ。そんなのねえよ。おまえが不器用なだけだ」


「やれやれ、しょうがありません。……ここは、ナイフを使いますか」




 そうやって、手首のロープに刃物があてがわれた。
 ブチブチとロープが音を立てて切れていき、やがて、手が解放される。
 クソ魔術師は、『あとは自分でやってください』と言って、俺の目の前にナイフを置いた。
 俺は上体を起こすと、そのままナイフを手に取り、足を拘束していたロープも切っていった。




「姫様」




 クソ魔術師が口を開いた。




「は、はい」


「俺たちは今、貴女を捕縛して、押さえつけて人質にすることが出来ます。でも、そうしないのは、貴女がこうしてひとりで来てくれたから。ですので、話を伺ってもよろしいでしょうか? 貴女の話を」


「そうでございましたわ……。ええ、私も、そのつもりでここまでやってきましたの」


「まずは、訊いておきたいことがあります。貴女は俺たちにとって、味方……なのでしょうか」




 王女様はその問いに少しだけ間を空けると、「はい」とだけ答えた。




「あなたがたがネトリールに害を及ぼそうとしない限り、私もまた、あなたがたに協力は惜しみません」


「それはどういう……?」


「まずは、現在のネトリールの状況について、お話しておいたほうが、よろしいのかもしれませんわね」


「お願いします」


「これはあなたがたも知っているかもしれませんが、ネトリールはいま、とても不安定で、かつ、戦闘態勢にあります。地上の者たちを威嚇したり、手当たり次第に攻撃したりなど……」


「ということは、王女の立場としては、この状況は不本意であると……?」


「はい。……あ、いえ、王女として……というよりも、いち、ネトリールの民としてでございます」


「ということは、この戦争はネトリールの民の総意ではないと?」


「はい。ちなみに、この戦争におけるその火種が何だったのか、ご存知でしょうか?」


「いえ。ただ、『復讐』という単語を耳にしたので、憶測でものを言ってしまえば、数年前の――冒険者に占領されていた頃の、冒険者たちに対する復讐……といったところでしょうか」


「はい。その通りですわ。しかし、現国王……私の父が復讐を掲げているのは、私の実姉にあたる、アンねえさ……アン様のことについてでございます」


「アーニャか……」


「ぶ、無礼者! そう呼んでいいのは、父上と姉さんの友人、ヴィクトーリアさんだけなんだから!」


「いや、でも実際、アーニャには、そう呼んでいいって言われたんですけど……」


「あれ? ということは、あなたが……。こほん。すこし、取り乱してしまいましたわ。ごめんあそばせ」


「はぁ……」


「と、とにかく、アン様はその時にとても酷い怪我をなされて、生死の境を彷徨ったのですの。しかし、ヴィクトーリアさんの手伝いもあり、アン様は奇跡的に一命を取り留めたのです。そこまではよかったのですが、それからというもの、国王様は何かに取り憑かれたように、兵器の開発にご執心なされるようになっていきました。『娘をこんなことにした責任を』国王様はそれを毎日のように呟いておりました」




 王女様もどうやら、自分で話していてピンと来ていない様子。
 たぶん、アーニャがアンドロイドなのを知らないのだろう。本当に、これは極秘扱いだったのだ。




「それを見兼ねたヴィクトー……アン様のご友人は、アン様を連れ、諸国漫遊の旅に出られましたの。アン様も出発前は、大変喜んでいらしたのですが、これに国王様は激怒なされたのですわ」


「許可を、取ってなかったのですか」


「はい。その通りでございますの。半ば連れ出すような形で、アン様を連れだしてしまったご友人は、国王様の怒りを買い、ついには――」


「……ちょっと待って、王女様がここに来た理由って……、もしかして」


「はい。アン様のご友人、ヴィクトーリア様の処刑を阻止していただきたく、参った次第でございます」

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