戦えない俺が女の子たちに守られながら魔王と勇者を倒す

水無

第二王女



「見当たらないって、ひとりも?」


「はい」


「いや、そんなわけないだろ。だっておまえ、ここには勇者の酒場があるし、それでここに駐在してる職員や、冒険者たち、なんならネトリールに観光に来ている地上人だって……」


「いるのなら、ここの牢屋に収監されているはずです。ネトリールの牢屋は、ここにしかありませんからね。しかし、ここには俺たちしかいない」


「……え、じゃあ、もうここにいた地上人は全員殺したのかよ」


「さあ?」


「『さあ?』っておまえ、殺されるかもしれないのに、余裕だな」


「余裕なワケありませんよ。俺だって必死で抜け出そうとしているんです」


「そこに座って?」


「ええ」


「頬杖までついて?」


「はい」


「ちなみに、なにか考え付いたのか?」


「とくには」


「ダメじゃん」


「……ですが、すこし不思議に思えませんか?」


「おまえの能天気さ加減にか?」


「勿論、違いますよ。ただ、地上人を殺すのが目的であれば、こうして捕まえる必要なんて、ないですよね」


「……なんだよ。どういう意味だ」


「わざわざここまで運んできて牢屋に入れるより、その場で直接、見つけ次第殺せばいい。……けど、それをやらなかった」


「……倫理観とかじゃないのか? 街には子供だって、一般市民だっている。そういう人たちの目の前で人を殺すのは、さすがにやりすぎだと思った。だから自重したとか」


「ネトリールの目的は地上世界の一掃です。そんなものにまで配慮していれば、目的遂行まで何百年もかかってしまう」


「じゃあ……、ただ単に殺せなかったとか?」


チカラ的な意味で、ですか?」


「ああ」


「それは考えにくいでしょうね。フィジカルにモノを言わせる、セバスチャンならともかく、魔法も使えない俺たちなんて、殺すのはそこまで難しくない。やろうと思えば、いつでもできるでしょう」


「じゃあ、おまえは何だと思うんだよ。俺らをすぐに殺さなかった理由」


「……わかりませんね」


「なんなんだよ、今の間は。……でもさ、実際ここには、俺とおまえしかいないんだよな。そこはどうなんだ? ただの順番待ちなのか、それとも――」


「やはり、殺されるのでしょうね」


「はやっ!? いやいや、何あきらめムードになってんだ、おまえは。もうすこし頑張って考えろよ! そして、今更だけど俺の拘束を解けよ」


「イヤですよ」


「え?」


「何を言っているんですか。目隠しを外したのは、単なる俺の気まぐれ。調子に乗らないでください。俺にそこまでする義理はありません。それに、その態勢……、あなたらしく・・・て、愉快じゃないですか」


「愉快って、おま――」


「おっと、失礼。無様の間違いでしたか」


「あれあれ? いいの? そんなこと言って、いいの? キレちゃうよ? こちとら、もう何時間も体動かしてないから、準備運動と称してボコボコにしちゃうよ?」


「かまいませんが。出来るものならどうぞ」


「おーし、わかった。其処に直れ。今すぐぶん殴ってやるから、とりあえず拘束解け」


「どのみち、俺に頼ってるじゃないですか。まあ、どうしてもって言うなら、解かないでもないですが……、条件があります」


「条件っておまえ、俺に何を――は!? まさか、パーティに戻って来いとか言うんじゃないだろうな? なんという卑怯。なんという卑劣。俺はおまえと同じパーティであったことを、心から恥じる。恥ずかしいよ、俺は! 恥ずかしいよ!」


「いえ、戻ってこなくても結構です。今ここで、土下座してください。あのとき――脱退したときも、たしかやってくれてましたよね。あれ、面白かったんで、もう一回お願いできますか」


「ッ!? くぉの体勢で出来るわけ――」




 こいつは、俺に謝ってほしいわけでも、ましてや土下座してほしいわけでもない。
 こいつは、土下座という行為すらできない(やりたくもないが)俺を嘲笑したいだけなのだ。ただ、もぞもぞしている俺を笑いものにしたいだけ。
 俺は条件反射的に体を屈めると、足首で地面をけり上げ、体を思い切り伸ばした。
 ちょうど、スプリングのような要領で飛び跳ねると、そのまま、クソ魔術師めがけて全身全霊の体当たりを繰り出した。




「――ねェだろうがァッ!!」




 しかし、その捨て身の一撃は、クソ魔術師に寸でのところで躱され、俺はそのまま藁の上へどさっと落ちてしまう。




「全然『寸で』じゃありません。俺は余裕をもって躱しました」


「地の分を読むんじゃねぇ! 人をバカにしやがって!」


「……まあ、いいでしょう。解いてあげますよ。拘束を」


「え? まじで?」


「ええ。楽しませてもらいましたし」


「……おまえは絶対凹ませる。自尊心的にも、物理的にも」


「楽しみにしています」




 クソ魔術師はまるで、壁に話しかけるようにそう言うと、俺の背後に回り、ガサゴソと縄を解き始めた。
 しかし、その途中で、手がピタリと止まった。
 なんだこいつは。
 まだ俺を辱めたりないのか。
 まだ俺を辱めんと欲するのか。
 いい加減にしろ。




「おい、テメェ。やるならさっさとやれ!」


「えっと、あのー……、お邪魔……、だったかしら?」




 突然の女の声。
 ユウの声でも、ヴィクトーリアの声でも、ましてやアーニャの声でもない。
 俺はぐりんと首を回し、声のした方向を見た。
 いままで気にしていなかったが、この牢屋は鉄格子をはめられているタイプではなく、見るからに頑丈そうな扉があるだけだった。
 簡素といえば簡素だが、魔法が使えないこの状況だと、とても脱獄できそうにないように思えた。
 そして、その頑丈そうな扉の中央から少し上。
 そこには中の様子を見るための、小窓のようなものがついていた。
 声の主はそこから俺たちの事を、若干、引いている目つきで見下ろしていた。




「……えっと、すこし、時間を改めますわ。おふたりはそのまま、お楽しみくださいませ」




 そう言って、覗き用の小窓がカシャリと閉まる。
 俺は突然の事に、すこし固まっていたが、すこし間をおいてから――




「ご、誤解だ! 戻ってきてくれ!」




 と、半ば絶叫するように叫んだ。
 すると、ややあって、再び小窓が開き、さきほどと同じ目が俺たちを捉えた。




「……案外、お早いのですね……」


「いやいや……いやいやいやいやいやいやいや! ちがう! 君が思っていることなんて、これっぽっちもやっていない! 誤解だ! こいつには俺の拘束を解いてもらってただけだ! それだけだ! たしかに、いきなりその場面を遭遇してしまうと誤解しかねないが、決してそんなことはない! 重ねて云う。これは誤解だ」


「……人間、やましいことがあればあるほど、饒舌になるというもの。最早、ワタクシの口からは、何も申し上げることはありません」


「申し上げてください……ッ! あと、おまえもなんか喋れや! なに黙ってんだよ! 余計怪しまれるだろうが!」


「それは黙りますよ。なにせ、お相手はこのネトリールのお姫様なのですから」


「……え? 姫?」




 カチャリ。
 鍵が開き、扉がゆっくりと開く。
 外から、身なりの良い女性が、「よいしょよいしょ」と言いながら、扉を押して入ってくる。
 姫……と呼ばれていたが、どう見てもアーニャには見えない。
 それどころか、アーニャよりも年上、ヴィクトーリアと同世代くらいの子に見える。
 しかし、その顔はどことなくアーニャを連想させ、姉妹といわれれば納得してしまうほど。
 アーニャと同じ、鮮やかな金色の髪は、腰くらいまで伸びており、ウェーブがかかっている。
 顔はよく見ると、アーニャの顔をそのまま、大人にさせた感じ。
 牢屋の扉が完全に開くと、その子は小走りで牢屋の中へと入り、扉を閉めた。
 なんというか、動作のひとつひとつに気品を漂わせている。
 扉を閉め終えると、女の子は俺たちにぺこりとお辞儀をし、そのままゆっくりと顔を上げた。




「ごきげんよう。私、ネトリール王家第二王女。パトリシアと申します。以後、お見知りおきを」

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