戦えない俺が女の子たちに守られながら魔王と勇者を倒す

水無

犠牲の果てに



「こりゃあ……、本格的にヤベーですぜ。誰かが魔動力源見てこないと、墜落しちまう」




 リカルドさんが、いかにも深刻そうな声で呟くように言った。




「うおい、ヴィクトーリア! ネトリールに着くまで平気じゃなかったのかよ! 攻撃のスパンとか、全然関係なかったじゃねえか! なんか、バカバカ撃ってきてるぞ!? ずっと飛行船、振動してるし!」


「さすがに、これほどレーザー撃ってくるとは、予想外だった。すまん。墜落するかもしれない」


「謝るな! マジでやばい感じを醸し出すな! なんか、大丈夫だと言ってくれ!」


「えっと、大丈夫だ」


「うそをつくな!」


「ええ……なら、どうしたらいいんだ……」


「いますぐ俺のこの拘束を解け! この船全体に、付与魔法をかけるから!」


「そんなこといって、逃げ出すつもりじゃないだろうな……」


「ここからどうやって逃げ出せるんだよ!? 逆に教えてくれよ! なあ!」


「――ッ!? おい、どっか掴まれ! オメーらァ! 雲を抜けるぞ!」




 クロガネさんが突然、そうやって怒声を上げるが――


「どこに!?」


 視界を遮断され、床?に転がっていた俺は、どこに掴まっていいかなどわかるはずもない。仕方なく、手近にあったなにかに、前屈するようにして抱きついた。洗濯ばさみのように。
 そして、なぜかそれ・・にその抱きついた瞬間、腕にむにっという感触が伝わってくる。




「……なにこれ」


「お、おにいちゃん……こんなところで……っ!」




 なぜかそれだけ言って、口ごもるユウ。
 そのせいで、俺がいま、どのような状況下にあるかがわかってしまった。
 視界がふさがれていても、ユウの表情が、手に取るようにわかってしまう。
 あえて、どうなっているかはもう、言うまい。
 ……俺はそのまま、それについて考えるのを止めた。




「三、二、一、……でるぜえ!」




 クロガネさんの声を合図に、飛行船が縦に小刻みに揺れる。
 そして、しばらくして――




「すごい……ここが、雲の上……天空都市ネトリール……」




 近くにいたユウが、溜息を吐くように、そう洩らした。
 さぞかし、ユウの目には絶景が映り込んでいるのだろう。
 俺は生憎と、視界を塞がれて、なにも視認することはできていない。けど、気のせいか、目隠しをされている今の状態でも、周囲が明るくなった感じはする。




「見惚れてる場合じゃあねェぞ! まだアチラさんの攻撃は終わってねえ!」




 その通り。
 振動は未だ止まず、というか、さきほどよりも強く――


 ドガァン!!


 目が覚めるような、体が宙に浮くような、そんな、ひと際大きい揺れと爆発が起こる。肌をチリチリと焼くような、そんな熱気も伝わってくる。
 そして気のせいか、ビービービーと、ブザー音のような、不吉な音も聞こえている。もしかして、これって――




「おいおい……」


「どうしたァ、バカ弟子! 状況を報告しろォ!」


「……親方。悪い知らせと、もうひとつ――」


「こんな時に勿体つけンじゃあねぇ! さっさと言いやがれ!」


「魔動力炉に、修復不可能なダメージっす」


「ち……じゃあ、さっきの揺れはやっぱり……。んで、良い知らせってのは?」


「んなもんないっすよ。悪い知らせと、もっと悪い知らせしかねっす! あと数秒で、この飛行船は落下するっす! この高さから落下したら、さすがに助からねっすね」


「ええええええええええ!? どうすんの!? 俺、このまま目隠しされたまま死ぬってこと!?」


「狼狽えるな小僧! ……しゃあねえ、バカ弟子。アレを用意しろィ!」


「やれやれ……、ま、もうできる事っつったら、もう、それしかないっすからね」


「……巻き込んじまってすまねェな」


「はは、何をいまさら言ってんすか」


「……アレ? 『アレ』ってなんのこと?」


「さ、ニイチャンがた、付いて来てくんな」


「え? ちょ……」




 俺の問いかけは無視。
 そして、俺の体は再び、(たぶん)リカルドさんに抱えあげられる形になった。




「お、おい、リカルドさん、この状況で、どこへ行くつもりだ? 私たちはまだ諦めて――」


「ああ、もちろん。俺たちも諦めてなんかいねえさ。――さ、はやく付いてきてくれ。時間がねえ」


「で、でも……」


「なあ嬢ちゃん。いまはリカルドの言う通りにしてくれ。俺はこっちで、最後まで抵抗してみせる。これは嬢ちゃんと、その仲間さんにしかできねえことだ。……やってくれるな?」


「あ、ああ。わかった。よくわからないが、やってみる」




 ヴィクトーリアがそれだけ言うと、俺たちは何処かへと移動を始めた。




 ◇




 ガチャン。
 なにかが閉まるような音。
 どうせ質問しても、誰も答えてくれないのだろう。
 したがって、ここで俺が取る行動は沈黙。なに、決して拗ねてはいない。
 そして俺は、いつの間にか、リカルドさんの肩から降ろされ、ユウに抱えられている形になっていた。
 それと、なにか……、やけに息苦しいというか、ものすごく狭い空間に閉じ込められている気がする。いまもぴったりと、ユウと密着している。それと、気のせいか、もうひとり……ヴィクトーリアとも。
 なんでこいつら、こんなに俺の扱いが雑なんだよ。




「こ……これは……?」




 ヴィクトーリアの狼狽えるような声。




『親方が作った緊急用離脱ポッド……て、ことになるのかね』




 リカルドさんの声が、急に、なにかを隔てたような感じで聞こえてくる。




「リカルドさん、あなたはもしかして……」


『この船はもうダメだ。残念だけど、俺っちと親方はここに残ることにした。まあ、最後まで抵抗はしてみる……というか、もう、それしか手段はない。運が良ければ、ネトリールで会おうや』


「そんな……! ダメだ! 絶対ネトリールに行くって、約束したじゃないか!」


『はっはっは! 行くよ? 運がよかったらな!』


「いや、しかしこの状況はどう考えても――」


あの人親方は台風と同じ災害だって言ったろ? 一通り暴れたら、そのあとは人知れず消えるだけだよ。……俺はまあ、それに付属してるオマケみたいなモンだよ』


「な――そんなこと、言わないでくれ……!」


『……さて、聴いてくれ。この離脱ポッドが活動できる時間は、かなり短時間だ。んで、いまから、切り離し作業に移る。そうしたら、中にある小型魔動力炉の残り魔力に注意しつつ、慎重に、かつ大胆に舵を切ってほしい』


「そんな、私には……!」


『なあに、ネエチャンならできる。そこまで難しい事じゃあない。親方がそう信じて送り出すんだから、出来ないわけがねえ! ……頼む、ネエチャン方。どうか、ペンタローズを、世界を救ってくれ』


「だったら一緒に――」




 ヴィクトーリアが言いかけて、今までで一番、大きな爆音が響く。
 耳の奥がキーンと鳴り、そして次の瞬間、俺の体が浮遊感に包まれる。




「お、おい! どうなってんだ!? いま、どうなってる?」




 大して身動きが取れない空間で、俺は必死に身をよじってみせた。




「……リカルドさんが、ポッドを切り離した。私たちはいま、このポッドに乗って、ネトリールを目指している」


「じゃあ、クロガネさんは? リカルドさんは?」


「く……っ!」


「ユウ……!」


「……いま、さっきまで私たちの乗っていた飛行船が、火に包まれながら、雲の中へ消えてったよ」


「それって、つまり……」


「……………………」




 返事はなし。
 ポッド内が完全に、沈黙に包まれる。
 ふたりは燃え盛る船に乗ったまま、落ちていった。
 ヴィクトーリアとユウ、二人の沈黙がそれを物語っていた。




「――ユウト! ユウ! いまから最終段階に移行する。このままネトリールに突っ込むぞ!」


「う、うん。ガンバろうね、ヴィッキー。クロガネさんと、リカルドさんのためにも」


「あのさ、そのまえに、まずは俺の目隠しを外せ――」




 グンッ! と、体全体に重力がかかってくる。
 その負荷は、俺がこのまま、自重で潰れるのではないか、と錯覚してしまうほど。
 そして――




「ユウト! ユウ! 着陸・・する! 舌を噛むから、絶対に喋るんじゃないぞ! 三、二、一、――」




 ドガァ!!




 全身を貫くような、ものすごい衝撃。
 あばらが痛み、腰が痛み、腕が痛み、脚が痛み、全身が痛む。




「ぐ……! いってェ……! 大丈夫か、ふたりとも……?」




 ややあって、ポッドが壊れてしまったのか、息苦しかったポッドの中で、外の風を感じるようになった。
 それと同時に、すし詰め状態だった内部が、少しだけ開放的になる。
 俺の視界は相変わらずだが、何とかして二人の安否を確認しようとしたが、返事はなし。
 気絶しているのだろうか、まあ、先ほどの衝撃ならあり得なくはない。
 だが、この状況はマズイ。
 あからさまに無防備な状態で、もし、ネトリール人に囲まれれば――




「見つけました! あのポッドです!」


「ッ!?」




 まずい。
 もう見つかったのか?
 この状態ではさすがに出ていけるはずがない。
 もう少し様子を見て、もし危なかったら、抵抗しよう。




「あの撃墜した飛行船から飛び出してきたやつだな……。悪運の強いやつらめ。今日で何人目だ……まったく」
「どうしましょう! 生きているのでしょうか!」
「もういい。生死は関係ない。……拘束して、牢屋にぶち込んでおけ!」
「イエッサー! ……た、隊長!? なぜか、男が一人、もうすでに拘束されています!」
「どういうことだ? 捕虜になっていたネトリール人か?」
「いえ、地上人のようです!」
「なら放っておけ。そういう趣味なだけだ」




 ちげーよ!
 そんなわけねえだろ!




「……なあに、わたしにも理解できなくはないからな」
「ドン引きです! 隊長!」
「だ、黙れ! とにかく、広い世の中、そういうやつもいるという事だ」
「イエッサー! 了解です!」
「了解するな、バカ者!」
「イエッサー! 了解しました!」
「……おまえ、わたしをバカにしているな? しているだろ!」
「イエッサー!」
「やかましいわ! もういい、こいつら全員牢屋へぶちこんどけ!」
「了解で――ちょっと隊長! こちらの少女はネトリール人のようですが……?」
「なに? では一応、その者たちとは別の牢屋に放り込んでおけ!」
「イエッサー!」

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