戦えない俺が女の子たちに守られながら魔王と勇者を倒す

水無

大会議場



 ペンタローズ城内、大会議場。
 会場は入り口から段々と、すり鉢状になっており、会議場中央には楕円形の巨大な机。
 その周りには、老若男女問わず、数十人もの人たちが、侃侃諤諤かんかんがくがくの討論を繰り広げていた。
 議題はもちろん、天空都市ネトリールについて。




「ですから、他国や他都市に救助を求めたほうが――」
「助けを求めてどうする。使えない助けをいくら呼んできても、状況は変わらん」
「ここは一度、平和的に対話をするべきだ。だれか、ネトリールとの通信手段は持っておらんのか?」
「それより、宣戦布告されたんだから、こっちから打って出ましょうや」
「ふん、攻撃手段もないのにか?」
「いそいで、ここを離れれば……」
「ネトリールの標的は、この地上全てだ。逃れられるすべはない。見ただろう、あの雷の魔法を」
「だったら、どうするって言うんですか。このまま指をくわえて、黙って死を受け入れろと?」
「そうならない為に、話し合っているのだろう。馬鹿者」




 ざっと聞いた限りだと、話し合いは平行線。
 この状態では、ペンタローズの人たちも打つ手なし。といった感じだろう。
 俺は会議場をぐるりと見渡すと、先ほどのモヒカン頭の男を探した。




「……どうしたの? おにいちゃん」


「さっきの男の人を探してる」


「あれ、あそこじゃない?」




 ユウが指さしたその先。
 この会議場内で、嫌でも目立つモヒカン男、その人がいた。
 モヒカン頭の男は、この会議場大机に座っている、白髪の老人の後ろにいた。
 いますぐあそこまで行きたいが、この空気だ。
 部外者の俺が、気安く踏み込んでいける空気じゃない。
 モヒカン頭の男も、『何かわからないことがあれば訊け』と言っていたので、向こうが気付いてくれれば、再度、話をすることが出来るのだが……。
 どうにかして、モヒカン頭の男の注意をこちらに向けられな――




「――船を出してくれ! 私たちがネトリールへ行く!」




 突然、俺の隣にいたはずのヴィクトーリアが、その会議に飛び入りで参加した。
 会議場にいた人間全員が、発言者であるヴィクトーリアを注視する。




「……あいつ、なにやってんだ……!」




 俺とユウは急いで階段を下り、会議場中央の机に向かった。




「だれだ、この小娘は……!」


「私はヴィクトーリアという者だ。すこし、あなた方に尋ねたいことがある」


「会議の邪魔だ。いますぐつまみ出せ」


「……え? ちょ、ま……」




 白髭をたくわえた老人が、衛兵に合図を送る。
 衛兵は、その合図を受け取ると、ヴィクトーリアの腕を強引に取り、そのまま引きずろうとした。




「ま、待って下せえ! その子はさっき俺っちが呼んでおいた、助っ人の冒険者のひとりだ」




 声を上げたのは、モヒカン頭の男だった。
 その男の一声で、衛兵の動きが止まる。




「助っ人……?」




 白髭の男がモヒカン頭の男を、怪訝な眼で睨みつけた。
 そこで、俺たちが会議場中央へたどり着く。




「おお、ニイチャンたちもやっぱり一緒か……」


「ど、どうも……すみません……」




 モヒカン頭の男が俺たちに気がつくと、軽く手を上げてきた。
 俺はそれとなく頭を下げて挨拶する。




「――リカルド」




 声を発したのは、モヒカン頭の男の前の席に座っていた、白髪混じりの老人。
 老人は片目に黒い眼帯を当て、両腕を組んだまま続けた。
 ぱっと見、硬派で職人気質な厳つい老人だ。




「そこの方々が、おまえの呼んだ助っ人だってワケかィ」




 そんなわけはない。もちろん、ウソである。
 大方、モヒカン頭の男リカルドが、ヴィクトーリアのため、機転を利かせてくれたのだろう。
 しかし、俺としては、これに乗っからない手はなく……。




「そうです。俺たちは――」


「黙ってなァ小僧。いま俺ぁ、リカルドに質問してんだぜ?」




 一睨み。
 たった一睨みで、俺は自然と口を閉ざしてしまった。
 この迫力……、どこかで見たような……。




「――はい、俺っちが呼びました。親方・・


「……そうかィ。と、そういう事だ。放してやりなァ」




 その老人の一声により、衛兵が手を放し、ヴィクトーリアを解放する。
 ヴィクトーリアは服装を整えると、老人に向かって会釈した。




「ありがとう、感謝する」


「フ……さて、リカルド。さっき、この嬢ちゃんが面白ぇ事、抜かしてやがったが、そりゃ本気か?」


「え? あー……、すまん。ネエチャン、なんてったっけ? もう一回、訊いてもいいか?」


「ネトリールに行く。そのために、船を出してもらいたい」




 ヴィクトーリアの発言に対し、会議場が水を打ったように会場内が静まり返る。
 しかし、すこし間をおいて、会議場の至る所から、ヴィクトーリアを嘲笑する笑いが起こる。




「な、なにがおかしい……!」


「……おい、『クロガネ』。おまえの弟子が呼んだという、この助っ人の為に、時間を割いて状況を説明してやらんとダメなのか?」




 さきほど衛兵に、ヴィクトーリアをつまみ出すよう指示を与えた老人が、リカルドの親方クロガネに声をかけた。




「ね、ネエチャン、さっき話したろ。飛行船で近づくのは無謀だって」


「いや、こっちにも考えが……」


「もちろん、俺っちたちも最初はそうしたさ。いろんな魔力装甲も試した。……けど、全部撃ち落とされたんだ。あいつら、対魔法素材だろうが何だろうが、軽々と貫通させてきやがる。いま、魔術師が、あの光の正体について調べているが、まだわかって――」


「もういい。会議の邪魔だ。衛兵、そこのバカ弟子と使えない助っ人をここからつまみ出せ」




 再度、衛兵がヴィクトーリアに近づくが、珍しく、ヴィクトーリアがそれを払いのけた。




「だから! 話を聞いてくれ! こちらは、それを承知で言っているんだ! ……いいか、その光とやらは十中八九、魔法ではない。兵器なんだ。対策の仕方を間違えているだけだ」


「……おい、そこの助っ人と名乗る小娘。……貴様、その口ぶりからして、実際に見てもいないのに、どうしてそう断言できるのだ」


「それは、私がネトリール出身だからだ」




 会議場内の雰囲気がガラリと変わる。
 さきほどまで笑っていた人々の顔も、険しいものになる。




「ネトリールのやつらが、いったい何の用だ! ワシらは降伏などせんぞ!」


「ち、ちがう! ネトリール出身なのは私だけだ。このふたりは違う。……て、そうじゃない。そんなことは、いまは重要じゃない。私は別に、降伏するように伝えに来た使者でも、ここを侵略するつもりもない。ただ、ネトリールがやろうとしていることを、止めようとしているだけだ」


「ふん、信じられんな。ワシらを騙しておらんという、証拠でもあるのか?」


「そ、それは……!」




 そんなものの証拠なんか、あるはずがないだろう。
 いま、ヴィクトーリアと話している老人の目的は、議論ではなく、ヴィクトーリアの排除。
『ネトリール出身』という単語の前に、周りが見えなくなっている。




「シロガネ……いい加減にしろィ……!」


「く、クロガネ……、なぜ口を挟む……!」


「さっきから黙って聞いてりゃ、証拠だのなんだのと……、第一、この嬢ちゃんが俺らの敵だと仮定して、あちらさんになにか得でもあるのかィ?」


「それは……!」


「黙ってても、あちらさんは俺たちを滅ぼせるぜ? それはシロガネ……オマエさんが一番よく知ってンだろ。だったら、なんでワザワザこんなことをするんだ?」


「ぐ……!」


「それによ、シロガネ。ここはペンタローズだ。俺らが人を信じてやらねえで、どうするってんだ。そうやってペンタローズがデカくなってきたのを、忘れたかィ?」




 クロガネにシロガネと呼ばれた老人は、そのまま、押し黙ってしまった。




「すまなかったな、嬢ちゃん。話を続けてくれ。俺たちもこんな状態だ。マトモじゃいらんねェのよ。……さ、ネトリール出身の、あんたの意見が訊きたい。いいか?」


「す、すまない。恩に着る」


「おう、気にすんな」


「ではまず、こちらから二、三ほど訊いておきたいことがある」

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