戦えない俺が女の子たちに守られながら魔王と勇者を倒す

水無

要塞歓楽都市



 ペンタローズ。
 それは荒野の中で、ひと際、威圧感を放っている巨大な都市。
 都市の外側は、黒鉄くろがねの大壁で覆われており、中心には、天高くそびえる、無骨で巨大な鋼鉄の城。
 別名、要塞都市ペンタローズ。
 ペンタローズが要塞と呼ばれる所以は、その徹底された守りにあった。
 陽が落ちると、無数のサーチライトが都市の外側を照らし、ひとたび障害を発見すれば、大壁に備え付けられた幾千、幾万もの砲身で、敵を吹き飛ばす。
 その幾万もの砲撃にかかれば、どのような敵でさえ、原型を保つことはできない。
 例え、都市内部に進入を許したとしても、ありとあらゆる防衛システムが、その敵の排除にあたる。
 ペンタローズとは、このように、都市自体が兵器と化している都市。
 したがって、『要塞都市』とよく呼称されている。
 しかし、その反面、ペンタローズは外からくる人間・・に対しては、寛容なのである。
 その厳つい外観に似合わず、平常時、都市内部は至って普通で、武装している兵や冒険者は少ない。
 さらにペンタローズには、いくつもの娯楽施設もあり、『要塞都市』と『歓楽都市』という、ふたつの顔を併せ持っている。
 ペンタローズの歴史は即ち、魔物との戦いの歴史。
 というのも、ペンタローズは元々、ただの歓楽街だった。
 しかし、その立地により、度重なる魔物の襲撃に遭うことになる。
 その度、より強固に、より頑強に、都市は変貌を重ね、現在のペンタローズに至った。
 外部の人間に対して寛容なのは、ペンタローズがそういった者たちで構成された都市であることと、魔物と戦うには、どうしても人間同士の信頼関係――横の繋がりが重要となってくる、と考えられているからだ。
 ゆえに、ペンタローズの民は、外部の人間に対しては寛容、なのだが――




「おい、ユウト。なんだか、ペンタローズの様子がおかしいぞ」


「ああ……」




 普段なら、俺たちがいま歩いているこの大通りは、大量の露店が軒を連ね、商人たちの活気ある声や、観光客や住民の楽しげな声が聞こえてくる筈なのだが、現在、通りにいるのは、武装した兵や冒険者ばかり。
 魔物が来ていたとしても、ここまでの厳戒態勢は敷かない。
 それがエンド系の魔物だとするなら、わからなくもないが……、俺たちはいま、ペンタローズに着いたばかり。
 つまり、外から入ってきたばかりなのだ。
 外に多少の魔物はいたが、エンド系の気配は全く感じられなかった。
 なんだ?
 いま、ペンタローズでは一体、何が起こってるんだ?




「あの……」




 そんなことを考えていると、ユウが武装したモヒカン頭の男に話しかけた。
 あいつ、よくあんなのに声かけられるな……。




「なんだい、ネエチャン。俺っちになにか、用かい?」


「ペンタローズに何かあったんですか? その、ペンタローズは、もうすこし明るいところだって聞いたんですけど」


「まあな。見ての通りだ。いま、ペンタローズでは、厳戒態勢ってやつを敷いてんだ」


「どういう事ですか?」


「なんだ、知らねえのか。この状況を」


「状況……?」


「ネエチャン、ネトリールって知ってるだろ?」


「はい」


「そこの王様がな、宣戦布告してきやがったんだ」


「宣戦布告……!? このペンタローズに、ですか?」


「いいや、これがなんと、地上のすべての国や都市にだよ」


「ええ!?」




 俺とヴィクトーリアが声を上げる。
 俺はユウを押しのけると、そのモヒカン男に質問を投げかけた。




「なんでそんなことを……!?」


「な、なんだあ? だれだ、ニイチャン?」


「なんでネトリールの王様は、突然そんなこと、言いだしたんですか!?」


「し、知らねーよ。ただ、『これは復讐だ』……とかなんとか言ってたぜ。よくわからんが……」


「復讐……?」




 俺とヴィクトーリアが顔を見合わせる。
 もしかして、アーニャの事を言っているのだろうか?
 でも、なぜ今になって……?




「と、とにかく、ありがとうございました! えっと、飛行船乗り場って、ここをまっすぐ行った先ですよね?」


「おいおい、ちょっと待てニイチャン。なんでこんな時に飛行船に乗るんだよ? どこへ行こうってんだ?」


「ネトリールです!」


「おいおいニイチャン、あんたバカか? 俺っちの話、聞いてたろ。いまは無理に決まってんだろ」


「近づくことも無理なんですか?」


「無理だよ無理。だっておまえ、そもそもネトリール行きの船・・・・・・・・・なんて、一隻もねえからだよ」


「い、一隻も……ですか」


「そうだ。一隻もねえ」


「でも、ペンタローズから、ネトリールに行けるはずじゃ……」


「ああ、もちろん行けたさ。昨日まではな。だが、ネトリールのやつら、なんだかよくわからん魔法で、飛んでいた飛行船を撃ち落としやがった」


「う、撃ち落とした……!?」




 俺の横にいたヴィクトーリアの顔が、みるみるうちに青ざめていく。




「一隻残らずな。幸い、まだ死人は出てねえみてーだが……、いつ、あちらさんが本腰を上げて、コッチを攻撃してくるか……。迎撃しようにも、ペンタローズ自慢の大砲は、上に向かって発射できねえ。そもそも、飛距離が足りてねえし、雲の上にあるんだから、照準も定まらねえ」


「……何やってんだよ。おまえんとこは、マジで」


「し、知るか……! 国王が何を考えているなんて、私にわかるはず、ないだろう……!」


「それから今朝か。あんたらみたいな、ネトリールに行きたいっていう、野郎が現れたんだ。もちろん止めたんだが、勇者の酒場ギルドの使者ってことで、強引に船だけ買って、自分で操縦して、ネトリールに向かったな。……もちろん、そのまま撃墜されてたけど……」


「――! そのなかに、このくらいの……、ちっちゃい女の子はいませんでしたか?」




 俺は自分の腰の高さまで手をおろし、アーニャの身長を伝えた。




「いや? 見てねえな? 俺っちは飛行船の乗組員兼整備士だから、乗客の顔は憶えてる。……けど、そんな子供はいなかった。それ以前にもな。……そういえば、落された飛行船から、使者さんはみつからなかったんだよな……」




 アーニャは飛行船に乗っていなかった。
 ……それもそうか。
 アーニャが乗ってたら、飛行船を片っ端から撃ち落とすハズがない。
 ということは、アーニャはなにか、別の手段でネトリールに向かったのか?
 それとも――




「……ニイチャンたち、大方、ペンタローズから出てる、定期船に乗り込もうとしたんだろ?」


「は、はい……」


「残念だが諦めな。言った通り、この状況だ、ネトリールには行けねえぜ」


「……わかりました。お話、ありがとうございました」


「おう、じゃあな。見たところ、なかなかの冒険者みたいだが、ニイチャンたちも気を付けろよ! ……おっと、そうだ。俺っちは今から中央会議所に行くんだ。もし、なにかまた、わかんねえことがあったら聞きに来なよ」


「はい、ありがとうございます」




 モヒカンの男はそういうと、振り返らず、そのまま去っていった。




「なんか……、意外といい人だったな、ユウト」


「まあ、ペンタローズの人はだいたいこんな感じだ。見た目が怖くても、こんな風に親切な人が多い」


「それにしても、ビックリしたね。まさかヴィッキーの国が……」


「そうだよ。地上世界に宣戦布告って……、無謀にもほどがあるぞ」


「それは……、どうだろうな……」


「……どういう意味だ」


「いや、国王様は勝算のない戦いはやらない。現に、ネトリールが冒険者たちに蹂躙されていた時も、決して、ネトリール側からは手は出さなかった」


「……てことは、なにか? 地上にある、すべての国を敵に回しても、勝てるって思ってんのか?」


「たぶん、そうだと思う」


「んな、バカな……、ネトリールって、あの程度の冒険者も追い払えなかっただろ?」


「それは何年も前の話だ。あれからネトリールは、その反省を活かし、軍事部門にも力を入れている。ポセミトールでの事を思い出してくれ」


「……ポセミトール? なんかあったか?」


「バッジーニが使用した、あの生物兵器だ」


「ああ、結局ヴィクトーリアが無効化してくれた、アレか。でも、あれくらいなら大丈夫なんじゃないのか?」


「特効薬があればの話だがな。……だけど、問題はそこじゃない。その生物兵器が、普通に売られていた・・・・・・・・・という事だ」


「……どういうことだ」


「本来、防衛の切り札となり得るような兵器を、外部の人間に易々と売ると思うか? それを研究されたり、対策を取られたりすれば、切り札として機能しなくなる。だったら、なぜ、それでも売ったか? ……ネトリールにとって、それ生物兵器が取るに足らないものだったからだ」


「つまり、なんだ? 俺たちからすれば、すごい技術でも、ネトリールの連中からすれば、玩具おもちゃみたいなもんだってのか?」


「そういうことだ」


「……まじかよ」


「その証拠に、さきほどの愉快な髪形のおっちゃんが、『飛行船を撃墜した魔法』と言っていただろう?」


「い、言ってたな」




 愉快な髪形のおっちゃんって……。




「残念ながら、ネトリールにそのような魔法はない。だから、何らかの兵器だと思われる」


「じゃあ、ヴィッキー、ネトリールに行くには、その兵器の対策が必須ってことになってくるの?」


「その通りだユウ。あの愉快な髪形のおっちゃんはネトリールに行く船ないと言った。ということは、まだ、ペンタローズにも、使われていない船があるかもしれない。だから、どのような兵器か訊きだしたうえで、その対策を示せば――」


「船を貸してくれるかもしれない……てことだよね?」


「ああ、たぶんな」


「それじゃあ、いますぐさっきの愉快な髪形のおっちゃんのところに――」


「なあ……ちょっと待ってくれ」


「どうしたんだ、ユウト」


「こうやって、ネトリールに行く手段がないってことは、アーニャはまだ、ここにいる可能性はないか?」


「あ、そう言われてみれば……そうだよね……」


「アーニャがネトリールに行こうとするなら、まず、ここペンタローズを目指すはず。なぜなら、この周辺で飛行船に乗れる都市や国はないからだ。それで、肝心のここが使えないとなると……」


「残念だがユウト。たとえ、ここの飛行船が使えなかったとしても、ネトリールへ行く方法はある」


「そんな! まさか、アーニャはアンドロイドだから、空も飛べ――」


「ない! ……たく、なにをそこまで目を輝かせているんだ。いいか、ネトリールでは、こういう時の為に、地上にいくつかのポッドを用意しているんだ。帰還用のな。ここペンタローズにいないという事は、たぶん、それを使ったのだろう」


「まじかよ。そんなモンまであんのか? じゃあ、俺たちもそれに乗ればいいじゃん」


「これは元々、何らかの要因で地上に降りてしまって、帰れなくなったネトリール人が使用するものだ。ネトリール人以外は乗れない」


「なにその差別」


「だから、言っているだろう。さっさとその兵器が、なんだったのか訊きだして、対策を立てようと……!」


「え、うん、なんか……、ごめん」

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