戦えない俺が女の子たちに守られながら魔王と勇者を倒す

水無

大猩猩墜つ



「ぶちかませ! アーニャ!」


「な――!?」


「はい! てりゃーっ!」




 セバスチャンは突如として、背後より現れたアーニャに目を丸くし、体を強張らせた。
 そこへ、アーニャの振りかぶった、チェーンでグルグル巻きにされた凶悪な杖――略して凶杖が、ジャラジャラと音をたてながら、セバスチャンの脳天にクリーンヒットした。
 躊躇のない一撃。
 ドガァという、耳を塞ぎたくなるような重低音。
 殴られたほう――セバスチャンは、まるで重力に負けたカエルのように、床の上にベチャっと這いつくばった。
 その額は床に大きくめり込んでおり、床にはあとから、ドクドクと血が染み出している。
 やりすぎたか?
 やりすぎだな。
 いくらゴリラとはいえ、所詮霊長類。
 エンドドラゴンをも爆散させる一撃の前には、その鎧のような筋肉も、ただのたんぱく質の塊に過ぎない。
 防御不可、無慈悲の一撃。
 俺の渾身の皮膚鋼化ガードポイントでも、あれを防ぐのは難し……あれ? 俺、強力招来アタックポイントをアーニャにかけたっけ?
 ……うん、まあ、細かいことは気にしないでおこう。
 当の本人、殴りつけたアーニャも、足元に転がっているゴリラを、『やってしまった』という表情で、見つめていた。
 ……まあ、アーニャからしたら、そのゴリラも恩人……もとい、恩ゴリラだからな。
 気に病むのはしょうがないっちゃ、しょうがないけれども……、今度、アーニャには、力加減というものを教えてあげなくちゃならないのかもしれない。
 もちろん、こっちが死なないようにだけど……。
 ちなみに、今回の作戦は至ってシンプル。
 ただの陽動だ。
 俺がセバスチャンの注意を引いている間に、アーニャが裏からこっそりと、回り込む。
 この会場内には長机も多く、身を隠しやすいうえに、アーニャはかなりの小柄だったため、実現できた作戦だ。
 もちろん、セバスチャンの言った通り、俺に、あいつらの仲間になる気などはさらさらない。
 そこは、さすが元パーティメンバーだと、褒めてやってもやぶさかでない。
 俺はいまだ、うまく動かない体で、なんとかして――具体的にはハイハイで、セバスチャンの死体に近づいていった。
 やがて死体のすぐそばまで近づくと、首の横――頸動脈に、人差し指と中指をクイっと押し当てた。




「………………」


「ど、どうですか……? ユウトさん……? 生きて……らっしゃいますか……?」




 アーニャは、いまにも泣き出しそうな顔で、俺の顔を覗き込んでくる。
 俺はその顔を見ていると――




「し、死んでいる……!?」




 ……と、悪戯したくなった。
 まあ、本当は生きているが、さきほどのお返しである。
 それにしても、なんてゴリラだ。
 毒の危険度の指標を、成人男性の何人が死ぬ――とかで表すときがあるけど、これ、普通の成人男性が喰らったら、十人以上は死ぬ一撃だぞ。
 オーバーキルにもほどがある。
 そして、それにも瀕死ではあるが、耐える男……、いや、オスか……、敵ながら天晴れというか、なんというか――




「………………」




 俺は気が付くと、ゴリラの死体の前で、両手のひらを合わせ、合掌のポーズをとっていた。
 どちらにせよ、もうこんな怪我では戦闘復帰は不可能。
 ……昔の仲間のよしみだ。
 トドメは刺さないでおこう。




「ほ、本当にお亡くなりなったのですか……?」


「いいやつだった……いや、救いようがないほど、ワルイゴリラ……略してワルゴリだったけど……、最後はきちんとマウンテンゴリラとして逝ったよ……」


「そ、そんな……わ、わたし、なんということを……」


「とまあ、冗談はここまでにして……」


「じょ、冗談なのですか……!?」


「おい、ユウ。大丈夫か?」


「………………」




 さきほどから、案山子カカシのように、無言を貫いているユウに声をかけるが……、返事はなし、か。
 しょうがないよな。
 生まれて初めて、ここまでボコボコに、徹底的にやられたんだ。
 ショックをうけないほうがおかしい。
 俺はユウをそのままにして、みっちゃんのほうへ視線を向けた。


「……っ」


 そして俺は息をのんだ。
 みっちゃんはまるで、俺たちとは別の空間にいるかのように、そっちに集中していた。
 それも、並みの集中状態ではなく、極限に研ぎ澄まされていたものだった。
 立ち回りの練度がさきほどよりも、かなり洗練されており、隙が一切なかった。
 向けられる銃口の直線上には決して立たず、銃を撃ち終わったのを確認すると、発砲し終えた者の手首から、優先して切り落とし、その返す刀で、首を綺麗に撥ねていた。
 刀を持っていた構成員は、どこから太刀が飛んでくるかを追い切れず、的外れな場所を、闇雲に切っている。


「覚醒してんじゃん……」


 ……このままでも終わりそうだが、保険はあるに越したことはない。
 俺は隣で、可愛くぷりぷりとむくれていたアーニャに話しかけた。




「アーニャ、悪いんだけどみっちゃんの援護を――」


「おにいちゃん」




 ユウに二の句を遮られる。




「あたしがやるよ」


「いや、けど、おまえ……」


「やるから」


「はぁ……、わかったよ。ほどほどにな」




 ユウは少しだけ頷くと、さきほど受けた怪我もなんのその。
 一目散に、みっちゃんに加勢した。
 こう言ったらもう、聞かないんだよな……。
 やっぱり、さっきの戦いが相当堪えたようだ。
 そのうえ、不意打ちとはいえ、あれほど苦戦したゴリラを、アーニャが一撃で沈めたからな……心の中はぐちゃぐちゃだろう。
 いまはあまり、あいつには触れないほうがいい。
 ……ただ……、なんだろう、この胸騒ぎは……。
 何かを見落としている気がする……。
 ゴリラはもう動かないし、この会場にいる、バッジーニ組の構成員も少なくなってきている。
 だったら……でも……、他になにか――




「ハァーッハッハッハ! しめぇだよ! オマエラァ!!」




 突如、男の声が、高らかに、会場内にこだまする。
 見ると、会場の出入り口の外、黒い鉄の塊に、車輪がついたものを、二人の男が重たそうに押していた。
 黒い鉄の塊は、「ガラガラ」という音を響かせながら、やがて会場内へと進入してきた。




「ククク……」




 バッジーニの抑えたような笑いが、俺の耳に届く。




「あの使えねぇゴリラも、時間稼ぎぐらいにはなったようだな……!」




 ……なるほど、胸騒ぎの正体はあれか……。




「ということは、あの鉄の塊は……?」


「そうだ。奥の手だよ、若造」




 ユウには誰もこの部屋から出入りさせないよう、役割を与えていた。
 しかし、それもセバスチャンに邪魔をされるまでの間。
 バッジーニが命令を下したのか、はたまた、機転を利かせた部下が、独断専行で取りに行ったのか……、それは特に気にするべきところではないが、門番のいなくなった間に、奥の手を取りにいかれたという事だ。
 これで、あいつらのいう、奥の手とやらが、白日の下に晒されたというわけだが……、それにしても、あの形状……、登場時には、あまりよく見ていなかったが、今見ると、移動式砲台のように見える。
 普通に考えると、あの大筒から大砲の弾が発射されるのだろうが……、いくらアホでも、この魔法がある時代に、あれを最終兵器と……、あまつさえ、奥の手とのたまうヤツはいない。
 なにか、トンデモないギミックが隠されていのだろう。




「降参するなら今のうちだぞ、小僧ども!」


「いや、降参しろって言われても……」


「いいか、よく聞け。そこの……それはなァ……」


「……あ、ああ……なんなんだ……、あれは一体……!」


「なんと……!」


「なんと……?」


「車輪で……!」


「車輪で……?」


「移動できる砲台だァァ!!」


「………………」




 ……どうやら、本当にただのアホのようだった。




「ぎゃああああああああああああ!?」




 突如、バッジーニが、聞くに堪えない叫び声をあげる。
 見ると、バッジーニが両手を後ろにいて、喉元に、剣先をつきつけられていた。
 つきつけているのは、みっちゃん。
 みっちゃんは少しだけ、息を切らしながら、冷ややかな視線でバッジーニを見下ろしていた。




「お、おい、解っているんだろうな!? いま、貴様が俺を殺せば、間違いなくその大砲でやつらは死ぬぞ」


「大砲くらいじゃ、ユウくんは死なないよ……」




 いえ、普通に死にます。




「く……っ、バカめ。あれはただの大砲ではない。ネトリール特製の、細菌兵器とやらが仕込まれているのだ」

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