戦えない俺が女の子たちに守られながら魔王と勇者を倒す

水無

レクチャー



能力強化アビリティブースト! 物質硬化ハードポイント!」




 背後に気配を感じ、俺はすぐさま、手にしていたテーブルクロスに付与魔法をかける。
 しかし――ズン! と、右腕がなくなってしまったような感覚。重い衝撃。
 直後、視界が大きく、グニャっと歪み、脚が震えだし、なすすべなく地面に倒れた。
 直前に俺の体を覆っていたテーブルクロスは、バリーン・・・・と、無残にも砕け散ってしまった。
 ……大丈夫。
 直撃は避けた……しかし、うまく立つことができない。
 うまく……魔法が使えない……。
 うまく、呼吸することができない。
 いま、振り向くことはできないが、おそらく、背後から俺の防護魔法を貫通し、攻撃してきたのはセバスチャン。
 おそらく、ビーストに吹っ飛ばされたのをいいことに、そこからぐるりと、俺の背後から回り込んできたのだろう。
 図体がデカいくせに、こういったことには頭が回りやがる。
 それにしても、アレを喰らってもなお、この馬鹿力か……、侮っていたというか、忘れていたというか……。
 しかし、今は感心している場合じゃない。
 すぐにでも逃げなければ、次が来る。
 あいつは俺を殺すと言った。脅しじゃない。
 さっきの一撃でわかる。
 情けに期待するな。迷いを捨てろ。
 ……しかし、俺は必死に自分を奮い立たせようとはしたものの、どうしても、脚に力が入らない。
 腕をついてみるが、肘がまっすぐにならない。
 ついた瞬間から、すぐにガクッと、生まれたての仔馬のように倒れてしまう。
 まずいな、これは。
 いや、ダメだ、考えろ。
 逃げられないのなら、逃げなければいい。
 しかし、どうする?
 ――立ち向え。
 立てないのに?
 ――魔法を使え。
 ……だめだ。うまく魔力が纏まらない。
 ――アーニャを呼び戻せ。
 無理だ。すでに向かって来てくれてはいるが、その速さじゃ二撃目は防げない。
 ――話しかけろ、話し合いに持ち込め。
 そもそも、うまく呼吸ができない。
 ……万策、尽きたか……。
 俺はすっと瞼を落とすと、全身の力を抜いた。
 ……なんだ?
 いくら待てども、二撃目が来ない。
 どういうことだ?
 俺は瞼を開けると、もぞもぞと体勢をよじり、なんとかして背後を向いた。




「おにいちゃん、大丈夫?」




 見ると、そこにはユウとセバスチャンの二人がいた。
 ユウは自前の(ワゴンセールで購入した貧弱な)剣で、自分の身の丈ほどはある大剣と、必死に鍔迫り合いをしていた。




「へ、俺の二撃目を防ぐとはな。……とんだ妹をもったな、エンチャンター殿。でも、もうまともに息ができないだろ? まともに立つことができねえだろ? ……まともに魔法も練れないだろ?」




 よくしゃべるゴリラだ。
 バナナを口に突っ込んで、そのまま野生に返してやろうか。
 と、言ってやりたかったが、悔しいかな……、アイツの言う通り、うまく呼吸ができない。
 肺がつぶれたか?
 いや、それだと息をするとき、口の中から血の臭いがする。
 しかし、いまはそれを感じない。
 ……だとすれば、あいつのあの剣――
 俺は霞む視界の中、眼を細め、なんとかして、セバスチャンの持っていた剣を見た。
 細部まではわからないが、なにやら刀身に文字が彫られている。
 あれは、もしかして……!




「どうやら、わかったようだな。……ご想像の通り、これは封魔の剣だよ」




 封魔の剣。
 対メイジ魔法使い系モンスターの為に製造された剣。
 名前の通り、斬りつけた相手の魔力回路(供給パイプのようなもの)を切断し、一時的に魔法を使用できなくさせるものだ。
 ちなみに、物理的に切断しているのではなく、刀身に刻まれている文字がそう作用している。
 いわば、魔力を以て魔力を制す。
 無論、その切れ味も申し分ないので、魔法を苦手とする、近距離戦闘型戦士との相乗効果もすさまじい。
 ゴリラのクセに、洒落たもの持ちやがって……、おニューの剣だろう。
 俺がパーティに所属していた時は、あんなのは持っていなかった。




「エンチャンター殿はどうあっても、素直に帰ってくれるとは思わなかったからな。だから、ある程度、強硬策にでるつもりで、ここに来る前に色々とシミュレーションしていたんだが……、どうシミュレーションしても、お前が一番厄介だったからな。ユウキに持たされたんだよ。……どうだ? 効くだろ? ま、俺にはそんなもん魔力は無縁だからな。どんな苦しみかってのは、まるっきり想像できないんだが……」




 まさかの俺対策かよ。
 そりゃまた、随分と用意周到ですな。
 俺を恐れているのか、はたまた、試し斬りがしたかっただけなのか……。
 どちらにせよ、迷惑極まりない。




「ヘタレてるとはいえ、おまえは現時点において、史上最高のエンチャンター。一筋縄ではいかない。たとえ、どんな雑魚とパーティを組んでいても、そいつらをかなり戦えるレベルまで底上げしてくる。だからこそだ。封じさせてもらったぞ。その厄介な付与魔法を。……ただ――うおっと……!」




 ユウはセバスチャンが喋っているのもお構いなしで、攻撃を始めた。
「眼前のおにいちゃんの敵を、ただ討ち滅ぼす」
 たぶん、ユウの頭の中にはそれしかない。
 その証拠に、ユウは先ほどから、セバスチャンの急所しか狙っていない。
 首、腹、胸、顔面。
 どの突きも、薙ぎ払いも、一切容赦がなかった。
 セバスチャンはその巨体を機敏に揺らしながら、時には剣で、時には手甲で、器用に受けつつ、避けていた。




「ただ……、こんな狂犬がパーティに入っていたとはな……! 予想外だ――よ!」




 ガキン!
 セバスチャンは目にもとまらぬ早業で、ユウの剣を払いのける。
 反撃。
 セバスチャンによる、剣の猛攻。
 ラッシュ!
 攻防は一転し、ユウが防戦一方になる。




「ダメだダメだ。ダメだダメだダメだダメだダメだァ!」




 次第に、セバスチャンの剣を防ぎきれなくなったのか、ユウの服がビリビリと破かれていく。
 服の切れ目からのぞく、真っ白な肌からは、ところどころ、鮮血がポタポタと零れ落ちていた。
 無表情だったユウの顔も、次第に剣で斬られる痛みに歪んでいく。




「筋は良い。剣の扱いも言うことがない。とめどなく溢れているその殺気も、この俺が戦慄するほど。……ならなぜ、俺にいいようにやられているか、この先輩が教えてやる」


「く……っ」


「ひとォつ! おまえは勝負を急ぎすぎている! たしかに、首を撥ね、心臓をつけば、戦いは一瞬で終わる。ただ、それは格下にのみ通用する! ……わかるか? 俺には、おまえの攻撃が次に、どこに来るかが、手に取るようにわかる!」




 ユウはセバスチャンの剣を紙一重で避けると、そのまま顔面を狙い、突いた。




「――アマい!!」




 火花が散るほど、両者の剣が激しくぶつかり合う。
 ユウ渾身の突きは、セバスチャンによって、これ以上ないほど完膚なきまでに叩き返された。そしてまた、セバスチャンによるラッシュが始まる。




「どこに来るかがわかったら、このように、カウンターを浴びせることも可能なんだ! せっかく手に入れた攻撃チャンスも、みすみす相手に譲り渡してしまう! これがどれほどの愚行か――わかるかァ!」




 空いていたどてっ腹に、セバスチャンの前蹴りがクリーンヒットする。
 ユウは腹を抑えながら、急いで後退。セバスチャンと距離をとった。




「……ふたつめだ。……まだ、倒れるんじゃねえぞ、狂犬!」

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