戦えない俺が女の子たちに守られながら魔王と勇者を倒す

水無

テッシオの本心





「ワシの判断ミスだった……」




 バッジーニは手前の椅子を引くと、そこにドカッと座り、口に葉巻を咥えた。
 それと同時に、バッジーニの子分らしき男が、合図をされていたワケでもなく、自然に、咥えられていた葉巻に火をつけた。
 しばらく、そこにいる全員の視線を集めたまま、紫煙を燻らせていると、しびれを切らしたみっちゃんが、バッジーニに問いかけた。




「なんだい、そのミスってヤツは……?」


「いや、不確定要素を見落としていただけか。……そう、あんたの事だよ、ミシェール・ビト」


「あ、あたし……?」


「……もちろん、あんたのこたァ知っていたさ。元、花屋のお姉さん。……しかしまぁ、情報・・は知っていたが、眼中にはなかった。女だからって理由でよォ……」


「な、なにを……言っているんだ、おまえは……?」


「……ワシが、わざわざこんなことまでする理由、わかるかい? 二代目・・・ェ?」


「ビト組を潰す事、だろ……?」


「そうだ! ……いや、ちがうなァ。そりゃあ、過程に過ぎない。いわば、肉を捌く前の血抜き。水練前の準備運動ってぇヤツだ」


「ビト組を潰す事よりも、大きなこと……、ッ!? もしかして――」


「思い至ったみたいだな。そう、五大ヤクザの統一だよ」


「そんなこと、出来るはずが――」


「いいや。もうすでに、あとはビト組を残すだけになった」


「な、なんだって――ということは……、タタリーアの組長だけじゃなく、他の組長も……!?」


「その通り。ビト組は最後の難関にして、最大の難所だった。それもこれも、全部あんたんトコの先代と、そこの右腕の男と、あんたのせいだよ……、ミシェール・ビト」


「あ、あたしが、何を……」


「そうだ。おまえの兄ちゃん……長男、あの狂犬を一匹消すだけでも、綿密な計画と、それなりの労力、金を消費したんだぜ? 仮にも、巨大組織の跡取り息子だからなァ? これ以上下手やりゃあ、必ずアシがつく。そんなところまでいった。実際、あんたらは何となく気づいてはいたが、決定的となる証拠は見つからなかっただろう? ……けど、あともう一人は必ず、どうしても、消さなきゃならんやつがいた。……そう、次男坊だ。だが、幸いなことにあの次男坊……あいつは、勝手に自滅しやがった。まるで、俺の意志を汲んでくれるようになァ! ヒャハハハハハハ!!」


「く……っ」


「それで残ったのは、あんたひとりだ。女で、しかも、ヤクザの娘が花屋ってんだからなァ。こんな、頭の中までお花畑な娘、捨て置いても、なんら問題はない。……逆に、ここであんたを殺って、無駄に証拠を残しておくほうが、悪手だと思った。なんなら、このまま何かの間違いで、あんたが組を継げばいいとも思ったぜ。あんたが継げば、ビト組は勝手に、組の内部から瓦解する――」


「しかし、あたしの組はそうはならなかった!」


「そうだ。……そう考えていたワシは、救いようのないマヌケだった。あの時、ワシはたとえ証拠を残してでも、自分の手を汚してでも、あんたを殺していればよかったんだ。なんなら、あんたの兄貴よりも優先して、殺しておけばよかったって、今は思ってるよ」


「よくもぬけぬけと……!」


「フン。……事実、あんたは組の内外から向けられる、奇異な目に晒されても、自分を一切曲げず、むしろ、それらを跳ね除け、初代が死んでから、しばらく落ち目だったビト組を見事、立て直した。それだけじゃあねえ、あんたの親父……初代の背中には、背負っているもんがあった。そのぶん、どこかしら、他の組との衝突を避ける節があった。しかし、あんたには何もない。そのガラガラな背中を部下に守らせ、その間に、初代のやりたかったことを片っ端からこなしていきやがった。ビト組はまさに、初代の遺志を継ぐ、あの時以上に厄介な組織に成り上がっちまったワケだ。これじゃあ、さすがに手が出せねえ。……だが、結果はこうなった……なぜこうなったか、わかるか? ミシェール組長?」


「………………」


「そこの、あんたの部下が――右腕の男が――あんたを信じ切れてなかったからだよ!」




 みっちゃんが悲しそうな視線を、テッシオに送る。
 テッシオはその視線に対し、顔を逸らすわけでもなく、ただじっと、みっちゃんの顔を見つめ返していた。その表情からは何も、窺い知ることはできない。




「覚悟を決め、女であることさえも捨てようとした組長を、そこの男は信頼していなかった。だから、こうなった!」


「な……、何を言ってるにゃ! 意味がわからんにゃ!」


「なら、わかるように言ってやる。そこの男は、ある男に相談を持ち掛けたんだよ」


「相談? 何を、誰ににゃ?」


「優しい優しいそこの右腕さんはよぉ、組長は、本当は不本意で、それも歯ァ食いしばりながら、望まぬ形で組長をやらされている……って感じたんだろうよ。……事実、そこの右腕さんは、二代目に対し、実の娘以上の気持ちを抱いていた。兄妹のようであり、親子のようであり……、なにより、大事な大事な恩人の、大事な大事な、最後の忘れ形見なワケだからな。見てられなかったんだろ? 組の事で悩む姿も、組の事で苦しむ姿も……」


「……おまえ、あたしをそんな風に……!」


「………………」


「だから、相談を持ち掛けたんだろ? タタリーアの野郎にな。まあ、そん時から俺の息がかかっていたんだがなァ!」


「な、なんにゃ、その相談の内容って……」


「失楽園……。知ってるよなぁ? 巷で噂になってる、天国への片道切符だ」


「それがなんにゃ……」


「あれはウチで製造、販売しているブツだが、ポセミトールであれを広めたのは、そこの右腕さんだよ」


「な――」


「なんだって!? そりゃ、本当かい! テッシオ!」


「……ああ。そうだよ、マザー」


「な、なんだってそんなことを……! お父――先代が、薬をどれほど嫌ってたか、知らないわけじゃないだろ!」


「………………」


「答えな、テッシオ!!」


「おいおい、二代目。そう責めてやりなさんな。それもこれも、あれもどれも……、全部あんたのためなんだよ」


「……どういうことだい」


「そう。その態度だ。軽い副作用の薬なら、その流通の邪魔はしない。そう取り決めていたはずだが……、ここ最近、どうも薬の売り上げによる、シノギが芳しくない。……邪魔、してんだろ? 二代目」


「……さあ? なんのことかね」


「あくまでトボケるつもりかい。まあいい。今回はそれが裏目に出た。あんたは見逃せねえんだろ? 薬ってやつを?」


「見逃せないって……もしかして――」


「そう。ここまで大々的に広まったら、あんたは否が応でも、根絶することに躍起になってくる。……そこが、まだまだアマチャンなんだよなァ。人間、何かを追っている時が一番、無防備になる。草食動物を追い詰めた肉食動物は、自分より強い肉食動物に食われるなんて、思ってすらいない。そこを掬われるんだよ。場数踏んだ人間ってのは、なにかを追う時にこそ、背後を気にする。……つまり、あんたは薬を追うのに夢中になりすぎて、周りが見えていなかったんだよ!」


「じゃあ、あたしが昨日のあのときから、記憶が曖昧なのは……!」


「そうだ。右腕さんはな、そうやって気絶させたあんたを、どこか、ビト組・・・の名前が聞こえない、目が届かない、どこか遠いところまで、隔離しようとした。その役目を、タタリーアにやらせようとしたんだよ」


「ハ! なんだいそりゃ……。突き放すって、実際の距離じゃなくて、あの世までってことかい?」


「そうだ。……いや、ちがうな。俺はそうだが、右腕さんはそうは・・・思っていなかった。本当にあんたに平穏を、安寧を、そしてまた、笑顔で花を売る……そんな穏やかな人生を送ってほしかったんだろうぜ。タタリーアに依頼したのも、そういう内容だった。実際、そのために、いろいろなところに気を回していた。二代目が急にいなくなっても、部下たちに不審に思われないようになァ。……そうだな。今思いつくのでいえばアレか……組を二つに分けたとかいうヤツかァ?」


「ミシェール派とテッシオ派……とかいう、アレかにゃ」


「そうだ。こうすることによって、自分の派閥の部下には『自分が組長の座につくために、ミシェールを殺害した――』とうそぶき、ミシェール派の部下には、一切の情報を開示することなく、『薬の行方を追っていたが、敵の反撃に遭い、殉職した』……という事で、信じさせることにした」


「そんな……バカなこと……!」


「そして……、それだよ。そこが、最大の好機にして、つけ入る隙だったんだわなァ」

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