戦えない俺が女の子たちに守られながら魔王と勇者を倒す

水無

みっちゃん奪還大作戦





 ポセミトールの郊外。
 俺たち・・・の前方には、何かから逃げるようにして、一心不乱に街道をひた走る、小型の馬車があった。




「ビースト、もっとだ。もっとスピードを出せんのか!」




 俺は馬上ならぬ、猫上からビーストに指示を下す。




「ご主人に衝撃を与えない走り方とにゃると、これが最高速度にゃ。もっと速度をだしてほしいにゃら、ご主人がニャーに付与魔法をかけるしかないにゃ」




 ビーストは俺を背負いながら、少しだけ振り向いて答えてみせた。




「確かにそうだ。……いくぞ。反動で、あとで筋肉痛になるかもだけど……『疾風迅雷スピードポイント』」




 俺の指先から緑色の光がほとばしり、ビーストの脚を包む。
 俺の付与魔法はもはや、杖を媒介としなくても、通常通りの魔法を繰り出せていた。
 どうやら、相当に癪だが、ビーストの言う通り、あの杖は本当にただの棒きれだったらしい。
 グン――
 ビーストのギアが一段階あがるのと同時に、全身に重力負荷がかかる。
 しかし、ものすごい速さで走っているのにも関わらず、風の抵抗を一切感じない。
 まるで、風がよけていく感じ。
 なるほど、付与魔法を受けると、こういう感覚になるのか……。
 そう考えているうちに、俺たちは前方――馬車に、グングンと近づいていく。
 ――あの馬車こそが、俺たちの目的。
 馬車には暗殺されたとされる、みっちゃんが乗っている……と、喫茶店二階の、テラスにいた黒服は言っていた。
 それを聞いたときは愕然としていたが……、しかし、俺たちはまだ、みっちゃんが生きているという、一縷の望みにかけていた。
 巨大組織の頭を、街中で殺すことは相当リスキー。
 ということは、このように、セオリー通り、外に連れ出して殺すのが、一番無難だと踏んだ。
 そして、その予想は概ね、正しかった。
 こうして、俺たちから必死に逃げるさまが、それを証明している。




「――にゃ。ところで、追いつくのはいいにゃが……、どうやって馬車を止めるにゃ?」


「そうだな。強引に……は、無理か」




 仮に死んでいたら……いや、みっちゃんは生きている。そんな気がする。……だから、手荒に止めるのはナシだ。そんなことをして、馬車が横転やらなんやらして、みっちゃんが負傷してしまうのは避けたい。
 ということは、キャビンの車輪を抜き取ることも無理だ。馬を殺したりして、止めるのも無理。
 だったらもう、あちらさんが止まるのを待つしかないか。
 でも、どうやって……。




「ニャニャ!? ご主人、見るにゃ。前にゃ」


「前……? あれは――」




 馬車後方、キャビンの中から現れたのは、そこら辺にいる黒服とはまた違う、気弱そうな男。
 その男が、果物ナイフほどの刃物を、頭に麻布をかぶせられ、両手を後ろで縛られている女性の喉元にあてがった。
 男は必死になにかを叫んでいたが、こっちは男の話など、聞く気にはならなかった。
 込み上げてくるのは怒り。
 俺の目は自然とその男を睨みつけ、俺の口からは自然と無謀な提案が吐き出された。




「ビースト! 俺を投げ飛ばせ!」


「にゃにゃ!? ご乱心!?」


「早くしろ。問答してる暇すら惜しい!」


「いやいや……え?」


「いいから!」


「……ど、どうにゃっても、知らないにゃよ!」




 ビーストはそう言うと急停止し、負ぶっていた俺を、体の正面まで持ってきた。
「ご主人、体を丸めるにゃ」
 ――というビーストの声に、俺は急いで両手で膝を抱え込んだ。


「いいか、狙いはあの男だ」


「にゃ。了解にゃ」




 ビーストは俺を片手に持ち、振りかぶると――
「よーし、いくにゃー! 飛んでけー!」
 思い切り、投げ飛ばした。
 ものすごい速さで、まるで弾丸にでもなったかのように、風を切り裂き、風景を追い越していく。
 グルグルグルグル回転する体で、かすかに捉えたのは、男のビックリした顔。
 次の瞬間、俺の体に、稲妻に撃たれたような激しい痛みが走る。
 遠くのほうで聞こえる、『ストラーイク!』という、ビーストの声を聴きながら、俺の意識は――









「――ハッ!?」




 目覚めると、俺の眼前には、涙をポロポロと、俺の目鼻口に落としてくる、みっちゃんの顔が飛び込んできた。綺麗だった顔にはところどころ痣があり、鼻孔の下には、鼻血を拭きとった後とおぼしき、血の線がかすかに見えた。




「お゛……、お゛ぎら゛ぁ゛っ……! ユ゛ヴぐん゛……!」




 もはや、何を言っているかわからないほどの涙声で、全身激しい痛みで動けない俺の体を抱きしめてきた。




「いあだだだだだだだだ!! 痛いって、みっちゃん!」


「うぅ……、ごめんね、ごめんね、ユウくん……」




 みっちゃんはそういうと、俺の上半身をゆっくりと起こしてくれた。
 近くには停車した馬車。
 ということは、止められたということだろう。俺の決死のダイブで。
 じゃあ、あの男は……?
 聞きたいこと、拷問したいことが山ほどある。
 けれども、周囲を見渡すが、それらしき影はなかった。
 目につくのは、遠くのほうにあるポセミトールの街と……、なにかを地面に埋めている、ビーストの姿。




「……おい、ビースト。おまえなにやってんだ?」


「うにゃ? おお、ご主人。生きてたにゃ。さすがだにゃ」


「いや、そうじゃなくて、おまえそれ、何してんだ?」


「これにゃ? これは、不届き者を地に還してるのにゃ、来年にはきっと、綺麗な花が咲くにゃ。皮肉だにゃ。悪党ほど綺麗な花が咲く」


「……おまえ、それ、馬車にいたやつか?」


「にゃ」


「アホか! 聞きたいこと山ほどあったのに、生き埋めにする奴があるか!」


「いやいや、この不届き者は、もう死んでたにゃ。にゃから、生き埋めじゃにゃくて、死に埋めにゃ」


「え?」


「当たり所が悪かったんにゃ。それくらい、ニャーの剛速球……もとい、剛速ご主人の威力は強烈だったんにゃ。にゃから、ご主人もてっきり死んでるものかと……」




 ゾッとして、俺は自分の手のひらを見て、手の甲を見て、脚をみた。
 生きてる……よな?
 やっぱ、無謀が過ぎたか……、一歩間違えれば、俺もアイツのようになっていたってことか……笑えない。




「でも、どうするんだよ。喫茶店のあいつらから聞いたのは、みっちゃんのいる場所だけで、今回の事については、なにも……」


「私が話すよ」


「え? でも……」


「いいの。せっかく昨日、睡眠薬まで飲ませてたのに、ここまで来ちゃうんだもの。お姉ちゃん、呆れちゃうなぁ。……でも、ありがとね」


「い、いや……礼はいらな――す、睡眠薬……!?」


「気づかなかった? コーヒーの中にこそっと……ね。ごめんね? ほんとは昨日の夜から今日の夜まで、丸一日眠ってるはずなんだけど……」


「……おい、ちょっと待て」




 俺は視線をゆっくりと、ビーストに向けた。
 ビーストは何かを察したのか、急にソワソワと、挙動不審になりはじめた。
 やっぱりか。
 昨日、俺はユウと、ビーストに手を出していなかったのだ。
 事実無根。
 大方、何しても起きない俺に対し、好き放題、悪ふざけをやったのだろう。




「にゃ……、にゃんのことかにゃー?」


「まだ何も言ってないぞ」


「こ、心の声が駄々洩れなのにゃ」


「俺の心の声が聞こえているということは、おまえはいま、罪の意識に苛まれているということだ。観念しろ。お前は後で、相応の罰を受けさせる。俺を謀った罪は重い」


「そ、そんにゃあ……」


「だけど、いまは……ぐっ!?」




 俺は立ち上がろうとするが、傷みがひどいせいで立ち上がれない。
 再び支えを失った俺を、みっちゃんは優しく抱きかかえてくれた。




「その体じゃ、まだ無理だよ。いまは私の話を聞いて、ね?」


「……わ、わかったにゃ」

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