戦えない俺が女の子たちに守られながら魔王と勇者を倒す

水無

グループ分け



「ごめんにゃ!」




 突然、ビーストが上半身を、きっちり九十度に折り、俺に陳謝してきた。
 俺たちはすでにホテルを出て、アーニャとユウの武器を探しに行くところだった。




「……なにが?」




 あえて訊き返す。
 こいつに謝られなければならないことは、山のようにあるからだ。
 それほどまでに、こいつは俺に迷惑をかけている。
 とはいっても、いまさら責めることも面倒くさいので、放置していたが……。
 ここでの俺の問いに対する答えが、今までの――全ての事に対して、だった場合、俺はビーストの評価を改めなければならない。
 俺は謝っているビーストを尻目に、止めていた足を再び動かした。




「あの筋肉ダルマのことにゃ」


「そっちか……」




 ビーストの評価は上がらず下がらず。
 ちなみに、すべての事に対して謝っていた場合、俺はキレていただろう。
 一つの罪に対して、一つの謝罪。
 まとめて、ひっくるめて謝っても、その謝罪にはなんの気持ちも籠っていないし、それだと、なんの意味もないからだ。
 それは謝罪ではなく、ただ、赦しを乞うているだけ。
 紙よりもうすっぺらい謝罪など、しないほうがマシ。むしろ、精神を逆なでしかねない。
 そう、俺は狭量だったのだ。




「ホント使えねえな、おまえは。……でもま、気にすんなよ。言ってなかった俺にも非はある。おまえはおまえの仕事を精一杯やっただけだ。だから――」




 狭量だったとしても、最低限、相手はフォローする。
 それが紳士の流儀。




「だから、ここでモタモタしてないで、さっさと行ってこい! お前の目的地はあの喫茶店だろうが!」


「えー? ご主人たちだけずるくにゃい? ニャーが武器集めするから、ご主人たちが行ってきにゃよ」




 最初会った時に比べてこいつ、だいぶ馴れ馴れしくなってるな。
 なんだ?
 威厳が足りていないのか?
 いや、そんなバカな……。
 俺の威厳はまさに、天を貫くが如し。
 普通のやつだと、俺を遥か地上から仰ぎ見るしかできないはず。仰ぎ見すぎて、首が痛くなってしまうはず。
 ……だというのに、なんだこれは。なんだこの気安さは。




「……それだと順序があべこべだろ。俺たちはいま、もしもの時のために武装しよう! そうしよう! ……って感じで、武器を取りに行ってる最中だろ。おまえはそれまでの場つなぎだ。みっちゃんがいたら確保して、いなくても、なにかしらの証拠を確保する。それがおまえの確保道だろう」


「ひとりだと寂しいにゃ。せめて誰か一緒についてきてほしいにゃ」


「あまりにブーブーと、ぶー垂れるな。エンドポークって呼ぶぞ」


「にゃんで食肉ポーク? せめて、エンドピッグでおねがい」


「いや、ユウト。ビーストの言う通りだぞ。敵の本拠地真っ只中と思しき施設に、ひとり……もとい、一匹しか兵を送らないのは、まさに愚の骨頂だ。いくらビーストが強いといっても、限度がある。罠があるかもしれないし、とっさのときに連絡もとれない。ドツボにはまるだけだ」


「だから言ってるだろ。危ないと思ったら引けって。べつにひとりで……もとい、一匹で組織を壊滅させろとか、みっちゃんを奪還してこいなんて言ってないってば。要はその場にいて、状況を把握する役割が必要だって言ってんの」


「じゃあ訊くが、わざわざ四人でかたまってまで、武器を取りに行く必要があると思うか?」


「ぐ、ぐぬぬ……! それは……ないのかもしれない……!」


「だろう? それなら、その場つなぎ任務がうまくいくように、ここは人員を割り当てるべきだ。ちがうか?」


「お、おのれ……! ヴィクトーリアの分際で……! 俺に意見するとは……!」


「ち……、違うかァ! ユウトォ!」


「ぐ……、ヴィクトーリアのくせに……今日はやけに冴えてやがる……!」


「へ、返事はァ!?」


「はぁい!」


「ふ……ふふ……ふふふふ……、ようやくユウトを言い負かしてやったぞ。いままで散々、言われ放題だったからな……」




 くそ、いままでのお返しだといわんばかりに、無理に大声でまくし立ててきやがる。
 そのせいで多少、声が上ずったり掠れたりしているが、それがより、迫力を増長させている。
 それに、元々の顔がキツイ系だからか、なんだか言い返すこともできない。




「わ……、わかったよ。それならおまえの言う通り、そっちのほうに人員を割くよ」


「にゃ? いいのにゃ?」


「ああ……、たしかに俺の配慮も足りなかった。だから、連れていきたいやつは、おまえが選んでくれてかまわない」


「にゃ。わかったにゃん」




 ビーストが品定めをするように、皆を見渡していく。
 ……ここは、普通に考えたら、戦力的にユウだろうな。
 ユウとビースト。
 こいつらが基本的に一緒になったら、向かうところ敵なしだ。
 連携もとれるようにすれば、さらに怖いものなしになってくる。
 完全武闘派コンビ。
 ただ、難点を挙げるとするなら、暴走したときに止めるやつがいないことだろう。
 アーニャを連れて行くセンも、ありといえば、ありか。
 アーニャがいるだけで、作戦の突破力が段違いになってくる。
 戦術的にも、物理的にもだ。
 立ちはだかるものは、人間だろうが、魔物だろうが、壁だろうが、難なくぶち破っていくだろう。
 速やかな作戦遂行を望むのなら、アーニャを連れて行くのもいいかもしれない。
 最後にヴィクトーリアだが、こいつを入れるだけで作戦に応用が利くようになる。
 最初のころは使えない女戦士……といった印象だったが、錬金術師になってからは、見違えるようになった。
 最近になり、以前にも増して、さらに錬成できるものが増えてきたようだ。
 なにかが足りなくなれば、急ごしらえではあるが、すぐにでも錬成してもらえる。
 戦闘面でも、自前の銃を扱えるので、基本、戦闘においても問題はない。
 痒い所に手が届くとは、まさにこのこと。
 錬金術師はヴィクトーリアにとって、天職だったようだ。
 さすがはクリムトの見立て通りである。
 難点を挙げるとすれば、ヘタレなところくらいか。


 ――さて、ビーストはこの中から、だれを選ぶか……。




「にゃ。ニャーが連れていきたい仲間はもう決まっているにゃ」


「ん、そうなのか?」


「にゃんにゃん」




 ビーストは得意げにそういうと、俺の真ん前まで、小走りで移動してきた。
 心なしか、目はいつもより、キラキラと輝いているようにも見える。
 ……ん?
 俺は振り返って背後を確認した。
 誰もいない。
 なんだ、こいつ、なにをやって――




「さあ、行くにゃ! ご~しゅ~じんっ」




 ビーストはそう言うと、半ば強引に俺の腕をとってきた。
 その勢いから、図らずも、俺の腕がビーストの胸にあたってしまう。
 なんて弾力だ。俺は本当に、この胸を昨晩……じゃなくて――




「お、おまえな! なにやってんだよ。フザケてる場合じゃないぞ」


「フザケてにゃんかにゃいにゃ。ニャーはいたって真剣にゃよ」


「いやいや。俺を連れて行っても、なんもメリットはないだろ。無難にユウでも選択しとけ」


「メリットはあるにゃ。よく考えてみるにゃ」


「どこにだよ。俺自身、戦闘はできないし、おまえみたいにキビキビ動けもしない、ましてや、戦闘はできないし、やっぱり戦闘はできない。……逆にできる事と言えば、おまえを付与魔法で強化して、筋力増強させて爆発力を上げたり、脚力強化して速度上げたり、逐一おまえに指示を出したり、おまえが暴れて相手を引き付けている間、隠者の布をつけている俺が、潜入出来たり……アレ? 俺、ピッタリじゃね?」


「……にゃ? 誰が一番適任か、わかったにゃ?」


「わ、わからないニャ……」


「にゃあ……往生際が悪いにゃ、ご主人。さっさと片付けに行くにゃ」


「い、いやだ! だっておまえ……俺、武器ないし……」


「べつに、奪還から壊滅まで、全部やらにゃくていいって言ったの、ご主人にゃ。それに、さっきも見たと思うにゃが……、ご主人の武器はただのガラクタにゃ。粗大ごみにゃ。ご主人の魔法は、本当は、杖にゃんか必要にゃいのにゃ」


「んなワケあるかァ! おま、あの杖はなァ……ユッキーの加護があるんだぞ、すごいんだぞぅ!?」


「それがゴミだって言ってるのにゃ。……ふむぅ……あえて言うにゃら、ご主人が装備していた武器は、偽薬プラシーボの杖、ということかにゃ」


「だれがうまくまとめろっつったよ!」


「よかったぁ。話がまとまったようでなによりです、ユウトさん」


「そのまとまった・・・・・じゃないよ! アーニャちゃん! ……え? まじで俺、行くの?」


「うにゃ。観念するにゃ」


「ゆ、ユウ……! 助けて……!」


「おにいちゃん!」




 俺はビーストという名の奔流に飲まれながらも、必死に、ユウに向かって手を伸ばした。
 ユウもそれに気づいたのか、俺に向かって、必死に手を伸ばしてくる。
 お互いの手が触れるまで、もう少し。
「――うお!?」
 不意に俺の体が持ち上がり、猛スピードでユウたちから離れていく。
「ご主人はじっとしてるにゃ。こっちのほうが早く着くにゃ」
 俺は結局、ビーストとふたり、喫茶店へと向かった。
 

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