戦えない俺が女の子たちに守られながら魔王と勇者を倒す

水無

思いがけない再会



 食事を終えた俺たちは再び、ホテルの俺の部屋に集合していた。
 ユウを除き、アーニャとヴィクトーリアはなぜかすこしだけ、怪訝そうな表情をしていた。
 三人はベッドの上に。
 俺はズリズリと、ベッドの横まで引っ張ってきたソファに、腰を下ろした。




「ユウト、本当にどうしたんだ」


「もしかして、二回戦目?」


「な!? なんという……! ゆ、ユウト、おまえはビーストとユウだけでは飽き足らず、わたしたちにも……! と、とんだビーストだな、おまえは!」


「ちがうちがう! こら、ユウ! 誤解させるようなことを言うんじゃありません!」


「……そうなの?」


「そうなの。だから、服を脱ごうとするな」


「では、一体、なんなのだ? 武器を取りに行くんじゃなかったのか?」


「……いや、気づかなかったか? レストランでも言ったが、黒服の数が多くなってきている」


「ああ、でもそれは――」


「俺たちを監視していた」


「な、なんだと!?」


「俺たちが座っていた、後ろの席にもいた。料理を取りに行くフリして、ちらっとだけ見たが、まず間違いないだろう。俺たちは見張られている」


「そ、そうなのか? だから、ビーストの食欲がなかったのか……」


「いや、あれはたぶん、ヴィクトーリアの食事しているところを見て、食欲をなくしたんだろ」


「そ、それはどういう意味だ!?」


「でも、ユウトさん。昨日はそんなことは、なかったような気がするのですが……」


「うん。たぶん、今日からだろうな」


「では、なにか? アネゴ殿が失踪した原因が、わたしたちにあると疑っているということか?」


「それはないだろな。そんなんだったら、間違いなく、ビト組の本部に行ったときに捕まえられている」


「じゃあ……」


「文字通りの監視だろ。俺たちが妙な動きをしないかってな」


「そんな……何のために……?」


「それがわかったら、苦労しないんだけどな……」


「もしかして、ユウト。昨晩手を出したのは、ビーストとユウだけではなく……」


「アホか! んなワケあるかァ! そもそも、あれは冤罪だ!」


「そ、そんなに怒鳴らなくても……」


「ともかく、いまはビーストを使いに出している。あいつひとりなら単独行動もやりやすいし、あいつにはトマトの営業だといって送り出してるからな。それに、あいつの速度なら、追っても振り払える」


「……そうか、あの妙なやりとりはそのためだったのか」


「まあな、端的に、なるべく意味深ぽく言ってみたけど、あいつにうまく伝わっているかどうか、そこだけが心配だな」


「ちなみに、ユウトはビーストになんて言ったんだ?」


「あいつは失楽園の臭いを覚えているからな。まず喫茶店に行って、現状の把握。それとみっちゃんの捜索だな」


「それ、あのやりとりだけで伝わってると思っているのか……?」


「え?」


「複雑というか……、そういうのを一切示唆してなかっただろ」


「まあ、あいつなりに何かを感じ取って、動いてくれたんだ。吉報を期待するしかないだろ。あいつだって、バカじゃない」


「それなら、格好をつけずにここで話をして、それから送り出せばよかったのでは?」


「時間がないからな。俺たちも、ここで燻っているわけにはいかない。そろそろ行動を起こすぞ」


「しかし、いいのか? 見張られているのではないか?」


「まあ……そうだな。じゃあ、ここで境界線を決めようか」


「境界線……?」


「簡単に言うと、やっていいことと、ダメなことだ。やったら、あの黒服たちが『俺たちに敵意を向ける事』と、『ここまでなら許容範囲』だってことだな」


「……なるほど」


「とりあえず、武器を取りに行くことは許容範囲内だ。そうでなければ、あの門番は情報すら与えなかっただろう」


「ちなみにそれは、罠って可能性はないのか?」


「あるわけないだろ。そうまでして俺たちを陥れようとしたいんだったら、有無を言わさずに捕えに来るだろ。仮に、なにか理由をつけて、とっつかまえたかったのなら、レストランにいたときにそうしてたはずだ。だから、たぶん、あちらもなるべくは、こっちとの衝突を避けたいんだろう」


「それは、なんでだ?」


「そこまではね。わかんないよね。エスパーじゃないんだしね。話を戻そうか。みっちゃん……つまり、ビト組組長を探すことについては……グレーだな」


「あまり、核心に触れられないということか?」


「ああ、だからこれに関しては、バレずにやる!」


「うん、まあ、作戦もなにもないな」


「そういうな。とりあえず、もう列挙していくのもめんどいから言うけど、たぶん、みっちゃんに関する件はほぼすべて、グレーだと考えたほうがいい。あと、確実に黒と言えるのは、本部に入ることだ」


「それはやはり、門番がいたからか?」


「ああ、これだけは確実に黒だといえる。……ここまでで、なにか、質問はあるか?」




 俺の問いかけに、三人ともが互いに顔を見合わせる。
 どうやら、なにもないようだ。




「じゃあ、最後に一つだけ言っておく。もうたぶん、だれもが怪しいと思っている、テッシオさんについてだ」


「なに!? テッシオ殿がなにかやらかしたのか?」


「……まあ、こういう、鈍いやつのためにおさらいしておこう。テッシオさんの行動についてだ。……昨日、あの人は十中八九、みっちゃんに同行していた。……けれど、何故かあの人は今、ビト組の本部にいて、俺たちをビト組にも寄せ付けないようにしている。ここから推測されることはふたつ。……ひとつめ。みっちゃんを置いて、命からがら逃げてきた」


「逃げてきた……しかし、それはありえるのか……? あのような人が、上司よりも自分の命を優先し、そのうえ、誇りも何も、かなぐり捨てて、戦場から逃げ出すなんて……」


「いや、短時間でおまえはテッシオさんに何を感じ取ってんだよ。……まあ、もちろん、可能性はゼロではない。……ゼロではないけど、ゼロに小数点がつく程度だ。そんなものは切り捨てていい。短期間ではあったけど、あの人がどういう人かはわかる。あの人は、ビーストとユウに殺されそうになった時も、みっちゃんと斬りあってた時も、眉ひとつ動かさなかった。人間てのは、のど元にを突きつけられれば、いやでも顔が歪む。けど、あの人にはそれはなかった。ということは、だ。あの人は自分が死ぬことなんて、なんとも思っていないんだ」


「わかるのか……?」


「いや、テキトーだ」


「うん、まあ、これ以上ツッコむのは野暮だな」


「だから、実際に近くで見たやつに訊こう。……どうだった、ユウ。あの日、おまえとビーストはテッシオさんを抑え込んでたけど、その時、どんな印象を受けたんだ」


「……冷たかった。腕を、いつでも折れるくらいの力を込めてたけど、そんなの関係ないって感じだった」


「……だそうだ」


「うーむ……」


「ということは、第二の可能性だ。自分が死ぬことなんて厭わないやつ・・がなぜ、ひとりだけ帰ってきたのか」


「も、もしかして、アネゴ殿を嵌めたのか?」


「そう。それが、今俺の頭の中にある、最悪のシナリオだ。すでにみっちゃんは、テッシオに始末されていているってことだ」


「そ、そんな……! し、しかし、そんなことをして、テッシオ殿になんのメリットが?」


「んなの、腐るほどあるだろ。世界的なヤクザのトップになる。……そんなの、普通にやってても、なれるわけがない。富や名声その他いろいろ……、まあ、主に黒いものだけど、それが手に入る。実質、いまのビト組は、みっちゃんの右腕だった、テッシオを臨時の頭目として、中枢に据えている。このままみっちゃんが帰ってこなかったら、テッシオが成り上がるだろうな」


「そ、そんな……」


「まあでも、これはあくまでも、俺の推測に過ぎない……のだけれど、もし、このまま事が運べば、事態はそういうふうに収拾するんだ。なら、疑わないほうが難しいだろ? それに、みっちゃんはまだ若いし、なにより女性だ。こういう世界において、女が頭はってることに対して、だれも不満を持っていないほうがおかしい。だれか一人、不満を持っているやつがいても、なんらおかしくない」


「……たしかに、そこまで言われれば、すこぶる怪しいな」


「だろ? だったら、どうするか? ……調べるしかないよね、ビト組を」


「しかし、どうやって……?」


「そこで、俺の付与魔法が火を噴くわけですよ。……ただし、杖が必要になってくるけどな。……さて、そろそろエントランスに移動するか」


「どうしてだ?」


「そろそろ、ビーストが帰ってくるころだからな」









 ホテルのロビー。
 相変わらず、黒服が俺たちを監視している。
 ばれないと思っているのか、しきりにキョロキョロとあたりを見渡し、俺が黒服に視線を投げかけると、これ以上ないわざとらしさで、視線を逸らしてきていた。
 しかしまあ、こうやって、未だ・・、俺たちの監視を続けているということは、部屋での会話は聞かれていないということだろう。
 俺たち四人は、なんとなく居心地の悪さを感じながら、ロビーに備え付けられているソファに、腰を掛けた。ソファからはホテルのエントランス、フロントが一望できる。
何かあった際、すぐに対応できる造りとなっていた。
 そこはさすが、ヤクザの経営するホテルだ。
 などと考えていると、ホテルの正面扉が、ゆっくりと開いた。
 現れたのはビースト。
 ビーストはソファで座っていた俺たちに気が付くと、俺たちのところへ駆け寄るのではなく、ましてや、俺たちに手を振るのでもなく、後ろにいる誰かに手招きした。
 やはり伝わっていなかった。
 なんて落胆したのは一瞬。
 俺の落胆は一瞬にして、驚嘆に変わる。
 ビーストが手招きして、ここホテルにまで連れてきた人物。
 それは――
 俺の元パーティ戦士――
 セバスチャンだった。

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