戦えない俺が女の子たちに守られながら魔王と勇者を倒す

水無

監視の目



「え? みっちゃ――ミシェールさんを昨日から見てないって? マジですか?」




 ビト組本部。
 俺たちは敷地内に入ることは許されず、門の前に立っていた、強面のしたっぱに話を訊いていた。
 したっぱが言うには、みっちゃんはどうやら、昨晩から帰ってきていないとのこと。
 これはまだ、機密事項なのだが、俺たちだけは特別ということで、テッシオさんからことづかっていたとのことだった。
 そして、ついでに、俺たちの武器が流れた場所を聞かされた。
 約束通り、一日でやってくれたことは嬉しいが、どうしても、今はそれどころじゃなかった。




「さあ、話は終わりです。客人。こちらとしても、いろいろと立て込んでいるんでね。暇じゃねえんです」


「嘘にゃ。暇じゃにゃかったら、こんなところで突っ立ってにゃいにゃ。したっぱのクセにいきがるにゃよ」


「な……!? テメエ……、言うに事を欠いて……!」


「す、すみませ~ん、こいつ、いま、発情期中でして、だれかれ構わず、反抗したがるんですよ」


「発情してるのはご主人じゃないのかにゃ」


「ぐぬぬ……! あれは、絶対、何かの間違いだ! 獣と妹の陰謀だ! おまえら、覚えとけよ、マジで! あとで絶対、無実を証明してやる」


「ご主人こそ、ふたり分の子供の名前を考えとくにゃ」


「誰が認知するか! ていうか、人間と魔物の間にガキが生まれるかよ!」


「あの……」


「あたし、ユウト参号機がいいな、おにいちゃん」


「参号機ってなに? なんで俺が量産型になってんの? しかも、弐号機はどこ行ったんだよ! なんで一世代飛ばしてんだよ!」


「弐号機はおにいちゃんの股に――」


「下ネタかよ! そんなことだろうと思ったわ!」


「あの……」


「ヴィッキー、ユウトさんたちは何を話しているんだろ?」


「ただれている! こんな会話を聞くんじゃないぞ! アーニャ!」


「ああ、違うんだ、アーニャちゃん! こいつらが錯乱しているだけなんだ。俺は何も悪くないのに」


「錯乱しているのは、ご主人の股間にゃ」


「ああ!? テメエの頭を、サクランボみたいにしてやろうか!?」


「あのお!! 痴話げんかなら、他所でやってくれませんかァ!!」




 門番の人が突然声を張り上げる。
 あまりの大声と迫力に気圧され、俺とヴィクトーリアは押し黙ってしまった。




「いや、にゃから、さっさとテッシオだすんにゃ。詳しい話――むぐぐ……!」


「す、すみませ~ん、こんどこそ帰りますね~」




 俺はビーストの口を塞ぐと、そのままずるずると引きずった。









「もぐもぐ……いいのか、ユウト。あれ、絶対何か隠してたとおもうのだが……もぐもぐ……」




 俺たちは一旦、場所を変え、ホテルへと戻ってきていた。
 ちょうど太陽が真上に差し掛かってきた頃だったので、軽く食事ついでに、備え付けられているレストランで、食事をとっていた。
 レストランといっても、ビュッフェ形式で、各々が好きな料理を、思い思いに皿に盛り付けて食すあれだ。
 アーニャとユウはふたり並んで、楽しそうに料理を吟味していた。
 テーブルには俺とビースト、そしてヴィクトーリアが座っていた。
 ヴィクトーリアは相変わらず、皿の上に、山のように盛られた料理をガツガツと口に運んでいる。
 ビーストはあまり食欲がないのか、はたまた、ヴィクトーリアの食事風景に圧倒されていたのか、自分が取ってきた料理に、一切、手を付けていなかった。




「……ニャーもそう思うにゃ。あのままキリキリ締め上げてたら、絶対ゲロゲロしてたと思うにゃ」


「だろうな……」


「だろうなって……、どうしたんだユウト」


「いや、そんなことをすれば、いくらみっちゃんの組とはいえ、ギスギスどころか、ゴリゴリに対立してしまいかねない」


「だからって、あそこで引っ込むのは……」


「わかってる。けど、あのまま問答を続けても、おまえらのうちの誰かが……おもに、そこの猫が暴走して、収拾がつかなくなるか、話し合いが平行線をたどるかだ。あいつらに話す気がない、領地に入れる気もないのだったら、無理に聞く必要も、入る必要もない。『これ以上、踏み入ってくるな』これが、あいつらの提示した答えだ」


「むぅ……、理屈はわかるが、やはり、承服しかねるな。そもそも、ユウトはそれでいいのか? アネゴ殿は、ユウトのことを弟と、そしてユウトはアネゴ殿のことを、姉と慕っているほどの仲だったのだろう?」


「なに言ってんだ、いいわけねえだろ」


「へ?」


「何を驚いてんだよ。あっちがこっちに情報の一切を提供する気がないのなら、こっちが勝手に調べればいいだけだろ」


「確かにそうだが……、いいのか?」


「いいんじゃねえの? べつに」


「そ、そんなテキトーな……」


「さすがに、こっちが勝手に調べることに関しては、とやかく言われる筋合いはないからな」


「しかし、どうやって……」


「決まってるだろ。……てか、目星はついてるじゃねえか。昨晩、俺たちはみっちゃんに喫茶店が怪しいと報告して、それからみっちゃんは帰ってこなくなった。だったらもう、調べるところはひとつしかないだろ」


「……喫茶店か?」


「そう。でもま、とりあえず、飯食い終わったら……そうだな、武器を取りに行くか」


「さきに喫茶店に行かなくていいのか?」


「こんな状態じゃ、カチコミかけられないだろ。せめて武器は欲しい。みんなの実力は知ってるけど、万が一に備えて、な。それに、気づいてたか?」


「なにをだ?」


「ポセミトールに、黒服の連中が多くなってきてる」


「そういえば、今日はやけに見るな……」


「この場合、構成員を増員して、みっちゃんを探す効率を上げている……って考えるのが妥当だろうけど……」


「なんだ? 違うのか?」


「いや、これはいい……いまは、な。ここで話す事でもない」


「あと、そうにゃ。さっき風の噂で聞いたにゃが、セバスチャンがこの街に来てるらしいにゃ」


「……は?」


「ビースト、セバスチャンって……以前、ネトリールを救ってくれた、あの、セバスチャン殿か?」


「それは知らにゃーが、ご主人のパーティの戦士担当にゃ」


「な、なんで、あいつがこんなところに来てんだよ!」


「そんにゃの、ニャーが知るわけないにゃ」


「まじかよ……」




 あいつが、ここに来ているってことは、十中八九、ユウキハナクソの差し金だろう。問題は、どのような命令で、何故このタイミングで、この街に来ているか、だ。
 ……だめだ。考えてもわからない。




「心配しにゃくても、ニャーがいるにゃが?」


「おまえはこれっぽっちも信用してないから、これから武器を取りに行くんだよ。てかおまえ、もう営業とかいかなくていいのかよ?」


「問題にゃい。すでに手持ちのトマトは、すべてぐずぐずにゃ」


「誇ってんじゃねえよ。その……、なんだ、そこらへん飛んでる虫さんとか、トマト食うだろ。その虫さんたちに営業かけて来いよ」


「嫌にゃ! にゃに言ってるにゃ! しかもそれ、食う・・ってより、たかる・・・っていうんだにゃ。……にゃんにゃ? ご主人、あんまりニャーと一緒にいたくにゃいにゃ?」


「……一緒にいたいか、いたくないか、どっちかと聞かれれば、答えはイエスだな」


「にゃはは、そんにゃにニャーと一緒にいたいのかにゃ」


「このポジティブ思考シンキングさんめ、さっさと虫さん相手に仕事してこい」


「虫さんって」


「そうだ、虫さんだ」


「……にゃにゃ。了解にゃ」




 ビーストはそう言うと、のそのそとレストランから出ていった。
 どうやら、俺の本当に伝えたかった意図は伝えられたようだ。
 あとは、あいつが、あいつの判断でどうにかするかだけど――
 ビーストがレストランから出ていくのと同時に、アーニャとユウが、席に着いた。




「あれ? ビーストさん、食事のほうはもういいのですか?」


「ああ、なんか虫に会ってくるって言ってた」


「む、虫……、ですか……」


「それよりも、アーニャ、ユウ。できるだけ早く飯食ってくれないか?」


「は、はい……構いませんが……どうされたのですか?」


「ん、まあ、それも後で言うよ。ごめんね」


「おにいちゃん」




 ユウに呼ばれて、ユウの顔を見る。
 ……どうやら、ユウは気づいているようだ。
 俺はすこしだけ、小さく頷いてみせた。




「お、おかわりはダメなのか……?」


「ああ、ダメ――」


「そ、そうなのか。ダメなのか……」


「あ、ちょ、ちょっとくらいなら……いいんじゃないかな……」


「ほんとか!?」


「ま、まあ……、でも、とりあえず、早めに頼む」


「なんだ、ユウト、さっきからどうしたのだ?」


「いや……、それは、ここを出てから言う」


「……? わかった。おかわりはやめておくよ」


「たすかるよ」

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