戦えない俺が女の子たちに守られながら魔王と勇者を倒す

水無

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「――で、どうするんだ。ユウト」




 ビト組の領地を出た俺たちは、ポセミトールの中で途方に暮れていた。
 そして途方に暮れていた俺たちは、なにかに引き寄せられるように、繁華街にある喫茶店の、二階テラス席でくつろいでいた。
 さすが都会。
 人がゴミのようだ。――じゃなくて……何もいきなり、途方に暮れていたわけではない。
 もちろん、俺には策があった。
 ビーストだ。
 ヤツの鼻は利く。いや、実際どれくらい利くかは知らないけど、まあ、人間の鼻よりは利くだろうと、思っていた。
 だから、俺は麻薬犬さながら、ビーストを麻薬猫として活用しようとしていたのだが……、どうやら、この薬はビーストにも効くことがわかった。
 みっちゃんの提供してくれた失楽園を、何倍にも希釈させ、タオルに染み込ませたうえでそれをビーストに嗅がせたのだが、それを嗅いだビーストの容態が、突如急変したのだ。
 いや、別に廃人になったとか、本来の薬物的な症状がでたとか、そういったものではなく、またたびを嗅いだ猫のように、俺に体を擦り付けてくるようになったのだ。




「あのぅ……、ビーストさん?」


「うにゃにゃーん、にゃんにゃんにゃん……ごろごろごろ……」




 ビーストは目を細め、マーキングするようにして、俺に頭や顎、背中を擦り付けている。




「おい、ユウト。どうするんだ」


「……どうするもなにも……、こいつをくっつけたまま、歩き回れないからな……。まさか、最終兵器が使えないどころか、足をひっぱる存在になるとはな……人生はほんと、どう転ぶかわからんよ……」


「……アーニャ、ユウトがなんか、いきなりそんなジジくさい事を言いだしたぞ」


「ユウトさん、若返ってください!」


「アーニャ、その励まし方もどうかと思う……て、あれ? そういえば、ユウは何も言わないのだな。ビーストがあんなにユウトにくっついてるというのに」


「うん。やっぱり猫だし。そこまでムキになる必要もないかなって……。あたしもそろそろ、おにいちゃんの迷惑になるようなことは、控えようかなって」


「……そ、そうか。じゃあ、その……紫色に変色するまで、つねっている太ももは、虫刺されかなにかなんだろうな……かゆくて仕方がないんだな」


「さて、無駄話は終わりだ。さっさと次の作戦に移るぞ」


「なんだ、あるんじゃないか作せ――」


「ぬァい! これで振出しに戻ってしまった。全くもって打つ手なしだ。ビーストがこんな調子じゃ、調査も報告もクソもないからな」


「おいおい、勝手に八方ふさがりになるな。八方ふさがるな! ミシェール殿から、これまでの売人出現場所を記した、ポセミトールの地図と、売人がこれから現れるであろう、予測をたてたポセミトールの地図、両方をもらったじゃないか。これを元に、これから張り込みをかければいいじゃないか」


「えー……、めんどくさくない? 地味だし」


「な、情けないことを言うな! ミシェールさんの頼みなのだろう! きちんとこなさないと、その……あれだ、ダメなんだぞ!?」


「よし、じゃあ、こういうのはどうだろう。四人に分かれて、その地点にはりこみをかける。それで、怪しそうなやつを見つけ次第、そいつを観察……、余裕があれば追跡だ」


「それをさっきから言っているのだが……、まあいい。やる気が出てきたのなら、そういうことにしよう」


「それで、どういたしましょう! 誰がどこに張り込みしますか!」


「ど、どうしたのだ、アーニャ……楽しそうだな」


「それはそうよ、ヴィッキー! だってわたし、いま、最高にわくわくしているのだもの!」


「理由は……まあ、聞かないでもわかるな。……よし、ユウト、さっそくわたしたちの配置を考えよう」


「甘い。……配置はもう決まってるのだよ」


「む、そうなのか? 仕事が早いのだな」


「任せとけ。ユウはここ……ポセミトールの西。麻薬取引の本命だな。ここはスラム……とまではいかないが、ポセミトールのなかでも、とりわけて治安が悪い。おまえ単独での、戦闘能力を鑑みての配置だ。文句はあるか? ないな? あるはずもないな?」


「ないよ」


「よし、じゃあ決定だな」


「いえす。まいますたぁ」


「……つぎ、アーニャは……、ここだ。東地区。ここは一番安全で、特に何も――」


「ユウトさん!」


「は、はい……なんでしょうか」


「わたしは、いちばん危険なところがいいですっ!」


「いやいや、アーニャ様をそんな、危険なところになんて……」


「ユウトさん!」


「はい」


「わたしは、いちばん危険なところがいいですっ!」




 アーニャの目は、これ以上ないほどにキラキラと輝いていた。
 なんというかもう、俺の言葉が届きそうにない。有無を言わせてくれそうにない。
 かといって、アーニャのような、可憐な幼女を戦地にほっぽり出すほど、俺の騎士道精神は腐敗していない。
 だったらどうするか。




「――じつはね、アーニャちゃん。ここは、ほんとうは、全然安全じゃなくて、ポセミトール……いや、世界で一番危険な場所なんだ。ここはもう何年も内紛状態にあって、暴力や汚い金にまみれ、それらが常時横行しているんだ。一度足を踏み入れれば最後、生きて出られる保証なんかないんだ。ほんとうはこんなところ、行かせたくないんだけど……」


「わたし、ここにしますっ!」


「おっけー、じゃあ、アーニャちゃんはここね」




 ――嘘をつくしかないだろう。
 視線を感じ、ふと横を見ると、ヴィクトーリアが俺の事をじっと見ていた。
『よくもそんな噓八百を並べられるな』という顔で、俺を見ているが、アーニャちゃんの為だ。
 そんなものは取るに足らない。何とでも言うがいいさ。




「ありがと」




 しかし、ヴィクトーリアの口から出たのは、罵りの言葉でも蔑みの言葉でもなく、感謝の言葉だった。『おまえのやり口は気に食わないけど、アーニャを気遣ってくれてありがとう。大好き』という意味だろう。




「な、ちが……、だ、だだ……、大好きなど、思ってない! 勝手に脚色するな!」




 大好きとは思っていなかったようだった。




「き、嫌いでもないが……」




 嫌いとは思っていなかったようだった。




「……次に、ヴィクトーリアはここだ。北地区」


「嫌い区!?」


「落ち着け。ここはまあ……とりたてて説明するほどのところでもない、特徴のない地区だな。人間でいえば、中肉中背で黒い目出し帽をかぶった、黒ずくめの男で、将来の夢は強盗王――」


「特徴がないというか、むしろ特徴の塊じゃないか! 特徴の塊過ぎて、もはや無個性じゃないか! ……あれ? 無個性ってなんだっけ、特徴ってなんだっけ? なんかわからなくなってきたぞ!」


「……気が済んだか?」


「うん。ありがとう。最後はユウトだな。話の流れ的に南地区か?」


「いや、俺はここだ」


「……は?」


「俺はここを見張っているから、みんなは頑張ってくれ」


「いやいや、ここを見張るっていったって、喫茶店じゃないか。おまえは一体、何を見張るんだ? マスターのコーヒーの淹れ方か?」


「ああ、それもあるが……」


「あるの!?」


「ちがうちがう。よくよく考えてくれ。こんな状態のビーストをよ、おまえは放っておいて、なにかあったら責任取れんのかァ!!」


「ひぅ!?」


「それでも、仲間かよ!? 見損なったぜ!! まったくよぅ!」


「い、いや……それは……その……、そんなつもりはなかったんだ……」


「ああ!? 言い訳する前に、ビーストさんになにか言うことがあるだろうが! 謝罪すべきことがあるだろうが!」


「ごめ……ごめん、なさい……」


「よし、ということで、決して深追いはせず、何かあったらすぐに連絡すること! 報告! 連絡! 相談! これ、鉄則だから。わかったか!」


「ひゃ、ひゃいぃ……」


「解散!」




 俺が宣言すると、全員が喫茶店から、自分の持ち場へと散っていった。
 すこしイジワルが過ぎたが、まあ、大丈夫だろう。
 本命はユウだし。
 たぶん、売人もユウのところに現れる。
 なぜかって?
 勘です。
 それにあいつなら、俺の言う通りに、臨機応変に対応してくれるだろうしな。
 なんやかんやで要領のいい奴ではある。
 でも、これでもし、ヴィクトーリアのところにいたら……、うん、たらればの話はやめておこうか。
 あいつもあいつで、うまいことやってくれると思う。
 問題はアーニャちゃんだけど、アーニャちゃんの場合は……逆に売人が可哀想なことになってそうだな……。
 とりあえず俺は、飲んでいた『ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメルソースモカソースランバチップチョコレートクリームフラペチーノ』をおかわりすべく、店員を呼びつけようと手を上げる。


「すみませー……」




 しかし、俺はそこで口をつぐんでしまう。妙なものを視界の隅に捉えたからだ。
 なんというか、胡散臭さマックスの男が。俺の席から机ふたつ挟んで『ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメル ソースモカソースランバチップチョコレートクリームフラペチーノ』を、泥水のようにジュルルルルルルル……と、啜っていた。
 何故、俺は同じ『ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメル ソースモカソースランバチップチョコレートクリームフラペチーノ』を飲んでいるその男には、シンパシーを感じずに、胡散臭さを感じたのかというと、その男が目出し帽に、全身真っ黒で、ピッチピチのスーツに身を包んでいたからだ。
 確かに俺も、布を顔面にグルグル巻きにしているわけだけど、さすがに、そこまで変態じゃない。
 というか、なんなんだ、あのピッチピチのスーツは。
 一言でいうと、すっごい気持ちが悪い。
 だけど、なぜかその男から目を離すこともできない。
 ホモではない。
 やがて男は俺の視線に気が付いたのか、『ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメル ソースモカソースランバチップチョコレートクリームフラペチーノ』を手に、俺の席、真正面へと移ってきた。
 あまりの出来事に、俺は面食らってしまい、おもわず狼狽えてしまう。




「な、なんなんですか、あなた――」


失楽園・・・……グラム、五百だ。いくらほしい?」

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