戦えない俺が女の子たちに守られながら魔王と勇者を倒す

水無

みっちゃん涙目



 ビト組執務室。
 俺とみっちゃんが話をしていた場所。
 そこで俺を含め、俺のパーティ全員が、腕組みをしているみっちゃんの前で、膝を折っていた。




「ごめん、みっちゃん。俺の指示のせいだ……。悪い……」


「申し訳にゃい。三人から、ご主人がピンチって聞かされて……悪いのは、マジでそこのご主人にゃ」


「え?」


「すみません、わたしが皆さんを止めるべきでした……、でも、ユウトさんも悪いと思います」


「ええ?」


「以下同文……」


「えええ?」


「みっちゃん。ひさしぶり」


「ええええ!?」


「にゃに言ってるにゃ、妹! 打ち合わせ通り、ご主人が悪いことを、前面におしださにゃいと――はっ!?」


「なるほどなるほど、ビーストさんはそういう腹積もりなわけですか……」


「も、申し訳ございません、ユウトさん。その……、ノらないと、泣く、と言われたのもので……」


「あ!? ズリー! ズリーにゃ!」


「いいんですよ、アーニャ様は。むしろご褒美です。断罪されるべきは、ここの猫です」


「お、落ち着くにゃ、ご主人……」


「ユウちゃん久しぶり。おっきくなったね」


「……みっちゃんもさぁ……」


「うん、ま。しょうがないよ。今度から気を付けてね」


「え、そんなんでいいの? もっとこう……、なんかないの? 猫の姿焼きとか、いいの?」


「いいよいいよ、私、ベジタリアンだから」


「そういう問題にゃ!?」


「くすくす……それとも、なあに? ユウ君はお姉ちゃんに何しかしてほしいの?」


「は、はあ!? ちっげえーよ! ばっかじゃねーの!?」


「……ユウト。こんなときにまで、そういう、フザケたことを言わないでくれ……」


「ゆ、ユウトさん……」


「ご主人、さすがに空気を読むにゃ」


「おにいちゃん、かっこいい」


「あれ? 俺って、そんなに許されないようなことを口走っちゃったの? マジで?」


「まあ、とりあえず、組の皆には『ゲリラライブ』って事にしておいたから」


「そんなんじゃ誤魔化せなくない? だいたいなに? なんかライブしてたの? 奏でてました? ほんとに大丈夫?」


「ん……。たぶん大丈夫だと思うよ」


「まじで!?」


「ほんとに不定期にゲリラってるからね」


「ゲリラってるって何?」


「何事も想定、訓練、実践、の繰り返しだよ」


「ライブを?」


「うん」


「……ここって、ヤクザだよね? 音楽関係の会社とかじゃないよね?」


「それにしても、わたし、ビックリしました。ユウトさんにお姉さんがいらしたなんて……」


「いや、だからちがうって。幼馴染のお姉さんね。別に血は繋がってないから」


「そうなんですか? でもわたし、こういう強い方に憧れてしまいます」


「いや……、単純な腕っぷしなら、大抵の人間は勝てないんじゃないかな?」


「それにしても、ニャーもビックリしたにゃ。ご主人にお姉ちゃんがいたにゃんて……」


「おまえさ、話聞いてるか?」


「それにしても、あたしもビックリしたよ。おにいちゃんにお姉ちゃんがいたなんて……」


「おまえに至っては、なにが言いたいのか理解できんわ。……おにいちゃん、おまえのことわからんわ。マジで。……それで、何でみっちゃんも顔紅くしてるんだろうね」


「ユウト! わたしはどうやってボケたらいいんだ!? 一通りやられてしまったんだが!?」


「知らねーよ! おまえはトマトでもかじっとけ!」


「ゆーとー!」


「無視無視」


「あはは……賑やかで、なかなか楽しそうだね……」


「みっちゃん、それ皮肉?」


「ちがうよ、ほんとにそう思ってるの。えっと、あの筆頭勇者……だっけ? あそこから脱退したって、ユウ君から聞いたときは、ビックリしたんだからね?」


「ご、ごめん」




 みっちゃんでも知らないってことは、やっぱりユウキヘタレは、俺が脱退したことを公表してないのか……? いや、結局、最終的にその判断を下すのは、勇者の酒場だ。
 だからユウキへなちょこがどうしたかは、今の時点では何とも言えないが……、とにかく、世間ではユウトはまだ、ユウキのパーティの一員ってことになってる、ということだ。
 これが今の俺にとって吉と出るか凶と出るか……、それはこれからの行動次第だな。




「どうしたの? ユウ君?」


「……いや、なんでもないよ」


「それで、ユウト。本当にその、売人探しというのを手伝うのか?」


「ああ、いまは人手が必要だ。そのためならパシリくらいならするさ」


「急な話でごめんね、ユウ君のお仲間さん」


「そういうことだ。俺の決意は固い。……なに、無理強いするつもりはない。参加したいやつだけでいい。ただ、俺的には全員参加してほしい。言っておくが、これは決して怖いからではないぞ」


「あたしはおにいちゃんが言うなら、なんでもするよ」


「ああ、おまえには拒否権はないから。最初から頭数に入れてるから」


「ありがとうおにいちゃん」


「いやいや、なぜそこで礼を言うのだ。はあ……、いや、ユウが言ったように何でもはしないが、装備を取り返すためなんだろ? 無論、協力は惜しまない」


「ビーストはどうだ?」


「ニャーは……手伝いたいのは、ヤマヤマなんにゃが……」




 やっぱりか。
 ビーストは、キバト産トマトのプロモーション活動か、売人探し。どっちを優先すべきか迷っている。
 ここらへんの忠誠心はこいつ、猫っていうよりも、犬ぽいな。
 ……だったらここは、ちょっと背中を押してみるか。




「なあ、みっちゃん。みっちゃんの組ってさ、このポセミトールに、飲食店かなんか持ってなかった?」


「いきなりだね……。うーん、飲食店ねぇ……、あるにはあるけど、どうかしたの?」


「じつは――」









 俺は装備品探しだけではなく、みっちゃんに、ビーストの手伝いも頼んでしまった。
 本来、俺はこのような、厚顔無恥の極みのような頼みはしないのだが、今回の件においては、それほどまでにビーストの協力が不可欠なのだ。
 面の皮の厚さを気にするよりも、俺は作戦の成功率の底上げを図ったのだ。




「……まるほどね。キバト村でとれたトマトを、組が経営してるレストランで使ってほしいと……」


「お願いにゃ。アネゴ。ニャーはいい加減、トマトの呪いから解き放たれたいのにゃ」


「……おまえ、そんな風に思ってたのかよ……」




 すすんでやってるから、てっきり楽しんでるのかと……。




「いいよ」


「軽っ!?」


「いいのにゃ?」


「うん。というか、こっちからお願いしたいくらいだよ。キバトのトマトって有名だし。……まあ、一時、いろいろとあったみたいだけど、こうやって営業しに来るくらいだから、味は元通りってことで、いいんだよね?」


「にゃ。……あ、にゃんにゃらアネゴ、おひとつどうにゃ?」




 そういって、ビーストが差し出した手のひらには、ぐずぐずに潰れたトマトが、可哀想に乗っかっていた。
 可哀想なトマト。
 もし、このトマトに芸術的価値があるのだとすれば、題名は可哀想なトマトだろう。
 ちなみに、芸術点は零点、零点、零点の最低点。
 もはや、人様の前に出していいものではない。
 そして間違っても、これから営業をかけようとしている相手になど、もってのほかである。
 場合によっては、キレられても文句は言えない。
 そのトマトと同じようにぐずぐずにされても、文句は言えない。
 ……でも、ビーストはみっちゃんの顔色を窺うように、不安げな表情を浮かべていた。
 だからこいつは、決して、みっちゃんをおちょくってるワケではないのだ。
 こいつビーストは真剣に、潰れたトマトを、みっちゃんに食べさせようとしているのだ。
 なんて恐ろしいやつだ。
 みっちゃんもそれを察したのか、芸術点が皆無……というか、むしろマイナスのトマトを、ビーストの掌から、おそるおそる受け取った。




「え、と……、食べないのも悪いから……じゃ、じゃあ……いただき……ます……」


「わくわく、どきどき、にゃんにゃん」




 ……何を期待しているのだろうか。
 ビーストは、奇妙なオノマトペを口から発し、みっちゃんの一挙手一投足に注視した。
 俺たち四人も、自然と二人のやり取りから目が離せなくなっていた。
 みっちゃんは意を決したのか、ごくりと喉を鳴らすと、ぐずぐずの、トマトだった・・・・・・ものを、口の中へと押し込んだ。




「もにゅもにゅもにゅ……」


「……どうにゃ? うまいにゃ?」


「ごくん……」




 沈黙。
 はたして、みっちゃんはいま、何を考えているのだろうか。
 目の前の猫を串刺しにしてやりたいのか、はたまた、目の前の猫を串刺しにしてやりたいのか。
 その場にいる全員の視線を一身に浴び、みっちゃんは口元を拭いながら答えた。




「う、うん、わかんないや」




 それはそうだ。
 いくらキバトのトマトが美味しかったとしても、あんなにぐずぐずだと、味もクソもない。
 わかんない、と言ってはいるが、正直吐き出したいほどまずいのだろう。
 ひきつったように笑っている顔が、それを物語っていた。




「そ、そんにゃあ……」


「あ、いや、でも、なんんというか、ほのかに感じる甘みとかもあってさ、食べづらくはなかったよ」


「ほんとにゃ?」


「う、うん……なんというか、優しさと、切なさと、心強さを兼ね備えているような、そんな人間になりたいです」


「……アネゴ?」


「ああ、ごめんごめん。なんか、失神しちゃってたみたい」


「立ったままで!?」


「ちなみに、このトマトって、完全体じゃないんだよね? まだまだあと、三段階くらい変身を残してるんだよね?」


「そうにゃ。ほんとはもうちょっと、なんというか……サムバディトゥナイしてる感じで……」


「おい、ビースト。おまえ、トマトを売る気はあるんだよな?」


「あったりまえにゃ! にゃんてこと言うにゃ、ご主人」


「……うん、わかった。とりあえず、私なりに、それとなく働きかけてみるよ」




 やっぱりというか、なんというか……、みっちゃんの口から出たのは、限りなく、アウトに近いアウトだった。




「ありがとにゃ、アネゴ! さっすがご主人の幼馴染なのにゃ!」


「う、うん……」




 みっちゃんは、そう言って感謝するビーストとは、決して、目を合わそうとはしなかった。
 ……てか、なんか、みっちゃん混乱してない?
 わけのわからんトマト食わされて、頭おかしくなってない?
 これ以上、ビーストと絡ませておくと、変になってしまうかもしれない。




「……てことで、とりあえず、さっそく調査しに行くわ……じゃあね、みっちゃん」


「吉報を期待してるよ」


「うにゃにゃにゃーん」

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