戦えない俺が女の子たちに守られながら魔王と勇者を倒す

水無

時限救出装置



 俺はみっちゃんに、ユウキ三下のパーティを抜けた後、そして今に至るまでを話した。
 みっちゃんは最初から最後まで、静かに俺の話に耳を傾けてくれた。
 俺があらかた話し終わると、みっちゃんは小さく息を吐き、手元のカップに少しだけ口をつけた。




「……なるほどね。大変だったんだね、ユウ君」


「大変……ちゃあ、大変だったかもね。今も実際、装備もなんもない状態だし。でもまあ、あの三人と旅するのはやっぱり楽しいよ」


「いいなあ……、私にはできないもんね……」


「あ、ごめん、そういう意味で言ったんじゃないんだ」


「いいよいいよ、わかってるから。ちなみに、装備の話なんだけどね……、どこに売ったのかは、わかってるの?」


「え?」


「えっとね、ポセミトールって、ほら、ビト組とかいる場所だしさ。武器の流通も結構頻繁に行われててね、対魔物用から……まあ、対人用まで。それに最近は銃っていう、ネトリール産の武器なんかも流通してて……、あ、これは今は関係ないね。……それで、けっこうな数の武器屋さんがここに集まってるの」


「そうだったんだ……」


「だから、闇雲に探すってのは、あんまりお勧めできないかなって……。その売人が誰で、どこと契約しているか――とかだったら、探すのもラクなんだけどね……」


「そうか……そうだね。たしかに、そんなに数があったんじゃ、見つけるのは時間がかかるし、もし売っている店を見つかったとしても、まだ残っているかわからない……。そのうえ、俺の持ってた杖だけは、マジで一級品だからね……」




 思ったよりも、これはかなり面倒なことになったな……。
 こんなことになるんだったら、キバト村の、あのおっさんたちを不審に思った時点で、泳がせるんじゃなくて、なにか手を打っておいたほうが良かったかもしれない。
 どのみち、いまさら悔やんでも取り返せないけど……。
 じゃあ、これから、どうするかだな。
 地道に探してもダメ。ヒントを得ようにも、ここはあまり詳しくない――




「……ねえ、ユウ君。取引、しない?」


「え?」




 取引・・
 みっちゃんがその言葉を口にする時だけ、部屋の空気が変わった。
 ピン、と張り詰めるような空気は、さすがはビト組頭目だと思う反面、ほんのすこしだけ寂しかった。




「……どういう取引?」


「私ってほら、このポセミトールについては、ユウ君よりも詳しいじゃん」


「ん、まあ、ビト組の頭目だしね……」


「だから、ユウ君が探すよりも早く、ユウ君たちの件を片付けられると思うの。人手も、コネもあるしね」


「たしかに。じゃあ……その代わりに、みっちゃんの出す条件をクリアしてほしいってこと?」


「うん。ほんとはユウ君が困ってる事なんだから、無償でやってあげたいんだけど……、私の仕事って、面子とか体面を、すごく気にする職業だから……」


「気にしないでいいよ。ちゃんと理解してるから。こういうことに関しては、きちんとギブアンドテイクでいこう」


「ごめんね。ユウ君」


「いいよいいよ。それで、俺は何をしたらいいの? ……でもまあ、できれば、あんまり危険なことはやりたくないんだけどね……運び屋とかは勘弁……」


「『失楽園』……て知ってる?」


「……いや?」


「ユウ君さ、ここに来る前に一回、チンピラ・・・・って名乗る人たちに出会わなかった?」


「ああ、うん。会ったけど……」


「どうだった?」


「どうだった……って、なにが?」


「なんか、おかしなことや、変なトコとかなかった?」


「んー……まあ、おかしな奴や変な奴じゃないと、人の馬車襲撃しようなんて思わないよね」


「えー? ちょっと、もう、そういうことじゃないってば。なんというかさ、もっと具体的に、身体的におかしいところはなかった?」


「身体的……か……」




 そう呟いて、俺は記憶を辿ってみる。
 あのときは散々だった。いきなり馬が死んだと思ったら、大勢のぶっ飛んだやつらに囲まれて……、ぶっ飛んだやつ……。
 そういえば……、あいつら、たしかにおかしかったな。
 あの印象はなんというか――




「トリップしてた?」


「うん。ユウ君がそう感じたってことは、やっぱりそうだね。その印象は間違ってないと思う」


「あ。てことは、連中やっぱり……?」


「そう。薬を服用してたんだと思う」


「薬って、やっぱりそういう……?」


「うん。薬物だよ。その薬物の名前は『失楽園』。名前の通り、これを摂取すると、まるで楽園に昇るかのような多幸感、快感が脳を支配するの。服用者はこの間、まともな判断や思考ができなくなる。そのうえ、自分を律する感覚もおかしくなって、自身の行動が攻撃的になり、周りにいる人間に害を及ぼすようになるの」


「そんなもんが……、ポセミトールに?」


「うん。でも、失楽園が真に恐ろしいといわれているのは、その副作用なの。楽園を失う……つまり、『失楽園』の効果が切れると、想像を絶するほどの虚脱感や虚無感に苛まれるの。人のよっては、一度それ・・を服用した反動だけで、ショック死してしまうケースもあるくらい」


「だから、失楽園」


「……それゆえに、依存性も高く、何度も何度も、繰り返し服用する人が多いの。副作用で死んだ人を除いて、失楽園を二回以上にわたって、摂取した人の割合は、圧巻の十割」


「じゅ……十割って……!? 全員!?」


「そう。どんな人も、失楽園がもたらす、二度目の誘惑には勝てなかった」


「す、すさまじいな……。それで、その薬物がどうかしたの? も、もしかして、それを俺に売りさばけとか――」


「もう! 怒るよ、ユウ君! 私がユウ君にそんなこと、頼むハズないじゃない!」


「そ、そだよね……」




 みっちゃんのは、あくまで親が子供を軽く叱る程度のだったけど、どことなく迫力があり、おもわずたじろいでしまった。




「じゃ、じゃあ……取引っていうのは……?」


「薬の出どころを探してほしいの」


「探して……どうするの?」


「生産者をたたくの」


「独占するために?」


「違うってば。なんでそうなるかな……」


「……ごめん。でも、みっちゃんにこんな事、あんまり言いたくないんだけど、ヤクザって、こういう薬を売ったりして、その収入を活動の資金源とかにしてるんじゃないの?」


「あー……そういうことね。うん、昔……お父さんの代はね、ビト組でも薬を売ってたの。成人男性限定でね」


「男限定で……?」


「そう。……でも、お父さんは、本当は売ること自体、したくなかったみたい」


「そりゃ……なんで?」


「この件で一回、他の組と揉めたことがあるの。……そして、その時に死んだのが、ソン兄さんなんだ。お父さんはこれ以上ウチから、犠牲を出さないように、飲みたくない条件を飲んだの。条件付きでね」


「その条件が、成人男性以外には売らないってこと……?」


「そういうこと。そこだけは譲らないって……」


「でも、今回服用してたのって、明らかにいい歳のおっさんだったよね。……もしかして、女子供の手にも渡ってるとか?」


「それはわからない。……けど、今回の件は薬が薬だからね。さっきも言ったけど、ほんとうにヤバいんだよ。これは、いままで出回っているものよりも、遥かにその中毒性、致死性を上回っているの。そこが問題なの」


「失楽園だよね……」


「そう」


「うーん、話はだいたいわかったけど、俺にそれが務まるかな……。みっちゃんがやったほうが、よくない?」


「私たちはね、ほら、面が割れてるからさ。やろうと思っても難しいんだ。逆にこういうのは、ビト組とは無関係の……、それも一般人のほうが動きやすいんだよね」


「なるほど、たしかに……」


「もちろん、手を下すのは私たちがやるよ。ユウ君はただ、調査と報告だけしてくれればいいから。……とはいっても、ユウ君に今回お願いしてる任務も、決して安全とは言えないんだけどね。それでも、やってくれるかな?」


「なあ、それってべつに、俺だけに対しての条件じゃないんだよね?」


「どういうこと?」


「その調査及び報告って、俺単独でやれってことじゃないよね? 仲間とかも、一緒に調査にあたってもいいんだよね」


「もちろんだよ。ユウ君のとこのパーティの人でも、なんなら、調査と報告さえしてくれるんだったら、知らない人でもいいよ」




 情報の漏洩を恐れていない。
 ということは、それほどまでに、ポセミトール中に、その薬物が浸透しているということ。みっちゃんがここまで取り乱しているということは、たぶん、そういうことだろう。




「わかった。その条件、飲むよ」


「取引成立、だね。あとはユウ君の件だけど……そうだね、こっちで探しておくから、盗品の種類とか、数なんかを教えてもらえると助かるかな……」


「盗まれたのは、俺たちの装備品だね。それで、杖ふたつと――」


「ちょっと待って、なんか外、騒がしくない……?」


「え、なにが――」




 バァン!
 突然のデカい音に、俺は座りながらにして飛び上がってしまう。
 外していた隠者の布を再び顔面に巻き直しながら、俺は振り返った。




「コラァ! 客の前だよ! ノックしてから入ってきなァ!」




 みっちゃんの組長モード。
 声も表情も、一瞬のうちに険しくなる。
 部屋に入ってきたのは、テッシオさんではなく、すこし中年のおっさんだった。
 服装はもう見慣れた黒服。




「マザー!! 敵襲です!!」


「なにィ……? どこの組だ?」


「いえ、その、組というかなんというか……」


「なんだい。さっさと言いな!」


「女三人と、魔物一匹です! 数は多くはないんですが、ドエライくらい強くて……、こちらではもう、止めることは……できません!」




 女三人と……、魔物一匹……?
 ちょっと待てよ、心当たりありまくりなんだけど……。
 むしろ、ありまくりで、ここから一目散に逃げだしたいんだけど。
 何やってくれてんの? あの子たち。マジで。
 いや、指示出したのは俺だけどさ、なんというか、ほんともう……あれ?
 ……あの子たちの悪いとこひとつもなくね?
 この状況作りだしたの、完全に俺じゃん。
 悪いの俺じゃん。早とちりした俺が悪いんじゃん。




「しかもそいつら、『おにいちゃんを解放しろ!』とか、『ご主人の仇にゃあ!』とかわけのわからないことを言ってるんです! こっちは知らない、心当たりはないって言ってるんですが、『そんなはずはない』の一点張りで……、マザーはなにか、心当たりはありますか……?」


「こ、心当たりは……」




 みっちゃんが、困ったような目で俺を見ている。
 やばいな。みっちゃんはもうわかってしまったらしい。
 帰りたい。
 けど、だめだよな。
 ……俺はみっちゃんに向かって、頷いてみせた。




「……わかった。あたしと、このお客さんが行って、話つけてくるよ。そいつらがいるところに案内しな」


「へい!」

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