戦えない俺が女の子たちに守られながら魔王と勇者を倒す

水無

イノセントビースト



 森の中、ビーストの洞窟の玄関口。
 何が悲しくて、俺は草むらの上で正座しなくてはいかんのか。
 目の前には、なんかもう、なんかすごい形相でビーストを見下ろしているユウがいる。修羅っていうのは、多分、アレを指すのだろう。
 しかし、当のビーストはどこ吹く風。
 ユウにむんずと後ろ首を掴まれながらも、時折、自分の手の甲を舐め、それを頭へ擦りつけたりしていた。
 毛づくろいをしているのだろうか……。
 なんというかもう、エンドビーストというか、エンドキャットである。
 そういえばこいつ、猫の魔物だったんだっけ。




「……さて、話してもらおうか、ユウト」


「ごめんなさい、ユウトさん。ですがやはり、ここは話は聞くのが先決かと……」


「いいよいいよ。べつに隠してるってわけじゃないし、それにこの先、こういったケースもあるかもしれないからな」


「こういったケース……なんだ、それは。どういうことだ」


「……いいか、ビーストの正体についてだが、こいつは魔物だ」


「……バカにしてるのか?」


「待て待て、きちんと最後まで、俺の話を聞け。魔物と行っても、低級の、取るに足らない、冒険者にとって、なんら脅威に成り得ない程度の魔物だ」


「低級!? こいつが……、エンドビーストがか?」


「そ、それも、取るに足らない……ですか?」




 アーニャとヴィクトーリアが声をあげて驚いた。
 それはそうだろう。
 特にエンドドラゴンとも、エンドビーストとも戦ったアーニャは納得できないだろう。
 実際、こいつがさきほど見せた動きは、今までの、どの魔物よりも素早く、強力なものだった。




「信じられないと思うけど、ただこの場合は、だけどな」


「あの、すまない、言っていることがわからない」


「ほんにゃら、ニャーから説明――」


「発情猫は黙ってて」


「にゃにゃん、おくちにチャックだにゃん」


「……俺がユウキドグサレ野郎と一緒に、以前、障害となり得る冒険者……つまり、勇者候補たちを、次々と闇に葬り去ったことは覚えてるよな?」


「なんか、その言い方だと、誇っているみたいだな……、反省しているのか、まったく」


「うん、まあ、反省してるよ」


「鼻をほじりながら言うな!」


「まあ、とにかく手を変え品を変え、ありとあらゆる手段で妨害したわけですよ。俺たちは。……言っても、あくまで、法に触れない程度で、だけどね」


「胡散臭いな。ちなみに、それは本当なのか?」


「………………」


「な、なぜ、そこで黙る!?」


「………………」


「なぜ、そんな何とも言えない顔でわたしを視る!? わ……わかったわかった。これでは話が進まない。信じるよ……」


「……それで、早い話がそこの猫も、その工作の一部だったってことだよ」


「えーっと……工作、ですか……?」


「もっと直接的な表現で言ってもらえると助かる」


「低級の猫の魔物を! エンド級の魔物になるまで! 付与魔法かけまくって! 勇者候補たちに! 襲わせました!」


「うわー……」


「な、なんということでしょう」


「したたかだね、おにいちゃん」




 ヴィクトーリアは俺を、海岸で干からびたワカメを見るような目で見て、アーニャは驚きが隠せないといった様子。
 ユウについてはノーコメントでお願いします。




「……ちなみに、さっき言ったこういうケースがあるかもってのは、こんなかんじで誕生したビーストが他にもいるってことだ」


「おいおい……一体何匹いるんだ?」


「いち、にー、さん、しー……まあ、思い当たるだけでも、……結構いる」


「おま……数えるのを途中で放棄したな!? ……いや、それほどまでにエンド級の魔物が、人里に解き放たれているということか。なんということだ。いや、なんというやつだ!」


「んにゃ、あとあと、ニャーが補足説明するとにゃ。ニャーみたいに、突如発生したエンド級の魔物は、全世界を巻き込んだ国際問題にまで発展してるのにゃ。それはエンド級の魔物が世界各国で猛威を振るい、その生態系に多大な影響を与えているからにゃ。しかもしかも、そのうえ、ニャーたちを退治できる冒険者とにゃってくると、本当に一握りなのにゃ。そして、ご主人一行は、そんな一握りな冒険者たちを消してきたのにゃ。にゃからもう、世界は大パニック。勇者の酒場ギルドは混乱を恐れて、エンド級の魔物を、『自然発生・・・・して出来た天災』。つまり、誰かに創られた魔物じゃなく、あくまで自然に発生した魔物として定義してるんにゃが……、裏ではその人口エンド級魔物を創った首謀者を探していると、もっぱらの噂なのにゃ」


「うん。なんでいらんことべらべらと補足説明するかな、キミは」


「にゃはは、ほめるでにゃい。ご主人のためにゃら、にゃんだってやるんにゃよ」


「おめーはやらなくていい事までやってんだよ!」


「つ、つまりアレか? ドラニクスでアーニャとユウトが戦ったエンドドラゴンは元は……」


「いやいや、ちがうちがう。あれは紛れもなく自然発生……というか、魔王サイドの魔物だ。言ったろ、勇者の酒場は人間にはおよそ対処しきれない魔物を、エンド級って呼ぶって。たまたま俺の強化した魔物が、エンド級に名を連ねてるってだけだ。なんでもかんでも俺のせいにされたら、たまったもんじゃないからな」


「な、なんだかもう、話が大きすぎて……、わたしにはついていけないです……」


「……なあ、ユウト。もうおまえが大人しく捕まれば、この世界はいくらか平和になるんじゃないのか?」


「ば、バカなこと言うな! 俺が捕まったら、誰が魔王を倒すんだよ!」


「ユウとか?」


「ぐぬぬ……! 一理あるが……おい、ユウ!」


「なあに、おにいちゃん?」


「ユウはお兄ちゃんがいなくなると寂しいよな? な? な!?」


「ううん」


「ファ!?」


「おにいちゃんが捕まったら、あたしも一緒に捕まるからね。おにいちゃんに寂しい思いはさせないんだよ」


「ほ……、ほらなぁ!? どっちにしろ、俺を捕まえれば、勇者の血筋は絶たれるんだよ! いーのかな? そんなことして、いーのかな?」


「ぐむむむ……、勇者も魔王も、ホントどうしようもないな」


「よ、よりによって、魔王と天秤にかけるんすか……ちょっとショックっす……」


「安心してください、ユウトさん。ヴィッキーも本気では言っていないですよ」


「いやいや、アーニャ様。勘違いしないでもらいたい。そもそも、この法案の立案者は、かの極悪勇者こと、ユウキゴミ野郎なのだ。俺はただ、ヤツに利用されただけに過ぎない、憐れな子羊なのです……ううう……」


「う、うわー……」


「な、なんという……、ことでしょう……」


「あいつはころすあいつはころすあいつはころすあいつはころすあいつはころすあいつはころすあいつはころすあいつはころすあいつはあいつはころすあいつはころすあいつはころすあいつはころすあいつはころすあいつはころすあいつはころす……」




 ヴィクトーリアは浜辺に打ち上げられたヒトデを見るような目で俺を見て、アーニャは真剣に俺を憐れんでいる。
 ユウに関してはもうほんと……、なんなんだ、おまえ。




「……およよよよ……、散々利用された挙句、捨てられたぼくちんは哀しいのです……」


「んにゃにゃ? でもご主人ってば、それ作戦聞かされたとき、結構ノリノリ――むむむ……!?」




 俺は正座から立ち上がり、急いでビーストの口を手のひらで塞いだ。
 さっきから何を言い出すんだ、こいつは! この場面で!
 俺を貶めたいのか、はたまた、貶めたいのか!!




「おいユウト、なにかビーストが言いかけたけど……、なんなんだ? ノリ……?」


「い、いや、違うんだよ。ノリ……のり弁食いたいって言うからさ! こいつ! いまの状況で、のり弁食いたいなんて言うか? 空気を読め! ……て、思って、口塞いだんだよ。ははは……」


「そ、そうか……? なんか嘘っぽいけど……。ところで、そいつはどうするんだ? いま世界各地で起こっている、エンド級魔物事件の一端だろ? ここで野放しにしておくことは、さすがにあまり、よろしくないんじゃないか? 実際、キバト村も被害に遭ってるし」


「……まあ、そうだな。けど、どうしたもんか……『自害せよ』なんて、言えるはずもないからな」


「それにはわたしも反対だ。……それに、見たところ、おまえの言うことは訊くみたいだけど……?」


「にゃんにゃん。ご主人の言うことなら、なんだって聞くにゃよ」


「ま、まじで!? エロい事でも……!?」


「もちろ――」


「やめろユウト。目がやばい」


「あたしも何でも聞くよ、おにいちゃん」


「あ、結構す……」


「だから、なんでも聞くんだったら、ボランティアなり、なんなりに従事させてやればいいんじゃないのか? 幸い、体は丈夫そうだし」


「……それもそうだな。でもま、とりあえずまずは、俺らの装備品と今まで冒険者たちから奪ってきた装備を返せ。ビースト」


「にゃー……?」




 ビーストは反省したのか、困ったような顔で俺を見上げてきた。
 なんてこった。
 撫でてやろうか、こいつ。




「ど、どうした? 早く装備品を……」


「ご主人……、そのー……、さっきから何を言っているのか、まったくわからんのにゃあ……」


「いや、べつにムズカシイ事を言ってるわけじゃないだろ。ただ、盗んだものを返せって言ってるんだよ。あと、これ以上、キバトの村の人たちに関わるな。脅すな」


「んー……、つまり、ニャーがご主人たちの物を盗ったって、言ってるのかにゃ?」


「そうだよ。それ以外に何があるんだよ」


「残念にゃが……、ニャーのところには、そんなものなんてないにゃ」


「……はい?」




 ない……?
 ウソをついているのか?
 いや、今こいつが、この場面で、俺たちに嘘をつくメリットってあるのか?
 第一、そんなことをしても、すぐにばれる。
 ……ということは、こいつは本当に村人からの献上品やそれらを受け取っていない……?
 それどころか、村を脅したりなんかもしていない……?




「それと、村のトマトを盗んだのは、村に着いて、ほんとうにお腹がすいて死にそうだった、最初の一回きりだにゃ。それ以降は盗んでないにゃよ? 今は親切な村の人たちが、大量のトマトをくれるのにゃ」


「おいおい、ちょっとまて……、ユウト、さっきからビーストは何を言っているんだ? この期に及んで、わたしたちを騙そうとしているのか?」


「にゃにゃー! ご主人を騙すわけないにゃ! にゃんにゃら、ニャーん家を見てくかにゃあ?」


「ああ、上等じゃないか。見せてもらおう」


「いや、いい。ヴィクトーリア、やめろ」


「な、なにゆえ……?」


「……やっぱりな。少し、おかしいと思ったんだ」


「どうかしたの、おにいちゃん」


「とにかく、村に戻るぞ。話はそれからだ」


「にゃにゃにゃ? ニャーはどうしたらいいにゃ?」


「おまえも一緒に来い」


「うにゃにゃーん、了解にゃー!」

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