戦えない俺が女の子たちに守られながら魔王と勇者を倒す

水無

トマトの錬金術師



 えっと、いまヴィクトーリアさん、なんて言いました?
 タタカエナイ? なにそれ、ジョーク? ネトリールジョークかな?
 はははは……、面白くない。




「そういうことだ。ヴィクトーリアさんは戦えない。……てかおまえ、ヴィクトーリアさんに透視眼を使ってこなかったのか?」


「そりゃそうだろ。野郎に使うのなんてなんの抵抗もないけど、女の子だぞ? パクられたらどうすんだよ。もう牢屋なんてこりごりだし」


「はあ? 同じパーティなんだから、ある程度は仕方なくねーか?」


「でたよ変態発言。軽蔑していーぞ、ヴィクトーリア」


「軽蔑する」


「えぇ……」


「それにしても、ヴィクトーリア、マジか!? 戦えないの!?」


「う……す、すまん。ずっと言おう言おうと思ってたんだが、ついぞ言い出す機会がなかった。ほんとうにすまない」


「いや、でも、ほら……、え? じゃあなんで、騎士みたいな鎧着てるの?」


「これはその……なんというか、もはやただの護身用というか……」


「まじか……ちなみに、戦えないって言っても、どれくらい戦えないんだ?」


「……ジマハリにいたときは全く戦っていなかった。あのときわたしは、ただそこの周辺住民の誘導をしていただけだ」


「……な、なるほど、だからあのとき、ヴィクトーリアは全くの無傷だったのか……」




 でも、よくよく考えてみたら、得心がいく。二人に会ったドラニクスからアムダの神殿まで、ヴィクトーリアが攻撃をしているところなんて、見た記憶がない。
 転職の話であんなに取り乱してたのも、こういうことだったのか……。




「……あ、あのな、ユウト?」


「なんだ?」


「ここへ来て、こんなことを頼むのもヘンなのだが、どうかわたしを、このままこのパーティに置いてはくれないだろうか?」


「え?」


「す、すまない。でも、いまわたしがここを追い出されても、行くところはないんだ。それと、アーニャとは離れたくない。ただの我儘かもしれないけど……」




 俺はそう言われて、アーニャ(ぽいスライム)を見てみた。
 アーニャはただ、ヴィクトーリアのまわりで、気遣うようにプルプル震えている。




「……あ、あのさ、ヴィクトーリア。べつに、いまさら追い出そうなんて、思ってないんだけど……」


「……え?」




 いや、むしろ、こっちが「え?」だわ。
 なに? 俺って、いつからそんな容赦ない非道なキャラになってたの?
 使えないから、すぐクビって? どこのワンマン経営者ですか。ていうか、そういう風に思われてたこと自体が、ちょっと悲しい。




「で、でもジマハリではユウに『足手まといだったら、すぐ出ていってもらう』……て」


「ああ、それであのとき、妙に反応してたのか……だいじょーぶ、あれはユウに対しての注意喚起みたいなもんだよ。べつに足手まといだからって、どうのこうのするつもりはない。それに俺の職業、知ってるだろ? いまは戦えなくても、そのうち強くなっていったらいいんだよ。焦る必要なんてない。……て、もしかして、戦闘にも参加したくないって意味だった? それだとさすがに困るっていうか……」


「い、いや……そんなことはない! むしろ――」


「むしろ……?」


「いや、なんでもない。……ありがとう、ユウト。こんなわたしをここに置いてくれて。改めて、今後ともよろしくなっ」




 ヴィクトーリアはそういうと、ニコッと屈託のない笑顔で笑ってみせた。
 その顔に、仕草に、不覚にもドキッとしてしまったのは、言うまでもない。




「……じ、じゃあ、とりあえず、今回は俺とクリムトだけでやるか」


「ああ、構わないぜ。俺は元々、おまえのパーティのやつは頭数に入れてなかったんだ」


「――ッ!! ちょっと待ってくれ、そこを動くな」


「なんだ、ヴィクトーリア。いまのこいつの発言ムカついたか? ぶん殴っていいぞ。俺が許す」


「わたしも、戦う」


「……いやいや、無理しなくても」


「あのときは戦えない。とは言ったが、身を守る術は持ち合わせているんだ」




 ヴィクトーリアはそう言うと、懐から何やら鉄の塊を取り出した。
 それを俺に向けると――


 パァン!


 火薬が爆発したような音。
 そして、ヴィクトーリアが手に持っている鉄の塊から煙が立ち昇っている。


 バタン!
 不意に背後で何かが倒れる音。
 振り返ってみると、棍棒を持ち、神官の服を着た男が、俺の背後で仰向けに倒れていた。
 男の眉間には何やら、風穴があいている。
 男はおそらく、元は魔物。転職の儀により、姿を変えていたのだろう。
 そしてなにより、この穴は……ヴィクトーリアのあの、鉄の塊によるものなのか?
 魔法を使った痕跡……残滓などは感じられない。ということは、魔法じゃないってことだよな……?




「――銃、と呼ばれるものだ。最近ネトリールで開発された。あの悲劇を二度と起こさぬよう、外敵に対して、ネトリールでは武器の製作も始めたんだ。……ど、どうだろうか?」


「いや、すごいけど……どうなってんだ、それ」


「この引き鉄を引くと、内部で火薬が爆発し、その爆風で弾丸……えーと、鉛の塊が押し出されて、飛んでいく。大雑把にいえば、そんなかんじだ。魔法を使えないネトリール人でも使える武器なんだ」


「うん。まあ、大丈夫だけど、それ、弓矢みたいに、使うのに制限あるだろ? 残りあとどれくらい使えるんだ?」


「あ」


「……どうした?」


「今のでもう終わりだ……」


「……うん、まあどのみち、俺とクリムトだけになったな」


「うぅぅ……すまない……」


「………………」




 クリムトがなにか、顎に手をついて考え事をしている。
 またなにか、よからぬことでも考えているのだろうか。
 なんて冗談はおいといて、出会った当初から思ってたけど、なんか敵意っぽいのがまだ治まってないんだよな……。
 多少は薄れてきた感じはあるけど、俺が人に恨みを買うなんて……あるな、なんなら数えきれねえわ。
 ……でも、大神官だろ?
 そんな特別なケース、ふつう忘れるかね?




「なあ、ヴィクトーリアさん、錬金術師アルケミストという職業はどうだろうか?」


「錬金術師……?」


「そう。この職業ではその職業上、かなりの知識と技術が必要となる上、あまり見返りが大きくないので、就く人間は限りなく少ないですけど、……どうやら透視眼でみたところ、貴女はそういう職に適性がある」


「なんだ、ヴィクトーリアがそうなのか? ……珍しいな」




 錬金術師。
 俺も詳しくは知らないが、たしか、今ある物体を別の物体に創りかえるとかなんとか。
 がっつりな戦闘職ではないが、かなり応用の利く職業だったと記憶している。
 それに、この職業に適性があるってことは……。




「……ヴィクトーリアって、ネトリールにいた頃は何やってたんだ?」


「え? えと、えっと……せ、整備士しながら、警備員みたいなものもしてた……かな?」


「整備士か……なるほどな」


 だから適性があるのか……。


「にしても意外だな。掛け持ちして働いてたなんて、ヴィクトーリアの家って、裕福じゃなかったのか」


「え? ま、まあそうだな……いろいろと、苦労はしたかもな」




 そうだったのか。
 てっきりアーニャの幼馴染なんていうから、アーニャと同じく、育ちのいいお嬢様とばかり思ってた。
 ヴィクトーリアもこの歳でいろいろ苦労してんだな……。




「それに、錬金術師は技術職ではあるんですが、戦闘もこなそうと思えばこなせるのです。魔法のようなものも使えますし、身体を鍛えれば、近接戦闘も可能かと」


「へえ、近接もか」


「ああ、うまくやればな」


「ふぅん、まさに究極の器用貧乏だな」


「……おまえな、言葉に気をつけろよ」


「錬金術師……か」




 そう俯いて呟いているヴィクトーリアの顔は存外、楽しげに見えなくもなかった。




「――さて、話を戻すぞ。作戦会議だが……」


「正面突破! まっすぐ行ってぶっ飛ばす!」


「……おまえなあ、俺を前のおまえのパーティと、同じように扱ってんじゃねえぞ。もうちょっと、俺みたいな凡人に合わせて物言えよ」


「おまえ、それって俺を天才っつってんのか? もっと言ってくれ」


「っち……言わなきゃよかった……」


「どのみち、どうやって俺たちを魔物に変えるのかわかんないんだ。作戦なんてたてるだけ無駄だって」


「呆れてものも言えんな。……おまえ、本当にエンチャンターか? てか、さっき言いかけたけど、転職の杖の対処法はあるぞ。……まあ、転職の杖の対処法って、自分で言ってておかしいな……」


「あんのかよ! 早く言えよ!」


「……十字架だ。転職の儀は転職の杖だけではなし得ない。杖と十字架、そして大神官の技術スキルが噛み合わさって、はじめて転職ができる。だから、そのうちの一端を担う、十字架をぶっ壊せば、やつの無差別転職を止められる」


「おい、ちょっとまてよ。おまえ、さっき転職の儀を行ってるのって、アークデーモンだって言ったよな? どうなってんだ? 魔物でも、転職の儀を使えるものなのか?」


「……ちがう。恐らく、転職の儀を行ってるのはジジイだ」


「な!? 元大神官か!? なんでだよ! もしかして魔物の手下に――」


「んなわけねえだろ!! ……ジジイは騙されてんだ。魔物に」


「どういうことだよ」


「……あいつらは当初、ここにきた冒険者は全員皆殺し、そして神官たちも皆殺しにする予定だった。だから、俺たちは抵抗した。必死にな。しかし、ジリ貧だった。このまま消耗戦を続けてたら、どっちにしろいつか全滅になる。誰もがそう思った時、アークデーモンから直々に提案があった。『皆殺しはしない。しかし、俺のいう通りにしてもらう』とな。……あとは、見た通りだ。ジジイは『殺すよりもマシ』だと言い、アークデーモンの言う通り、いまも冒険者たちを魔物に変えている。そして俺たちは命は奪わず、拉致監禁という名目で地下に閉じ込められた。でも、これはおまえの知っている通り、神官たちはジジイの目の届かない場所で殺された。おまえが解いた魔法牢は神官たちの最後の魔法だ。あいつらはせめて俺だけは、と必死になって守ってくれたんだ。文字通り体を張って、な」


「でもおまえ、あのとき、敵はどうやったかは何も知らないって――」


「協力関係でもないやつに、しかもおまえみたいな悪人に、こんなの教えられるわけないだろ」




 ……たしかに。
 他人から言われるとちょっとムカつくけど、たしかにそうだ。
 こいつの言うことは概ね正しい。
 承服しかねるがな。




「ゆ、ゆるせない! わたしは怒っているぞ!」


「ぷるぷる……! ぷるぷるぷる!」




 アーニャもなにか言いたげに、身体をぷるぷると激しく震わせている。……あれ? ユウか? わからん。もはやどっちがどっちか、全くわからん。たぶん、アーニャだろう。
 もう一匹のスライムは、ずっと俺のほうを見上げているからユウだな。




「とにかく、神殿の上にある、その十字架をぶっ壊せばいいんだな?」


「ああ、それで間違いなく、転職の儀は止まる。あとは、俺とおまえとでアークデーモンとその取り巻きの討伐だ」


「わたしも頭数にいれてほしい!」


「はあ? ……なあヴィクトーリア、自分が何を言っているのか、わかってるのか?」


「わかっている。しかし、足手まといになるつもりもない、足手まといになると判断したら、その時点で見捨ててもらって構わない。わたしはその魔物がどうしても許せないんだ!」


「……行くぞ、クリムト。まずは屋根の十字架だ」


「は、早いぞ! まだ始まってすらいないじゃないか!」


「……という冗談はおいといて、俺が言いたいのは、べつに戦闘に参加しなくても、ヴィクトーリアにも、出来る事があるってことだ」


「わたしも、役に立てるのか……?」


「ああ、というかもう、これはヴィクトーリアにしかできないことだ」


「そ、そんなにか……!」


「スライムふたりを安全な場所まで運んで行ってほしい。それと、この神殿に入ろうとしている、冒険者モドキ共を説得して、ここに近寄らせないようにしてくれ。できるな? ヴィクトーリア」


「わ、わかった! できるぞ!」


「よし、行け! ヴィクトーリア! お前の力を見せつけてやれ!」


「おー!」




 ヴィクトーリアはやる気満々といった様子で、両脇にスライムを抱えながら、ダッシュで去っていった。




「おまえ、ヴィクトーリアさんの扱いに慣れてるな……」


「バカとハサミは使いようっていうだろ?」


「おまえ、噂以上にひどいやつだな……」


「さて、そろそろ、うだうだやってねえで、十字架とやらをぶっ壊しにいくか。……ちなみに、神殿の十字架って地上から三十メートルくらいのところにあるけど、どうやって登るんだ?」


「それはおまえ……あれだよ。し、神殿の内部からだよ……」


「……バカなのか?」

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