戦えない俺が女の子たちに守られながら魔王と勇者を倒す

水無

ヴィクトーリアの告白



「びええええええええええ! ひっく……ひく……うぐ……びええええええええ!」




 アムダの神殿出入り口付近。
 そこで、大声でしゃくりあげていている人物がいた。
 ヴィクトーリアだった。うん、知ってた。
 しかもヴィクトーリアさんはなんか、いつにも増して号泣している。
 号泣というよりも轟泣。
 涙が川になり、それが運河になって、貿易の要になれるほどヴィクトーリアさんは元気に泣いていた。
 ……とりあえず状況を整理しよう。
 俺とクリムトは転職組と合流すべく、まずはアムダの神殿前までやってきていた。
 なぜそんなにも悠長なのかと問われれば、お相手様はあのアークデーモンちゃんだからだ。楽勝だからだ。
 アークデーモン? なにそれ? おいしいの? 試食していっていいの? みたいな軽い感じで、俺たちは神殿出入り口へ向かっていたのだ。
 どーせ、三人とも無傷で出入り口で俺を待ってんだろうな……、なんて思っていたがどうやら違ったらしい。
 ヴィクトーリアの両脇には、ヴィクトーリアを慰めるようにして、スライムが二匹、寄り添うようにしていた。
 俺はそこで『なんだ、そのスライムは! ふたりはどうした!』と、声をかけたかったが、躊躇してしまった。
 この世には、知りたくない秘密というものがある。
 俺はこれがそれであると、この光景を見た瞬間に思った。
 だから俺は、未だ泣き止まないヴィクトーリアに対し、こう言ってみせた。


「泣き止め!!」


 ヴィクトーリアは肩をビクッと震わせると、恐る恐る俺の顔を見上げてきた。
 俺が来たことによって安堵したのか、ヴィクトーリアは顔をぐにゃっと歪ませると、ふたたび泣き出した。




「おい、これがおまえのパーティか?」


「あ、ああ……、まあ、その中のひとりだな」


「そうか……」


「ひっく、うぅ……ユウトぉ……、どうしよう……」


「……はいはい。話ぐらいは聞いてやるから話してくれ」


「ぐらいはっておまえ、レディに対して……」


「なに? おまえってそういうキャラなの?」









 予想的中。
 俺の足元で愛らしくプルプル揺れているのは、紛れもなくアーニャとユウらしかった。
 転職の儀。それにより、魔物職に変えられたということだった。
 これは、見事なまでにまんまと敵の術中にはめられた、ということだろう。
 なんてことだ……、こんなにもヒンヤリと涼しい体に変えられて……触ったらさぞ気持ちいのだろう。
 ヴィクトーリアは三人のなかでは最後だったため、異変に気付いたときにはもう遅く、ふたりは既に、スライムの姿に変えられた後だということだった。
 ヴィクトーリアはそんな中、二人を抱えて魔物の中を死に物狂いで走り、出入り口までなんとかたどり着いたということ。
 これだけ聞けば、ヴィクトーリアは勇敢にも、ふたりを助けた恩人ということになるのだが……どうにも、腑に落ちない部分がある。
 なぜ、ヴィクトーリアだけは平気だったのか、ということだ。
 まず、こうなってくると疑ってしまうのはあいつらの仲間であること、しかし、これはさすがにあり得ない。
 この程度の魔物についても、なんのメリットもないからだ。
 だとすれば、ヴィクトーリアは転職が効かない体質だということか?
 いやいや、そんなの聞いたことがない。
 そんなことを考えていると、ふと視界の隅に、俺と同じように悩んでいるクリムトが見えた。
 そうだ。
 こいつ、大神官じゃん。専門家じゃん。
 ふつうに訊けばいいじゃん。




「……なあ、クリムト。これ、どう思う?」


「身長は一七……一厘米センチ、体重は五十九公斤キロ、スリーサイズは上から八十六、五十六、八十三、といったところだな」


「はあ?」


「ふえ? ……え? え? ええ!?」




 それを聞いたヴィクトーリアは、涙を浮かべたまま、茹でだこのように、顔を真っ赤にしてみせた。




「いや、そういうのじゃなくて……なんでヴィクトーリアだけなんでもなかったのか、てことだよ」




 まあ、グッジョブだけどさ。
 てか、ヴィクトーリアって身長高いなって思ってたけど、一七〇もあったのか、それであの顔なら威圧的にも見えるわな。
 当の本人があれだけど……。




「な!? そ、そっちか! す、すまない、お嬢さん」


「すまん、ヴィクトーリア。どうやらこいつはホモじゃなくて、バイだったみたいだ。まさに雑食!」


「ちげえわ! ……ったく、気分を害してしまい、ほんとうに申し訳ない、お嬢さん。デリカシーのない真似してしまいました」


「い、いや……いいんだ。ただ、さっきのことは早急に忘れてくれ。そうでないと、おま……、おまえを……!!」


「あ、はい……善処します」


「んで、どうだった? スリーサイズ以外になんかわかったか?」


「いや、全くだ。なぜヴィクトーリアさんだけがかからなかったのか、いまだによくわからない」


「おまえはどうだ、ヴィクトーリア。なにか思い当たる節はあるか?」


「それは重要なことなのか?」


「そりゃあな、相手の出方を知れば対処の仕方もあるってもんだ。このまま行って、俺まで魔物に変えられてたら、それこそ目も当てられないだろ? ヴィクトーリアだって、たまたま運良く、魔物に変えられなかったってだけで、もう一回行っても無事だという保証はない」


「む、なんだ。転職の杖の対処法の話をしてんのか?」


「いや、さっきまでなに聞いてたんだよ、逆に」


「なんだ、てっきりヴィクトーリアさんが、なんで転職の杖が効かないかを話し合ってるもんだと……」


「そうだけど、そっから話を展開してんだろ――ん?」




 言いかけて袖口をクイクイっとつままれる。
 ヴィクトーリアだ。
 なんだかバツがわるそうに、クリムトを見ている。




「ああ、そうだったな。こいつはクリムト。アムダ神殿の大神官にして破戒僧だ」


「おまっ……、それを言うんじゃねえよ! それは秘密だろうが!」


「秘密なんて可愛い言葉使ってんじゃねえよ。気持ち悪いな。それに、大丈夫だ。ここにいるのは全員俺のパーティだしやつだし、口は固いと思うぞ。それに――」


「な、なぁユウト、破戒僧ってのはなんなんだ?」


「……な?」




 そもそも破戒僧自体を知らない。




「なんだ……」


「ヴィクトーリア、いいか? 破戒僧ってのは要約すると、変態ってことなんだ。特技は問答無用に相手のスリーサイズを盗み見ることで――」


「おまえはもう黙れ。はぁ……もう俺から自己紹介する。……はじめまして、お嬢さん。俺はクリムト。アムダの神殿で大神官をやらせていただいてます。……できれば、貴女のお名前を教えてもらえますか?」


「おまえ、なんでもいいけど、男と女で露骨に態度変えんのやめろよ」


「あ? おまえがホモだとか抜かしやがるからだろうが。……それに、俺はこういう風に育てられた。今更変えることはできねえよ」


「それおまえ、いい感じに言ってるけど童貞ってことだろ?」


「どど? どどどど、どどどどどどど……!」


「はいはい、もうそういう反応はお腹いっぱいだから。……てことで、俺から、簡単に紹介していくわ。この子はヴィクトーリアで――」









 俺は一通り、簡単にパーティの紹介をした。




「と、こんな感じだ」


「なるほど、よろしくお願いします」




 クリムトはそう言うと、丁寧にお辞儀をしてみせた。
 なんてやつだ。俺には敬意を払う片鱗すら見せなかったのに、女に対しては、なんて恭しいお辞儀をするんだ、こいつは。……いまはスライムだけど。
 アーニャとユウはそのお辞儀に対して、ただただ、プルプルと揺れていた。




「……なあ、なんか自己紹介とかして和んでるけど、これ、非常事態じゃん」


「ああ、わかっている。だからこその自己紹介、だろうが」


「どういう意味だよ」


「これで、俺とお前しか戦えないってわかったんだ。これから作戦をたてるぞ」


「はあ? アーニャとユウが戦えないってのはわかるけど、なんでヴィクトーリアまでそうなんだよ。おい、ヴィクトーリア、なんか言ってやれ!」


「あ、あの、だな……ユウト、聞いてくれないか?」


「ああ、いいぞ、ヴィクトーリア! 言ってやれ!」


「わ、わたしは……戦えないんだ!」


「よしよし、よく言っ――エエ!?」

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