戦えない俺が女の子たちに守られながら魔王と勇者を倒す

水無

ユウトの意志





「なっ!? バカな! そんなことが、あり得るのか?」


「ユウトさん、あの戦いのあと、勇者様は帰ってこなかったと聞いていますが……」


「そうだ。そしていまも『終焉の都』には、魔王城があると聞く。それは魔王が死んでいないことを意味する。ということは、勇者は逃げ――」


「いや、逃げてはいないと思う。仮に逃げて生きていたのなら、親父のことだ。連絡のひとつやふたつ、あったはず。それになにより、魔王を放っておくはずがないんだ」


「じゃ、じゃあ……?」


「これは俺の予想だけど、あれは親父が最後の力を振り絞って、俺に見せてくれたメッセージなんだと思う」


「メッセージ……?」
「ですか?」


「そう、メッセージ。今考えれば、あれは投影魔法の一種だったと思う。その時の親父はなんというか、霞がかった感じで、存在自体があやふやだった。だから、あれは自分の無念を息子の俺に託したものなんだ」


「それが、ユウトさんがあくまで勇者にこだわる理由だったんですね……」


「ああ」


「そうだ。そのことについて、ふたつめ。『勇者』とは、何事をもって定義するんだ? ユウトは元のパーティでは勇者にはなれなかったんだろ? それはおまえの職業が『エンチャンター』だったからなのか?」


「職業……か。たしかにそれもある。一般的に勇者とはあのユウキ毛虫みたいに剣や魔法を扱う者。スタイルは前衛であり、後衛ではない。だけど、これはあくまで体裁の話。本質はそのパーティの代表であるかどうかってことだ」


「リーダーじゃないと、ダメってことですか?」


「そういうこと。仮にあのパーティで魔王を倒したとする。その後に勇者の酒場ギルドをはじめ、いろいろな機関、団体、会社なんかが俺たちの偉業を称えるとする。でも、勇者として名を残すのはリーダーである『ユウキペテン師』ただ一人だけなんだ。あいつはそれを、設立時から俺が脱退するに至るまで、俺にずっと黙っていた。俺にはそれがどうしても許せなかった。あいつが俺の目的がわかっていたのにも関わらずだ。たかが肩書で、と思うかもしれないが、それが『親父との約束』だったんだ。それ以上でも、それ以下でもない。俺からしたら、金のため、名誉のために魔王を打倒する。そっちのほうが不健全で、不愉快な理由なんだ。だから俺は正直、この大勇者時代が気に入らない」


「ユウトさん……」


「……ごめん、取り乱したけど、勇者とはそう定義される。さあ、みっつ目を聞かせてくれ」


「ああ、これで最後だ。ユウト、おまえは自身の職業は変えないのか? エンチャンターが嫌なら、他にもいろいろと職業があるだろう?」


「言いたいことはわかる。だけど、これはもう取り返しがつかないんだ」


「どういうことだ?」


「と、いうのもだな。人ってのは生まれ持ってくるオーラの総量が、個人個人で違ってくるんだ」


「オーラ?」


「そう。オーラってのは基本的に人の持っている、『力』だと思ってもらえればいい。解りやすく言い換えると、ポイントだ」


「ぽ、ポイント……?」


「例えば、俺はエンチャンターだ。エンチャンターは主に仲間なんかを強化したり、補助したりするのが目的の職業だ。つまり、俺のポイントオーラはその方面に振ら習得しなければならない。たとえば力に振っても、なんの役にも立たないうえに、本業である戦士や武闘家なんかに遠く及ばない。同様に、魔法使いもそうだ。俺の使っていた付与魔法ってのは、火球を出したり氷柱を出したりすることとは、全く毛色の違う魔法だからな。その点、前パーティの魔法使いジョンは魔法と、回復魔法。その両方をうまく使ってたと思う。……まあ、そんなわけで、俺は半ば強制的にエンチャンターにさせられて、それを極めさせられたんだ。今思えば、あいつが俺をエンチャンターにしたのも、自分のコントロール下に置いておきたいから、だと思う。もし俺が魔法戦士みたいに、一人でも戦える職業だったら、いまごろあいつらを壊滅させてたからな」


「そ、そんなに……すごいのか!?」


「まあな。……でも、何を言っても俺はいまや、ただのエンチャンター。それ以上でも以下でもないし、一人で戦う事は出来ないってこと。振ったポイントはもう戻ってこないし、職業を変えて……たとえば、戦士になったとしても、付与魔法が少し使える非力な戦士ってのが関の山。八方塞がりなわけよ。だから、パーティを探してたってこと」


「な、なるほど……ありがとう。だいたいわかった」


「ユウトさん、苦労……なされたのですね……。なんだか、色々な事を無神経に聞いてしまい、すみませんでした」


「べつにいいよ。よしよししてくれたらね」


「え?」


「ちがう。間違えた。気にしないで」




 危ない所だった。
 思わず、内に秘めたる俺の欲望を解き放つところだった。
 だって、すごく気持ちよかったんだもん。
 なんてキショい事、口が裂けても言えない。




「ウォッホン!! さて、他にも聞きたい事ってある?」


「いいや、これくらいかな、わたしは。アーニャは何かあるか?」


「ううん。わたしも大丈夫だよ」


「それで、本来はここでふたりに残留か、脱退かを尋ねたいところ……なんだけど、俺からもひとつ質問していいかな?」


「わたしたちに……ですか?」




 アーニャとヴィクトーリアは意外そうな表情で、互いに顔を見合わせた。




「は、はい。わたしたちに答えられることなら、なんでもお答えいたします」


「ドラニクスでアーニャがちらりと言ってたけど、『あの場所』ってなに? どこのこと?」


「え……っと……?」


「ん? 覚えてないかな? 『ユウトさんなら、あの場所に連れてってくれるかも』とかなんとかって言ってなかった?」


「ああ……! 思い出しました! 『あの場所』というのは、わたしたちの旅の目的地……です。けど、目的地なんて言ってはいますが、とても漠然としたところで……」


「いいよいいよ、言っちゃいなよ」


「う、海……です」


「海……ってあの、海? しょっぱくて、深くて広い、あの水溜りのこと?」


「はい。そのしょっぱくて、深くて広い、あの水溜りのことです」


「あれ? 海ってネトリールから見れなかったっけ?」


「もちろん見れますよ。ネトリールは一年中、ほとんど海の上空に浮いてますので……」


「そりゃまた……、なんで?」


「あの……ちょっと、申しづらいのですが……か……かか……」


「か?」


「『海水浴』というものをしてみたいのですっ」




 アーニャは耳まで真っ赤にして、俯きながら答えた。
 というか、となりのヴィクトーリアの顔も、心なしか赤くなってる。
 必死に隠そうとあっちこっちに視線を泳がしているが、バレバレ。
 なんで? 恥ずかしがる要素、ある? 海水浴って恥ずかしいの? どゆこと?
 俺、海水浴したことあるけど、俺って恥ずかしいやつなの?




「う、海ね。うん。別になんてことはないけど、海水浴って、何か知ってるの?」


「は……はい。えと……たしか……」


「お、おい……アーニャ……! 食卓だぞ……!?」


「で、でもユウトさんが……うう……」




 顔が真っ赤のヴィクトーリアが俺を睨みつけてくる。




「くっ、こ、この変態め……!」


「なにが!? 海水浴って、海で泳いだり、日焼けしたり、遊んだりすることだよね? どこに変態要素があるの!? 教えて!? むしろ、あなたたちがどこに羞恥を感じているのか教えてよ! 教えなさいよ!」


「ぐすっ、裸に……その……、非常に面積の少ない……ぬ、布を纏わなければ……、入水してはダメなのだろう……?」


「……はい?」


「な、なんだその顔は……! は、恥ずかしいのを我慢して、いい……言ったのに……おま……おまま……おまえというやつは……!」


「うぅ……もう、お嫁に行けません……」


「待て待てヴィクトーリア。まずはその振り上げたフォークを下ろしたま――」




 ガキィン!!
 金属と金属を激しく打ちつけたような音。
 ヴィクトーリアの持っていたフォークが、床にカランカランと零れ落ちる。
 気がつくと、俺の背後の柱に、ビィィィィンとナイフが突き刺さっている。
 おそろしく速いナイフ、オレでなきゃ見逃しちゃうね。
 いま、柱に新たな傷が刻み込まれたのであった。
 って、言ってる場合か。




「おまっ、ユウ!? なにやってんだ! 手加減しろ!」


「ヴィクトーリアさん、あたしのおにいちゃんに、そういうことは止めてください……!」




 ユウは無表情のまま、冷たくそう言い放った。
 何が起こったのかわからず、ヴィクトーリアは手を押さえたまま、わなわなと崩れ落ちる。
 心配になって駆け寄ってみると、ヴィクトーリアは声を押し殺して、涙を流していた。
 ……弱っ! この人ホントに戦士か?

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