戦えない俺が女の子たちに守られながら魔王と勇者を倒す

水無

お勉強



 エンドドラゴン討伐を果たした俺とアーニャは、村ちょ……国王の権限で、禁足地へ侵入した罪、それ自体を無かったことにしてもらえた。
 正直、こうなってしまった責任は俺にあるので、罪悪感が無いのかと問われると、あるっちゃあるが、村長をはじめ、村人全員、俺が直接的な引き鉄になったことを知らなかった。
 知らぬが仏。
 物事の顛末には、知らなくていい、闇に飲まれて然るべき真相もあるということだ。
 俺はこの秘密は墓場まで持って行くと、自分の魂に誓ったのであった。
 絶対言わん。
 反面、アーニャはその溢れ出んばかりの正義感から、それを甘んじて享受しようとはしなかった。
 このままでは死刑は執行されないまでも、牢屋で一生を過ごしかねないので、困った国王様は『んじゃ、しゃーなしね?』ということで、俺たちに二十時間の講習を言い渡したのだ。
 俺はこれに断固反対――しようとしたが、アーニャに『ユウトさん、一緒にがんばって勉強しましょうねっ!』と、天使のような顔で諭され、どうでもよくなった。


 というか、俺の一世一代の告白――アーニャ少女を俺のパーティに誘うという、なにやら危ない香りのする告白の答えは、保留ということになった。
 拘留ではなく、保留。


「お誘い頂いたことは大変嬉しいのですが……、その、ヴィッキーにも聞かないと」


 とのことだった。
 内心、断られずホッとしている気持ちはあるが、かといって不安が無いわけではない。


 なにせ、このからの誘いだ。
 俺がアーニャなら、ノータイムで断る。
 ていうか、そもそもな話、アーニャは俺のことを知っているのだろうか。
 俺が何をしでかしたか、知っているのだろうか。
 いや、アーニャも冒険者だからな、知っていて俺に気を遣っているのか、もしくは顔と名前が一致していないとかだろう。
 あと、仮にアーニャが加入してくれたとして、あの牢屋で気絶していたヴィクトーリアさんはどうなんだろう。
 戦士ということは、魔法使いを名乗っているアーニャよりも腕っぷしが強いということだよな。正直、そこまでの使い手なら、現状、喉から手が出るほど欲しい。
 でもなー、あの戦士さん、顔は綺麗だったけど、性格がすごくキツそうだったからなー。


『なに!? おまえのような変態のパーティにだと? ダメだダメだ。うちのアーニャは誰にも渡さん! さっさと何処へなりと消えるがいい!! もしくは私の剣の錆にしてくれる!!』


 なんて断られた日には、目もあてられない。
 多分、ショックで一週間は寝込んでしまうかもしれない。
 というか、真面目に剣の錆にされたりするかもしれない。
 それほどまでに、俺の心臓はガラス細工で、かつ、職人による繊細な造りとなっているのだ。
 しかし、アレだな。
 あれくらいの美少女に罵られるというのもまた……悪くはないな。




「ど、どうかいたしましたか? ユウトさん?」


「あ、いや、なんでもないよ」


「そうですか……」




 必死にノートを取っていた手を止め、アーニャが俺に話しかけてきた。
 それほどまでに、俺の顔がだらしなかったということだろう。
 俺がそっけなく返事をすると、アーニャは何事もなかったように、講義に集中し始めた。
 講義を受けている場所は会議場のようなところ。
 中心に国王を据え、その前方が段々階段となっている、本格的な場所だった。
 俺は一番最前列、国王の正面の席、アーニャは俺の隣にちょこんと座っている。
 アーニャはペンを動かしては、前を向き、またペンを動かすを繰り返している。




「それにしても、よかったね。村長……、国王が話の通じる人で」




 特にノートを取ることなく、ボケーとしていた俺は、何気なくアーニャに話しかける。




「え? ええ、はい、そうですね。ありがたいです。……そういえば、今回の件について、まだお礼を言ってませんでしたね。ありがとうございます、ユウトさん。わたしたちを釈放していただいて」


「いや、モノのついでというか……、旅は道ずれというか……、とにかく俺も、アーニャのお陰で助かったんだし、そういうのはいいっこ無しだって」


「いえ、こちらとしても、何か出来ることがあれば、お手伝いさせていただく所存でございます」


「だったら、俺のパーティに……」


「それはヴィッキーに聞いてみないと決められません」


「あ、そこはちゃんと線引きしてるのね」




 ショック。やっぱり平然と断れると、やっぱり傷つく。
 うーん、でもやっぱり俺のことは知ってるっぽいな。
 知ってて警戒してるんだろうか。牢屋にいたときは、そうでもなかった気がするんだけど……。




「あの、すみません……ユウトさん」


「え? なにが?」


「その、煮え切らない態度をとってしまっていることです……」


「いやいや、仕方ないよ。なにせ誘ってるのが、この俺だからね。そりゃ、すぐ決められないよね」


「えっと、そうじゃなくて、ヴィッキーが……あれ? すみません、無知で申し訳ないのですが……、ユウトさんはその……、有名な方、なのですか?」


「……え?」


「あ、すみません! なにせ、わたし、あまり外へ出たことがなくて……それで、話に出てくるユウ・メイジンという方に、憧れていまして」


「いやいや、有名人って固有名詞じゃないから……て、それ、本気で言ってる?」


「え? あ、はい、本気……です、けど……。も、もしかしていま、わたし、ものすごくはしたないことを言ってしまったのでしょうか? お、お嫁にいけませんっ」


「はしたなくはないけど……」




 みるみるうちに、アーニャの顔が紅潮していく。
 このアーニャの顔……ウソをついているとは思えない。
 本当に俺を知らないのか……?
 いや、別に有名なのを誇るわけじゃないけど、要注意人物としてギルドから注意喚起みたいなのが、各国に行き渡っているはずだ。
 それでも知らないとなると、アーニャは相当な箱入り娘か、もしくは――




「なあ、アーニャ、ちょっと聞きたいことがあるんだけ――」




 バァンッ!!
 突然、講義室の扉が勢いよく開かれる。
 入ってきたのは肩を大きく上下させ、呼吸の荒い青年だった。
 どうみても、青年の様子は尋常じゃない。
 講義室の空気が一気に張り詰める。




「大変です! 長老!」


「国王だ! やり直せ!」


「はい!」


「………………」


「大変です! 国王!」


 青年は一度、講義室からそーっと出ると、再びバァンと扉を開けて入ってきた。
 今度はわざと息を荒げさせており、一気に茶番臭が増した。
 それよりも、いちいち勢いよく扉を開けるのをやめてほしい。
 心臓に悪いし、なにより隣でアーニャが怖がって、俺にくっついてきて……くっついてきて……。




「――おい! 気合が足りない! もう一度、扉をその……、バーンとやれ! バーンと!」




 気がつくと、俺はその青年に対して無茶な要求をしていた。
 なんということだ。
 一時の劣情に絆されて、刹那的に他人少女の温もりを求めるとは、なんということか。
 情けないったら、ありゃしない!
 そうだ。取り下げよう。あと一回してくれたらな。今ならまだ、道を踏み外すことなく――




「嫌です!」


「なぜだ!?」


「手が痛くなってきました!」


「そうか! なんかすまん!」


「大変です! 国王!」


「なんだ!」


「手が腫れてきました!」


「冷ましてこい!」


「嫌です!」


「なんでだ!?」


「囚人が暴れています!」


「急に本題に入るな!」


「すみません!」


「囚人……? ヴィッキー……!!」




 アーニャの顔色がだんだん青くなっていく。
 あの戦士が暴れてるって……、この村ヤバいんじゃないのか?




「すみません、国王様。わたし、ヴィッキーのところへ行かないと……!」




 アーニャはそう言うと、風のように講義室から出ていってしまった。




「ふむ。なにやら緊急事態の様子。さて、それではワシらも――」


「ああ、アーニャの後を追わないと!」


「講義に戻りますぞ」


「なんでだよ!」

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