女の子たちに守られながら魔王と勇者を倒す

水無

お勉強


 エンドドラゴン討伐を果たした俺とアーニャは、村長(国王)の権限で禁足地へ侵入した罪、それ自体を無かったことにしてもらえた。
 正直、こうなってしまった責任の所在は全てにおいて俺にあるので、罪悪感が無いのかと問われると……まあ、あるっちゃあるが、ないっちゃない。
 というのも、どうやら話してみると村長(国王)をはじめ、村人全員、俺が直接的な引き鉄になった事実を知らないっぽい。
 知らぬが仏。言わぬが花。
 物事には知らなくていい、闇に葬られて然るべき真相もあるということだ。
 俺はこの秘密は墓場まで持って行くと、勝手に誓ったのであった。
 もう絶対言わん。……と、意固地になっている俺をヨソに、アーニャは体から溢れ出んばかりの正義感から、それ赦免を甘んじて受けようとはしなかった。まさに俺とは逆ベクトルの意固地である。
 しかし、このままではマジで一生牢屋に幽閉されることになる。村長(国王)としても恩人をこのまま牢に閉じ込めておくなんてことは困るようで、結局俺たちは妥協案である地獄の教習を受ける運びとなった。
 俺はもちろんこれに断固反対――しようとしたが、アーニャに袖をむんずと掴まれ『ユウトさん、一緒にがんばって勉強しましょうねっ!』と、天使のような顔で言われたから、なんかもうどーでもよくなってきた。

 そして俺のアーニャをパーティに誘うという、一見、ともすれば、倫理的にアウトなんじゃないかとも思える一世一代の告白の結果だが、無事『保留』という形で流れることになった。自分から他人を誘うなんて、人生であまり経験してこなかったので、いま、俺の頬はすこしばかり湿っている。
 だが幸いなのは拒否されなかったことだ。もしも俺が誘った時点で『うわ、キモ! ユウトさんのエッチスケッチワンタンメン!』などと罵られていたら俺の旅はそこで終わっていただろう。ちなみにアーニャの返事は――

『お誘い頂いたことは大変嬉しいのですが……、その、ヴィッキーにも聞かないと』

 とのことだった。
『ヴィッキー』とはつまり、牢屋の中で牢屋飯に自分風アレンジを加えようとして自爆したあの残念な女性の事だ。
 ……このエピソードを聞いていなければ、俺の提案など一蹴されてしまうのではないか、と思ってしまいそうになるほど『ヴィッキー』の顔からはなんとなく『厳しそう』という印象を感じていたが、まあ、なんとかなるだろう。
 他に問題があるとすれば……俺自信の問題というところだろうか。なにせ、このからの誘いだ。
 そう、俺の名は俺が思っているよりも世間に浸透しているのだ。主に悪い意味で。
 たとえ俺がアーニャの立場だったなら、ノータイムで断るだろう。
 というより、そもそもアーニャは俺が何者なのか知っているのだろうか。他の村の人間は俺の事など知らなそうだが、アーニャはどう考えてもこの村の出身ではないだろう。見たところアーニャはその口調、立ち居振る舞いからして良いところの出だ。そうなってくるとやっぱり都会出身なのだろう。都会出身……となってくると、俺の事を知らないという可能性は限りなく少なくなってくる。
 俺がいままで何をしていたか、何をやらかしていたか。
 ……いや、アーニャも冒険者だって名乗ってたからな。知ったうえで俺に気を遣ってくれているのだろう。うーん、そう考えるとやっぱりこんな教習受けるんじゃなかったか。アーニャほどの戦力が加入してくれないのはすこし……かなり惜しいけど、ここで時間を浪費しているほうが勿体ない。ここはトイレに行くフリをして脱出を――


「いかがなさいましたか? ユウトさん?」


 ノートを取っていた手を止め、アーニャが俺に話しかけてきた。


「いや、まあ、その……なんだ、ちょっと腹が痛いからトイレに行こうかなって……」

「まあ、大丈夫ですの?」


 アーニャがじっと、まっすぐ俺の顔を注視してくる。綺麗な澄んだ瞳には俺の情けない表情が写っていた。どうやらアーニャはこんな情けない、どうしようもない、また何かしらの理由をつけて逃げようとしている、卑怯な俺の腹の具合を心底心配してくれているようだ。そんなことを考えていると、なんだか申し訳なくて、やるせなくて――


「……あ、やっぱり引っ込んできたかも」

「ほ……それはよかったですわ」


 俺がそう言うと、アーニャは安心したのか、ため息をひとつついて講義に戻った。トイレに行くことすらしなくなった俺はなんとなく手持ち無沙汰になってしまい、改めて周りを見渡してみた。
 講義を受けている場所は円形で、会議場のようなところ。
 部屋は中心に向かうにつれ階段を下っていく形になっており、中心には村長(国王)が直々に教鞭を執っていた。俺とアーニャはそんな村長(国王)の真ん前の特等席に陣取って、ありがたい講義を受けている。
 アーニャはペンを動かしては、前を向き、ペンを動かしては前を向く作業ひたすらを繰り返している。
 

「それにしても、よかったね。村ちょ……国王が話の通じる人で」


 何を思ったか、俺は必死にノートを取っていたアーニャに話しかけてしまった。


「え? ああ、はい、そうですね。ありがたいです」


 当然と言えば当然だが、急に脈絡のない話を振られたアーニャはすこし困ったような表情を浮かべた。


「……そういえば、今回の件について、まだユウトさんにお礼を言ってませんでしたね。改めて、ありがとうございます、ユウトさん。わたしたちを釈放していただいて」


 アーニャはそう言うと座ったまま俺に向き直り、膝と膝がくっつきそうになるような距離でぺこりと頭を下げた。


「モノのついでというか……旅は道ずれというか……、とにかく俺もアーニャのお陰で助かったんだし、そんな畏まらないでよ」

「いえ、こちらとしても何か出来ることがあれば、お手伝いさせていただきますわ」

「じ、じゃあ、俺のパーティに……」

「それはヴィッキーに聞いてみないと決められません」


 アーニャはパッと頭を上げると、きっぱりと断ってしまった。


「デスヨネ」

「あの、すみません……ユウトさん」

「え? なにが?」

「その、助けていただいているのに煮え切らない態度をとってしまっていることです……」

「え?」

「他の事ならまだしも、パーティを組むという事は決して一人で決められることではないというか……わたしとしてもヴィッキーの意志は尊重したいというか……」

「あ、いやいや! わかってる! 俺としては即決してくれたほうがありたいんだけど、それはそれだしね! ひとりで決められないって気持ちもちゃんとわかるから! ……まあ、それに何より、誘ってるのがこの俺だから。そりゃ、躊躇しちゃうよ」

「……あの、すみません、無知で申し訳ないのですが……ユウトさんはその……、有名な方、なのでしょうか?」

「……へ?」

「あ、すみません! すみません! じつはわたし、あまり外という外へ出たことがなくて、世間に疎いというか、それで無礼を働いてしまったのなら謝罪させていただきたく――」

「もしかして、俺の事とか知らない……?」

「あ、あの……! その……!」

「べつに気を使わなくてもいいから。ほんとうのことを言って」

「す、すみません……」

「マジか」

「ももも、もうしわけありませんっ! もうしわけありませんっ!」

「いやいや、そんなに何回も頭下げなくていいから!」


 そうか。アーニャは俺の事を知らないのか。ということは、ツレの『ヴィッキー』も俺の事を知らない可能性があるってことか……! なんというか、光明が見えて気がする。


「そ、それで、わたし……話に出てくるユウ・メイジンという方に、憧れていまして」

「いやいや、有名人って固有名詞じゃ……て、それ、本気?」

「え? あ、はい、本気……です、けど……。あ! も、もしかしていま、わたし、ものすごくはしたないことを言ってしまったのでしょうか?」

「い、いや、べつにはしたないとは思わないけど……」

「お、お嫁にいけませんっ」

「えぇ……」


 アーニャはぱっと顔を手で覆ってみせた。指の隙間から顔がだんだんと紅潮しているのがわかる。なんというか、いい子なんだけど勝手に暴走しがちな子なんだな……。


「なあ、アーニャ、ちょっと聞きたいことがあるんだけ――」


 バァンッ!!
 突然、俺たちの後方の講義室の扉が勢いよく開かれた。振り向くと肩を大きく上下させ、呼吸の荒くしている青年が立っていた。慌ててここまでやってきたのだろう、青年からは尋常ではない雰囲気がひしひしと伝わってきていた。
 講義室の空気が一気に張り詰める。


「大変です! 長老!」

「国王だ! やり直せ!」

「はい!」

「………………」

「大変です! 国王!」

「なんだ!」

「勢いよく扉を二度開けたせいで手が腫れてきました!」

「冷ましてこい!」

「嫌です!」

「なぜだ!?」

「囚人が暴れています!」

「急に本題に入るな!」

「すまん!」

「フランク!!」

「……囚人……? ヴィッキー……!!」


 茶番を繰り広げている青年Aと村長(国王)を他所に、アーニャの顔色がだんだん青くなっていく。


「も、もうしわけありません、国王様。わたし、どうしてもヴィッキーのところへ行かないと……!」


 アーニャはそう言い残すと、一目散に講義室から出ていってしまった。


「ふむ。なにやら緊急事態の様子。さて、それではワシらも――」

「ああ、アーニャの後を追わないと!」

「講義に戻りますぞ」

「なんでだよ!」

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