戦えない俺が女の子たちに守られながら魔王と勇者を倒す

水無

崩れ去る信仰


 牢屋からでた俺たちの目に飛び込んできたのは、まさに阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
 具体的に言うと、俺が強化したエンドドラゴン(子)と、エンドドラゴン(親)が、村を焼き払うような壮絶な親子喧嘩を繰り広げていた。
 村の人間は行き場を失い、逃げまどう者や、必死になって祈りを捧げる者とでごった返していた。
 だれだ! 村をこんなことをした元凶は! 出てこい!
 ……と、はやる気持ちをおさえ、俺はとりあえず目についた一番偉そうな、髭をもっさりたくわえたおじいさんに声をかけた。


「あのぅ……」

「ふぉうううああああ!? あんたたちは!? どうやって出てきたんじゃ!」


 おじいさんは俺たちを見ると、素っ頓狂な声を上げ、その場で駆け足しながら留まった。


「どうやってって……ちょいちょいってやったら出てこれました」

「おいおい、マジかよ! やべーの! ……じゃが、今は見ての通り取込み中での。再度あんたたちを牢屋にぶち込んでやる暇はないのじゃ。悪いが、あとでまたぶち込まれに来てくれんか!」

「嫌だよ! ……て、そうじゃないんです。俺たちがここにいるのは俺たちを牢屋から釈放してほしいからなんですよ」

「ああ!? あんたら、バカァ!? もうとっくに出とるじゃないか!」

「正式な手続きを踏んで、後ろ髪を引かれることなく……ということです。無理やりここを出ていくのは我々としても不本意ですので」

「フン、ムリじゃの。なにせ禁足地に立ち入ること自体が重罪。問答無用で昔から死刑になるのが、この村の習わしなのじゃ」

「いや、そもそもその法律が――」

「おぬしが文句を言いたい気持ちはわかる。しかしの、この有様をみてくれ。龍神様に村を蹂躙されるこの様を。つまりはそういうことじゃ。禁足地に立ち入ることが罪ではない。立ち入ることにによって、龍様が暴れだし、村が壊滅するから、重罪なのじゃ」

「でも、それじゃ村の外から入ってくる人は、その習わしを知らないから、間違って入っちゃうじゃないですか。それで死刑って割にあわないでしょ」

「その心配はない。なにせ、この村に入ると同時に、禁足地に関する講習を二十時間ほど受けてもらうからの。その辺バッチリじゃ」

「に、にじゅ……!?」

「ああ、そうじゃ。ちなみにゴールド免許だと、三十分の講習で済むがの」

「なんだそれ!? なんの免許だよ!」

「終身名誉村民の免許じゃな」

「そんなので村民認定するなよ……」

「なに、名誉村民になれば食堂が月一で割引になったりするぞ」

「いらねえよ! しかも月一って……なんかセコいし」

「そんな事言うでない。……どうじゃ? おぬしもこれを機に、作ってみては? 氏名、住所、生年月日をご記入の上、当選者には発送をもって、かえさせていただきます」

「応募者全員じゃねえのかよ! ていうか、免許のことはどうでもいいよ!」

「なんじゃつまらん」

「てか、俺はともかく、アーニャはその講習とかいうの受けなかったの?」

「そうじゃ。そこの娘っ子はおぬしと同じ、空から落っこちて来おったのじゃ! ビックリしたぞ! 『おじいさん! 空から女の子(×2)が……!』とか言われたからの。まったく、最近の若いもんは! すーぐ空から落っこちたがる! けしからん!」

「別にそういう事じゃないと思うけど……まあいいや、俺がここに来たのは取引のためです。あなたがこの村の村長ですか?」

「ワシか? ワシは村長ではないぞ!」

「じゃあ村長がどこにいるか教えてくれますか?」

「村長は……おらん……ッ!」

「な!? もしかして、もう犠牲に……!?」

「ちなみに、ここは村とはいっても、王政を布いておるからの。ワシは村長ではなくて、国王なのじゃ」

「どうでもいいわ! なんで唇噛んで、拳を震わして、悔しそうにしてるんだよ!」

「……して、取引とはなんじゃ」

「お、おう、急に冷静になるんですね。……取引は簡単です。俺たちがいまからそこの龍をぶちのめすので、それが成功したら、俺らを開放してください」

「ちょ、ちょっと待ってください! わたしたちは龍神様に謝罪しに来たのでは!?」

「何を勘違いしているんだいアーニャちゃん。これから俺たちがするのは謝罪(物理)だ。アーニャちゃんの住んでいる地域と俺の住んでいる地域とでは、多少の文化の違いは否めないが……問題を解決する、という意味では一緒だろう?」

「ぜ、全然違いますよ! それに戦うにしたって、龍神様はこの村で神として崇められているんですよ!? 国王様がそんなことを許すはずが――」

「んオッケー!!」

「……へ?」

「え? マジで? あの龍ぶっ倒してくれんの? いいよいいよ。やっちゃってよ! 釈放でもなんでもすっからさ! 助かるわー。あの龍鬱陶しいんだよ、いや、マジで。いっちょ前に炎なんて吐いてさー。それ駆除してくれるんでしょ? 助かるわー。まじ。ちょー助かる」


 国王はフランクにそう言うと、俺の手を握って何度もぶんぶんんと振ってくれた。


「……ね? うまくいったでしょ?」

「えっと……ですが、よろしいのですか? 国王様?」

「いいのいいの。あんなの、放っておいても百害あって一利なしだから。ここでバシーッとぶっ倒してくれちゃったほうが、この国にとっても、あんたたちにとってもよさそうじゃし。あ! なんなら、ワシもっちゃう? 参戦っちゃう? 黄金の右腕炸裂っちゃう?」

「ま、村長さんの許可も得たし、ボチボチやったりますか!」





「あ、見つけました。わたしたちの武器です。ユウトさん」


 俺は人のいない民家をガサゴソと漁りながら、アーニャの声のほうを向いた。
 アーニャはその家から出てくると、俺がいる民家まで小走りで来てくれた。


「おお、見つかったか?」

「はい、こちらを……」

「うん、確かに俺のだ。ありがとう。これがないと、あんなドラゴンと戦いたくもないからね」

「それはよかったです。……それで、あの、ユウトさんは何を……?」

「あ、これ? 別に火事場泥棒ってわけじゃないよ? ただ、腹が減ったから、兵糧を拝借していただけ」

「兵糧ですか……」

「うん、腹が減ってはパーリナイ! っていうだろ?」

「よ、よくわりませんが、なるほど、さすがです! ユウトさん!」


 俺は適当な出鱈目を並べると、おにぎりを口の中に放り込んだ。
 俺の武器を見つけたってことは、アーニャの武器も見つかったんだよな。
 どれ、どんな武器を使っているか見てみ――


「ブフォウ!?」


 おもわず、口の中で咀嚼していた米と梅干が宙を舞う。
 アーニャが手に持っていたのは杖。
 木製の杖。
 なのだが、俺が知っている杖とは、一線を画すものであった。
 杖には金属製のゴツイチェーンがグルグル巻きにされており、先端には釘が何本も打ち付けられている、凶悪極まりない鈍器・・だった。


「ゆ、ユウトさん……そんなに見ないでください……は、恥ずかしい……」


 かわいい。
 そうだよ、かわいければ何でもいいんだよ。
 こんな鈍器振り回して、魔物を片っ端から撲殺しようとしてても、かわいければ――


「怖いわ!!」

「ひゃ……っ!」

「ご、ごめん。自前の発作が……。さて、気を取り直して、あのドラゴンたちをぶちのめしに行こうか」

「で、でもわたし、戦うのは素人でして……」


 そう言っているアーニャの鈍器は、紫や緑の液体がびっしりとこびりついていた。
 あれは、たぶんモンスターの体液、だろうけど……、その体液のこびりつき具合を見るに、歴戦の猛者なんだよな……でも、ツッコむのはやめておこう。
 怖いし。


「あ、勘違いしないでください! この液体は、料理をしていて、鍋をかき混ぜたときに付着した調味料でして……」

「あ、そーなんだー、ふーん」


 いろいろとツッコみたいが、アーニャの料理は口にしないでおこう。
 俺は心にそう固く誓った。


「大丈夫、心配しないで。アーニャはただ、ドラゴンをその杖で殴るだけでいい。細かい指示や強化はこっちでやるから、安心しててくれ」

「そう……、なんですか?」

「ああ。アーニャにはかすり傷ひとつ、つけさせたりはしないよ!」

「わ、わかりましたっ! がんばりますっ! わたし、ユウトさんを信用します!」

「ありがとう。とにかく、先に狙うはドラゴンの雛たちだ。デカいほうは、いまはまだ人間を傷つける気配がないから、放っておいていい。雛のほうは、人間を食い散らかしている。あっちを優先してやらないと、被害は今以上に拡大していく。いけるかな? アーニャ?」

「はい。すこし心は痛みますが、致し方ありません」

「よし、損な役回りをさせて申し訳ない。じゃあ――いくぞ!」

「はい!」


 アーニャは鈍器を振りかざすと、「えーい」と、可愛く雛のところまで特攻していった。
 まるで子供の喧嘩を見ているみたいで、ほのぼのしかねないが、相手はエンドドラゴンの雛。
 子ども同士の喧嘩ではあるが、意味が違う。
 でも……確かにあの戦い方は初心者だな。
 アーニャがウソをついていた、……とは思ってなかったから、なんとなく安心した。
 でも――

「あっ、キャー!!」

 何かに躓いたのか、アーニャはステーンと豪快に転倒してしまった。
 ……まじで何に躓いたんだろう、アーニャは。
 それにより、雛たちがアーニャの存在に気が付き、ズンズンと近寄っていく。
 雛とはいっても、体調は三メートルほどはある巨大なモンスター。
 俺が丸腰で向かい合えば、失禁も止む無し……ちなみに、この場合の失禁は失禁武者震い読む。勘違いしないように。
 だから、人間にとっては雛といっても、十分に脅威なのだ。


「なんて、解説してる場合か! 防御力強化! 皮膚鋼化ガードポイント!」


 ガブリ!!
 雛が豪快にアーニャの頭を丸呑みにする。
 しばらくして、タラー……と、アーニャの首筋に血が滴る。
 そして、ゴリゴリと音が鳴り、白い破片がパラパラと落ちていく。


「アーニャ! 立てるか?」

「え? あ、はい!」


 アーニャは頭を、ガジガジと噛まれたまま返事をした。
 よかった。とりあえずは無事のようだ。


「待っててくれ、いま筋力強化を――」

「やーっ」


 ドゴッ!!
 アーニャは持っていた杖で、思いきり、雛のあごを殴りつけた。


「キュイイイイイイイイ!?」

 
 顎を撃ち抜かれ脳震盪を起こしたのか、雛はアーニャから離れると、口から血を出してのたうち回った。
 腕力だけでぶっ飛ばせるんだ……と、思う反面、これに俺の付与魔法が乗ったら、どれほどの威力になるのかとも考えてしまう。想像しただけで、すこし血が騒ぐ。
 さきほどアーニャの首筋を伝ったのは、雛の血。
 そしてパラパラと崩れた白い破片は雛の歯。
 つまり、雛はいま、完全に無防備。


「アーニャ! たたみかけるんだ! トドメいくよ!」

「は、はい!」

 アーニャはバッと立ち上がると、杖を振りかぶって、再度特攻を試みた。

「こんどこそ――攻撃力強化! 強力招来アタックポイント!」


 赤い光が、アーニャの腕周りに纏わりつく。
 アーニャはそのまま雛めがけ、ブン! と杖を振り下ろした。
 その瞬間、雛は風船のようにパァンと爆散した。
 そして、空から雛の血の雨があたりに降り注いだ。
 地面には大きな地割れ。
 アーニャの振り下ろした杖は雛を割り、大地をも割った。

「……?」

 これは……夢……? いや、現実か。
 一応加減はしたつもりなんだけど……。
 というか、前パーティの戦士でも、こうはいかなかった。
 どうなってるんだ、この腕力は! マジで!
 当の本人は、ポケーッとその場で固まっているし。


「ッ!? おい、アーニャ! 次が来るぞ! 構えろ!」

「え、あ、はい!」


 二体目の雛。
 実質これで最後の雛のはずだ。
 巣にいたときに見たのは、巨大化しているのと合わせて三体。

「今度もこっちから迎え撃つよ! 走って、アーニャ!」

「わかりました! いきますっ!」

「受け取れ、脚力強化! 疾風迅雷スピードポイント


 ――ギュン!!
 加護を受けたアーニャは、突然、その姿を俺の視界から消した。
 気がつくと、雛のどてっ腹には風穴が空いている。
 成功……だよな? ていうか、アーニャはどこに――

「ゴギャアアアアアアア!?」

 遠くのほうで、龍の咆哮……それも、悲鳴に近い咆哮。
 もしやと思い、ダッシュで龍の付近まで近づいていく。
 すると、エンドドラゴン(もはやどちらかわからない)の脚が吹き飛んでいた。
 どうやらアーニャの突進は雛を貫き、そのまま、直線上にいた龍の脚をも持っていっていたらしい。
 俺の強化魔法、強くなったの? いや、被強化体であるアーニャが強いのか……。

 バランスを崩したエンドドラゴンに、もう片方のエンドドラゴンが容赦なく、食らいつく。

 ゴリ、バリバリバギィ!! グチャグチャグチャ……!

 こうして、エンドドラゴンとエンドドラゴンの戦いは、共食いという形で決着となった。
 しかし、あいつらの戦いが決着したとしても、俺たちの戦いはまだ続く。
 叩くなら勝利に酔いしれている今が好機。


「アーニャ! どこだ! 聞こえる?」

「はい! 聞こえます!」


 姿は見えない。
 しかし、声はハッキリと聞こえる。


「おし! 聞こえてるなら、もうどこにいてもいい! とにかく、そこから龍は見えるね?」

「はい! 見えます! どうすればいいですか?」

「アーニャ、今のおまえは硬度、腕力、脚力共に、最強だ! アーニャのおもうままに、やりたいようにそいつを倒してくれ! 効力については大丈夫。三分ほどで切れるけど、今のアーニャならそんなに時間は必要ない!」

「わ、わかりました! やりますっ!」


 ――パッ!!
 言った傍から、龍の首から上が、一瞬にして無くなる・・・・
 それから数秒遅れ、辺りに突風が吹き荒れた。
 凄まじい威力だ。
 杖で殴っただけで、首ごと頭を吹っ飛ばした。
 ……やはり、アーニャの潜在能力は凄まじい。
 しかも、これでまだ原石。
 これから、どういう風にも輝ける。
 底が見えないほどのポテンシャルを秘めている。
 アーニャ……か、この子、ひょっとすると、ひょっとするか……?


「ユウトさん! わたし、やりました! やりましたとも! 見ていてくださいましたか? あっ、……でも、すごいのはユウトさんなんですよね。ユウトさん、すごいっ!」


 アーニャが嬉々として俺に駆け寄ってくる。
 俺はアーニャの頭に手を置くと、ワシワシと撫でまわしてやった。

「あっ……」


 アーニャはそう小さく洩らすと、目を細め、頬を赤らめながら俺に身をゆだねている。
 なんとなく手が頭に伸びてしまったが、嫌がってないし、これ、案件じゃないですよね?


「いや、よくやったよ。俺だけだと、絶対にこうはいかなかった。これは間違いなく、アーニャのお陰だ。ありがとな」

「くすくす、謙虚なのですね、ユウトさんは。こちらこそ、ありがとうございます。すこし怖かったですが、とても『えきさいてぃんぐ』でしたっ」

「そうか。……それで、だな。アーニャ、ちょっと頼みたいことがあるんだけど、いいかな?」

「はい。何でも仰ってください! あっ、で、ですが、その、準備が必要なことは……、すこし時間をいただけると嬉しいかなって、おもったり――」

「俺のパーティに入ってくれないか?」

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