魅力値突破の『紅黒の魔女』
執着
ーー欲しいモノは何としても手に入れろ。欲望に忠実であれ。
それは彼、アラン=ゲールが幼い頃から父であり、この地を納める侯爵、ゲラル=ゲールに言われ続けていた言葉である。
この言葉の通り、彼の父は、今まで欲した全てのモノを手に入れて来た。例えそれが人であっても。
そして息子であるアランもまた、幼少期から忠実にそれを実行している。今では父のその言葉は教えではなく、彼の行動理念そのものとなっていた。
貴族の家庭に生まれたアランは、大体のモノは金と引き換えに手に入れられた。
気に入った女も、食べたい物も、着たい服も。
しかし最近になって、アランは世の中には金では手に入らないモノもあるのかもしれないと痛感していた。
十五度目の解魔の儀式を受けるため、アランはその日も、これまでの儀式と同じく長い列の最後尾に並ぶ。
そして彼が並んだすぐ後に、一人の女が列に加わった。
アランは何気なく振り返りその女の姿を見てしまう。これが彼に降りかかる不幸のきっかけであるとも知らずに……。
その女、いやまだ少女と言っても良い年頃の彼女を見た瞬間、アランは自身の血が沸き立つかのような熱を感じ、目が離せなくなってしまう。
そして彼はこう考えていた。
(これまで欲望を抱いたどんなモノよりも美しいこの女を、今まで手に入れて来た全てを捨ててでも自分のモノにしたい!!)
今、欲望に忠実であれと言った父の声が、何度も繰り返しアランの頭の中に響いていた。
その少女は並々ならぬ美貌の持ち主であった。アランだけでなく周りの者達はみな彼女を気にしている。
ただ、いくら美しいとはいえ、容姿だけならば探せば匹敵する者がいてもおかしくない。アランもここまで欲望を掻き立てられる事は無かっただろう。
その少女には人を魅了する何かが内側から溢れていた。
周りの他の男に先を越されてはたまらないと、アランは意を決し、その少女に声をかける。彼女をを自分のモノとするために。
(私が声をかければ上手く行くはずだ)
アランは自身の容姿にそれなりの自信を持っていた。それは自惚れではなく、声を掛ければ女が当たり前の様にホイホイ着いてきたという経験によるものだ。
長身に端正な顔つき、引き締まった肉体。
確かに彼に声を掛けられて気を悪くする女はそうはいないと思われる。
そしてアランは、今回も例のごとく、そのような反応が返ってくるものだと信じて疑っていなかった。
しかし少女から返って来た反応は、彼の予想に反したものだった。
しばらくは苦笑いを浮かべながら話を聞いていたのだが、そのうち聞く気もないと言わんばかりにそっぽを向く少女。
さらにアランは自分の家柄なども引き合いに出して彼女を口説くが、あえなく撃沈してしまった。
アランは焦った。
彼に手に入らないモノなどあってはならないのだから……。
なんとか打開しようと必死で考えるが、効果的な策は思い付くことが出来ず、少女とは浄めの浴場で別れてしまったのだった。
思えば心を乱されたこの時点で、今日の解魔の儀式も失敗することは決まっていたのかもしれない。
そして案の定、十五回目の解魔の儀式も失敗に終わった。
本来であれば彼には今日、大精霊の加護が宿っていたはずだった。
必ず。
確実に。
間違いなく。
実際にはそんなことはないのだが、彼は本気でそれを信じ、疑っていなかった。
しかし、現実というのは残酷であり、アルティ像の持つ聖水の水鏡は、彼に何の反応も示さなかったのだった。
先程も述べたように、アランは失敗の原因をこう考えていた。
あの少女のことばかり考えてしまっていた所為であると。
彼の中では少女は既に自身の所有物であり、その所有物が自分へ不敬な態度を取ったことが腹立たしく思う。
落胆しながら儀式場を出ると、彼は再び少女と鉢合わせる。
「フフフ……あら、残念でしたね」
彼は少女に受かるはずがないと伝えるも、まともに相手すらしてもらえずに少女は儀式へと向かってしまった。
許しがたい不敬。一度ならず二度までも。
(……まあ良いでしょう。どうせ失敗するでしょうから後で慰めてやれば良いのです。それでこの女は私に堕ちる筈なのですから……フフフ)
彼は自分にとっての都合の良い事しか起きないと信じて疑わない人間だった。
しかし、少女に関して彼が思い描いた筋書が現実となることはなかった。
いや、この結果は誰にも予想などできなかった。彼女は解魔の儀式において、とんでもない結果を叩き出したのだから……。
胸にぽっかりと穴の空いたアルティ像の前で、司祭は少女に対して魔法技学園に推薦するとまで言っている。
アランは二階からその様子を見下ろしながら、歯をギリギリと擦り合わせる。
しかも、先程まで自分の隣で儀式を見ていた男が、少女は自身のペットであるにも関わらず保護者だとほざいている。
男に対してアランは殺意を覚えていた。
(私が人の物を奪うことは許されても、私の物を他人が奪うのは許せません。あの男はいつか殺しましょう……)
アランは思う。彼女は恐らく司祭の推薦を受けるだろうと。
そうなると自分も精霊の加護を授かりさえすれば、学園に入学すことで彼女と再会することができるのだ。そこで意思を剥ぎ取り、自分を崇拝するよう頭に刷り込んでやるれば良い。
「いやぁ、楽しみですねぇ。あの美しい顔が羞恥と快楽と苦痛に歪み、瞳から光が消えて行くのは。
貴女が私に媚びている様は何事にも代え難い興奮を私に与えてくれるでしょう!」
アラン=ゲール。彼はカレンに出会った事でその魅力にとり憑かれ、人生を狂わせてしまうこととなる一人の哀れな男である。
それは彼、アラン=ゲールが幼い頃から父であり、この地を納める侯爵、ゲラル=ゲールに言われ続けていた言葉である。
この言葉の通り、彼の父は、今まで欲した全てのモノを手に入れて来た。例えそれが人であっても。
そして息子であるアランもまた、幼少期から忠実にそれを実行している。今では父のその言葉は教えではなく、彼の行動理念そのものとなっていた。
貴族の家庭に生まれたアランは、大体のモノは金と引き換えに手に入れられた。
気に入った女も、食べたい物も、着たい服も。
しかし最近になって、アランは世の中には金では手に入らないモノもあるのかもしれないと痛感していた。
十五度目の解魔の儀式を受けるため、アランはその日も、これまでの儀式と同じく長い列の最後尾に並ぶ。
そして彼が並んだすぐ後に、一人の女が列に加わった。
アランは何気なく振り返りその女の姿を見てしまう。これが彼に降りかかる不幸のきっかけであるとも知らずに……。
その女、いやまだ少女と言っても良い年頃の彼女を見た瞬間、アランは自身の血が沸き立つかのような熱を感じ、目が離せなくなってしまう。
そして彼はこう考えていた。
(これまで欲望を抱いたどんなモノよりも美しいこの女を、今まで手に入れて来た全てを捨ててでも自分のモノにしたい!!)
今、欲望に忠実であれと言った父の声が、何度も繰り返しアランの頭の中に響いていた。
その少女は並々ならぬ美貌の持ち主であった。アランだけでなく周りの者達はみな彼女を気にしている。
ただ、いくら美しいとはいえ、容姿だけならば探せば匹敵する者がいてもおかしくない。アランもここまで欲望を掻き立てられる事は無かっただろう。
その少女には人を魅了する何かが内側から溢れていた。
周りの他の男に先を越されてはたまらないと、アランは意を決し、その少女に声をかける。彼女をを自分のモノとするために。
(私が声をかければ上手く行くはずだ)
アランは自身の容姿にそれなりの自信を持っていた。それは自惚れではなく、声を掛ければ女が当たり前の様にホイホイ着いてきたという経験によるものだ。
長身に端正な顔つき、引き締まった肉体。
確かに彼に声を掛けられて気を悪くする女はそうはいないと思われる。
そしてアランは、今回も例のごとく、そのような反応が返ってくるものだと信じて疑っていなかった。
しかし少女から返って来た反応は、彼の予想に反したものだった。
しばらくは苦笑いを浮かべながら話を聞いていたのだが、そのうち聞く気もないと言わんばかりにそっぽを向く少女。
さらにアランは自分の家柄なども引き合いに出して彼女を口説くが、あえなく撃沈してしまった。
アランは焦った。
彼に手に入らないモノなどあってはならないのだから……。
なんとか打開しようと必死で考えるが、効果的な策は思い付くことが出来ず、少女とは浄めの浴場で別れてしまったのだった。
思えば心を乱されたこの時点で、今日の解魔の儀式も失敗することは決まっていたのかもしれない。
そして案の定、十五回目の解魔の儀式も失敗に終わった。
本来であれば彼には今日、大精霊の加護が宿っていたはずだった。
必ず。
確実に。
間違いなく。
実際にはそんなことはないのだが、彼は本気でそれを信じ、疑っていなかった。
しかし、現実というのは残酷であり、アルティ像の持つ聖水の水鏡は、彼に何の反応も示さなかったのだった。
先程も述べたように、アランは失敗の原因をこう考えていた。
あの少女のことばかり考えてしまっていた所為であると。
彼の中では少女は既に自身の所有物であり、その所有物が自分へ不敬な態度を取ったことが腹立たしく思う。
落胆しながら儀式場を出ると、彼は再び少女と鉢合わせる。
「フフフ……あら、残念でしたね」
彼は少女に受かるはずがないと伝えるも、まともに相手すらしてもらえずに少女は儀式へと向かってしまった。
許しがたい不敬。一度ならず二度までも。
(……まあ良いでしょう。どうせ失敗するでしょうから後で慰めてやれば良いのです。それでこの女は私に堕ちる筈なのですから……フフフ)
彼は自分にとっての都合の良い事しか起きないと信じて疑わない人間だった。
しかし、少女に関して彼が思い描いた筋書が現実となることはなかった。
いや、この結果は誰にも予想などできなかった。彼女は解魔の儀式において、とんでもない結果を叩き出したのだから……。
胸にぽっかりと穴の空いたアルティ像の前で、司祭は少女に対して魔法技学園に推薦するとまで言っている。
アランは二階からその様子を見下ろしながら、歯をギリギリと擦り合わせる。
しかも、先程まで自分の隣で儀式を見ていた男が、少女は自身のペットであるにも関わらず保護者だとほざいている。
男に対してアランは殺意を覚えていた。
(私が人の物を奪うことは許されても、私の物を他人が奪うのは許せません。あの男はいつか殺しましょう……)
アランは思う。彼女は恐らく司祭の推薦を受けるだろうと。
そうなると自分も精霊の加護を授かりさえすれば、学園に入学すことで彼女と再会することができるのだ。そこで意思を剥ぎ取り、自分を崇拝するよう頭に刷り込んでやるれば良い。
「いやぁ、楽しみですねぇ。あの美しい顔が羞恥と快楽と苦痛に歪み、瞳から光が消えて行くのは。
貴女が私に媚びている様は何事にも代え難い興奮を私に与えてくれるでしょう!」
アラン=ゲール。彼はカレンに出会った事でその魅力にとり憑かれ、人生を狂わせてしまうこととなる一人の哀れな男である。
コメント