魅力値突破の『紅黒の魔女』

岩野こま

転道5

「そんな憎しみを込めた声で名前を呼ばないでよ。
 ゾクゾクしちゃうじゃない♪
 さて大事な説明よん。一度しか言わないからよく聞いておいてねー。
 アナタは今、『魅力値』というステータスが限界を越えた高い状態にあるわ。これがアナタに与えられたギフトね。
 そしてこのギフトの効果はこの世界で生きていく中で貴方自身で確かめてね」

 夏蓮はアルティの言葉を聞きつつも、鋭い目でセロを睨み付けいる。そして、今の自分の置かれた状況を問いただした。

「あんたは転道前の説明で、肉体も精神もそのままだと言ったわね。
 全然違うみたいだけど、どう言う事なの?! 」

「アハハハ。
 気に食わなかったかしら。
 通常はそうなんだけど、貴方あまりに可愛かったから女の子にしてあげちゃった。ついでに精神状態まで女に改変したのよ。今も違和感なく女みたいな口調で喋ってるじゃない♪
 あ、女みたいじゃなくて女そのものだったわね。
 これは結構テクニックが要るんだからー。
 それに前の人生ではそういう願望も有ったみたいだし……アハハハハ! 」

 夏蓮は身体と精神を勝手に改変された怒りで強く拳を握りしめていた。今にも飛び掛かりそうなほどの憎悪を周囲に撒き散らしながら。
 しかしそんな夏蓮の怒りなど何も気にしない様子で大笑いしているアルティ。

(こいつはやっぱり神様なんかじゃない。悪魔そのものだ!)

 アルティはひとしきり大笑いし満足した後、夏蓮に対して挨拶を告げた。

「さて、私も暇じゃないから貴方をからかうのも此くらいにしてあげる。
 それじゃぁ精々、異世界生活を楽しんでね。天から応援してるわ。バイバーイ♪」

 この言葉を最後にセロの身体はボトリと乱暴に草の上に落ちた。

 本当に勝手な奴!
 夏蓮は勝手に身体と精神を改変されたことに怒りは感じつつも、今現在女であることに違和感を感じる事は出来なかった。
 まるで、元から女であったとしか思えないような感覚。

 そして自分の裸体を確認してみる。
 もともと細身の体型だったのだが、今の夏蓮の身体は少し丸みを帯びて女性として素晴らしいプロポーションを得ていた。それなりに大きい碗形の胸、くびれたウエスト、柔らかく丸い尻、細過ぎず健康的な太もも……、そしてこの身体には夏蓮の顔が着いている。
(控えめに言って、超絶美少女じゃね?! 元々女装癖あって、女に生まれたかったとか思ってなかった訳じゃないし、アルティはムカつくけどこれはこれでありなのでは?)

「ん……うぅ……」

 夏蓮がそんな事を思っていると、草の上に倒れていたセロが目を覚まし、よろよろと立ち上がった。

 そして夏蓮を見るなり身体に力を込め、突然飛び掛かった。
 思わず夏蓮はセロを抱き抱えたのだが、勢いに負けてバランスを崩し、後方によろけて尻餅をつく形で倒れていたしまう。

「にゃうううう! にゃぁぁぁぁ!」

(な、何してんだこいつ!!)

 セロは夏蓮のたわわな胸に一心不乱に顔を左右にブンブンと振って頬擦りしている。

「ちょっ! くすぐったいって!
 はーなーれーろー!! 」

 彼……、いや彼女は錯乱したセロの首根っこを掴み、思い切り力を込めて前方に放り投げた。

 しかしセロは空中でくるりと回転しながら態勢を建て直し、華麗に着地を決めたのだった。
 
「俺とした事がすまない。
 ……つい我を忘れてしまったよ」

 コイツ……さっきまであんなに悪態ついてたのにいきなりどうしたんだろうと、余りにも先程とは違うセロの態度に困惑してしまう夏蓮。

「そ……その……。
 あの……、さっきは悪かったな」

 もじもじしながら夏蓮を見たり目を逸らしたりを繰り返すセロ。
 
(もしかして、コイツ照れてるんじゃ!?そりゃぁ、セロも男の子っぽいし、こんな超絶美少女が素っ裸でいたら大抵の男は照れても仕方ないか。)

 頭の中で超絶美少女を自称した先程まで男だった女は、思い付いた疑問をセロに投げ掛けてみる。

「もしかして、照れてるの? 」

「そうだよ! お前裸だし……」

 先程までの悪態が嘘の様にしおらしくなってしまったセロを見て、夏蓮はなんだか可笑しくなって大笑いしてしまう。

「ぷっ! あははははは! 」

「なんだよ! そんなに笑わなくてもいいだろ! 」

「ごめんごめん。
 でも何でそんなに態度が変わってしまったの?」

「それが俺にも分からないんだ。ただ、お前を見てると、とてもドキドキしてしまうんだ。俺が守ってあげなきゃって……」

 目の前の小動物が自分に対して口説き文句を唱えている事が可笑しく、夏蓮は更に笑いそうになるのを必死で堪えた。

「あ、ありがとうね。」

 それから暫くセロからこの世界について色々聞き出そうと会話をするが、結局セロもこの世界の事を殆ど知らなかった。

「さて、どうしようか」

 一通りセロと話した後、この後について考える夏蓮。

 行く宛もないし、復讐しようとしたって、まずはこの世界で生活の拠点を知らなければならないだろう。このままこの草原で夜を迎えるのは避けたい。早めに移動して近くの街を見付けなければ……。

 黙って思案する夏蓮にセロが声を掛けきた。

「そうだ。お前の名前を聞いてなかったな」

(おっと、そうでした。セロは多分これから私と行動するんだからちゃんと自己紹介しておかないとね)

 セロを持ち上げ目線の高さを合わせると、夏蓮は自己紹介をする。

「私は夏蓮。元々男だったけど、さっき君のご主人様のアルティに女にされた転道者だよ。よろしくね」

 言葉の最後にニコリと微笑む夏蓮。
 その仕草と表情を見れば大抵の男は一目惚れするのでは、と思えるほどの魅力を自然と振り撒いている。
 しかし、当の本人は自分の魅力を分かりつつも、打算ではなく天然でそれをやっている。

 そう、これがギフトである魅力値限界突破の効果だった。彼女はその恵まれた容姿だけでなく、他社を魅了する内面からでる雰囲気の様なものを持っていた。

「あ……ああ、カレンか、と、とても良い名前だな」

 セロは顔を真っ赤にしながらたじたじの様子。
 セロだけでなく、どんな男が相手でも同じ反応になるだろう。
 照れながら言葉を続けるセロ。

 「それと、その……何時までも裸だとまずいだろ。俺が服になってやるよ」

 そう言うとセロはカレンの胸に向かって飛び付き、その瞬間紫の炎に包まれる。

「また炎?! もう熱いのヤダよ!」

(あれ? さっきと違って熱くないし痛みもない……)

 心地よい暖かさの様なものを感じるカレン。そして次の瞬間には炎とセロが消えた代わりに身体は衣服を纏っていた。

「おぉー。これってセロのデザイン?」

「そうだよ。気に入らなかったかい?」

 上半身は襟だけが黒い白のシャツ。胸元は結構開いていて、谷間がしっかりと見えている。谷間のすぐ下には紫色の大きな宝石が取り付けられていて、セロの声は此処からしていた。
 左肩には金属の丸い形状をした肩当て、腕は露出しているが、手には黒いグローブが嵌められている。
 下半身は黒の膝上のスカートで、右側にはそれに重なる形で、スカートの丈より少し長い紅色の布が垂れ下がっている。
 靴も黒のロングブーツであり、セロのイメージと同じ黒を基調としたコーディネートだった。

「可愛い! セロありがとう!」

 ただ、胸元とスカートの丈がかなり短いのが気になったんだけど、それは口には出さない事にした。
(きっとセロの趣味ね。女にされちゃったけど、元は男なんだし、こういうのには寛容でいてあげよう)

「それじゃぁ、とりあえず人がいそうな所を探して歩こっか」

 カレンは胸元の宝石化したセロに声をかけ歩きだす。

「そうだね」

 セロが短く返事をする。

 こうして守護精霊のセロというパートナーを得て、カレンの異世界での生活が幕を開けたのだった。

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