えいけん!

雪村 和人

ぼっちの名言なめちゃいかんね

 今日も今日とていつも通りの時間に目覚ましが鳴り響く。うまく働いてない頭でどうにかこうにか体を動かしてリビングへと向かう。

 ゴンッ!

 痛い!頭が痛い!めっちゃ良い音したよ!今のでめっちゃ目醒めた。もう本当に覚醒したよ!もう体作り替えられるくらいに目が醒めたよ!

 ガンッ!

 小指ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!




「おはよう。」

「え?ああうん。おはよう。」

 いつもと同じ場所で結城さんとエンカウント。って言うかいつの間にか結城さんと登校してるな。噂には気を付けよう。

「えーっと、どうしたの?何かげっそり?してるけど。」

 そう言って結城さんは少し心配そうに僕の顔をのぞき込んできた。僕はその行動に少し照れくさくなって目をそらしてしまう。

「そ、そりゃあ3週間毎日演技の練習させられればね。」

 そう。3週間もたっているのだ。あのテスト返却日から。その間ずっと僕の下手な演技の練習が行われていたのだ。初めて僕の演技を見た辰也なんて腹抱えて死にかけてたし。次の日なんか腹筋筋肉痛になってたからな。もう酷いったらありゃしないよ。相変わらず中二病は絡んでくるし。まぁ、毎度のようにギャルさんに追い出されてるけど。ほんっとギャルさんには感謝っすわ。義隆には悪い気がするけど・・・。

「なにがとは言わないけど、本当にすごい演技だよね。なにがとは言わないけど。」

 クスクスと笑いながら結城さんはそう言った。おっかしいな。何でだろう。結城さんの対応があの二人に似ている気がするぞ?いやあの二人の方がよっぽど酷いんだけどさ。特に遥香。

 ゾクッ!

 何か悪寒がしたけど大丈夫だよね?遥香に殺されたりとかしないよね?まだ死にたくないんだけど・・・。

「えっと、後一週間ちょっとで中間だね。」

「そうだね。と言うことは!しばらくはこの練習地獄から逃げられr「君の演技力でサボる時間があると思っているの?」はい。そうですよね。すみません。」

 いきなり登場した先輩のセリフに僕は萎縮する。

「おはようございます桜花先輩。」

 結城さんは何でもない事のように先輩に挨拶をする。先輩は僕たちを見て少しだけふてくされたような顔をした。

「おはよう結城さん。所で、二人で登校してるなんてよっぽど仲がいいのね?」

 先輩がそう言いながら少し圧を飛ばしてくる。笑顔で言ってるのに目が笑っていない。こんな状況を現実世界で拝むことになるとは。小説とかでしか見たことないから何か新鮮。

「そんなこと無いですよ。道が同じなので偶々一緒になる事が多いだけですよ?」

 結城さんがそう返すと先輩は少し眉をヒクつかせた。あぁ。大丈夫かなこれ。巻き込まれないように離脱出来ないかな?

「でも今まで一緒に登校してるところなんて見たこと無いわよ?それに最近帰りも一緒よねぇ?」

 あ、ヤバイ。先輩ちょっとキレてきてない?結城さんはなにがいいたいのか分からないと言ったように首を傾げながら答える。

「えーっと、今までは接点が無かったので一緒に居なかっただけですよ?帰りも道が同じだからで。」

 結城さんの返しに先輩の額に青筋が浮かぶ。結城さんすげぇ。自分でも知らず知らずの内に相手を怒らせている。こういうタイプって怒りにくいんだよなぁ。

「ふん。まぁいいわ。それじゃ、私は先に行くから。練習はサボらないように!」

 そう言って先輩はスタスタと一人で先に行ってしまった。あ、一緒に行く流れかと思ったのに違うのね。何か後ろ姿が可哀想なんだけど・・・。友達いないのかな?もしかして先輩ってボッt

 ギロッ!!

 そんな効果音がでそうなほど鋭い目つきで先輩は睨んできた。わざわざ止まって。うん。このことは考えないようにした方が良さそうだ。




「次の保体男子外でサッカーかテニスらしいから、遅れるないようだって。」

 昼休みが終わる5分前に、職員室から帰ってきたクラスの体育係がそう言った。これはいやな予感がする。とりあえず着替えて外出るか。そう思って僕は体育着をもって、男子になっている隣のクラスへと向かった。

 ちなみにこの時期まで体育の種目が決まっていないのは保健のテスト範囲が多かった為である。ついこの間までは延々と保健の授業をやっていた。終わらなければよかったのに!




「じゃあサッカーやりたい奴手上げろ。」

 外にみんなが集まると先生がそう言った。僕は勢いよく手を挙げた。理由?サボれるからだよ。テニスとか二人一組じゃあサボれないでしょ?そのためならたとえ義隆が手を挙げていようと耐えようではないか!

「多いな。じゃあ近くの奴三人でじゃんけんしろ。負けた奴はテニスだ。」

 な、何だと!じゃんけんか。よし!僕は近くにいた男子二人(義隆と名前も知らないパリピっぽい奴)とグループ?を作り、拳をつきだした。

「さぁぁいしょぉぉぉはぐぅぅぅ!」

 三人とも気合いを込めてそう叫んだ。大体の人間は気合いがこもればこもる程グーを出してしまう傾向ある。

「じゃぁぁんけぇぇぇん」

 このままの勢いで行けば二人ともグーを出すだろう!義隆は知っているかもしれないがこの陽キャが知っているとは思えない!なら!

「ポン!」

 パー1人。グー1人。チョキ2人。僕はもちろんパーである。・・・は?は?え?ちょ?Why?なん・・・だと・・・。

「なん・・・だと・・・。」

「よっしゃぁぁぁ!」

 義隆と陽キャの反応は全く別のものだった。ちょっと待って義隆と同じ反応しなかったか僕。結構ショックなんだけど・・・。

「じゃあサッカーになった奴こっち来い。テニスの奴はテニスコート行け。」

 そう言って先生はサッカーコートへと歩いていった。じゃんけんに勝った陽キャも駆け足でお仲間の所へと向かった。僕もテニスコートへ行こうとすると義隆に捕まった。義隆は戸惑ったような顔をして、

「なぁ。お前と離れたら俺は誰と練習すればいいんだ?」

 と言ってきた。僕も同じ気持ちだよ。それとお前。素に戻ってるぞ。




 その後六限が終わるまで先生と組まされました。アレは公開処刑だよ。精神的にくる。本当に無職童貞位のダメージを受けたよ!あの名言は本当だった!チキショウッ!と着替え終わった後、教室の机で伸びながら考えていると、結城さんが来た。

「えーっと、どうしたの?」

「次からは体調悪いとか言って壁打ちやろうと考えてた所だよ。」

「・・・えーっと。取りあえず、ウソついてサボっちゃダメだよ?苦手なのは分かるけど。」

 結城さんは少し考えてからそう言った。いやそうなんだけどさ。先生と組まされるって結構きついんだよ?

「そうなんだけどs「戦友よ!」うわぁ。来ちゃったよ。」

 絶対に来てほしくなかった人物、西野義隆が来た。教室に入ってくる義隆の姿を確認する。それから結城さんに助けを求めようとすると、いつの間にか自分の席に着いていた。行動が早すぎるだろう!

「貴様があの時負けてしまうから、我は一人で魔の手先と戦う羽目になったのだぞ!」

「しらねぇよ!てか誰だよ魔の手先!」

 いや話の流れ的にどうせ先生だろうけど!こいつも大体ぼっちだし。僕と同じで。・・・何か自分で言ってて悲しくなってきた。

「この場にいる魔の手先と言って分からぬと言うのか!?貴様何処まで落ちてしまったのだ!」

 義隆がふざけるなと言ったように大きな声で叫ぶ。その後ろから忍び寄る一つの陰。あ、こいつ終わったな。てか僕にそんな中二病だった時期無いからね?本当だよ?

「うるさいよ?中二病くん?」

 その声に義隆はビクッと大きく飛び跳ねる。恐る恐る振り返る。そこにはニッコリと笑うギャルさん。目が笑ってないけど・・・。なんだろう。場違いなのは分かってるんだけど、こんな顔できるって結構器用だよね。先輩もやってたけど。もしかして結構できる人いるのかな?

「こ、これはその、こ、この人、と、い、いろ、色々とあり、ありま、して・・・」

 なんだこいつ。ヤバイ。録音してアイツの耳元で流し続けてぇ。何処かの電脳少女の気持ちがよく分かる。絶対に面白い。が、ここは取りあえずは、

「?なんかあったっけ?」

 僕がそう言うと義隆は目を見開いて振り返ってきた。その速度はさながらキッチンを逃げ回るGのよう。首の骨折れないのかな。大丈夫かな?まぁ周りの肉が守ってくれそうだけど。

「って言ってるけど?」

 ギャルさんは静かに、しかし確かな威圧感をもってそう言った。義隆は見る見るうちに青ざめていく。足は生まれたての子鹿も顔負けなくらい震えている。

「は、はぃ。大変申し訳ありませんでした。」

 そう言ってとぼとぼと教室を出て行った。あら哀愁漂う良い背中。なんかアイツ可哀想だな。

「ありがとう。助かった。」

 僕がそう言うとギャルさんはため息を吐いた。そして腰に手をやり僕をジト目で見てくる。

「あんた、迷惑なら直接そう言いなさいよ。」

 そんなことを言ってくるギャルさんに僕は尻込みしそうになるのを頑張って押さえて決定打になりそうな一言を捜す。

「あ、アレになんか言っても、と思ってしまって・・・。」

「・・・確かに・・・。」

 僕のセリフにギャルさんはあ〜と頷き、じゃあ、と言ってもとの場所に戻っていった。毎回追い払ってくれる彼女には感謝しないとな。うん。それにしても義隆の評判って結構悪いよな。まぁ仕方ないって言っちゃえばその通りなんだけど。

「終わったみたいだね。」

 そう言って近づいてきたのは結城さんだった。この人義隆が来ると毎回自分の席に消えてくな。どんだけ嫌ってんだよ。

「えーーーっとね?べ、別に嫌いって訳じゃないんだよ?ただ、ただね?ああいうタイプの人間とはあんまり関わりたくないと言うかなんというか・・・ね?」

 言わなくても分かるでしょてきなのりで言われても困るんだけど・・・。まぁ分かっちゃうんだけどね?うん。でも、でもさ。ちょっとくらい助けてくれてもよくない?

「そ、そんなことより部活行こ!」

 なんかあからさまに話そらされた気がするんだけど・・・。




 結城さんに言われて渋々部室に行くと、僕たち以外の全員が集合していた。なに?なんでこんなに待ちかまえてるの?僕に逃げ道は無いのか!

 結局逃げる事は出来ず、練習をさせられました。辰也には笑われ、遥香は動画をとりゲラゲラと転げ回り、先輩は深い深いため息を吐き、結城さんは困ったように微笑んだ。なんだろう。結城さんの顔が一番心にくる。もう泣きたい。

 ちなみに先輩曰く、僕の演技は一応良くなってきてはいるらしい。気を抜くと元に戻るらしいけど。

 その後、みんなに主人公役んぽ人間を変えようと提案してみたら、見事なまでにそろった口調で却下された。ねぇ。ちょっと待って?僕って監督だよね?部長だよね?一番偉いんだよね?なんでこんなに決定権無いの?酷くない?

「ん?今更何言ってんだ?」

「あなたって監督だったのね。初めて知ったわ。」

 ちきしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!

「不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「あなたそのセリフ好きね。」

 僕が叫んだ教室内に、先輩のそんな呟きが小さく響いた。

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コメント

  • 水野真紀

    最初タイトル見たとき英検かなと思いました笑笑
    でもちゃんとストーリー性があっておもろいっすわしゃの作品も見てくれたらありがたいっちゃ

    1
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