えいけん!

雪村 和人

プロローグ 提案、そしてお仕置き

「って感じのどう?」

 そう言って僕は自前のノートパソコンを隣の席に座っている小南辰也こみなみたつやに見せた。辰也はパソコンを見てため息を吐く。そしてあきれたように俺の顔を見て、手を伸ばしてきて・・・

 パチンッ

 子気味の良い音が部室に鳴り響いた。

「いった!いきなり何するんだよ!」

 僕の問いに辰也はさっきよりも大きなため息を吐いた。どうしたのだろう?

「そんなにため息吐いてるとどんどん幸運が逃げてくよ?」

「誰のせいだよ!」

 僕の言葉に辰也が声を荒げる。いや。そんなこと言われても・・・

「さあ?」

 バシンッ!

「イタッ!ちょっと辰也!こんなか弱い男の子をイジメて恥ずかしくないの!?体育の成績万年1のこの僕を!」

 今度はいきなり叩かれた。何がしたいんだ。こいつ。僕はパンチングマシンじゃないんだぞ!そんな乱暴に扱われたら死んじゃうよ!

「お前はその成績を少しは恥じろ!それと、なんだこれ!アイデアしか書いて無いじゃないか!せめて大まかな設定ぐらい書いてこい!」

 だってつい数分前に思いついてメモ取っただけだもん。仕方ないじゃないか。でも、そんなこと言ったら辰也はさらに怒るだろう。だから別の言い訳を・・・

「いやこれは「こいつ、ついさっき思いついたのよ。だから設定なんて考えてる時間無かったのよ。」

 ちょっとーーー!そんなこと言ったら辰也怒っちゃうでしょ!何で言っちゃうの!それは言わない約束でしょ!

「ちょ、木下きのしたさん?木下遥香はるかさん?何を言ってるのかな?そんなことは無いよ?辰也もね?そんな妄言信じないよね?ちょっと、ねぇ。辰也さん?何でゆっくりとコチラに近づいて来るの?ねぇ、何か顔怖いよ?辰也さん?」

 何度呼びかけても返事をしない辰也。そして呼びかけている間に、辰也はとても良い笑顔でゆっくりと、ゆーっくりと僕に近付いてくる。うん。本当に良い笑顔だ。いい笑顔なんだけど、目が笑っていない。そのせいで辰也は笑っているはずなのに恐怖を感じてしまう。

 すこしづつ後ずさっていく僕を追い込むように辰也は近づいてくる。そして僕に向かって両手を出してきた。その手は中指の第二間接だけ突出した握り拳があった。

「た、辰也さん?い、いったい何を・・・」

 僕がそう聞くと辰也は笑顔に似合わないようなドスの効いた声で静かに言った。

「なぁに。ちょぉっと常識のなってないお坊ちゃんに、かるーいお仕置きをして上げるだけだから。」

 そう言って辰也は僕のこめかみに拳を当てた。僕は逃げようと後ずさったが、いつの間にか壁まで追い込まれていた様で逃げられない。助けを求めようと遥香を見ても、ジト目で僕を見ているだけで助けてくれそうに無い。

 つまり、回避不可能。

「ちょ、ま、話せばわか「分かるかぁ!」ひぎぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」





「ねぇ本当?本当に頭割れてない?大丈夫?」

 僕は壁際でこめかみを抑えながら隣に来ていた遥香にそう聞いた。実に3度目である。遥香はあきれたようにジト目を向けてくる。その間、辰也はパソコンを眺めていた。

「大丈夫だって言ってんでしょうが!しつこい!!」

 そう言って平手を振り下ろす。僕の頭は良い音を鳴らして弾かれる。まさに泣きっ面に蜂である。彼女とは幼稚園からの付き合いだが、小さい頃はこんなに手を出してくることはなかった。どうしてこうなった。そんなことを考えてると、遥香は僕の隣から、機材の置いてある棚の所まで戻っていった。

 僕は隠キャ行動を開始する。椅子を元の位置まで戻して、部室の隅っこに角を向いて体育座りをし、地面にのの字を書く!これぞ、自分落ち込んでますよーとアピールするためのボッチ行動!これぞ完璧!

 二人から見れば、僕が二人からの酷い仕打ちに落ち込んでいるように見えることだろう!なんて思っていると、辰也の声が聞こえてきた。

「アイデア事態は良いとして、脚本書いてくれる人と役者を揃えないことにはなぁ。」

 そう。この部活、映画研究会。通称映研は今年の卒業式でいなくなってしまった三年生7人と僕たち新二年生3人で構成されていた。今日の日にちは3月の18。春休みまっただ中である。つまり、映研は僕たち3人しかいない。機材はあるが、圧倒的に人数が足りていない。

「そこらへんのあてはあるのか?」

 そう言いながら辰也はパソコンから目をそらし、僕の事をみる。その瞬間、辰也は固まった。いや。固まったと言うより、動けないほどどん引きしていた。何かそんなに引く要素があっただろうか?

「なぁ。悪いことは言わないから、隅っこで体育座りしてのの字を書くのを止めろ。見てるこっちが惨めになるし、しばらく部室来てなかったからキタナイぞ。」

 あ、忘れてた。お尻埃だらけじゃん。

 それに気づいてバッと立ち上がった僕は、辰也の所まで歩いていき、パソコンを自分に向ける。そして、軽くメモを取りながら返す。

「脚本のあてならある。3分の2ぐらいの確率で受けてくれると思う。」

 僕のその返しに辰也は何とも微妙な顔で見てきた。なんだよう。

「それ、大丈夫なのか?すごい心配になってきたんだけど・・・」

 辰也の不安そうな言葉に僕はどや顔を向ける。そして自信たっぷりに告げる。

「ふふふ。知らん!」

 そのとき、部室内の温度が急激に下がった。ように錯覚した。理由は当然、隣にいる男の冷え切った笑みである。絶対零度に届くのではないかと思うほどに冷たい冷気をまとった瞳が僕の顔をのぞき込んでくる。

「ほほぉ。まぁだお仕置きが足らないようですねぇ。」

「い、いや。まって。聞いてみるから。OKもらえたら最高のものが出きるはずだから。新学期までには大まかなものは揃えるから!」

 そのはなしを聞いた辰也は冷気を納め、指を僕の胸に突き立てる。そして力強い声で言った。

「新学期までだからな!それまでに脚本家やその他諸々決めとけよ。なんかあったら相談!わかったか!」

「は、はい!」

 いきなりの大声に僕はそう答えるのがやっとだった。奥では、完全に空気と化していた遥香がジト目で僕たちの話しを聞いていた。いや。忘れてた訳じゃ無いからね?本当だよ?

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