桁間違いで異世界最強に!選んだ職業はまさかの冒険者⁉

景樹 ねこ丸

第1話 終わりじゃない

 一生っていうのは、終わったらもう帰ってこない。
 それが当たり前で、常識だ。

 だけど、誰も天国に行った後のことを知らないじゃないか?
 どうなるかなんて、分かりはしないだろ。
 諏訪壮一郎は、死んだ。
 三途の川を渡って、頑張って天国に向かっている。
 神は上から手を伸ばし、壮一郎の体をヒョイとつまみ上げた。

 「わわわ!」

 壮一郎はつままれるがまま、抵抗もできずに上げられた。
 すると、三途の川とは違う、柔らかいフワッとしたものが尻を触った。
 
 (こ、これは、雲の上か?)

 「違う。これは神界の陸地だ。」

 柔らかく包み込むような声が、後方から聞こえる。
 さっき、壮一郎のことをつまみ上げた神様だ。

 「し、シンカイ?」
 「神の世界で、神界しんかいだ。ここは数々の神々が集う、この世の唯一無二の原点にして頂点の世界。」
 「あ、なるほど。それで、どうして私だけここに?」
 
 神様は少し困ったように、頭を掻いた。
 何か言いづらいことなのだろうか?

 「それは、私が地球を創ったときにさかのぼる。」

 こうして地球に間違えて、人間を放ってしまったこと。
 お詫びに、後悔を残した人を、異世界に転生させていること。
 これから壮一郎は、ミロワールドゼロに転生されること。

 「ということなんだが、これから君はゼロで第二の人生を歩んでもらう。」
 「あのぉ、厚かましいかもしれないんですけど、神様から何か特別な能力をくれるとかは、あるのですか?」

 地球でのそういう物語では、神様の加護などをもらっていた。
 それは果たして本当なのだろうか?

 「ステータスを少しいじらせてもらう。あとゼロには、スキルが存在する。攻撃や回復、詠唱や向上魔法などがある。そのリストがこれだ。この中から、5つのスキルを選んでくれ。」
 「あ、分かりました。」

 すごいたくさんのスキルがあった。
 攻撃は二つぐらいで良いか。回復は一つで、向上が二つくらいで良いかな。
 そう思って、壮一郎、いや、今は名前がないんだな。
 その男は、スキルを探し始めた。

 色んなことが短い時間に、ギュッと詰められて、何が何だか分からなくなっていた。
 整理をしよう。

 地球にいた、諏訪壮一郎は大型トラックに轢かれ、死亡した。
 三途の川を渡る途中、神様につままれて、神界へと降り立った。
 そして、ゼロと地球の接点、誤りの歴史を説明されて、転生すると言い渡される。
 
 俺は、転生するのか?

 ようやくその事が理解できた。
 地球では異世界転生ものなどの物語を、かなりの頻度で読んでいた。
 この手のものは、得意中の得意だ。

 だが、スキルをこんな本から選ぶなんて、そんな原始的な方法は聞いたこともない。
 なんだ?今さらながら、すごくワクワクしてきた。
 楽しみすぎてたまらない。
 ヤバい。「死んで良かった」なんて、思ってしまう。
 そんなことはいけない!俺は一秒でも長く、地球で生きていたかった。
 諏訪壮一郎として、生きていたかった。

 気を取り直して、リストに向き直った。
 とんでもなくたくさんのスキルが書いてあった。
 選ぶのも難しいほどだった。

 そこで、あるリストの一部に、とんでもなく凄そうなスキルがあった。
 運命のようなものを感じ、それらを凝視ぎょうしした。
 その中から、5つを選りすぐった。

 「か、神様!決まりました。」
 「ほう、なんだ?言ってみろ。」
 「えっとー、攻撃系が、光羅こうら爆滅撃と、創刺そうせきノ乱で、回復系が超絶癒恵ヒール、向上系が、全ステータス向上魔法と、進化速超向上魔法の5つで。」
 「分かった。それでは、魔法の属性を選べ。七つだ。」

 これまたリストがあった。
 まあ、魔法の属性は十数個で、多くはない。
 定番のところを持っておけば良いだろう。

 「じゃあ、炎と水と自然と、光と闇と、無と氷にしとくか。」
 「よし、じゃあ他はわしが適当にいじっておく。
 お前が転生する家は、クーエンバッハ家だ。由緒正しい家柄で、英才教育に力を入れている。その家でなら、知識も武力も充分に学べるだろう。」
 「あ、はい。良い環境を用意してくださり、ありがとうございます。」

 神様は、そのたくましいひげで、にこやかに笑った。
 神様の笑みは、見ているだけで縁起が良く感じた。
 これから上手くやっていける。

 もはや、壮一郎として生きてきた魂の、本当の人生はこれからのなのではないだろうか?
 そうとまで思っていた。

 「詳しいことは転生してから分かるだろう。知っておくべきことや、常識などは脳にインプットしておく。」
 「何から何まで、ありがとうございます。」
 「いや、大昔に起こした罪の償いだから。それくらいのことしか、してあげられないんだよ。」

 そう言いながらも、神様も面倒そうではあった。
 毎日世の中の管理を行いながら、時にこういう面倒な案件も舞い込んでくる。
 大変そうではあるけど、今はワクワクしてたまらなかった。
 早く異世界に行ってみたい。
 
 「それじゃあ、準備は良いか?」
 「大丈夫です。新しい人生に、ワクワクしています。」
 「そうか、じゃあ行くぞ。」

 異世界でも暗い人生を送るかも、なんて、そんな考えはなかった。
 何故だか、良いことが待ってる気がする。
 死んだというのに、まさかこんな希望が待っているとは。

 旧諏訪壮一郎、現幽霊、新クーエンバッハは、異世界転生活して参ります!



 

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