桁間違いで異世界最強に!選んだ職業はまさかの冒険者⁉

景樹 ねこ丸

プロローグ 壮一郎の運命

 きらびやかな太陽が、今日はとてつもなく近い気がした。
 いや、実際にとても近い。
 今の僕には、人間の肉体が無い。
 僕は、死んだ。




 僕の名前は、諏訪 壮一郎すわ そういちろう
 都内の高校に通う、至って平凡な学生だ。
 朝食を食べながら、昨日のニュースを思い出していた。

 「今日未明。○○県、○○市で、トラックが学生の集団に追突するという事故が起こりました。犯人は現場から逃走し、いまだに行方が分かっていません。
 今回の事故で、高校2年生の男女3名が死亡、5名が怪我を負いました。
 警視庁では、犯人を捜索中、目撃情報も集まってきているようです。」 

 アナウンサーは、こんなニュースを毎日読み上げるため、実に淡々としていて、悲しんでいるようには全く見えない。

 必死に楽しく生きている人も、簡単に死んでしまうのだ。
 人間の命は、実に弱いものだ。
 いつもはこんなニュースを何とも思わないのに、今回はムズムズするほど心に残った。
 朝から震えが止まらなかった。

 “風邪でも引いたかな?”

 心なしか熱もあるような気がする。
 試しに体温計で計ってみたが、特別熱くなかった。
 ただいつもより、0.1℃高かったので行ってみることにした。(それが理由ではないけど)
 
 食器を洗って片付けると、歯を磨いた。
 いつもより念入りに磨いた。
 何故だかは分からない。
 妙に体全体が気になった。
 
 外着に着替えて、病院へと行ってみた。
 恐らく大して酷いわけでは無いだろうが、念のために行ってみることにした。
 薬を貰えば、早く治るだろう。

 「それにしても今日は天気が良いな。」

 太陽がアスファルトをジリジリと炙り、熱気をかもしていた。
 上からも下からも来る暑さに、内蔵が溶けていくようだ。
 胃の中の酸がグツグツと煮えて、水素を放つ(?)。
 こんな日には、さっぱりとした氷菓子を頬張りたいものだ。

 そして、近くの病院に着いた。
 最近は全くお世話になっていなかった。

 「おぉ、壮ちゃんじゃない!久しぶりね。」

 受付のおばさんは、僕のお母さんの同級生だった。

 「そうですね。ご無沙汰してます。お母さんは相変わらず元気ですよ。」
 「それは良かった。」

 壮一郎は、冷えた椅子へと腰をかけた。
 マスクを着けるのを忘れてしまった。
 病院ではどんな人がいるか分からない。
 インフルエンザの季節ではないが、充分気をつけなければ。

 「壮ちゃん、今日は学校じゃないの?」
 「今日はなんか学校の創立記念日で、特別休みですね。」
 「へぇ、で、どうしたの?」
 「ちょっと風邪っぽくて、薬を貰いたいなぁと。」
 「風邪薬ね、はいよー。」
 
 おばさんは受付から姿を消して、奥の方へと行ってしまった。
 おばあちゃんが並んでるんですけど。

 「壮ちゃん、はいこれ、風邪薬ね。」
 「あ、ありがとうございます。」
 「はーい、お大事に。あ、富田さん、すいません。こっちへどうぞー。」

 地球では、どこもかしこも忙しそうだ。
 七十億もの人が毎日息をして、忙しそうに動き回っている。
 命を削りながら、死へのカウントダウンを聞きながら、毎日を必死に生きている。
 
 「アイスでも買っていくか。」

 壮一郎が、コンビニの方へルートを変えた。
 大通りに出て、真っ直ぐと向かった。
 熱にモワモワと蒸されながら、熱された鉄板アスファルトの上を歩いている。
 
 もう思考回路も定まらない。
 熱で脳が蒸されて、判断力が低下している。
 朦朧もうろうとした意識の中、アイスを求めてひたすらに歩いた。

 ようやくコンビニに着くと、すぐさまアイスコーナーへと向かった。
 冷凍室が辺りを冷やし、実に気持ち良かった。
 非常に暑いため、アイスも大繁盛だ。
 品数は減っていたが、目的の氷菓子があった。

 氷菓子を持って、レジへ向かった。
 レジでも、店員が汗をかきながら、必死に仕事をしていた。
 命を削りながら。

 「お金、足りませんよ。」

 そんなことを考えていたら、100円玉と50円玉を間違えていた。
 
 「あ、すいません。」

 すぐさま払い直して、無事買い終えた。
 店を出ると、またしても蒸されるような暑さに襲われる。

 すぐに氷菓子を袋から出して、頬張った。
 心地良いひんやりとした物が、口の中を冷やした。
 喉から食道を通り、胃へと到達する。
 通ったところがひんやりとして、気持ちが良かった。

 一瞬で氷菓子を食べ終えて、帰路に着いた。
 さっきより暑さもやわらぎ、少し涼しい風も吹いていた。
 暑いのに変わりはないが。
 さっきよりは、まだましだということだ。

 急に体全体の毛弥立よだがった。
 後ろから何か、危険なものを感じた。
 振り向くと、とてつもなくデカイ鉄の塊が、突進してきた。
 鉄の塊は、車輪をぐるぐると回し、巨体を動かしていた。
 
 普通の軌道ではない。
 絶対にこっちに向かっている。
 すぐさま逃げようとしたが、僕の背中は急に変な角度に曲がった。
 鉄の塊は、僕の体をぎ飛ばした。
 背中から腹まで激痛が走り、顔面も地面に強打した。
 そこで意識が遠のいた。

 鼓動が聞こえる。
 「トクゥ、トクゥ...」
 何とも弱々しい音だった。
 そして、その音も聞こえなくなった。
 諏訪壮一郎、16歳。死去。



 
 翌日ニュースでは。

 「またしても、トラックの追突による死亡事故があったようです。原因は暑さによる、熱中症。死亡したのは都内に住む高校生でした。これを受けて、厚生労働省は、“トラック運転手の若手の不足、技術の欠陥が最近目立っている。”とコメントし、“これからは、免許のハードルアップと、人員を導入し、こまめな休養を取らせるように改善していく。”と今後の目標を明確にした。」

 などと報道された。

 確かにトラックの運転手が一番悪い。
 ただ全ての要因は、トラックにあるわけではない。

 壮一郎がコンビニの方へルートを変えなければ、こんなことは起きなかった。
 壮一郎がレジで代金を払い間違えなければ、こんなことは起きなかった。
 壮一郎がアイスを大切に食べていれば、こんなことは起きなかった。

 一連の行動が、彼の運命を変えた。
 3秒ほど時間が違っていたら、避けられたはずだ。
 そもそもルートが違かったら、轢かれなかったはずだ。

 それが壮一郎の運命であり、終着点ゴールである。
 死んだら終わり。
 当たり前だ。
 運命を変えることはできないし、死んだ人を生き返らせることはできない。
 時は戻せないし、やり直すことはできない。
 それが当たり前で、仕方がないことだった。

 それが、諏訪壮一郎の一生だったのだから。




 天国と繋がる異世界。
 ミロワールドゼロ。
 異世界の始まりの世界。

 その世界を治めたのが、始叡全王神ゼロゼウスという神だ。
 昔に、ゼロゼウスは神世界ゼロに、人間を送ろうとして間違えて地球に送ってしまった。
 その間違いの罪償いとして、今は無念を残した人物たちに、転生の権利を与えている。

 今日もゼロは栄えていた。
 
 

 

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