カオスアニマ -脳筋おじさんと生者見習いの女子高生-

椎名 総

鍛冶屋と弟子



 『商店』松原から少し南東に言ったところにある鍛冶屋『虎徹』
 その趣は茶色と赤茶色の煉瓦で構成され、
 扉は堅い黒い鉄の扉で、煙突のある家、いや、正確には工房、といったところか、




「よう、」




「…お前か、久しぶりだな、
 強化するものがないからろくに来やしないお前が、今更一体何の用だ」




 あまりに久しぶりなので悪態をつかれる龍人、
 『どれほど』なのかはは皆目検討もつかない、




「『虎徹』、手厳しいな、長い付き合いだろ?」




 あまりに久しぶりなのか、
 さすがの龍人も悪いと少しは思っているのだろう、
 頭を掻きながらバツの悪そうな様子である。




 『虎徹』と呼ばれた男、本名は不明な、
 見た目30代前半からそれとも半ばから40手前程度に見える
 このテラ・グラウンドの唯一の鍛冶屋である。


 『鍛冶屋』
 本来『技術力』を上げ『鍛冶屋の資格の金槌』さえ手に入れれば
 ある程度は生者個人で素材さえ集めれば強化可能である、
 しかし、レア度が増すと、求められる技術力は上がり、
 ステータスには存在しないが『探究心』が無ければ強化できないものすら存在する。
 『虎徹』は基本、鍛冶を探求するのと、依頼報酬でアニマを得ている。
 ちなみに実は龍人ですらその本名を、フルネームを知らない。
 『光の衣の柱石』は龍人と虎徹はお互いに登録しているが名前の登録は相手、
 つまり本人に委ねられる、
 つまり『虎徹』とだけシンプルに登録されているのである。
 その風体は黒髪、短髪、無造作だが清潔感ある髪型で、
 眉毛はそこそこ太い、顎には多少の髭がある、
 目は若干つり上がっていて強面、
 黒の長袖のTシャツで腕まくりをしている、
 白いズボンで生者のベルトは平行に着けてある、
 商人松原より短い茶色のブーツを着こなし、
 筋肉もかなりたくましく黒い服が龍人と同じように凹凸の影を作る。




「…そこのお嬢さんは、この間の騒ぎの娘か、毎度どうも」




「はい、何度かお世話になってます」




「ちっ…見てたのかよ、悪趣味だぜ」




「あれだけ騒げば…な、悪趣味もクソもなかろう、
 それに、大聖堂の扉までド派手にぶっ飛ばしたんだ、
 見ていなくとも嫌でも話しに聞く。
 カオスアニマを手に入れたのも相当珍しいしな。」




 雑談をしていると鉄の扉が開く音がする、




「師匠、お客さん?」


「ああ、そうだな、おい、一応自己紹介しとけ」




 『師匠』、虎徹をそう称し発言した少女、
 姿形を見る限り年端は旭と同じくらいだろうか、
 しかし、その胸は如何せん旭とおなじか、
 もしくはそれ以上に発育しているようにも見える。
 甲乙つけがたい。




「誰だ、前来た時は居なかったよな? ゴニョゴニョ【おっぱいすげーじゃねーか】」




「ありゃ300年前からここにいる、
 お前の酷さがそこのお嬢さんにも伝わっただろう、
 ゴニョゴニョ【おっぱい好きはお互い様だ】」




「龍人…あんた300年って…」




 こそこそ話をする二人を見ながら少なくとも300年
 知り合いの鍛冶屋に訪れなかった龍人に引き気味の旭。




「私は、クスハ・テルウェット、クスハって読んでください、よろしくお願いします」




 そんな中、おそらく虎徹の弟子であるクスハが元気な声と丁寧なお辞儀で挨拶をする、
 クスハ・テルウエット、その風体はおっぱい、ではない、
 髪の色は美しい銀髪、
 黒に模様の入ったヘアバンド、瞳は緑、
 現代で言うところの縦セタ、
 それをアメリカン・アームホール、
 袖の部分を首の付根から脇の下までカットした服、
 別名アメリカン・スリーブを着、
 胸の下から白のハイレグ水着のようなものと、
 その下は黒のスパッツ、腕は白のデタッチドスリーブ、
 生者のベルトはやや向かって左斜め上に傾き、
 白のハイソックスとヒザ下から始まる茶色のブーツ、
 もちろんありがたいことに黒のスパッツと、
 ハイソックスの間の絶対領域は確保してくれている。
 旭ほどではないが人によっては同等と言っても過言ではないほどに目を奪われる様相である。




「よろしくクスハ、私は朝凪 旭、私も旭って呼んでくれるとうれしいな」




 旭は手を差し出しその行為にクスハも答える、




「はい、旭、」




 笑顔で握手するクスハの姿をくまなく視姦し、若干欲情しつつも、




「吾妻龍人だ、俺も龍人でいい」




 龍人は大人として毅然とした自己紹介を端的に行なった。




「…あの、カッコ良かったです、この間の2ヶ月くらい前の『あれ』」




 すこし頬を赤らめてもじもじしながらいじらしく
 そういうクスハの様子に龍人は男性特有の勘違いをかましながら調子に乗る。
 乗らざる得ない、乗らなければ男ではない、




「そうか、…おっぱい揉んでいいほどに、かっこよかったか」




 お願いするならタダ、
 その心情の吾妻龍人は真剣な面持ちで両手を淫猥いんわいに無作為に動かす龍人に
 危険を感じた旭は、
 両手でクスハの肩を掴み、龍人から離し呆れ顔で言い放つ、




「いいかげんにしなさいっ、初対面の女の子になんてこと口走ってるのよっ、
 私だけじゃ飽きたらず、ほんとにもうっ」




「えっやっぱりお二人はそういう関係で…、羨ましいです、
 あ、龍人さん、旭さんがいいなら揉んでもいいですよ?」




そう意地悪げに後ろに手を回し顎を引き上目遣いで挑発的に胸元を強調してクスハは言う、




「ほんっ、」




 龍人が『本当か』といいかける前に旭が機先きせんを制す。




「違う、そう言う関係じゃない、
 『まだ考えられないとか奥さんが忘れられないとか言われて振られているのに
 勝手に寝てる時に許可も取らずにおっぱいを揉まれてる程度の関係』、
 それにしても結構言うよね…クスハ…」




 とても早口で否定の言葉と、現状を説明する旭、




「ふふふ、そうなんですか? 龍人さん犯罪ですよそれ、
 この世界で犯罪っていうのはおかしいですけど、あと、さっきのは冗談です♪」




 龍人はその言葉にシュンとする、本気だったのだろう。
 天国から奈落へと落とされたかのようなショックを受けている様子である。
 彼の目は死んだ魚のようになっている。
 そしてやがて自体を完全に受け止めたのか、
 その両目の目頭めがしら目尻めじりからは薄っすらと
 人の神秘の液体が流れているように見える。




    彼は、そう静かに泣いたのである。






「それにしても、私も何回か来てるんだけどこれが初めてだよね?
 普段どうしてるの?」




 当然旭はこの世界に来て2ヶ月、来ないわけはない、
 吾妻龍人は脳筋、技術力など皆無である。
 しかし、これが初対面であった。当然の疑問ではある。




「私も大体の武器を鍛冶できるくらいにはなってますけど師匠が居ますし、
 主に鍛冶で使う簡単な素材を集めに行ってたり、森で狩りしたり、
 という事が多くて留守な時が多いですね。
 体動かすのは好きですし、というか師匠は少し引きこもりすぎです」




「そうなんだ。なるほど」




 ある程度会話が落ち着いたところでようやく『鍛冶屋』虎徹が口を開く、




「で、300年も顔出さない『おっぱいモミモミ』変態『脳筋』がうちに何のようだ」




 龍人を『羨ましい、けしからん、俺は揉んでないんだぞ?、死ねっこのカスッ』、と言わんばかり『ある部分』にその思いを込め強調し、しぶしぶ用件を聞く、




「俺は用はないんだがな、要件はこいつの買った武器、情報収集ってやつだ」




 精神的絶望のうずから帰ってきた龍人は、
 ようやく本題に入る決心? をしたようだ。




「武器?」




 怪訝けげんそうな顔でそう答える虎徹、




「これです」




 旭が先ほど買ったばかりの『果てなきオーラのロングソード』を右手に展開する。




「ああ、『果てなきオーラのロングソード』か」




 一見して目をそらし、途中で止めていた作業をおもむろに再開する、




「まだ見つかってないのか? 素材」




 カンカンとしばらく打ち込んでいる様子を見た龍人がそう尋ねる、




「さあな、俺はここで毎日鍛冶をするだけだ、新種を見つけ、
 その強化素材を探すのはお前たちの仕事だろう」
 辞める様子もなくカンカンと誰かから依頼された
 恐らくかなりの技術力を要する剣を金槌で打ち付ける、




「ちげぇねぇ」




 またしばらく剣を打ち付ける音だけがこの場に鳴り響いた、
 何を思ったのか唐突に虎徹が情報を告げる、




鉄心てっしんは…、『そいつ』を最初に持ってきた男は、
 ヴァルディリス城で他に新しい素材等を見かけなかったと言っている」




「…となると、その『先』か、」




「かもな」




「そいつはその『先』の交渉はしたが『許可』が降りなかったと言っていた、
 まぁ玉砕覚悟で何かしら『餌』をぶら下げてみるこったな。
 お前お得意の宴会芸の腹芸でもいい、
 そのお嬢さんのおっぱいを揉みくだしていい権利でもなんでもいい、
 ともかく交渉して見るんだな」




「引きこもりの元ラノベ作家が宴会芸得意なわけ無いだろ、
 だがまぁそうするよ、情報ありがとうよ、虎徹」




「ふん、らのべ作家がなにか知らんが素材を持ってきてトントンだ、
 それまでこの情報で一つ貸しだぞ」




「わかってるよ」




 鉄の扉を開け、外に出ようとする龍人に虎徹は言葉を付け加える、




「それと、できるなら『複数』持ち帰れ、さすがに一度での成功は確約できん」




「ああ、わかってる」




「いくぞ旭」




 旭は龍人に呼ばれるものの、
 先程行なわれた『行為』に対して一言言わずに言われなかったらしい、




「虎徹さん、ちょっと『セクハラ』ですよ、私のおっぱい安くないしっ」




 目を細めて虎徹を軽蔑の眼差しで睨みをきかせる、




「すまないな旭のお嬢さん、
 こっちのクスハも『せくはら』されたんでな、『お愛顧あいこ』だ」








「ぐ、…そうですね、なんも、なんもいえねぇッ…」








 確かに最初に『セクハラ』をしたのは龍人である。
 道理は通っている。冗談だとはわかってはいたが旭はそう返されては言葉も無い、




「またねクスハ」




 言いたいことを言って言われて気が済んだ旭はクスハに別れを告げ、外に出た、




「はい旭さん、ご武運を」




 背中から、クスハの声が背中を押した。





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