カオスアニマ -脳筋おじさんと生者見習いの女子高生-

椎名 総

脳筋おじさんと元女子高生

 


 旭は走る、しっかりと防具を装備して、
 アニマを体に注ぎ、体の方はすっかり元通りになっている。
 『人の石』は貴重だ、一度の死で使うのははばかられるので、
 何を忘れたのかは知らないが今はそれどころではない。


 『リディアの港』、『始まりの狩人と亡者の森』、
 アイテールから龍人と一緒に行った場所を走り駆け邏ったが見つからない、
 次は『ガルデアの塔』、しかし必然的に『原点』に戻る、
 必然、『始まりと終わりの村アイテール』である。


 しかし様子がおかしい、
 これほどの賑わいを見せている『アイテール』は初めてである。
 先程通った時は普段どおりまばらだった。
 この時間はまだ現世で14時、丁度皆、狩りのまっただ中か、
 仲間内で暇をつぶすように日向ぼっこしている時間帯なはずである。




「旭さんっ」




  旭を呼ぶ声がある、珍しい、大聖堂に基本引きこもり、
 大聖堂の外回りの世話というか草むしり以外で、
 神の代行者ユーノがこの村の意味中心にある『果てなき炎の灯火台』付近まで来ている、




「ユーノさん、この騒ぎなんです? どうしたんですかっ?」




「旭、あんたはどこ行ってたんだ、しっかり見ときな、もう『始まる』」




 神の代行者ユーノの隣りにいた、
 『アイテールのサンタクロース』こと女性商人シエスタ・パンドラがそう言う、
 『始まる』、と、




「『始まる』…? なにが?」




「聞いてないのかい、『龍人』の、『カオスアニマ』を賭けた初めての戦いだよ」






      「―――えっ、」






 言葉をしなう旭、理解が追いつかない旭、
 理解が追いつかない旭を誘導するために
 旭の腰に手ををやったシエスタに誘導され、
 観衆の、野次馬の、一番前まで辿り着く旭と、シエスタとユーノ。




「さぁ、来いよ、理道正知」




「ええ、はじめましょう、どちらかが消失する、
『カオスアニマ』と化す、戦いを、はじめましょう、吾妻龍人、」




「『理道正知』は、『吾妻龍人』と『カオスアニマ』を賭けて、
 このカオスアニマの誓約書の条件を飲むという条件で戦うことを誓います、」


「『吾妻龍人』は、契約書に書いたことを守り、
 カオスアニマを賭けて、『理道正知』と戦うことを誓う、」


 お互いの身体が、一瞬仄暗く輝く、


 契約は成された。




『カオスアニマのを賭けた戦い』、
 お互いの名称、
 正式名称でなくても構わないがお互いがお互いの名を言い合い、
 誓うことで行なわれる、
 ルールはどちらかの体力が0になることで決する、
 そしてその間、他の生者はどのような手段でも攻撃はできなくなる、
 逆もまた然りである。
 3日で決着がつかない場合、
 戦意が明らかに喪失しているものが自動的に負けになる。
 その場合はカオスアニマは勝ったものの前に自動的にカオスアニマは移動する。
 戦意もあり拮抗している場合は宣誓した場所に強制的に戻され、
 ある範囲に隔離され、決闘モードになる。
 カオスアニマは倒したものが触れることにより取得できる。
 それによって戦いは終了する。


 女商人シエスタ・パンドラは言った、




「しっかり見ててやんな、あいつの、龍人の戦いを、
 付き合いは長いが、あんな龍人の表情初めて見たよ。
 ちょっと焼けちゃうくらいにね」




 神の代行者ユーノも言う、龍人の背中を見つめながら、




「…そうですね、私も、この『世界』で、この『地獄』で始めてみました、」








 『この世界で、あそこまで誰かのために心の底から怒っている人を、――生者を、』








「…でも、あれじゃ、龍人…、龍人……、」




 旭が絶句するのも無理がない、
 武器はもちろん防具すらない。挙句、あまつ、いやそれは、
 旭の視点からは筆舌に尽くしがたい、
 あまりの光景、あまりの条件、右腕は胴体に、いや、腰に、
 くの字の状態で自ら縄で括りつけたのだろう、
 使用できない状態になっていた。
 装備しているのは防御力の無い灼熱の黒鉄城用の茶色い半ズボンと
 生者のベルトと腕に巻かれた白い包帯だけで、上半身は裸である、


 龍人の出した条件、契約書の内容、


  『ステータス変化のある武器防具を使わず、
  武器は左手のみ、右腕は使用不能、
  右腕は使えない上に縄で自身で腰に括りつける』  


 これが龍人の『カオスの契約書』に記載された全内容である。


 『カオスの誓約書』は絶対である。
 龍人は念入りに片腕を縛ったが、本来必要はない、
 使用は絶対にできなくなっている。理道にわかりやすく、想像しやすく、
 見た目の有利さを増すための演出なのかもしれない。




「行きます、吾妻龍人、いざ『尋常』に勝負です」




 どこが『尋常』なのだろうか、
 『異常』ではあるが、だが『それ』も、彼の臨んだ条件、
 彼の望んだ戦い。




「ああ、いつでもこい」




 理道正知の防具は旭と戦った時とほぼ変わりない、
 動きやすく、重量もそこそこ、防御力もそこそこ、
 鍛冶屋か自分自身でMAXまで鍛えてあるであろうバランスの取れた鎧装備である、
 武器は『毒が溢れるロングソード』、
 『血を好むロングソード』、
 毒の蓄積値がたまり毒状態になり回復が急務となる武器と、
 出血状態、二倍のダメージにしやすくなる武器、
 いたぶる気満々である。




「ほらっほらっ避けて、逃げてくださいよっ、すぐ終わってはつまらない」




 意気揚々と攻める理道、龍人はギリギリで躱す、躱す、躱す、
 いや、あえて理道が外しているようにも見える、




「ちっ」




 想定はしていたが、かなりやりにくさそうな様子の龍人。
 無理はない、武器と防具、右腕が使えない、
 想定して練習していたわけでもない、ぶっつけ本番、
 考えはない、『あまり』ない。人としての所作が動きを嫌でも鈍くする、
 脳筋おじさんの勝機は、傍目から見ると0%と同等、




「やべぇ、流石に分が悪い、勝負になってねぇ」




 さすがの龍人も口を滑らせる、それほどに分が悪い、
 数分ほど、理道は準備運動とばかりに当てる気のあまりない攻撃を繰り返し、
 龍人を躍らせる。
 龍人は本来かくはずのない汗をかかされる、




「さて、そろそろいいでしょう、
 観客も温まったことですし、切ります、斬ります、斬り刻みます、
 わたしの心に、あなたの身体に。
 安心してください、わたしは忘れません、
 ですからお覚悟を、吾妻龍人さん」


 悪意全開の宣言から、宣言通り龍人は切られる、
 斬られる。毒は体を巡り、肌は出血状態、2倍のダメージになる状態。
 尋常ではない体力を持つ龍人でも、体力が空になるのは秒読み。
 だが、条件にレピオス瓶を使用しない、
 道具を使ってはいけないという条件はない、
 だから飲む、恥などない、たとえ恥があったところで知りはしない。
 これは、『カオスアニマ』を賭けた命のやり取り、
 毒は現在進行形で体力を減らし続けている。


 歩きながら今度は『アニマの雫』を砕く、
 『レピオス瓶』は、一気に回復するが、
 『アニマの雫』は徐々に中期間体力回復する消費回復アイテムである。
 本来『毒』治療のアイテムを使う選択肢もあるが、
 徐々に回復するという性質を利用して『アニマの雫』を使うのも一つの選択肢である。
 距離を取りながら2つ砕いた、そしてその行動は、ここから3度、
 一方的な攻撃と、回復は繰り返される。




「(…龍人っ、どうして、
 『それ』は『私』がやらないといけないことなのに、
 どうして…ッ」)」














     「どうしてそんなに怒ってくれるの?」












 旭はポロポロと涙を流しながら、ボロボロの龍人を、
 龍人の背中を見守ることしかできない、
 確かに、龍人は怒っている、
 確かに、勝ち目はない、
 しかし、傍目から見て、怒っていることは馬鹿でもわかる。


 しかし、龍人はまだ、事情のすべてを知らない、
 察することはできても、真実を知ることはできない。
 だが、龍人は『普通』ではない、
 この世界に何年いるかもわからない変人、
 『テラ・グラウンドに居る異常』、『異端』、
 多くの者が早々に去るこの世界で、千を軽く超え、存在し続けている、
 そんな漢が、怒ったのだ、
 初めての自分以外の『転生』を志していると認めた少女を、
 殺されたのだ、常人の怒り程度が向けられるわけがない、
 その熱量は、『異常』を超え『異能』、かつての環境も、
 死に際の環境も、死してからのこの世界の環境も、
 未だに彼をその器を、大きくし続けている。
 しかし訪れる、三度目の攻撃が終わった時、
 理道は飽きてきたのか、『煽り方』を変えた。




「涙ぐましいですね、
 どうしていきなりこの戦いを望んだのかわかりませんでしたが、
 近々あったことと言えば、察するに、
 そこで見ている朝凪 旭さんの仇討ですかね?」




「……、」




「…図星、ですか、…これだから女という生き物は、
 自分の手で『復讐』を成し遂げようという気がないのですかね。
 その程度の『気概』なら、せめてあの時黙って犯されていればよかったんです。
 そうすれば殺されずにすんだのに。それにしても残念です、
 現世の一度ならずこの世界の最初の一度すらも、
 僕に、この理道正知に殺されたというのに、
 その程度の『復讐心』しか持ち合わせないとは」




「……、」




「まぁかく言う僕も、あの後程なくして交通事故で死んでしまうのですが、
 人のことは言えたものではないですね、いや失礼、」




 それが、理道正知の『間違い』、察さねばよかった、口にせねばよかった、
 怒りは、『熱量』に変換される、それはこの世界でも変わらない、
 だが戦いは冷静でなければならない、それは事実、真実、
 だが、『例外』はある、何事にも『例外』はある、
 その怒りの、『熱量』、吾妻龍人の法外な器に、
 蓄積し続ける『熱量』、
 向けるべき相手が目の前にいる以上、放出され続ける熱量、
 しかし龍人は蓄えていた、しかしそれは溢れ出る、
 それは『瘴気』のように、『闇の衣』のように、
 まるで、この世界のBOSSのように、
 いや、『そんなものは』その『質』は『遥かに』凌駕している、






「な、なんだ、なんだそれは、」






 驚き、慄き、恐怖する、
 『闇』、龍人の『本質』、
 『根源』、幼少期から培われた『闇』、
 旭がもし『光』なら、全くの反対にいる、『漆黒の闇』。


 この世界には『魔法』ではない『魔術』というものがある、
 人は元来、『光』、『無』、『闇』のどれかの根源たる『本質』を有している、
 もっとわかりやすく言うなら
 『過去性』、『現在性』、『未来性』と言ったほうがわかりやすいだろうか。


 吾妻龍人は、求め続けた。『闇』に、目に見えぬ『未来』の先に、
 『力』ない、自身を悔い、
 『力』がほしいと手を伸ばし続けた、それは、この『世界』にきても変わらない、
 その期間の長さは、『異常』、『異端』、
 しかし彼にとっては『通常』、幼少期からの『環境』と、
 それを受け止めた『奇跡』が起こす、『飽くなき未来への力への欲求』。


 『魔術』、『術力』を1上げれば自身の本質に伴い5つの魔術を使えるようになる、
 『魔法』が開発されるまでは武器に継ぐ主流の攻撃方法でもあった。


 しかし魔法と違い、『対価』が存在した、
 光は闇より力は弱いが『人間性』を失いにくい反面『狂気性』を失う、
 無は、両方の中間にあるためのリスク、強力な故のリスク、
 記憶の流失を早めるのが対価、『人間性』と、『狂気性』両方を失う、
 闇は『人間性』を失う、狂気に呑まれる。


 人の本質は大きく分けて3つというだけで、
 各属性の狭間にいる場合、
 半端に両方の属性の幾つかを扱うことができる者もいる。
 実際にはすべてを使えるものは存在し得る可能性もある。


 『人間性』、『信仰性』、『狂気性』、というステータスが存在し、
 これは個人の感情の『器』、『幅』、
 そしてそこに蓄えられる『熱量』を指す項目らしく、
 器の幅を表す数値と、今現在その器に溜まっている数値を表す表記がある、
 実際のところはわかっておらず、現状、
 レベルアップにかかわらず変動する謎のステータスである。
 龍人の『器』は『異常』。しかし龍人は『術力』も『法力』と同じく、
 一度足りとも上げてはいない。
 それは、『脳筋おじさん』だから。
 だが、それは『魔術』を使えないだけであり、
 その『狂気性』を使えないというわけではない。


 それはまるで『天然の闇のエンチャント』、
 龍人も意識して使えるわけではない。
 彼の『狂気性』が、彼の器の幅を通り越した時、それは起こる。
 旭が倒した『黒鉄の騎士長オルガルド』のように、彼を纏う、彼の、狂気が、溢れ出る、
 唯一の武器である左手を黒く染める、体全体すら染める、 


 
「こけ脅しだ、私が負けるわけがないっこの条件でっ」






「「どうだっどうだっシねっしねッ死ねッ」」


 
 その『異様な形相』に、『異業』に、理道は本能的に恐怖する、
 それは、そうであろう、理道もそこそこの異常者ではあるが、
 龍人と比べれば、可愛いものなのだ、
 それほどまでに吾妻龍人の『通常』は『異常』なのである。
 斬られながらも、
 痛みを感じながらも、
 毒に侵されようとも、
 出血しようとも、
 ただ龍人は左腕でダメージ覚悟のガードしながらその時を待った。
 理道の左手に持つ『血を好むロングソード』の攻撃の一つを
 絶妙なタイミングで合わせ、
 ダメージ覚悟の素手の『パリー』を敢行する、






      「あ、」






 冷静さを失った理道は、一定のタイミングで攻撃を繰り返してしまった、
 その結果『パリー』をくらい、尻餅をつく、だが、それが逆に理道を冷静に戻す。




「ッッッ(武器のない片腕の一撃、ダメージは大したことはない、
 たとえ筋力が異常だとしても、普通の大剣の一撃くらいだろう、
 もう、冷静さを失わないっ、確実に『もう殺す』ッッ)」




 静かに、時が止まったかのように、穏やかに、嫋やかに、
 ゆっくりと龍人は左腕を左手を後ろに引き、右肩を上に上げ、
 今使用できる全ての筋肉を、全てのバネを『利用』し、
 自身を軸に『回転』し、地面に左手を突き刺すが如く、
 理道正知に唯一の武器で攻撃を行なった。






「「「がはッッッッッッッッ、」」」






 『理』解不能のダメージが、理道正知を襲った、
 自身の体力ゲージ、あるわけではない、感じる限り、
 5分の2以上が持って行かれたのだ、こちらは裸ではない、
 相手は『確かに』武器をしていない、








「「痛い痛い痛い痛い痛い痛い~~~~~~ッッ」」








 無様に転がる理道正知、人故のイメージしたダメージ、






「「きっ、…きっ、きさまぁぁぁぁッッッッッッッ」」






 理道は穿たれた腹に手をやりながらよだれを垂らし、苦しそうに立ち上がる、
 この世界、通称『テラ・グラウンド』、
 装備品は武器、防具、そして『指輪』、に分類される、
 そして、ゲームのように、全てのアイテム、
 装備を把握しているものは誰一人とて、いない。
 wi○iペディアなどない、攻略サイトなど無い、
 インターネットすら無い、律儀に書き留めているものなどほとんどいない、




「『おとこの指輪』、
 まぁ、どうでもいいことだ、お前は、『知』らなくていい」




 『漢の指輪』装備重量が低ければ低いほど、攻撃力が上がる、希少の指輪、
 理道正知がこれを知っていても、半分持っていかれるのはどう考えても『異常』、


 レベルアップステータス『筋力』、
 この世界『テラ・グラウンド』では、
 レベルアップボーナスで『筋力』を上げると物理攻撃力が上がる、
 筋力の初期値は0、どのような風体でも『0』、
 レベルアップボーナス50回までは3ずつ上がっていく、
 なぜ50回と定義したのかというと、
 重量のある装備の大半がこの筋力レベル50、
 数値としては150あればその機能を100%発揮する上に、
 筋力レベルアップ50回目以降はレベルアップ時上げたとしても
 『1』しか上がらなくなるから誰も上げないのである、
 もちろん龍人の持つ、大剣ヴォルファングと、
 両極剣、クラブ系武器、3つを除くとなら、であるが。
 『物理攻撃力』、武器に割合で上乗せされる物、
 50までしかあげないと仮定するなら物理攻撃力は基本150、
 短剣やロングソードなど小回りがききやすいものは4割から5割程度の上乗せ、
 大剣や、クラブなどの大型装備になると8割程度上乗せである。


 150の物理攻撃力、
 『堅牢な斧』MAX強化250だとすると
 斧は上乗せ5割なので一振り単純
 「武器250」+「物理攻撃力150÷2=75」250+75、
 イコール325の攻撃力となる、
 物理防御力は存在せず、完全に防具依存になっている。
 どれほど装備を固めても全てで300くらいにしかならない上に
 しかも重量がありすぎて俊敏性を失い、
 攻撃を食らいやすくなる為、『テラ・グラウンド』では、
 基本100から150程度の防御力が主流である。


 デザイン変更も行える簡易さ故、本当にあまり重視されていない。
 そしてその数値が相手の攻撃力から引かれるというわけではない、
 相手の攻撃力300として自身の防御力が100なら30、
 一割引かれ270のダメージを追う形になる。


 もちろんこれはクリーンヒットした場合の話ではである。


 理道もこの世界に300年以上居る古参、
 体力や筋力は確実に龍人に劣るが、
 来たばかりの者の体力とはおよそ1000は違う、
 『漢の指輪』は攻撃力が上がると言っても
 武器も手にせず完全に裸で数値にして100程度の上昇、
 通常、武器は短剣などは鍛えると150程度、ロングソードは200前後、
 大剣は450程度、クラブ系の大型鈍器は、あっても500程度、である。
 完全に裸で武器が拳、
 つまり現時点で龍人の攻撃力は
 漢の指輪と50までレベルアップボーナスで上げているであろう150で
 合計250である。


 理道の体力は少なく見積もっても3500はある、
 防御力はおよそ150。
 事実は『理道正知の体力、素手の致命の一撃でHP1500近くを持っていった』、
 龍人の利き腕は右、
 左は世界のシステムで3割落ちる、
 致命の一撃は2.5倍、


 『(物理攻撃攻撃力+闇のエンチャント+漢の指輪100)×致命の一撃2.5倍』 
 『理道正知の防御力を150、そこから15%ダメージから差し引く』と考えると、
 龍人の攻撃力は合計700になければならない、
 しかし龍人の利き腕は右、
 左手となるとこの世界のシステムでは7割しか性能は発揮されない、
 つまり合計1000は必要、 


 龍人の物理攻撃力を1000だと仮定し、
 その7割、700+漢の指輪100、
 龍人の闇のエンチャントがどの程度の威力かは把握できないが
 およそ200だと過程するなら、
 合計1000、


 龍人の推定レベルは50までが物理攻撃力150、
 そこから550を重ねたのならレベル600、
 HPは理道より上で4500以上はある、
 『持久力』、『適応力』、『技術力』も少ないとはいえ上げていると考えられるので
 推定800から1000レベルだと推察される。
 闇のエンチャントがどれほどの威力なのかがわからないため、
 物理攻撃力は恐らくもっと上なのかもしれない。


 熟練の生者でもレベルは200前後、
 使いきらなければいつロストするかわからないこの世界で、
 溜めるのは中々難しい、大体が上げられたとしても筋力を50まで上げ、
 後は体力、持久力、適応力、法力、術力に回すのである。
 理道はレベル220、かなりのものである。
 しかし、吾妻龍人は推定レベル1000、
 より上げづらくなり、集めづらくなる、
 今現在では数年掛けても1レベルすら上がらなくなる、
 それを1000、
 どれほど彼はこの世界にいるのか、理道正知は理解することはないだろう。




(物理攻撃攻撃力700+闇のエンチャント200+漢の指輪100)×0.7)
 致命の一撃2.5倍×理道の防御力85%(15%)=1487.5ダメージ


 それが現状推察できる先程のダメージの結論。






「「くそぉっクソォッッッッ、意味が、意味がわからないッッ、」」






 追ったダメージはそれだけではない、精神的ダメージは計り知れない、
 もはや先程仕切り直した冷静さなど微塵もない、
 とにかく回復をする、レピオス瓶を汚くがぶ飲みしようとする。
 だからこそ、気づかない、龍人はもう、次の行動に、とっくの昔に移っていた。
 距離を詰めながら左腕を、左手を自身の一番高くに上げ、
 自身の頭は低く低く、ミシミシと力みしかない、
 脱力など皆無の『脳筋の拳』の目標は理道の顎狙っての『脳筋のアッパーカット』、
 踏み込む足で地面を掴みながらそれは放たれた。








「「「ッッッッッッッッ」」」








 ゴシャっという醜い、鈍い音と共に理道は中に舞う、
 真上に舞う、本来それほどまでに舞うことはない、
 しかしそれほどの衝撃、
 理道のイメージしたダメージの結果。
 その滞空時間を利用し、
 もう一度『脳筋アッパーカット』の構えを取る、
 意識が飛びそうになるが『システム』上それはない、
 それでも自ら失神を選ぶほどの攻撃、
 意識を辛うじて保っている理道は確かに見た、
 瞳は赤く白目の部分は黒く、まるで、黒き瘴気を纏う鬼のような何かを、




「「「ッッッッッッッッッッ、」」」




 グショッという衝撃音と共にまた理道は真上に、
 先程よりも高く舞う、高く垂直に舞う、その光景は数度繰り返される、
 そして何を思ったのか後一撃となったその時、
 龍人は後転回避行動をする、距離を取る。
 実際はあまり意味が無い、助走をつけようが攻撃力は変わらない。
 龍人はゆっくりと歩みを始め、左腕は引き、助走をつけて、
 落ちてくる理道へ向かい走りだしていた。
 そして黒き瘴気は龍人の左腕に、左手に集まりつつある、






「おみゃえは、いってぇい、にゃにもの、にゃんだっっっ」






 顎が一時的に潰れ、いや、実際は、潰れない、
 そうイメージした理道は、そうしゃべるほかない、
 彼の、ダメージの結果の、イメージしてしまったが故の具現化、
 人としての『所作』、その死の刹那彼は聞く、




「――ああ、正式な自己紹介してなかったな、そいつはすまなかった――、




 俺の『二つ名』はな、」






















    『脳筋おじさん』だよっっ






















 『二つ名』、
 あまりにも意味がないテラ・グラウンドのシステム、
 自身で設定できる通り名、
 誰に見せるわけでもない、誰かに見られるわけでもない、通称『糞システム』、
 吾妻龍人の二つ名は脳筋おじさん。
 特に意味はない。


 その『二つ名』の申告の直後、
 トドメの一撃が理道正知の顔面に突き刺さる。
 面白いように吹き飛び、ギャラリーを越え、
 果ては大聖堂の正面玄関を破壊しても転がり、
 祭壇前まで彼は止まらなかった、止まれなかった。
 彼、理道正知は、祭壇の前で『馬鹿な』『馬鹿な』と焦点の合わない目で呟きながら、
 誰にも見とられず、その敗北の理由も知らず、
 そのアニマを『カオスアニマ』へと変換させていた。
 遠目にそのアニマの輝きを見た龍人は言う、






「…汚ねぇアニマだ」






 その『カオスアニマ』の色は薄気味悪い、
 汚らしい緑と群青色と少し黄色の入り混じる、
 醜い酷い色をしていた。
 その色はまさに、『混沌』






「……龍人、」






 女商人シエスタ・パンドラは泣きじゃくる旭の背中を見かねて、背中を押した。




「っっ、」 




 シエスタに背中を押された旭は観衆の中心、龍人の後ろに、
 手を伸ばせば届く距離に、気がつけば来ていた、
 振り返るとシエスタが親指をぐっとして、笑顔を旭に向けていた。
 旭はシエスタに少し微笑むと、
 旭は自然に、何も、迷いもなく、
 旭は龍人の後ろから抱きついていた、




「…なんだよ、『朝ガキ』」




目もやらず、龍人は旭だと気づいて彼が勝手につけた『アダ名』を言う、




「…またそれ? いい加減、名前で呼んで欲しい」




 後ろから龍人の大きい腰を掴み抱きつきながら旭はそう言った。




「…わかったよ、だから離せ、」




 龍人は首を横にやり、旭に視線をやろうとするが見えない、




「離さない、離してやらない」




「恥ずかしいだろ、『皆』が見ている」




「『皆』なんて関係ない、私は龍人に今こうしたい、」




「ちっ」




 龍人は頭を掻きながら舌打ちを打った。




「…どうして、仇をとってくれたの? どうして、龍人はあんなに怒ってくれたの?」




 そう尋ねる旭に、龍人は答える、




「…お前は頑張ってた」


「うそ、それだけじゃない」




「ちゃんと感じてたこと思い出して、下手糞で、伝わりにくくても良い、
 それを言葉にしてほしい」






「………」






「俺にとって、お前は、初めての『同士』だ、
『転生』を目指す、まだ7日であんなに成長して、美しいとさせえ思った。
 たとえ、途中で離脱しようとも、今は、今の思いは『本物』だって伝わって来てた。」


「そんなやつを殺されたんだ、怒らない俺じゃない。
 出会ってから一緒に居た時間の問題じゃない。
 それに俺は長く生き過ぎた。
 元の性格もあるんだろうが、
 だから、それだけ怒る時もすごい、ただそれだけだ、
 これでいいか?」




「ふふふ、そっか、うん、ありがと、そっか『同士』、ね、そうだよね、
 うん『今』はそれでいいかな」




 抱きつきながら笑う旭は、なにか納得した様子だ。




「こっち向いて、龍人」




 旭は腕の力を弱めて、龍人に振り向くようにお願いした。




「お、おう、」




 龍人は吃りながらも返事をし回転して旭と向き合う。




「…『名前』、呼んで、それで離すから」


「…まだ言うのか、明日じゃダメか?」




 龍人は目をそらし左手で自身の首を撫でながらそう言った。
 しかし周りの雰囲気が許さない、どこからかコールが始まる、




「いーえっ、いーえっ、いーえっ、」




 褐色の肌の手、白いシャツの腕が拳が元気よく上下している、シエスタである。




「ちっ、シエスタの野郎っ」


「覚悟を決めろー龍人ー、」




 口に手を添えてノリノリでそう言うシエスタ、
 周りの観衆からも同様のコールが巻き起こる、さすがに龍人も覚悟を決める。


「ああ、わかったよ、」「あ―、コホン」


 咳を一つわざとらしくした龍人は旭の前に左手を出した、
 旭はそれを左手で握り返す。
 意を決して『彼女』が欲しかった言葉を捧げた。






  「これからよろしくな、…旭、」


  「…うん、私こそ、…龍人っ」




 
 海の見える崖にある『始まりと終わりの村アイテール』の風が止む、
 今は朝ではない、 夕方。
 これは別に『朝凪』ではない。しかし、


 彼女の笑顔が戻った時、満面の笑みが咲いた時、
 この村に一つ風が吹いた。  


 その瞬間、旭の長い栗色の髪が、美しく横に儚く揺れた、


 彼女の瞳は、美しい、見紛うことはない清廉なエメラルド。
    
  お父さん、先に死んでごめんなさい、
  『復讐』は私では果たせなかったけども、
  果たしてもらったから安心して。


  私は現実に、現世に、この記憶を持ったまま転生して
  お父さんに謝りたい、全くの赤の他人に謝られても
  伝わらないかもしれないけど、私の自己満足かもしれないけど、
  だから、私は、『朝凪 旭』は
  このちょっと意地悪でちょっとエッチで、天邪鬼な
  私より、31センチも大きい、『脳筋おじさん』と、
  このテラ・グラウンドで、
  記憶を持ったままの『転生』を目指して、
  カオスアニマを集める旅をする、






   『吾妻龍人』と旅をする。






  俺は、吾妻龍人は、これからも旅をする。
  これまでも長い長い旅だった、これまでも、そしてこれからも、
  どれだけかかるかわからない。
  だが、『転生』を一緒に目指す相棒、『朝凪 旭』と、
  記憶を持ったままの『転生』を、その先の『復讐』を目指すよ。
  もしかしたら、『奴』は、理道のように来るかもしれない、
  だが、そんなものを待つつもりは毛頭ない。
  俺はこいつと、旅をするよ。
  準備しすぎた気がするが、陽花里、俺の性格は知っているだろ? 
  ちょっと臆病すぎなのが玉に瑕だがそれを含めて俺なんだ。
  お前のような、いいや、少し違うな。
  だが俺は嫌いじゃない『笑顔』をする、こいつと、
  カオスアニマを集める旅をする、






   『朝凪 旭』と旅をする。






 これは脳筋おじさん吾妻龍人と
 復讐を終えたおっぱいの大きい元女子高生、朝凪 旭の物語、   


 その二人の両目の光は、輝きは、
 誰も転生に向かっているという事実を否定出来ない、






  本物を求める双眸そうぼう                 






  脳筋おじさんと生者見習いの女子高生  了 





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