カオスアニマ -脳筋おじさんと生者見習いの女子高生-

椎名 総

神 -淵度-





 ここは大聖堂、
 『始まりと終わりの村アイテール』にある『神の代行者』、
 ユーノの住まう場所、
 そして死者復活の場所である。




「…誰かを『お待ち』なのですか?」




 『神の代行者ユーノ』、
 レベルアップの際必ず必要になる重要人物であることは説明したし、
 その風体も説明したが、それでもしよう、
 髪は金髪、頭部には黒を基調とした白のフリルのついたカチューシャ、
 長い髪は二つに前で分かれ、鎖骨辺りでまとめられていて、
 おっぱいの上部辺りまで髪は伸びている、
 瞳の色は緑、胸は大きく服装の第一印象は黒、
 フード付きコートのような真ん中に白い十字デザインも入った上着、
 腰のあたりからその服は分かたれ、足首手前までコートは伸びている。
 そのコートの下にあるのは黒いスカート、絶対領域、
 そして黒い長いハイニーソックス、黒い靴、
 時折フードも被るが基本その髪を晒している、
 神の代行者とは思えない風体の一面があり、謎多き人物である。


 大聖堂の中の入り口からすぐ横の白い壁際に背中を付け両腕を組み、
 うつむき、目を閉じながら口は真一文字でいかにも不機嫌そうな大男に声をかける。
 そう、『脳筋おじさん』、吾妻龍人だ。 


 龍人はその問いにやや重く口を開き言葉を発した。




「…ああ、来てほしくはないがな」


「…そう、ですか…、」




 少し落ち込んだ返事のトーンの声色に、
 龍人は神の代行者ユーノを片目だけ開けて視認する、




「邪魔なようなら外で待つ、そうでないのなら、今日はこのまま居させてくれ」




 再び目を閉じ、そう言う龍人にユーノは少し微笑み、答える。




「はい、あなたが、望むのなら、あなたの望むままに」
















  『ここ』は何処なのだろうか?私はどうしたのだろうか、
  いや、そうだ、『あいつ』に、『理道雅知』に、二度目の殺しを受けたのだ、
  なら、大聖堂で記憶の一部と、
  人間としての外側の部分、を少し失って再生されるはずだ。
  いや、そういえば、死んだ時、どうなるのか詳細を龍人に聞いていなかった、
  盲点だった。


「?」


  何かいる、なんだろう、ドラゴンのような、
  いや、ドラゴンのようなではない、ドラゴンだ、
  見紛うことはない。いや、実際にドラゴンなど見たことはない、が、
  ともかく蒼い鱗の、蒼と白の翼の、顔や体に傷がある、
  余程戦いに明け暮れた竜なんだろう。
  そしてここは蒼い空と、白い、雲と、
  地面は薄い水を張ったような水面、だろうか、
  それも空を反射して青い、そして蒼い、少し冷たい、そんな地面


「あなたは誰?」
 水面に大の字に仰臥し、
 豪快に寝ていた旭は体を起こし、体育座りをして、
 正面にいた蒼いドラゴンになんの疑問も持たず、話しかけてた。




「私か、私はこの世界の『終わり』の神、『淵度エンド』だ)」




(うわっ、喋った、喋りおった、この、蒼いドラゴン、エンド? 淵度? 
 シャレなの? ダジャレなの? なんなの?)




「で、淵度さん、ここはなに? 私はどうなるの?」




「当然の質問だな、なに、簡単だ、
 生者の死者はかならずここに来る算段になっている。
 なに、じきに大聖堂で復活する。心配するな」




「でも記憶、一部失っちゃうんだよね」




「そういう『ルール』だからな、
 だが、『人の石』を使うことにより、
 私が得た君の記憶にリンクし、そこからまた君に伝わり、失われた部分は補填はされる」




「ふーん、そうか、そういう『システム』なんだ」




「…一つ聞いていもいいかな? 
 君はまだ、『転生』を望むのかな? その『意志』はあるのかな?」




「……正直『疲れちゃった』。
 本当は、龍人と一緒に『転生』を目指して頑張りたいけど、
 『復讐の順位』、私の中で結構上だったみたい。
 だからそれを後回しにして『転生』を目指せるほど、…私器用じゃない。」


「…だから、戦ったんだ、でもダメだった、だから、『疲れちゃった』」




「…私は『奇跡』を待っている、『転生』をしようとする、誰かを」




 蒼き竜は優しく、そして強い眼差しでそう旭に伝える。




「『始まりのおばあちゃん』も似たようなこと言ってたわね、流行ってるのそれ?」




「ふふふ、流行っている、か、
 確かに、流行っているのかもしれない、そうかもしれないな」


 
 蒼き竜は少し楽しそうにそう答えた。そしてまた旭に問いかける、




「それでどうだね、君は?」




 旭は俯く、その問いに、うつむかざる得ない、




「…ダメかも、あんまり『期待』しないで、
 あのおばあちゃんには威勢のいいこと言ったけど、
 今はちょっと言えないかな。
 消えちゃいたいくらい、落ち込んでる」




 体育座りをしている旭は膝に顔を埋め、
 左膝と右膝をギュッと握りながら悔しそうなそして消えそうな声音でそう言った。




「…そうか、」




 顔を上げ、淵度に視線をやり旭は言う、




「でもありがとう、少し話を聞いてもらえてスッキリしたかも」




 その礼を受け取った淵度は少し申し訳無さそうに青い空を見上げ言った。




「…それは残念だな、ここでの会話は人は記憶できない、
 大聖堂で復活したら君はスッキリした状態ではない。
 乗り越えられるのなら乗り越えて欲しいが、
 まぁ月並みに『頑張れ』、としか私は言えないな」




「そう…そうなんだ。
 …やっぱダメかも、龍人にこんなこと言えないし」




 再び顔を伏せ、膝に顔を埋め、落ち込む旭、




「…そろそろ時間のようだ、
 君が『奇跡』を起こすことを、
 『カオスアニマ』を集め、私と相対する『刻』を私は待っているよ」




「…さらっと重要なこと言うわね」




 あまりの唐突さに呆れ声で旭は言った。




「君の『意志』が、
 その『果て』が、
 私の望む『奇跡』であることを願っているよ」




 もう夕暮れ時だろうか、
 赤い光が差し込む大聖堂で龍人は、いまだに同じ姿勢で待ち続けていた。


 『復活』には時間がかかる、
 龍人自身は『一度』も死んだことがないので、
 死んだらどうなるかは分からないが、過去、
 龍人初期の段階で他の生者に聞いた時、『覚えていない』というのが答えだった。
 その時期に『神の代行者ユーノ』に、
 復活までのおおよその時間だけは聞いている、
 およそ8時間、朝、早朝やられたなら、そろそろのはずである。




「龍人さんっ」




 普段は落ち着いた喋りの神の代行者ユーノが龍人の名をやや強めに呼ぶ、
 その時が来たのだろう、大聖堂の中心に、
 光の文字とサークルが描かれ魔法陣のようなものが展開される、
 その中心に旭は復活する、記憶の一部を失い、
 おそらく体の一部が薄茶色の枯れ果てた肌になって。
 今は防具で隠れているのか確認はできない、




「…ごめん、龍人…、私、負けちゃった、」


「……もう、疲れちゃった」




 すぐに気がついた旭は薄目を開けて龍人を認識すると沈んだトーンでそう言った。




「ばかやろうっ、しっかり気を持て、
 そんなんじゃあっという間にもってかれるぞっ」




「……」




 龍人の声も、意気消沈の旭には届かない、魂が抜けたように無言になってしまった。




「チッ、」




「だ、大丈夫ですか?」




 舌打ちをしながら旭をおんぶする龍人に神の代行者ユーノは心配の声をかける。




「わからん、だが世話になったな」




 ユーノの顔を見ることもなく返事をすると龍人は旭を背負ったまま大聖堂を後にする。






「はい、…お気をつけて」






 神の代行者ユーノは、複雑な顔で、
 いやそれはどう見ても心配した悲壮感漂わせる顔で、龍人と旭を見送った。





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