カオスアニマ -脳筋おじさんと生者見習いの女子高生-

椎名 総

BOSS、忘却の騎士エルディオン

 
『ガルデアの塔』のBOSS、
『忘却の騎士エルディオン』。


 ガルデア王、
 『ガルデア・マキナス』に忠誠を誓い、
 肉体を捧げ霊体となった誇り高き騎士、
 かつてのガルデア城に繋がるこの『ガルデアの塔の最深部』の永遠の守護を任されたわけだが、
 肉体を放棄した対価で相当強くなったはいいが、
 『始まりの狩人と亡者の森』からもヴァルディリス城、
 旧ガルデア城には繋がっていたため、
 そこの守備から突破され、ガルデア王の時代は終わった。


 ガルデア王は塔ができた際、
 森からだろうがガルデアの塔からだろうが突破したのならば
 正々堂々とカオスアニマを賭けて戦うと言う公言に準じ、
 ヴァルディリスと一騎打ちの果てに破れ、その天下は終わり、
 ガルデア王を討ち取った『ルアーノ・ヴァルディリス』が今現在も、
 かなり長くその城を収めている。
 だが、騎士エルディオンは今もなお、
 かつての王の命令をこのガルデアの塔で忠実に守り続けている。




「どうやら居るようだな」




 BOSSの間にBOSSがいる場合、
 白い霧の壁のような物が出入り口にある、
 龍人はそれに触れ、『忘却の騎士エルディオン』が健在なことを確認した。




「昨日と一緒だ、倒してみせろ、『忘却の騎士エルディオン』を、な、」


「やれるでしょ、筋力も結構上がったしここまでの経験値は伊達じゃないよっ、ねっ」




 斧と中盾を装備しながら両腕でクロスアームする旭、自信ありげだ。




「油断するなよ、奴は、強いぞ、
 こいつは俺と入ろうがなんだろうが体力は変わらんが、
 元からかなり体力がある、攻撃もかなりエグい」




 龍人は真剣な表情で旭にそう言い放つ。
 前のBOSS、『巨人デビウス』の時のおちゃらけた感じは微塵もない、
 その龍人の真剣な面持ちから察した旭は余裕の表情から顔を引き締めた。




「…入るね」




 白い霧の壁に右手で触れ、旭は中に入る、続けて龍人も入る、
 もちろん龍人は遮断の指輪を左手の人差し指に装備している。


 塔の円状のステージの中心、
 そこの中央に細身タイプではあるが細身の『銀色の騎士』より二回りは大きい、
 『銀色の騎士』の体格のいいバージョンと同程度の大きさの銀色の騎士がいた。
 その騎士は床に刺した大剣抜き、
 正面に立てて右腕で構える、
 左手には大盾『銀色の騎士の大盾』、




「わたしは、ここを守る騎士、エルディオン、
 ガルデア王の許しがないものはここを通す訳にはいかない、死、あるのみ」




 彼が唯一まだ覚えている言葉、
 戦いの前に発する唯一の言葉、
 幾千の時を超えても、
 まだその記憶は全て消え去っていない、
 恐るべき忠誠心と精神力言わざる得ない。
 もはや己の記憶などほとんどないだろうが、
 それでも言葉を喋れるほどの知性を保ち続ける『異端』でもある。


 宣誓の言葉を終えた『忘却の騎士エルディオン』は
 かつて王に霊体化する前に献上された『大剣イクシオン』と、
 大盾『銀色の騎士の大盾』を構え旭に襲いかかる。


 『忘却の騎士エルディオン』、
 かつて『生者』であり、
 その身を捧げ塔に身を縛ることにより、
 もとより強かった力を強化し、
 王から半年おきに『人の石』を供給されることにより記憶を維持し、
 この塔を守っていた歴戦の騎士。


 BOSSとなった彼の攻撃パターンは、
 剣先で床を削りながら移動し繰り出される右下から左上への強力な振り上げ攻撃、
 そして右上から左下、左上から右下、
 その2連撃後ジャンプし回転し上から振り下ろされる3連撃攻撃、
 大きく振り上げ近づき打ち下ろす攻撃、
 全ての攻撃に付け加えられる様子を見て
 間合いにいるなら右足を前に踏み込み左から右横に薙ぎ払う攻撃、
 などがある。


 『忘却の騎士エルディオン』は今ではこの塔に、
 いやこの世界、『テラ・グラウンド』に選ばれ、
 BOSSとなっている。
 BOSSになる条件は未だよくわかってはいないが、
 こちらの反応を見て行動を変えてくる上に、
 スタミナ管理もしっかりしてくる。
 他のモンスター、BOSSも相手を見て行動はしてくるが、
 『忘却の騎士エルディオン』はその中でも確実に上位に入る。




「ちょっと、ちょっと、聞いてないんだけどッ、やばいっやばいッ」




 旭は攻撃パターンを知るために左手の中盾を構え様子を伺っていたが、
 そこに初めて大盾で『シールドブローン』をやられ、
 盾と腕を左上に弾かれた上にスタミナも大幅に削られたようだ。
 当然、エルディオンは自身で作り出した攻撃のチャンスを逃さない、




「痛ッッ!」




 右手に持った大剣で右上から左下に打ち下ろした一撃が旭を斬りつけた。
 おそらく程の体力を4分の1は奪われただろう、
 後2連撃までならたとえ食らったとしても
 まだ余裕で受けられる程度の体力はあるはずだ。
 ひ弱な精神では大剣に斬られたという痛みとイメージで吹き飛んでもおかしくない、
 だが旭は留まる、
 痛みを感じながらも前を向く、
 そんな事情は関係なく容赦なくエルディオンは
 二撃目の左上から右下への斬撃を旭に向けて放つ、


 これは『初見』、
 シールドブローンを初めてやってくる相手の迫力と
 まだ攻撃パターンを把握していないことによる不安感、
 エルディオンが放つ殺気、
 様々な状況が思考を鈍らせる。
 冷静さを失えば、このままあっという間に大聖堂送りだろう、




「ッッッッッ!!」




 かろうじて後転、次の攻撃を躱し、距離を取る旭、




「むっかつくぅッそんなの(シールドブローン)反則じゃないッ、
 もしかして防御不可能攻撃とかしてくるんじゃないでしょうねッッ!」




「(『シールドブローン』は反則じゃないがな)…さあな」




 『巨人デビウス』より物量的威圧感はないが、
 殺意や、技術、的確さ、は『デビウス』の比ではない、
 それでも軽口を言う余裕が有るのかと、龍人は感心する。


 それほどに昨日の戦いが、今日のここまでの経験が、
 予想以上に彼女を成長させているのか、
 それとも、見込み違いでこの後やられてしまうのか、
 龍人は正直まだ測りかねていた。




 だからこそ、『ここ』に連れてきたのだ。





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