カオスアニマ -脳筋おじさんと生者見習いの女子高生-

椎名 総

おじさん(元)女子高生と出会う

 人の魂を持つものなら、
 まだ人としての『知性』を保ち続けている者たちならば、
 一同に集う『始まりの場所』、『始まりの村』、
 独自の城も、拠点も持ち合わせないはぐれ者達の『最初』で『最後』の村、
 この世界ただ一つの村と名付けられた村、


『最初で最後の村アイテール』、
『始まりと終わりの村アイテール』、


 そこは大聖堂、
 商人の家、
 鍛冶屋、
 村の片隅にそびえ立つ謎の男の銅像、
 赤い炎を吹き出し続ける灯火台、
 その程度しか存在しない村、黄土色の地面と、
 緑の雑草がひしめく村と呼ぶには少しさみしい場所、
 青い海が一望できる崖にある村。


 そこから少し街道に出た場所に一人の少女がいる、歳は16…17才くらいだろうか、この世界に来たばかりなのだろう。『アイテール』から始まりの狩人と亡者の森に向かう道中で最近現れ始めた『新人狩り』の連中に3人ほどに囲まれているようだ。そしてそれに不幸にも気づいていしまった青色の瞳の男、




「…やれやれ、群れたくない跳ねっ返りの新人か?」




 男はそう悪態をつくとその巨躯を揺らしながら、その仰々しい獲物『達』を担ぎながら、たまたま通りかかった彼女にと3人に近づく、
 彼にとってはそれは『気まぐれ』、『なんとなく』、特に意味はない、その新人の彼女にとっては意味『奇跡』という名の塩を送ってやることにしたらしい。




「あんたたち恥ずかしくないのッ、大勢でかわいい新人を狩ってッ、」




 短剣を構え、3人の野盗共を罵倒する少女、その姿は言うなら白、アイテールに来るまでに多数いる亡者達を狩り、最低限の防具を商人から買い付け、おそらく『鍛冶屋の資格の金槌』を借り、自分好みのデザインに防具を加工してある。


 栗色の長い髪、
 白いヘアバンド、
 左の髪をまとめる赤い髪留めバンド、
 白いスパッツやスパッツと絶対領域を作り出す長い靴下のハイソックス、
 首には黒いチョーカー、
 そのチョーカから伸びるクロスする黒い紐はその先の服を支える。
 服はオフショルダー、長袖で手の甲までをやや覆う、
 足は膝の表までガードする灰色の足鉄甲、
 鎧はまだしておらず白い洋服で、胸元のあいたデザイン、
 豊満すぎる胸と合わさって現世ならただの痴女にしか見えない風体である。


 彼女なりの強烈な意志、こだわりが感じられる痴女の風体とは反対にその構える足は少し震えているようにも見える、いや確かに震えている。




「確かに恥かもしれん、だがな、
 スキを見せたおまえの落ち度だ、狩らせてもらうぞ。
 まだ一度も死んでない、ろくに戦ってもいない若い女のアニマだが、
 それでも数日アニマ稼がなくてもいいくらいの、
 俺達の『ゆとり』にはなるだろう。
 別に雑魚を狩っててもいいのだがな、もらえるものはもらう主義だ」


 短剣を持った青髪の少女を襲う3人の中で一番顔立ちの整ったリーダー格の男は冷静にそう言い放つ。




「さいってぇっ」




 誰かにとってはご褒美とも取れるその少女の言葉に他の野盗の二人はニヤニヤしながら少女を眺めている。青髪のリーダー格の男は言葉を簡単に返す、


「ふん、知るか」


 少女に短剣で襲いかかるリーダー格の男、振られた短剣を辛うじて左肩をかすめながら避けるが、まだ慣れていないのか尻もちを付いてしまう少女、




「きゃっ、」




 尻餅をついたままの少女にゆっくりと下品な笑みを浮かべながら野盗達は近づき再度言い放つ、


「大丈夫だ、一度死んだくらいじゃ左程変わらねぇはずだ、3人同時であっという間に殺してやるからな、安心しろよ」


 野盗の顔は汚い笑みから一変し、同時に三つ、三人の野盗から各々の武器が殺意を持って少女に振り下ろされる、




「しねぇッッ」




 しかしその野盗達の攻撃は、二つの鉄塊に阻まれる、


「!?」


 三人の野盗はその鉄塊の防御に弾かれそれぞれ後方に地面を滑りながら結果的に距離を取る形になる、




「なんだおまえはッ、邪魔するのかよッ俺たちは3年はこの世界で生き残ってる生者だぞッ舐めてんのかッ」




 三人の野良の野盗達の眼前にいるは、
 薄汚れた青いマント、もはや真っ黒のマント、その地面側はボロボロ。
 そしてハイネックの首元から脇の下まで切り落とされたデザインの
 肌に吸い付くような薄い素材の服、
 腰部分からは同じ色の同じ素材の足元まで黒い服、
 継ぎ目は傍目黒いので分からない、
 腰には全ての生者が身につける革のベルト『生者のベルト』が
 右腰から左斜め下に装着されている、
 そのベルトの左には小物入れ、右には謎の容器のようなもの。
 更にその下に鉄の太ももをガードする長方形の先端に三角をつけた形のガード、
 膝までガードする足鉄甲。その両手には大きな大剣、青と灰色の大剣。
 顔に二つの傷がある。左の顎先から唇付近、
 右顎先から鼻先に向けて小さな傷がある。
 髪は長く、白いバンドでまとめいる黒い髪の、屈強そうな大男がいた。




「その辺にしとけ、ここいらは生者同士で戦える唯一の街道だが、『新人狩り』をしねぇ『暗黙の了解』があるだろ。他で『闇衣やみころも』で狩るなら良いがな、お前らこそなにしてやがる。
それに3年? 3ヶ月程度の間違いだろ? 水増ししてんじゃねぇよ」




 『アイテール』から『始まりの狩人と亡者の森』に繋がるこの街道は、なぜか唯一生者同士で争える唯一のポイント、それ以外では闇の衣を纏うアイテム『闇の衣の柱石』を使わなければ他の生者を襲うことはできない、




「うるせぇッ暗黙の了解なんざ知るかよッ、おまえらっ誰だかしらねぇが
こいつから殺っちまうぞッ」


「ああっ」
「わかったっ」




 眺めていた仲間の二人に声を掛け、一斉に各々の武器で大男に襲いかかる、


「(日が浅い俺でも知っている、その大剣の名は『ヴォルファング』、莫大な筋力ステータスを求められる通称『クソ武器』)」
「(さらに大剣の中でも最重量の大剣、まともに振ることすら叶わない大剣で、
 俺たち三人に勝てるかよッッ)」




「死ねぇぇぇぇッッッッ」




 その掛け声とともに攻撃は繰り出される、しかし男は大剣で野盗達の武器、短剣、ハンドアックス、クラブ、その攻撃を物ともせず、斬撃を繰り出す、
 リーダー格の男以外、『意志』の差なのか、気がついたら他の二人は空高く吹き飛んでいた。




「『誰か』だって? 名乗り代わりに身を持って教えてやるよ」




「ッッッ!?」




 その刹那、リーダー格の男は痛みの中確かに聞く、その言葉、
 大男は少し笑みを浮かべ白い歯を見せながら言い始める、




「俺はな?」




 そう言いながら大剣の一撃は繰り出される、




「(はっ?)」




 リーダー格の男は宙を舞っていた、さらなる激痛が彼を襲う、




「がッッあッッ(なんだ、なんだこれはッ)」


       
       「『脳筋おじさん』だよ」


       
 二刀の大剣『ヴォルファング』は通常通りの性能を発揮し、その連撃は野盗三人を空高く舞い上げた。本来はその場に倒れるだけだが、彼らのイメージした結果なのだろう、それほどまでに二刀の大剣『ヴォルファング』は迫力と威力を秘めていた。彼らは地面に、叩きつけられ       




「ば、馬鹿なッ」




そう言い残し絶命し、この場から姿を消した。




「一度死んで頭冷やしやがれ、この外道が」


「す…すごい、」




 それを見た少女は、未だに尻餅をついたまま素直に賞賛の声を上げる、




「『すごい』じゃねぇ、おまえもおまえだ、一人は危険だとアイテールの村で『神の代行者』に聞かなかったか?」




 大男は振り返り少女に苦言を呈す、左手に持っていた片方の大剣『ヴォルファング』の装備を外し収納、空いた左の手のひらを空に向け軽く上下させながら言い聞かせるように続ける




「普通は他の新人生者が2、3人貯まるまで『アイテール』に滞在し、しばらくはこの世界とルールとを知るための講義と、ああいうやつに対抗するためにボランティアの経験者のにーちゃんと実力上げるためのアニマ集めだって言われたろ?」




 最後に左手の人差し指で少女を指さし、『どうしてなんだ』と、問いかける大男、




「そうだけど…なんか頼りたくないんだもん」




 尻もち状態から胡座をかき、両手で足首を掴んで大男の視線から逃げるように横に目を反らしつつ頬を膨らませて少女はそう答える、


「だもんじゃねぇ、ったく、このガキは、」


 右手にヴォルファングを持ち肩で担ぎならが、片目を閉じながら左手で頭を掻く大男、


「ガキじゃないもん、私は旭、朝凪あさなぎ あさひ、」


 少女は自己紹介を始める、『ガキ』、そう言われるのが嫌なのだろう、名は旭、朝凪 旭、黙っていれば
顔立ちの整った、かなりの可愛さと可憐さを併せ持つであろう可愛らしい壮絶美少女である(適当)、


「…『ガキ』は『ガキ』でいい、どうせ二度と合わない」


 そう言い放つと大男はきびすを返し少女の元を去ろうとする、


「私は名乗ったんだから二度と合わないとしても名乗りなさいよ、失礼でしょっ」


 大男はため息を一つ、再び頭を掻きながら、小言のように呟く、


「失礼もへったくれもないと思うがな、まあいい、」
 男は半身振り返り、左肩を旭に向け口を開く、


「俺の名は『吾妻龍人』だ、じゃあな、『朝ガキ』」


 その言葉を発し再びどこかに行こうとする龍人に憤った旭は胡座をやめ、立ち上がりズケズケと龍人に近寄る、その豊満なおっぱいを揺らしながら近寄る、回りこむ、遂には龍人の胸に左手の人差し指をツンツ ンツンツン龍人の腹に突き刺しながら言い放つ、




「あ~~~~ムカつく、何その言い草、助けたんなら最後まで助けなさいよッッ」




 龍人の身長は193cm、旭は162cm、身長差は31センチある、龍人は旭を見下ろし、見つめながら言う、




「…俺の『気まぐれ』は一度だけだ、二度目はねえよ」




 旭はツンツン突いていた左手を龍人の目の前にかざし顔を上に向けて言い放つ、




「まだ一度のうちよ、ついてくるなって言ってもついていくからっ、
 私は絶対『転生』するんだからっ」




「(『転生』だと?)……」




「な、なによ、何か言いなさいよ」




 突如黙ってしまった龍人に旭は何か言うように催促する。




「…ちっ、めんどくせぇの助けちまったなぁ」




 龍人は左手で自分の首元を面倒くさそうに撫でる、




「ふふん、諦めの悪さはお父さん譲りなんだから、諦めてほしいわねっ」




 旭は人差し指を立てたままの左手はそのままに右手を腰にやり、豊満な胸を突き出しながら自身の諦めの悪さを精一杯伝える、


「おまえの親父なんて知らねぇよ。…まぁわかったよ、だが、俺は、あそこのにーちゃんより何倍も何十倍も、下手すりゃ何百倍も厳しいぞ、」


 龍人はそう言い放つと念を押すように少女の1を表す人差し指を左手で掴み、凄みを効かせて龍人は言い放つ。




「逃げるなよ、『小娘』」




 旭は少し物怖じしながらも巨漢の龍人にその立派な胸を武器にしているわけではないが一歩も引こうとしない、


「の、望むところよッ」


 旭は龍人の手を引き剥がし、龍人は旭を置き去りにして歩き出す、


「そーかよ、まぁせいぜい頑張んな、行くぞ小娘」
 龍人を追いながら旭は言う、


「今度は『小娘』って、『旭』って呼びなさいよっ、」
 龍人は即答する、


「呼ばない、」
 旭はめげない、


「『旭』ってほら、呼んでよっ」
「だから呼ばない、しつこいぞ」
「ほらっ龍人っ、『旭』って呼んでよっ」
「呼び捨てかよッ」


 龍人はその大きな足を止めず『始まりの狩人と亡者の森』へ向け歩み続ける。
 旭はこれからどこへ向かうかもわからない知り合ったばかりの巨漢の男の背を追って横並びになった。
 自身の名前を呼んでくれない巨漢の男に不満気な顔を覗かせながら小言を言い続ける旭の瞳の色は緑、


 初々しいエメラルド。



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