異世界転移の覇王譚

夜月空羽

15 再会

迷宮ラビリンスを攻略して冥府神イシスから装備を頂戴して影士達は迷宮ラビリンスを脱出して暫しの休日を満喫する。
この世界の料理を堪能し、柔らかいベッドの上で惰眠を貪り、時にはエルギナやエルザで性欲を発散させる。そんな日々を満喫しつつ影士達は次の目的に向けて街を出るのであった。
「それで影士。これからはどうするのだ?」
エルギナはこれからの方針について尋ねると影士はそれに答える。
「ああ、南に向かうぞ」
「南? そこに何かあるのか?」
迷宮ラビリンスで更なる力を手に入れた影士。装備も整えてしっかりと休養も取ったからエルギナはてっきりどこかの国を攻めるのかと予測していたが、その予測は大きく外れた。
「南には危険かつ獰猛な魔物がいる。そこで手に入れた力を慣らしておこうと思ってな」
「ふむ。そういうことか…………」
影士が何が言いたいのかエルギナは理解した。
影士を始め、エルギナもエルザも強くなった。だが、ただレベルやステータスが上がっただけで強くなったとはいえない。その力を自分の意思で扱わなければ宝の持ち腐れだ。
「影士、お主は意外と慎重なのだな。妾はてっきり国でも攻め入るとばかり思っておった」
「それも悪くはねぇが、少なくとも今はしねえよ。アルガの神格それに神を喰らう力を手に入れたとしてもそれで勝てるとは限らねえ。もうしばらくは自己鍛錬しながらこの世界の知識と情報を集めつつ仲間げぼく集めだ」
影士は油断も慢心もしない。それが相手が神であるのなら尚更だ。
だから今は己の強さと魔法、スキル、アビリティと向かい合ってひたすら自己鍛錬を行う。
影士は自身でも思う以上に強くなれた。だがその反面、肉体と精神が急激に強くなったレベルやステータスについてこれていなかった。
それ故に加減ができず、影士自身が思っている以上の過剰な力を発揮してしまう。
だからこそ影士はその力を自身の意思の下で発揮できるように訓練する為に危険な魔物がいるとされる南に向かっている。
「うふふ、私はどこへでも旦那様にお供しますわ」
影士の腕にぴったりとくっつくエルザは笑みを絶やすことなくそう言ってのける。
しかしここで一つ問題がある。
「だがしかし影士よ。知識と情報収集はよいが肝心の仲間げぼくはどうするのだ?」
「………………………」
エルギナの言葉に影士は黙り込む。
影士は当然としてエルギナもエルザもレベルはとっくに90は超えている。しかし本来そこまでレベルを上げるのは至難であり、まず影士達以外にそれだけレベルを上げている者は存在しない。つまりは即戦力になる人はいないと言っても過言ではない。
元々高レベルであったエルザを仲間げぼくにできたのは本当に運が良かった。それだけの話だ。エルザと同等の存在と出会うことはまずないだろう。
「……………レアな魔法、スキル、アビリティもしくはギフトを持っている奴を仲間げぼくにするしかねえな」
「まぁ、それしかなかろう」
後はそこから地獄がマシだと思うような特訓をこなせて鍛えてあげるしかない。
方法がそれ以外にない、ことはないが取れる手段はそれしかない。エルギナもそれを理解している為に納得するように頷いた。
街道を進みながら南に向かう道中で不意に茂みから一人の少女が飛び出してきた。
「あぁ?」
突然現れた少女に怪訝するも影士はすぐにその少女の正体に気づいた。
「お前、水谷か?」
「え?」
水谷沙織みずたにさおりかって訊いてんだよ?」
名を呼ばれて顔を上げる少女は影士を見てまるで信じられないものをみるかのように目を見開く。
「唯我くんなの……………?」
「ああ、やっぱお前なんだな」
水谷沙織。それは元の世界の影士と同じクラスメイトで優れた容姿と誰にも接する親しみやすさから学校でも人気が高いとされる。数多くの男子生徒から告白されたことがあるが、まだ誰も成功した者はいない。神々の玩具として召喚された者の一人がボロボロの制服姿で突如現れた。
「どうして唯我くんがここに…………?」
「それは俺の台詞だ。まぁ、別にどうでもいいが、お前がここにいるってことは他のクラスメイトの奴等もいるのか?」
実際に影士がどうしてここに沙織が現れたこと自体はどうでもいい。この世界にいることはわかっていたから。だが、どうして沙織が一人でここにいるのか、それが気になって問いかけてみただけだ。すると沙織は。
「お願い! 静葉を助けて!! 私を逃がす為に静葉が、静葉が……………ッ!!」
目尻に涙を溜めながら影士にしがみつく沙織は必死に助けを求める。
「静葉? ああ、関谷か…………」
沙織と一番仲が良かった親友とも呼べる存在、それが関谷静葉せきたにしずは
「関谷がどうした? 魔物にでも殺されたのか?」
「違うの、皆、この世界に召喚されてからおかしくなって……………………」
水谷沙織は影士にこの世界に召喚された時の事から影士に出会うまでのことについて語り出す。
それを要約すると。
時間を遡ること二ヶ月前――
沙織を始めとするクラスメイトはある日突然に異世界に転移した。
始めは困惑し、戸惑いを隠せれないでいたクラスメイト達だったが、クラスのリーダー格である天城正義あまぎまさよしがクラスメイトを取りまとめて全員で協力し合うようになった。
魔物が生息する森で下手に動けば危険と判断した沙織達は拠点を作り上げてそこで生活することにした。初めは慣れない生活に苦労の連続だったが、正義のカリスマ性と異世界に詳しいオタク達の知識もあって問題を起こすことなく生活できていた。
――――だが。
その生活は唐突に終わりを迎えた。
一部のクラスメイトが暴走、略奪、強姦、殺戮を行い始めた。それによってクラスメイトはパニック状態となり誰もが散らばって拠点から逃走する。
沙織も逃げようとするが、クラスメイトの男子に捕まって犯されそうになるも親友である静葉のおかげで助かり、共にその場から駆け出す。
だがしかし、背後から二人を追いかける者達がいた。
先程沙織を犯そうとしていた男子生徒。それとは別に数人が二人を捕えようと追いかけている。
このままでは追い付かれる。そう判断した静葉は自身を囮にして沙織を逃がそうとする。
関谷静葉は元の世界では空手経験がある有段者。だから囮になっても生き残れる可能性が一番高い。そう沙織を安心させるように告げて沙織を逃がした。
それから沙織はただひたすらに走った。少しでも距離を取る為に、逃げる為に、そして親友を助ける為にただ必死に足を動かしたその先に影士達と出会った。
話を聞いた影士は顎に手を当てて納得する。
「ふ~ん、なるほど。イシスがあの時言おうとしていたのはこのことか」
迷宮ラビリンスでイシスが影士にクラスメイトのことについて何か言おうとしていたことはきっとこれだろうと頷く。
「唯我くん、二ヶ月もこの世界で一人で生きてきたんだよね?」
「ん? まぁ、最初はな」
「なら強いよね? レベルもステータスも高い筈だよね?」
「まぁな」
「ならお願い! 助けて!」
「断る」
時間が止まる。そう錯覚してしまうような静寂と雰囲気が場を満たし、沙織は何を言っているのかわからない、といった表情でポカンと口を開けた。
「なんで俺がお前等を助けなきゃいけねえんだ?」
「だ、だって他に頼れる人なんて……………」
断れるとは思っていなかったのか、言葉を震わせながらもそれでも頭を下げて影士に助けを求める。
「お願い! 私にできることならなんでもするから! だから、だから静葉を!」
「…………………おい、水谷。お前、一つ勘違いしてねえか?」
「え?」
勘違い。そう言われて訝しげに顔をあげると、影士がまるでゴミを見るかのような目で見下していることに気づいた。
「クラスメイトが暴走したのも、関谷が囮になったのも、そしてお前が惨めに頭を下げているのも全ては弱いお前が悪い。所詮この世は弱肉強食。弱い者はただ淘汰され、強者の糧になる。それだけの話だ」
「そんな…………」
あんまりだ、と嘆く。
ようやく見つけた希望が絶望に変わり、双眸から涙が溢れ出る。
すると影士は金の入った袋を沙織の前に置いた。
「この世界に召喚されて俺もだいぶ変わっちまったが、それでも情けはあるつもりだ。この先に街があるからその金を持ってそこへ行きな。それだけあれば一ヶ月は生活できんだろ」
もう用済みかのように、それだけを告げて沙織に背を向け、再び歩き始める。
エルギナもエルザも影士に付き従うように歩を進ませる。
沙織はただ呆然とその背を見つめながら考える。
(私は、どうしたらいいの…………?)
その問いに答えてくれる者は誰もいない。ここには親友である静葉もいなければクラスメイトもいない。そして運よく再会した影士はあっさりと沙織を見捨てた。
沙織には何もない。あるのはお情けで貰った金だけで、それ以外なにもない。
『全ては弱いお前が悪い』
先程影士に告げられたその言葉が沙織の脳裏を過る。そして記憶が蘇る。
卑下な笑みを浮かべながら沙織を犯そうとした男子達を、獲物を狙う獣のように目をギラつかせている野獣と化したクラスメイト達。そして戦えない沙織を逃がそうと自ら囮になってくれた親友のことを思い出す。
『逃げて』
優しい顔で沙織を逃がした静葉。その顔が沙織の頭から離れない。
(全部、弱い私が悪いの…………? 私が弱いから静葉が……………ッ!)
沙織は己の弱さを憎む。
強ければ暴走したクラスメイト達をどうにかすることができたかもしれない。男子生徒に犯されることもなく、親友を囮にすることもなかったかもしれない。
だがその全てももう手遅れ。時を巻き戻す術がない沙織にとってどうすることもできない。
(許せない…………弱い私が、獣のように嗤う男子達が…………ッ!)
何もできなかった。ただ逃げることしかできなかった己を憎み、そしてその原因を生み出した男子生徒達に沙織は強い憎悪が生まれる。
『所詮この世は弱肉強食。弱い者はただ淘汰され、強者の糧になる』
再びその言葉が脳裏を過った時、沙織は眼前にある金の入った袋を手にして影士に投げるも、影士は振り返ることなくそれをキャッチして歩を止める。
「なんだ? いらねえのか?」
踵を返して向かい合う影士と沙織。すると沙織は意を決したかのように影士に言う。
「お金は要らない。代わりに力を私に貸して」
「ほう?」
先程のようなただの懇願ではない。その瞳は覚悟を決めた者の瞳に影士は口角を歪める。
「貸してとは言うが、無料ただで貸してやるつもりはねえぞ?」
「ええ、わかってる。今の私にできることなんてたった一つだけということも」
沙織は自身の胸元に手を当てて告げる。
「私の全てをあげる。身体も、命も、そしてこれからの私の人生の全てを唯我くんにあげる。それならどう?」
沙織は己の全てを捧げて影士の強さを借りようとする。それを聞いた影士は思わず笑いが込み上げて顔に手を当てる。
「ハハ、面白い。だがいいのか? 言っておくが俺はお前を仲間ともましてや奴隷として扱う気はさらさらねぇ。使えないと判断した駒は容赦なく処分するぞ? それに俺の命令には絶対に逆らえない。それでもいいのか?」
その問いに沙織は力強く頷いて肯定した。
「私は強くなる。そして静葉を助けて、もう二度とこんな想いをしない為にも強くなる。その為になら私は私の全てを捨てられる」
「いい覚悟だ」
凶笑を貼り付けたまま沙織に近づき、アルガを手にする。
「俺もちょうど仲間げぼくを集めようとしていたところだ。その一人に水谷、いや、沙織。お前を加えてやる」
「ええ、よろしくね。唯我、ううん、影士」
「ああ」
そして影士はアルガを沙織に突き刺して因子を流し込む。

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