異世界転移の覇王譚

夜月空羽

14 チュートリアル終了

冥府神イシスから渡されたアルガの神格を喰らうことでアルガの神格を得た影士は神すらも弱肉強食の糧にする神喰いゴッドイーターのアビリティを獲得。
内から溢れ出てくる力に歓喜に持ちる影士にイシスは口を開く。
「さて、後は装備を整えないとね」
そう言って何もない虚空から半透明のキーボードのようなものを出現させて操作すると影士達の前に数え切れないほどの武器、防具、装備品などがずらりと置かれる。
それもただの武器や防具などではない。どれもが一級品もしくは魔具アーティファクトの類の物ばかり。
「神殺しを頼んでいる身としてはこれぐらいのお節介はしないとね」
「へぇ、気前がいいな。まぁ貰えるもんは貰っておくか。お前等も好きなもんを選べ」
「うむ」
「ええ」
影士に続いてエルギナもエルザも物色を始める。それぞれ自分に合う装備品を選んでそれを装備する。
「まぁ、俺はこんなもんか」
黒に白の線が入った魔法耐性が付与されたロングコートに指にはいくつかの特殊な力を持つ魔具アーティファクトを嵌めている。武器は元々持っているアルガだけ。
「妾はこんなところか……………」
エルギナはその手に魔法の威力を高める白銀の長杖ロングロッド。腰にはステータス上昇の効果がある細剣レイピア。恰好は魔導士が身に付ける白を基調とした魔術装束。そして指と首にそれぞれ別の能力を有している魔具アーティファクトを装備している。
「準備できましたわ」
エルザは深紅のドレスを身に付け、装飾過多とも思えるほどに耳、首、胸、腕、指、足に魔具アーティファクトを装備して手には元々持つ魔具アーティファクトの剣を軽く振るう。
イシスのおかげで装備はこれで完全に潤い、金銭に関しての問題もこの階層にある金で解決。三人の準備が完了するとイシスが影士に尋ねる。
「それと影士。影士以外のクラスメイトのことについてなんだけど……………」
「ああ、別にどうでもいい。あいつらがどうなろうとも俺には関係ねぇ」
影士同様にこの世界に転移したクラスメイトのことについて教えようとするも影士自身がそれを拒否する為にイシスはそのことについてそれ以上は言わなかった。
「なら忠告。今の影士なら私達でも殺せる可能性があるけど、あくまで可能性。0が1になっただけ。神喰いゴッドイーターの力に過信したら駄目だからね」
「………………………ああ」
その忠告には影士も素直に頷いた。
神すらも弱肉強食の糧にできるようになったとはいえ、腐っても神を名乗る娯楽に飢えたハイエナだ。返り討ちに遭う可能性の方が高いだろう。
「うん。ならそろそろ私は行くね。、バイバイ、影士。また会おうね♪」
そう言ってどこかへ姿を消したイシス。最後の置き土産のつもりなのかその場所に見覚えのある魔法陣が出現する。
魔窟ダンジョンの時と同じ地上への転移の魔法陣か…………」
その魔法陣の中心に立てば地上に出られるのだろうと思い、その一歩を踏み出そうとすると。
「それで影士よ。地上に戻れば次はどうするつもりだ?」
「変わらねえよ。下僕なかまを集めてこの世界の情報を得る。世界を統べる覇王になるのはそれからでも遅くはねぇ」
魔窟ダンジョンに召喚されて強さを手に入れて迷宮ラビリンスで金と装備を潤わせてた。そしてこれからが本番。覇王になる為、神殺しを成す為に行動する。
その為のチュートリアルは終了したのだ。
「さてお前等、一応訊くが覚悟はできてるんだろうな?」
振り返って二人の下僕なかまに覚悟を問うと。
「何を言うかと思えば…………お主にとっては妾達の覚悟などどうでもいいのであろう? まぁ、妾は既に覚悟はできてはおるが」
「もちろんできておりますわ。いつでもどこでも地獄の底でもお傍におりますわ」
影士にとって二人の覚悟や意思などどうでもいいこと。どちらにしても自分について来ないのなら殺すまでの話だ。今言ったのも冗談の類だ。
「上々。じゃあ地上に戻ったらまずは飯にするか。流石にまずい魔物の肉はもう勘弁だ」
弱肉強食の掟に従い、自分が殺した魔物を食してきた影士だったが、流石にそろそろ普通の文化的な食事が食べたかった。
「そもそも魔物を食べるお主がおかしい」
「野性味のある旦那様も素敵ですわ」
魔物の肉を食べる影士に呆れるエルギナと頬に手を当ててうっとりと微笑むエルザ。三人は魔法陣の上に立ち、迷宮ラビリンスから地上へ転移する。


鬱蒼と深く茂る薄暗い森の中を草木をかき分けながら走り続ける一人の少女はただひたすらに走っていた。息を荒げて泥などで汚れた身だしなみにも気にも止めずにまるで何かから逃げるかのようにただひたすらに足を動かしている。
「はぁ…………はぁ…………きゃ!?」
不意にバランスを崩して転倒する少女は地面にうつ伏せになりながら顔を上げる。
「誰か………助けて………………」
切実に助けを願う少女。だがしかし、その願いは誰にも届かず、少女は双眸から溢れ出ようとする涙を堪えながら立ち上がり再び走り出すのであった。

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