異世界転移の覇王譚

夜月空羽

13 冥府神イシス

「お前が、俺をこの世界に召喚したってのか………?」
「うん!」
迷宮ラビリンス百階層のボス部屋で突如現れた冥府神と名乗る少女、イシスは影士の言葉を肯定した。
疑惑、困惑する影士。けれど、イシスはそんなことお構いなしに影士に抱き着く。
「さぁ、影士! 存分にイチャイチャしよう! 脱げばいい!? それとも着たままがいい!?」
ハイテンションで身体の線を否応なく強調する極薄の衣を脱ごうとするイシスだが、影士は剣先をイシスに向ける。
「答えろ。お前の目的はなんだ? どうして俺をこの世界に召喚した? 知っている事を全て話せ」
全ての鍵を握っているであろう女神であるイシスに剣を突きつける。けれど、イシスは怯みこともなくその表情からは余裕がある。
「どうしようかなー。教えてあげてもいいけど無料タダで教えるのもなー」
「なら死ね」
「うわお!?」
もったいぶるイシスに影士は容赦なく首を斬り落としてその不快な声を消そうとするも、イシスは避けた。
「ちょっと!? そこは要求はなんだ? って言うところだよ!?」
「知るか。ここでお前が死ねば少なくともお前の目的は消えるだろうが」
そもそも影士にとってもはやこの世界に召喚された理由などどうでもいい。ただ、どうして召喚されたのか気になったから聞いただけで、答える気がないのなら殺す。
本当にただそれだけの話だ。
「む~。流石は私の影士。私の見込み通りの男だよ………」
「誰がいつお前のものになった。クサレ女神。大人しく首を差し出せ。そうすれば一瞬でその首を斬り落としてやる」
「うわ、バイオレンス。けどそこもまたいいよ!」
何がいいのか。親指を立てるイシス。
「しょうがないな~。それじゃ一つだけ。影士はこの世界をどう思った?」
「ゲームだな」
この世界に召喚されてゲームのような世界だと思っていた。するとイシスは首を縦に振った。
「その認識で間違いないよ。この世界は元々は影士がいた世界のゲームを真似て作った世界だからね。私達神々の娯楽場としてね」
語られる女神からの真実。
「神々は娯楽に飢えている。この世界は私達の娯楽を満たす為だけに作られた世界。あらゆる種族を生み出し、生活させ、時に争わせてどうなるかを天界から眺めるのよ。結構楽しいよ? 勝手に生まれ勝手に死んでいく下界の人々が消えていく姿を見るのは」
何気なく告げるその言葉は本当に人の命をなんとも思っていない。ただ自分達が面白ければそれでいい。神々にとって下界に住む人々の存在はその程度でしかない。
「つまり俺はお前等を楽しませる玩具として召喚されたってことか?」
「大正解♪ たまには外の世界から刺激を求めないとつまらないでしょ?」
神の娯楽。ただそれだけの為にこの世界に召喚された。
「だったらお前はどうして俺をこの世界に召喚した?」
だけどそれはイシスが影士を召喚した理由にはならない。ただの娯楽の一環であるのなら影士は他のクラスメイトと一緒に召喚されているはずだ。けど、影士はクラスメイトとは別口での召喚。つまりイシスにはイシスの目的の為に影士をこの世界に召喚した理由がある。
その問いにイシスは口角を曲げる。
「この世界を私のものにするため」
告げられた目的。
「今、この世界は私を含めて六柱の神によって管理されているけど、そんなの私が納得できない。だから他の五柱を出し抜いて私がこの世界の唯一の神になるの」
「それならお前一人でやればいいだろ?」
「それは無理。私達は条約によって互いを攻撃することができないの。だから私の代わりに神を殺して貰う存在が私には必要なの。だから召喚の際にちょっこと細工をして影士をあの魔窟ダンジョンに召喚したの。ねぇ、アルガ? 久しぶりの外の空気はどうかな?」
『悪くはない』
イシスの声にアルガは素っ気なく返す。
「アルガ、この女神のこと知ってんのか?」
「知っっているも何もアルガは元々は私達と同じこの世界を管理していた一柱の一人だよ。だけど、条約を破った罰としてそんな姿になっちゃったもんね」
『ふん。あの忌々しい太陽神に刃を向け、神としての地位も神格も奪われたがそれは我が弱かっただけの話。今更神の地位に取り返そうとは思わん』
「そうかもね。まぁ、それでもこの世界は私のものにするから従属神としてなら神格は返してあげるよ?」
『心にもないことをよくほざく。それに我は我で今が面白い。我が担い手であり、貴様の寵愛を持つ影士がこの世界を支配する覇王となるのか。我はそれが見てみたい』
神と元神の会話に影士が割って入る。
「つまりなんだ? お前は俺にお前以外の神を殺せってことか? 他人任せもいいところだな。そもそもどうして俺なんだ? この世界の奴等や俺以外のクラスメイトの奴等でもよかっただろうが」
影士はイシスにどうして影士に神殺しをさせようとするのか。その理由を問う。
「知っているから。不信を、裏切りを、憎しみを、悲愴を、絶望を、なにより孤独を知っているから。だから私は影士に目を付けた。影士なら相手が慈愛の神であろうとも殺せると確信があったから私は影士を選んだ」
それは元の世界で影士に振りかかってきた理不尽。虐めを受けていた時からイシスは影士に目を付けていた。
それに対して影士にも心当たりがある。虐めを受けて影士は人間同士の信頼関係などは紙より薄く、誰もが自分の為に他者を蹴落とそうすることに躍起になっているということを。
「後はキッカケ。それさえ与えれば影士は化ける。そう確信したからアルガがいる魔窟ダンジョンに召喚したの。そして結果は上々。影士は私の予想以上に最高の存在になってくれた」
満面の笑みを見せるイシスに影士は苛立つ。
それはイシスの掌の上に踊ろされていたこととそれに気付かなかった自分の間抜けさに苛立ちを感じていた。
「もちろん無料タダで神殺しをして貰おうとは思っていないよ。そもそも私達神が下界を管理している以上は神殺しどころか傷一つ負わせることができないしね。そこの元魔王ちゃんのように封印されてお終い。だからもし影士に神殺しをしてくれるのなら今、影士が一番欲していると思うアルガの神格をあげる」
イシスが取り出したのは黒い宝玉のようなもの。
「アルガの神格を得ればアルガの力をより引き出すこともできるだけじゃなく神々ですら弱肉強食の糧にすることができるよ。神喰らいゴッドイーター、神格を得た影士ならそれもできるけどどうする?」
「…………………ハッ、よく言うぜ」
一見選択肢を与えているように見えるも影士に拒否権などはなかった。
アルガを手にしている以上はいずれはエルギナを封印した女神との戦闘は避けられない。故に影士はイシスの思惑に乗るしかない。
影士はイシスから神格が封じ込められている宝玉を手にする。
「いいぜ。今はお前の思惑に従ってやる。だが、覚えておけ。俺はいずれお前も他の神すらも弱肉強食の糧にしてやるということを」
宝玉を噛み砕き、影士は神格を喰った。
すると身体の内側から力が溢れ、縛られていた何かから解放された気がした。
「ステータス」

唯我影士 年齢:17歳 性別:男
Lv:100
体力:9998(+3000)
筋力:9470(+3000)
耐久:9950(+3000)
敏捷:9910(+3000)
器用:9180(+3000)
魔力:20000(+3000)
魔法:呪詛魔法 炎魔法 風魔法 土魔法 闇魔法 変身魔法 複合魔法 水魔法 回復魔法
スキル:物理耐性10/10 苦痛耐性10/10 逃走1/10 脚力強化9/10 夜目8/10 状態異常耐性10/10 恐怖耐性10/10 悪食10/10 剣技5/10
アビリティ:魂縛 魔食 魔眼(発火) 神喰いゴッドイーター
ギフト:冥府神の寵愛 隷属神の権能

己のステータスを見て影士は思わず口角を歪ませて。
「クク、クハハ……ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!」
嗤った。
腹の底から歓喜するかのように大声をあげて嗤った。
「これが神格! これが神の力! ああ、最高だ!!」
全身から漲り、溢れ出るその力に満面の笑みを浮かべるその姿にイシスは微笑み、エルザは見惚れるかのようにうっとりしてエルギナはどこか悲しげに見つめる。
だがそれでもエルギナもエルザも己のステータスを確認して気付いた。
レベルとステータスが上がり、ギフトに隷属神の加護が新しく追加されていることに。
神格を喰らい、神の力を得た影士はほぼ神と同等の存在になった。それによりアルガの因子をその身に宿す二人にもその影響を受けている。
こうしてここに神をも喰らう最凶の存在が誕生した。

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