異世界転移の覇王譚

夜月空羽

07 迷宮

異世界に転移した影士は久しぶりのベッドに思わず熟睡してしまった。これまでは固い地面の上に寝転んで腕を枕にして睡眠を取ってはいたが、周囲に魔物がいる為に碌に睡眠を取ることが出来なかった。だから久々のベッドでの睡眠は影士にとって極上と言っても過言ではなかった。
すぐ隣にエルギナがいなければ。
「…………んっ……………」
寝惚けながら影士を抱き心地のいい抱き枕にように抱き着いてその豊満の胸を押し付けてくるエルギナ。その身には何も纏っておらず、全裸の状態で影士と同じベッドの中にいる。
「おい、起きろ」
嘆息しながら影士はエルギナを起こす。
艶めかしい彼女の容姿はこの世界に転移する前の影士ならば目の保養もとい年頃の青少年にとっては毒すぎる今の状況に思うことは一つや二つはある。
しかし、魔窟ダンジョンでの経験を得た彼は何事もないかのようにエルギナを起こすも。
「…………んにゅ、まだ……………」
声をかけても、揺すっても起きず、夢の住人となっているエルギナに影士は少し苛つたので。
「起きろ」
手から炎を出してそのだらしのない寝顔を焼いた。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!?」
絶叫と共に起き上がって焼かれた顔を押さえながら部屋中をゴロゴロとのたうち回るエルギナは次第に落ち着きを取り戻して涙目で影士を睨んだ。
「お主! 乙女の顔を焼くとはどういう了見だ!?」
「別に元に戻るから問題はねえだろう? それが嫌ならさっさと起きやがれ」
影士の言葉の通り、焼かれたエルギナの顔は元に戻っていく。
エルギナのアビリティ『再生』。その力で火傷は消えて元に戻る。
「というよりもさっさと着替えて迷宮ラビリンスに行くぞ」
「…………まったくお主は。妾を見て他に思うことはあるであろう?」
息を吐いてベッドの上に寝そべる。
「妾の身体を見て何も思わないわけなかろうに? お主も男だ。我慢などせずにこの身を好きに蹂躙しようとは思わぬのか?」
惜しむことなく自らの身体を晒すエルギナは影士を誘惑する。
「それもそうだな」
「え?」
呆けるエルギナに影士はエルギナに覆い被るように押し倒す。
「ちょ、影士……………?」
「どうした? 誘惑したのはそっちだろ? なら誘惑に乗ってやっているんだ。ありがたく思え」
「そ、それはそうだが……………」
「お前は俺の下僕モノなんだから別に手を出しても何も問題はないからな。例え打算的な考えがあったとしても俺にはどうでもいいことだ」
笑みを見せるも影士の目は本気だった。
それに冷汗を流して焦りが出てくるエルギナも打算がないわけではない。そういう関係になればこちらの言い分も少しは通りやすくなるかもしれない程度の考えはあった。
けれどまさかこんなにも躊躇なく迫ってくるとは思わなかった。
「この世界に来て色々と変わったけど、別に性欲がなくなったわけでもないし、発散できるというのならさせてもらうとするか。強者が弱者を好きにするのもまた弱肉強食だからな」
そこに感情も愛情など恋心などといったものはない。
ただの欲求の解消。性欲の発散。あるのはそれだけだ。
強者が弱者をいたぶって遊ぶのと同じように弱者エルギナを使って欲求を解消させる。
「どうした? そんなに怯えて。ああ、もしかして初めてなのか? 安心しろ、俺も同じだ。お互いに童貞と処女を卒業しようぜ?」
「お、お主、そんな気軽に…………ッ! せ、せめて心の準備だけでもさせて」
「知るか」
影士は容赦がなかった。それこそ獣もしくは鬼畜と評するのが適切なぐらいに相手エルギナに一切に気遣いもなく、自分の欲求を解消する為だけエルギナを犯した。



朝から性欲を発散させた二人が宿を出たのは昼過ぎ。
「性欲に溺れるって言葉があるが、わからなくはねえな。ただ別の意味で疲れるもんだな」
欠伸しながら童貞を卒業した影士は初めての経験を口にする。性欲に溺れ、女に夢中になる男が世の中にはいるが、経験をしてその気持ちがわからなくないことを知った。
「お、お主………妾の身体を好き勝手して何をほざくか……………」
「下僕であるお前をどう扱おうが俺の勝手だろうが」
影士の後ろをついてくるエルギナは身体に力が入らず、まともに歩くことが出来ない状態になっている。それも全ては強引に自分を犯した影士のせいだ。
「と」
ふらつく足に思わず態勢を崩してしまうエルギナだが、影士が支えてくれた。
「しっかりしやがれ」
「う、うむ…………」
抱き寄せられる恰好で支えられて影士の密着する状態で表を歩く。先程の事もあって周囲の視線が痛い程感じてしまうエルギナに対して昨日と変わらず無視スルーしている影士にいい気分がしないエルギナは思わず影士の頬を引っ張る。
「………なにしやがる?」
「これぐらい許せ」
そっぽを向くエルギナに怪訝する影士。けれど、すぐにその事を割り切って目的の場所である迷宮ラビリンスに足を運ぶ。
「意外にも近くにあるもんだな」
迷宮ラビリンスがあるのは街の真ん中。迷宮ラビリンスの上に塔を建てられて冒険者はその塔から迷宮ラビリンスに向かう。そして冒険者が倒した魔物の素材や財宝はその塔ですぐに換金できるようになっている仕組みだ。
「一歩間違えれば街が滅ぼされるだろうし」
万が一に迷宮ラビリンスから魔物の大群が押し寄せて来たらこの街はあっという間に滅ぼされるに違いないだろう。しかしそれならそれで滅ぼされた方が悪いだけ。
影士には何の関係もないことだ。
塔に入ってすぐに他の冒険者が二人を見て驚いている。先日の一件のこともあって誰も近づいて来ないが都合がいいので二人はまずはこの塔の職員らしく人に声をかける。
「おい、迷宮ラビリンスに入るのに何か手続きとかはあるのか?」
「冒険者の方ですか? それでしたら冒険者カードをお見せください」
「ほいよ」
言われた通りに昨日作製して貰ったばかりの冒険者カードを見せると職員は少し顔を渋らせるが、すぐに冒険者カードを二人に返して迷宮ラビリンスに関する注意事項が纏められた冊子と現在公開されている迷宮ラビリンス地図マップを渡す。
「くれぐれもお気を付けください」
「へいへい」
冊子と地図マップを手にして二人は迷宮ラビリンスに足を踏み入れる。
「これが迷宮ラビリンスか…………」
計られたように造られた規則正しい通路が、いくつもの曲がり角や十字路を形成している。地図が無ければ一生この迷宮ラビリンスから脱出することができないように感覚を狂わせる。
「ここで立ち止まっても仕方がねえし、行くとするか」
「うむ」
迷宮ラビリンスに足を踏み入れる二人に早速、魔物が姿を見せる。
「ギィィ! ギャイ!」
「ギャイイ! ギイイ!」
現れたのは子供ぐらいの背丈をした全身緑色の体皮をした人型の魔物――ゴブリン。ゲームでもよく出てくる定番中の定番の魔物を影士は蹴った。
「ギイイ?」
首から上が消え去った相方に理解が追いつかなかったもう一体のゴブリンは数秒して相方が死んだことをようやく理解して怒りの形相になるもそんなゴブリンを影士は容赦なく踏み潰した。
「流石は雑魚キャラだな」
悲嘆も感動もなく、虫を潰すかのような手軽さでゴブリンを殺した影士は先程職員から貰った迷宮ラビリンス地図マップに目を通す。
「次を左に曲がってそのまま進めば下の階層に降りられるみたいだな」
「影士。どうやらこの迷宮ラビリンスには十階層ごとにボス部屋があるようだ」
冊子を読みながらそのことを影士に伝える。
「ボス部屋か。本当にゲームみたいだな」
「げーむ、とはなんだ?」
「いやなんでもねえよ」
自分がいた世界のことを言っても仕方がないので適当にはぐらかす。二人は地図マップを見ながら階層を降りて行き、二人の進む道を邪魔をする魔物達はあっさりと殺される。明らかなレベル差がある二人では今の階層では戦いにすらならない。
「ここが最初のボス部屋か」
そして十階層。二人はあっという間にボス部屋まで辿り着いてその扉を開ける。そこには二メートルは超える巨躯のゴブリン。ゴブリンキングが待ち構えていた。
「グォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
部屋に侵入してきた敵を怯えさせるかのような咆哮を轟かせるゴブリンキング。だが――
「ァ?」
瞬く間に一刀両断されて絶命した。
「次に行くぞ」
「うむ」
戦闘のせの字もなく淡々と作業のように瞬殺されたゴブリンキングの死体を背に二人は新たな階層に降りて行く。

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